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没落令嬢は農業で成り上がる!〜転生教師の魔導農園改革〜  作者: 星川蓮
第1幕:『孤島の観察者』

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第2話: 『荒廃の観察記録』

初めまして。作者の星川蓮です。


この作品は「生物教師が異世界に転生し、没落令嬢として農業改革に挑む」物語です。


戦闘よりも農業・経営・領地運営がメインですが、ときどきバトルや政治劇も入ります。


難しいことは抜きに、知識と工夫で逆境を切り開く姿を楽しんでいただければ嬉しいです。


感想やブックマークで応援していただけると、とても励みになります!


オルターナ邸の重厚な玄関ドアが、きしむような音を立てて開いた。朝の光が、ほこりっぽい玄関ホールに差し込む。ミレーヌは一歩外へ踏み出し、そして、その場に立ち尽くした。


眼前に広がる光景は、ゴドウィンの言葉以上の絶望を物語っていた。


・荒れ果てた庭: かつては美しい庭園だったのだろう。しかし今では、雑草が生い茂り、噴水は乾き、彫刻は崩れかけている。そして何より異様なのは、草木の色だ。どこか不健康な、紫がかった黒い斑点が葉や茎に広がっている。まるで植物が病気にかかり、腐敗しているかのようだ。


「これが……『魔性』の影響ですか?」ミレーヌは呟く。


「はい、お嬢様」背後に立つゴドウィンが静かに答える。「この汚染は、領地の中心からじわじわと、しかし確実に広がっております。土地を痩せさせ、作物を枯らし、時には……普通ではないものを生み出します」


ゴドウィンの先導で、領内の視察が始まる。道はでこぼこで、あちこちに穴が開いている。まるで領地そのものが瀕死の状態であるかのようだった。


・廃墟と化した住民区: かつて領民たちが暮らしていた家々は、ほとんどが無人の廃屋と化している。ドアは壊れ、窓は割られ、屋根には穴が開いていた。誰かが慌てて逃げ出した痕跡が、そこかしこに残っている。


「領民のほとんどは、借金取りの脅しと、この不毛の地を見限り、去っていきました」ゴドウィンの声には、怒りや悲しみではなく、深い諦念のようなものがにじんでいた。


・枯れた農地: かつては豊かな実りをもたらしたはずの広大な農地は、ひび割れ、カラカラに乾いていた。わずかに残る作物の残骸も、異様な形に歪み、黒ずんでいる。ミレーヌがしゃがみこみ、一片の土を手に取る。その感触は、本来の肥沃な土のそれではなく、油っぽく、冷たく、生気を感じさせないものだった。


(……これはひどい。重金属汚染? あるいは、魔力的な何かによる土壌の変質? 大学で見た、工業地帯周辺の汚染土壌に少し似ている……だが、もっと……「生々しい」というか……)


彼女の頭の中では、生物教師としての知識が高速で回転し始める。観察、分析、仮説の構築――。それは、絶望的な状況においても、彼女の思考の礎となる習慣だった。


・残された領民との遭遇: 視察の途中、かろうじて残っている数軒の家の前を通りかかる。物陰から、警戒するようにこちらの様子を窺う人影がちらほらと見える。老婆が窓から顔を出し、ミレーヌと目が合うと、すぐにそっとカーテンを閉ざした。その目には、恐怖と諦め、そして微かな怨嗟のようなものさえあった。


(みんな……私を、オルターナ家を見ている……)


その時、再び断片的な記憶がフラッシュバックする。

――祭りの日、笑顔で差し出される採れたての果物。

――「お嬢様、大きくなりましたね!」と声をかけてくれる優しい農夫の顔。


温かい過去の記憶と、冷たい現在の現実の対比が、彼女の胸を締め付ける。


「信用を得るには、言葉や同情ではなく、結果しかない」ミレーヌはそう悟った。ただ「頑張る」だけでは、誰もついてこない。希望という具体的な「証拠」が必要なのだ。


・森の縁での発見: 最後に、領地の外れ、不気味な雰囲気を漂わせる森の縁までやってきた。ここでも魔性の影響は顕著で、木々は歪み、地面は不気味な色をしていた。


しかし、ミレーヌはあるものに目を留める。腐った丸太の根本に、ひっそりと生えている数本のキノコだ。周囲の植物とは異なり、むしろ活き活きと、旺盛に生育しているように見える。


「ゴドウィン、これは?」

「……フム。このキノコですか。この種は、確かに魔性の濃い場所でよく見かけますな。他の植物が枯れていく中で、なぜか彼らだけは繁殖している。奇妙なことです」


ミレーヌは慎重にキノコのサンプルを採取する。ルーペ(幸い、ゴドウィンが所持していた)で観察する。傘の裏の胞子の様子、色、形状……。


(……もしかすると、このキノコは……汚染物質を分解する能力を持っているのか? あるいは、それを栄養としている? 可能性がある……)


彼女の心に、ごく小さな、しかし確かな希望の灯がともった。それは、広大な荒廃の中ではかすかなものだったが、彼女という人間の本質――研究者としての探求心――に直接火をつけるには十分な光だった。


「ゴドウィン、邸に戻りましょう」

「?もうおしまいですか?」

「ええ。そして、書斎へ行ってください。父上の残した書物の中に、領地の地図や、植物図鑑は残っていませんか?そして……これはとても重要です……魔法や、土地の性質について記されたものは?」


彼女の声には、わずかながらも、目覚めた時の虚脱感とは異なる、目的を持った強さが宿っていた。


視察は終わり。観察は終わった。次は、分析と仮説検証の段階だ。生物教師・杉本大輔の、魔性の領地における最初の実践授業が、今、始まろうとしている。


更新は不定期になるかと思いますが、最後までしっかり描いていきたいと思っています。


気長にお付き合いいただけると嬉しいです!

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