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プロローグ

 —小鳥遊澄晴(たかなしすばる) 視点—


 2025年6月14日


「澄晴! 19歳おめでとう!!」

 ドアを開けた瞬間、目の前がパッと明るくなった。

  クラッカーの音が鳴り響き、甘い香りの漂う部屋に、あたたかな笑顔が三つ、浮かんでいた。

 凌太(りょうた)が、一番にこちらへ駆け寄ってきて、半ば無理やり手にTシャツの袋を握らせる。後ろからは恭弥(きょうや)がにこにこしながら「これ、俺が選んだ」と小声でアピールしてきて、和樹(かずき)が「実はね、3人でこっそり準備してたんだよ」と嬉しそうに笑った。

「……ありがと」

 ありきたりな、なんでもない一言。

 でも、それを言った瞬間、胸の奥がキュッと締めつけられる。

 たぶん、少し顔がゆるんで、少しだけ涙ぐんでいたんだと思う。

 そんな俺を見て、3人はすぐにからかってきた。

「澄晴〜、そんなに嬉しかったの〜?」

「泣きそうになってるじゃん」

「お前、かわいいなぁ〜」

 ふざけるようなその言葉が、なんだか嬉くて、くすぐったい。

 でも、余計に泣きそうになって、ぐっと唇を噛んで笑顔を作った。

 テーブルの上に置かれた小さなチョコケーキ。中心には、19を型どったろうそくが灯っている。

 俺はケーキの中ではチョコレートケーキが1番好きだった。それをちゃんと分かっているのが、さすが親友。

 今、こうして「祝ってもらえる」ことが、あたりまえじゃないことを、たぶん誰よりも、俺が1番よくわかっている。

 ろうそくの火にそっと息を吹きかけると、部屋の中が一瞬だけ暗くなって、すぐに拍手と笑い声が広がる。

 ぱっと発光ダイオードがついて、笑顔の3人が見えた。

 この何気ない時間が、永遠に続けばいいのに。

 そんなことを、思ってしまった。

 でも、続かないことも知っている。

 今年で、全部終わる。

 誕生日を、こうして笑って迎えるのは、きっとこれが最後になる。

 来年の俺には、この部屋も、3人の笑い声も、きっと届かない。

  ___いや、それどころか。来年の俺は、俺でさえ、なくなってしまうのだ。


 20年周期人生リセット症候群。

 この病気を持つ人は、この世界で二桁しかいない。原因不明で治療法のない珍しい病気だ。

 人生19年目に突入すると、徐々に五感が失われていく。

 なくなる前に感覚が過敏になるらしい。

 絶対味覚になったと思ったら、次の日には味が分からなくなる。

 嗅覚が犬並に鋭くなったけど、翌朝は何の匂いもしなくなる。

 触覚が敏感になって少し風が吹くだけでも強い痛みを感じるけど、日付が変わったら温度すら感じなくなる。

 隣町の様子まで見えるほど視覚が冴え渡るが、時間が経てば一瞬で世界は真っ暗になる。

 普段聞こえない音まで聞こえるほどの聴覚が鋭くなるけど、日をまたぐと急に静かになる。

 そうやって、俺はリセットされていく。

 そして、人生20年目_____来年の今日には、全ての感覚と記憶を失って眠りにつく。

 4人の思い出も、一般常識も、自分の存在すらも分からなくなる。

 これまで積み重ねてきた“澄晴”が消えてしまうということだ。


 それでも、願ってしまう。

 この先、何もかも失ってしまうとしても。

 すべての記憶をなくして、感覚すら失ったとしても。

 今だけは、ただ、幸せでいたいと。

 この"1度目の人生"の最後の1年を、できるかぎり彼らと笑って、くだらないことでふざけて、いつもどおりの"仲良し4人組"でいたいと。

 できるなら、ずっと。永遠なんて、きっと叶わないけれど。

 それでも、今は、夢を見させてほしい。

 願わくば、最後の1秒まで、この温もりに包まれていますように。

 はじめまして!葵と申します。このたびは、この作品を開いて読んでいただき、誠にありがとうございました。

 今作品が初投稿でございます。拙い文章かと思いますが、この物語を最後まで見届けてくださると嬉しいです。

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