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没落令嬢は農業で成り上がる!〜転生教師の魔導農園改革〜  作者: 星川蓮
第4幕:『領地経営の始動 - 暗躍する影と堅牢な基盤』

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第29話: 『決定的な証拠 - 黒幕の特定』

オルターナ領が一つにまとまり、束の間の平穏が訪れた。

だが、平和の影には、まだ裁かれていない“過去の罪”が眠っている。

今回は、オルターナ家没落の裏に潜む黒幕の正体が、ついに明らかになる。

そして、ミレーヌの中で“二つの心”が、ひとつの意志へと融合する――。

シーン29: 『決定的な証拠 - 黒幕の特定』


領民会議で結束を強めたオルターナ領は、静かな活力に満ちていた。規則ができたことで、それまでのもやもやとした不満が消え、皆が同じ目標に向かって進んでいるという実感が生まれていた。しかし、ミレーヌとゴドウィンの胸中には、領民には語れない重い秘密——古代遺物とダンロップ侯爵の存在——が常にあった。


「侯爵がなぜ、そこまでしてこの土地と遺物を執拗に狙うのか……。オルターナ家没落の真相と、遺物との関連を、もっと掘り下げなければ」

ゴドウィンは書斎の奥から、埃をかぶった数冊の分厚い記録簿を取り出した。かつてのオルターナ家の執事として、領地の記録の一切を管理していた彼は、前領主の死後、略奪を免れるためにこれらの重要書類を隠していたのだ。


「これは……父の日誌や、領地の会計簿……」

ミレーヌは感慨深くそれらの書物に手を触れた。そこには、彼女(元のミレーヌ)の幼い日の思い出も綴られているかもしれない。しかし今は、sentimental な感情に浸っている場合ではなかった。


二人は蝋燭の灯りの下、これらの古文書と、ルフィンがもたらした王都の情報、そして捕らえた師団の手下の証言を照合する作業に没頭した。


「……ここだ」ゴドウィンが、古びた会計簿の一頁を指さした。それは、領地が傾き始める直前の、大きな取引の記録だった。「見てください、ミレーヌ様。この鉱山開発事業への莫大な投資……。この事業を強く推奨し、資金の斡旋までしたのが……ダンロップ侯爵派の商人です」


ミレーヌは身を乗り出した。「そして……この事業は?」

「大失敗でした」ゴドウィンの声は冷たい。「鉱脈はすぐに枯れ、投じた資金は全て消え、オルターナ家は巨額の借金を背負うことになった……。これは、偶然の失敗ではありますまい。最初から罠だったのです」


ミレーヌは息を呑んだ。父は、侯爵派の甘い言葉に騙され、破滅への道を歩まされたのだ。

「……そんな……」


さらにゴドウィンは、前領主であるミレーヌの父の日誌を注意深く読み解いていった。

「……ふむ……これは……」彼の表情が曇る。「お父様は、この事業が始まる少し前から、領内の地質調査を独自に行い、『古の遺物』の危険性に言及していますな。『この力を安易に手出すべきではない。眠らせておくべきだ』と……」


「父は……遺物のことを知っていた?」

「ええ、どうやらそうです。そして、おそらくは……ダンロップ侯爵もその存在を知っていた。侯爵はその力を手に入れたかった。しかし、お父様がそれを拒んだ……。だから、事業失敗という名目の経済的圧力をかけ、領地を追い詰め、ゆくゆくは手放させようとした……!」


ゴドウィンの推理は続く。

「そして……お父様の急死……」彼の声が詰まる。「日誌には、死の直前に、『侯爵の息子、ギデオンとの会談後、体調を崩す』とあります」


ギデオン・ダンロップ。侯爵の嫡男であり、次期後継者であるその名が、初めて登場した。

「……まさか……父の死は……?」

「確証はありませんが……毒などの可能性も、否定できません」ゴドウィンの目に怒りの炎が灯った。「全ては、ダンロップ侯爵が古代遺物を手に入れるために仕組まれた……。オルターナ家没落は、単なる政争ではなく、貪欲な権力者による、一つの家族への徹底的な破壊工作だったのです!」


衝撃の事実に、ミレーヌ(杉本)はぐらりとよろめいた。この身体の父親が、陰謀によって命を落としたかもしれない。そして、自分がその遺志と領地を継いでいる。彼女の中に、ミレーヌ・オルターナとしての怒りと悲しみが、杉本大輔の冷静さを押しのけて沸き上がってくるのを感じた。


しかし、それだけでは終わらなかった。


ゴドウィンは、さらに恐ろしい仮説を口にした。

「ミレーヌ様……そして、もう一つ、気がかりなことがあります」彼の表情はこれまで以上に険しい。「お嬢様あなたは、お父様の死後、しばらくして……転落事故に遭われました。その時、あなたは昏睡状態に陥り、そして目覚めた時には……以前とは別人のように聡明で、強い意志をお持ちになっていた……」


ミレーヌの心臓が止まりそうになった。(まずい……! ゴドウィンが……私の変化に気づいている……!)

「あの……それは……父の死というショックで、私は――」


「いえ……」ゴドウィンは首を振り、ミレーヌをまっすぐに見つめる。その目は、追及ではなく、深い憂いに満ちていた。「私は思うのです。あの転落事故……もしかすると、事故などではなかったのではあるまいか、と」


「……え?」

「オルターナ家の血筋を、根絶やしにしようとする者がいた……。お父様の死後、唯一の後継者であるあなたをも亡き者にしようとした……。そして、その黒幕は……ギデオン・ダンロップ……いや、その背後にいるダンロップ侯爵自身かもしれません……」


ゴドウィンは、ミレーヌの手を握りしめた。老執事の手は、怒りと悲しみで震えていた。

“ミレーヌ様……。あなたは、二度も、ダンロップ侯爵一派の手によって、命を狙われていた可能性があるのです……!”


ミレーヌは言葉を失った。ゴドウィンは、彼女が「転生した」とは夢にも思わない。彼は、本当のミレーヌ・オルターナが殺されかねなかったことを嘆き、そして「奇跡的に」生き延び、強く変わった現在の彼女を懸命に守ろうとしているのだ。


(ゴドウィン……あなたは……この身体の、本当の主を……守りたかったんだ……)

(そして今は……私を……)


複雑な思いが胸を締め付ける。彼女は杉本大輔であり、同時にミレーヌ・オルターナの運命を背負っている。ゴドウィンの忠誠は、今の自分に向けられている。それに応えなければならない。


“……ゴドウィン……”ミレーヌは涙で曇った視界を必死にこらえ、老執事の手を握り返した。“……教えてくれて……ありがとう……”

彼女の声は震えていたが、確かな意志を持っていた。

“……ダンロップ侯爵……そして、ギデオン……。父の敵……この領地を破壊しようとした者たち……。私は……絶対に許さない”


この瞬間、ミレーヌ(杉本)の中では、二つの人生の想いが完全に一致した。生物教師としての探究心と、オルターナ家の領主としての責任と怒りが、ダンロップ侯爵一派との戦いという一点で融合したのだった。


“しかし……この真実は、今はまだ私たちだけの秘密にしましょう”ゴドウィンは静かに言った。“領民を不安に陥れ、動揺させるだけです。私たちが……静かに、確実に、力を蓄えねばなりません”


“ええ……わかりました”


二人は闇に誓った。やがて来るべき決戦の日に向けて。それは、領地の存続をかけた戦いであると同時に、オルターナ家の無念を晴らす復讐戦でもあることを――。

最後まで読んでくださり、ありがとうございます!

今回は、物語全体の根幹に関わる“真実”の一端が明らかになりました。


ミレーヌにとって、父の死はずっと“過去の悲劇”でしたが、

それが“仕組まれた罠”だったと知った瞬間、物語の温度が一気に変わります。

そしてゴドウィンの忠誠が、単なる忠義ではなく“親のような愛情”でもあることが、

この章の大きな見どころだと思います。


きのこの豆知識

一部の菌類には「死んだ木を分解する」ものと、「生きている木を枯らす」ものがあります。

前者は“森を再生する善玉菌”、後者は“寄生して栄養を奪う悪玉菌”。

どちらも「同じ菌類」なのに、行動は正反対。

……まるで、権力を「守るため」に使う人間と、「奪うため」に使う人間のようですね。


感想やブックマークをいつも本当にありがとうございます!

作品の成長は、読んでくださる皆さんの支えあってこそです。

「これはもう戦争の予感……!」と思った方、

ぜひコメントで応援してもらえると嬉しいです

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