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没落令嬢は農業で成り上がる!〜転生教師の魔導農園改革〜  作者: 星川蓮
第4幕:『領地経営の始動 - 暗躍する影と堅牢な基盤』

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第27話: 『魔術師団との暗闘 - 情報戦の開始』

王都からの報せを受け、オルターナ領は新たな段階へ。

今度の敵は剣ではなく、“呪い”と“情報”。

ミレーヌたちは、魔導キノコを用いた「生きた監視網」で、

見えぬ敵に立ち向かいます――。


ダンロップ侯爵という巨大な敵の存在が明らかになり、オルターナ領の空気は一層張り詰めた。ルフィンが王都に戻り、領地は再び孤独な戦いの場となった。ミレーヌとゴドウィンは、古代遺物の謎と並行して、差し迫る脅威である瘴煙の呪い師団への対抗策に全力を注いだ。


「受身ではいつか破綻する。こちらの方から、彼らの動きを察知し、妨害しなければ」ゴドウィンは Laboratory で、魔導キノコの菌糸のサンプルを前に深く考え込んでいた。


「あの『腐敗の呪い』は、魔力的な信号のようなものでは?」ミレーヌが仮説を述べる。「ならば、魔導キノコのネットワークを感知器として使えないか? 菌糸が特定の魔力の波動――つまり『毒』を検知したら、何らかの形で警報を発するようにできないだろうか?」


「……興味深い発想だ」ゴドウィンの目が輝いた。「魔導キノコは元来、環境中の魔力を感知し、自身の成長に利用している。その感度を、特定の『有害な波動』に特化して鋭敏化させ、ネットワークを通じて信号を送らせる……生体センサーとして機能させ得るかもしれん」


こうして、「魔導キノコ早期警報システム」 の開発が始まった。それは、生物学と魔術の融合という、この領地でしか成し得ない独自の技術だった。


1. 感知のメカニズム:

ゴドウィンは、以前に隔離・焼却した病変キノコから抽出した「腐敗の呪い」の魔力残渣を、極めて薄く希釈し、ごく少量の標的サンプルとして用いた。ミレーヌは、健全な魔導キノコの菌糸を培養した小さな区画をいくつも作り、それらにこの標的サンプルを微量ずつ接触させる実験を繰り返した。菌糸がごく微弱な「毒」の波動にどのように反応するか――菌糸の成長速度の変化、発光の微妙な色合いの変化、あるいは生成する魔力の質の変化を、ミレーヌの生物学の知識とゴドウィンの魔術的感知で細かく観察・記録していく。


2. 信号の伝達:

「検知」だけでなく、「伝達」が重要だった。ゴドウィンは、魔導キノコ同士が地中で繋がるネットワークを伝送路として利用する方法を考案した。一つのキノコが有害波動を感知すると、その情報をネットワークを通じて隣接するキノコに伝え、やがて領地の中心にある親キノコ(Laboratory 近くに特別に培養した巨大なキノコ)にまで信号が届くシステムだ。親キノコは、感知された危険の度合いに応じて、異なる色や強さで発光するように調整された。


3. 実践配備:

試行錯誤の末、ようやく実用レベルのプロトタイプが完成すると、防衛施設班の協力を得て、領地の境界線に沿って、このセンサーキノコを重点的に配置していった。作業は夜陰に乗じて行われ、外部からは単なるキノコの群落にしか見えないように注意が払われた。


そして、システム完成から数日後の夜中のことである。 Laboratory で仮眠を取っていたゴドウィンが、突然飛び起きた。傍らに置かれた親キノコが、不気味な紫色に明滅し始めていたのだ。

“ミレーヌ様!来た!”


ミレーヌもすぐに飛び起きる。親キノコの光るパターンは、「領地北西境界、小規模な魔術的侵害を感知」を示していた。

“防衛班に連絡を!しかし、直接に向かってはダメだ! 罠かもしれない!”


ガルムたち防衛班は、ゴドウィンの指示通り、直接現場に向かうのではなく、遠くから望遠鏡での観察と、魔術的トラップの起動準備にとどまった。


果たして、北西の境界付近の森の中に、不審な人影が数人、蠢いているのが確認された。彼らは瘴気をまとったローブを着て、地面に何かを埋めているようだった。まさに、瘴煙の呪い師団の手下である。


“……あの場所は……新しい灌漑用の水路を計画している地点だ……”ミレーヌが歯ぎしりする。“また別の方法で、私たちの農業を妨害しようとしている……”


“ならば、こちらの出番だ”ゴドウィンが冷たく呟く。“防衛班よ……『蒼き閃光』の合図と同時に、A3、A5のトラップを作動させよ!”


ゴドウィンは Laboratory で、親キノコに手を触れ、集中する。センサーネットワークを通じて、指令を送るのだ。


境界付近で、師団の手下たちが何かを仕掛け終え、ほっとした瞬間――。

パン!パン!

彼らの足元の地面から、魔導キノコの粉末と特殊な鉱石を組み合わせた閃光と轟音のトラップが炸裂した。手下たちは悲鳴を上げ、目を眩まされ、パニックに陥る。それは殺傷力はないが、十分な混乱を引き起こすには十分だった。


“さあ、今だ!”ガルムの合図で、防衛班の数名が、網と縄を持って駆け寄った。手下たちは混乱のままに簡単に捕捉され、縛り上げられた。


これは、武力による衝突ではなく、情報と技術による完璧な迎撃だった。


捕らえられた手下たちは、頑なに沈黙を守った。しかし、彼らが持ち歩いていた道具や、仕掛けようとしていた呪いの札から、彼らの目的が「水源への魔性的な汚染物質の投入」であったことが明らかになった。


“これで証拠が揃った……”ミレーヌは呪いの札をじっと見つめて言った。“だが、彼らをどうする? ラントフ男爵やダンロップ侯爵に引き渡すわけにもいかない……”


“……尋問します”ゴドウィンが静かに、しかし恐ろしいほどの決意を持って言った。“私は、かつて賢者の塔で……情報を引き出すための、ある種の魔術を学びました。もちろん、人道的な範囲で……ですが”


ゴドウィンの尋問は、暴力ではなく、魔力による精神への微細な干渉という、恐ろしく高度な技術によるものだった。数時間後、疲れ果てた手下の一人が、口を滑らせる。

“……我々は……ダンロップ侯爵直属……『瘴煙』の者……。目的は……この地の……『古の遺物』の……回収……あるいは……破壊……。お前たちの……農法など……どうでもいい……。遺物が……活性化するのを……防ぐ……ため……”


遺物の破壊。その言葉は、ミレーヌとゴドウィンに衝撃を与えた。師団は領地を奪うのではなく、遺物そのものを消し去りに来ているのだ。それは、遺物の持つ力が、ダンロップ侯爵にとってさえも脅威であることを意味していたのか? それとも、彼らが遺物を制御できないからなのか?


手下たちは、記憶を消去する魔術をかけられた後、領地の外に解放された。彼らが戻っても、侯爵はオルターナ領の警戒の高さを認識するだろう。


“これで、一時的には矛先が鈭るかもしれません”ゴドウィンは言った。“しかし、侯爵はより確実な手段を講じてくるでしょう”


ミレーヌは頷いた。

“ええ……でも、私たちはもう、手立てを持っています。このセンサーシステムと、魔導キノコの力で”

彼女は Laboratory の窓から、ほのかに光る親キノコを見つめた。

“次の戦いは……魔力対魔力、知恵対知恵の戦いです。私たちは、逃げも隠れもしません”

最後までお読みいただき、ありがとうございます!

今回は「情報戦」回でした。

魔導キノコ早期警報システム、個人的に書いていてすごく楽しかったです。


実際のキノコも、地中で「ウッドワイドウェブ(Wood Wide Web)」と呼ばれるネットワークを作り、

他の植物と情報や養分をやり取りしていると言われています。

それを魔術的に拡張するとこうなる――という発想でした。


オルターナ領が、ついに“守られる側”から“防ぐ側”へと変わった瞬間。

次は、敵の動きを探る「諜報パート」に突入します。


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