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没落令嬢は農業で成り上がる!〜転生教師の魔導農園改革〜  作者: 星川蓮
第4幕:『領地経営の始動 - 暗躍する影と堅牢な基盤』

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第30話: 『結束の強化 - 真実を共有する者たち』

オルターナ領に広がる静かな日常。

しかし、その平和を支えるのは、誰も知らぬ「真実の共有」だった。

今回は、ミレーヌたちが“仲間”と呼べる者たちと、真実を分かち合う場面。

それは、恐怖を越えた者たちの、結束の誓いである。

ダンロップ侯爵という巨悪と、オルターナ家に仕組まれた陰謀の全容。その重すぎる真実は、ミレーヌとゴドウィンだけの胸中に、鉛のように沈んでいた。領民たちは、新たな規則の下で生き生きと作業に励み、子どもたちの笑い声が領地に響く。その平和な日常が、あまりにも危うい基盤の上に成り立っていることを知るのは、今のところ彼らだけだった。


「このままではいけない」

三日間の沈黙と熟慮の末、ミレーヌはゴドウィンに告げた。

「私たち二人だけがこの重荷を背負っていては、いつか潰れてしまう。そして……いざという時、領地を守るのは私たち二人だけではない。……信頼できる者たちに、真実を打ち明けるべきだ」


ゴドウィンは深く頷いた。

“おっしゃる通りです。全てを隠し通すことは、彼らへの不信でもあります。しかし、誰に、どこまで話すか……慎重に見極めねばなりません”


彼らが選んだのは、ごく少数の核心的な協力者だった。


· ガルム: 老兵の経験と、揺るぎない忠誠心。いざとなれば命を賭して戦う覚悟がある。

· リナ: 母親としての強さと、細やかな観察眼。領民の心の機微を最もよく理解している。

· エイラン: 老婆の知恵と、誰よりも深く領地の荒廃と再生を見つめてきた者。


招集を受けた三人は、書斎の重苦しい空気に、ただ事ではないことを悟っていた。


「……今日は、皆さんに……とても重いお話をしなければなりません」

ミレーヌの開口一番から、緊張が走る。彼女はゴドウィンと視線を交わし、覚悟を決めて語り始めた。

「まず、お詫びしなければなりません。これまで……私たちの敵はラントフ男爵だと話してきました。しかし……それは嘘ではありませんが、本当の敵は……もっとずっと巨大で、恐ろしい存在です」


ミレーヌは、ダンロップ侯爵の名を告げた。王国の頂点に立つ権力者の一人であるその名に、ガルムが「なっ……!?」と声を上げ、リナは顔面蒼白になり、エイランは深く皺の刻まれた眉をひそめた。


そして、ゴドウィンが証拠の書類を提示し、オルターナ家没落が罠であったこと、前領主の死が不自然であること、さらには――ミレーヌ自身の転落事故さえもが暗殺の可能性があることを、冷静かつ情熱を込めて説明した。


“ふざけた……!”

ガルムが拳をデスクに叩きつけた。老兵の目に、久しく見なかった殺気が宿っている。

“つまり……領主様は……お父様を殺され、ご自身の命も狙われ……そして我々領民は……ただ食い物にされるために追い詰められていた……というのか……!”

彼の声は怒りに震え、やがて嗚咽に変わった。“なんという……卑劣な……!”


リナは涙を浮かべ、ミレーヌの細い手を両手で包んだ。

“ミレーヌ様……あなたは……そんな恐ろしい目に遭われていたのに……私たちの前では、いつも笑顔で……。なんて……なんて辛かったでしょう……”

彼女の涙は、同情ではなく、同志としての痛みだった。


エイランは長い沈黙の後、ゆっくりと口を開いた。その声は低く、しかし地響きのように重かった。

“……はぁ……なるほどな……。これで、全ての辻褄が合う。なぜラントフ如きが、そこまで執拗に付け上がるのか……。その背後に、あの大物がついていたとは……”

老婆の目は、過去の全ての苦難を見透かすように、鋭く光っている。

“……で? お嬢様。その……でけえ敵のことがわかった。そして?”


ミレーヌはエイランを見つめ、そしてガルムとリナを見渡した。

“この真実は、今のところ、この場にいる私たちだけが知っています。領民の皆さんに知らせれば、恐怖と無力感が広がるだけだと思います。……ですから……”

彼女の声は強く、明確になった。

“この場にいる私たちだけで、この真実を背負い、領地全体を守る盾となろう……と、ゴドウィンと私は決めました”


“ふん……”ガルムが涙をぬぐい、顔を上げた。その目は完全に戦士のそれに戻っていた。“当たり前だ! 俺たちが知っていながら、ほかの者を巻き込むわけにはいかねえ! この俺が、命に代えてもお嬢様とこの領地を守ってみせる!”

“私もです”リナはミレーヌの手を強く握りしめた。“私は……この領地で、もう一度家族と生きる希望をもらいました。それを奪おうとする者……たとえ相手が侯爵様でも……私は立ち向かいます”

エイランはゆっくりと立ち上がり、ミレーヌの前にひざまずくような姿勢を取った。

“わしはな、お嬢様……いや、ミレーヌ様。貴女が、わしらに再び誇りを取り戻させてくれた。この老いぼれの命、好きに使ってくれ。ダンロップ侯爵? ふん……このオルターナの地で、骨までしゃぶってやるわい”


三人の決意は、ミレーヌの予想をはるかに超える熱いものだった。彼らは動揺したが、逃げ出すのではなく、より強固に結束することを選んだ。


“ありがとう……ございます……”

ミレーヌの目から、こぼれ落ちる涙を止めることはできなかった。これは、恐怖や悲しみの涙ではなく、これ以上ないほどの信頼に応えようとする者たちへの、感謝と決意の涙だった。


“では……”ゴドウィンが厳かな口調で言った。“我々は、領主ミレーヌ様を中心とした、オルターナ領の影の守護者となる。表向きは変わらぬ日常を装いながら、裏では侯爵派との戦いの準備を進める。……よろしいですね?”


全員が深くうなずいた。


こうして、オルターナ領防衛協議会(名称は後日、より秘密裏なものに変更される)が非公式に発足した。それは、領地の命運を握る、ごく少数の者たちによる聖なる同盟であった。


ミレーヌは、彼らを見つめながら心に誓った。

(この人たちの信頼を……絶対に裏切らない)

(杉本大輔の知識と、ミレーヌ・オルターナの立場と、この仲間たちの力を合わせて……必ずや、この領地に明るい未来を築いてみせる!)


重い秘密は、彼らを押し潰すのではなく、鋼のように鍛え上げた。次の戦いへの布石は、確かにここで打たれたのである。

最後まで読んでくださり、ありがとうございます。

今回は、物語全体にとって極めて重要な「信頼の共有」の回でした。


ミレーヌが選んだのは、力ではなく“心を分け合うこと”。

真実を背負う者が増えることで、孤独は減り、覚悟は強くなる――。

まさに、“絆の物語”の根幹が形になった瞬間です。


きのこの豆知識

キノコは、地上に見える“傘”の部分よりも、

地下に張り巡らせた“菌糸”の方がはるかに広大です。

その菌糸同士がつながり合い、森の木々に栄養を送り合うこともあります。

……つまり、森の地下には“見えない絆のネットワーク”があるんです。


オルターナの仲間たちの結束も、まさにそんな“菌糸”のように、

見えない場所で領地を支えているのかもしれませんね。


次回、彼らの小さな同盟が、

巨大な権力とどう対峙していくのか――その最初の一歩が始まります。

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