7(両想編)
「ミリィ、合格おめでとう」
「…おめでとう。」
「ありがとうございます!」
無事に推薦枠を得て、ほっと一安心。
あとは、卒業まっしぐらだ。
「でも、本当に第一事務官になるの?かなり多忙な役職だと思う。ねぇ、ミリィ、私の婚約者になって、ゆくゆくは一緒に侯爵家を継ぐ選択だってあるんだよ?」
「…え?」
「…あ?」
私もリアンも、ルキの爆弾発言に目をひん剥いている。ルキが本気で望めば、私の家族は上位貴族の結婚申込は断れないだろう。
貴族に生まれた以上、叶わないかもしれないけど、私だって…好きな人と結婚したい。
「…ルキ様、ありがとうございます。でも、ずっと文官を目指し頑張ってきたので大丈夫です。あと、私なんかが、ルキ様の婚約者になれるはずないです…身分が違いますので。」
「ルパルト伯爵家なら誰も文句言わないと思うけど。」
「っ…ルキ、目標だった推薦枠が取れたんだから、応援してやろうよ。ミリオン嬢だって、多忙なことくらい知ってたろう。その分、やりがいもある役職だ。でも、なんか困ったことがあれば、その時は無理せずに言って欲しい。ね、ミリオン嬢?」
「リアン様、ルキ様、ありがとうございます。まずは頑張ってみます。何かあれば、助けてくださいね。ふふ。」
リアンは、いつも私を助けてくれる。高い棚の本を取ろうとすると、背後から現れ、取ってくれたり。重い物を持っていると、いつの間にか、全部運んでくれてたり。
いつもニコニコと私の話を聴いてくれるリアンの顔を見ると、卒業したくないなと思うの。
「そうだ…!ルキ、ミリオン嬢、よかったら今週末、王都の飲食店に行かないか?ルパルト領の農産物を使った料理を出すらしいんだ。」
「ルパルト領の?すごいわ!」
「すまない。今週末は、王宮に呼ばれてる。来週は?」
「今週末はルパルト領だが、来週は違うところの特産を使うらしい。ルキは仕事か…。ミリオン嬢、嫌でなければ、2人で行くのはどうだろう。」
「え?よろしいのですか?私、行きたいです。」
「…あぁ、ぜひ。寮に迎えに行くから、待っていてほしい。ミリオン嬢は、あまり出歩かないだろう?馬車がいいかい?ゆっくり歩いて行くのも手だよ。」
「リアン様がお時間あれば、歩きが良いです。」
「いいね。王都の散策をしながら、行こうか。」
「はい!あぁ、楽しみだわ!」
はしゃぐ私を見て、ルキはむすっとしてたけど、リアンはくすっと笑ってくれた。
寮に戻った私は、大急ぎでビアンカに「リアン様と出掛けるんだけど、服どれがいいかな?お化粧どうしよう!」とまくし立ててた。
「ミリィ、落ち着いて。コール伯爵子息と出掛けるって、どういうこと?」
今日の出来事を急いで話し終わると、ビアンカは「はぁー」と大きな溜息をした。
「コール伯爵子息はやっぱり…ふんふんふん。ミリィ、可愛い黒いワンピースあったじゃない、あれにしたら?」
「黒?地味なのに、さらに地味になっちゃうじゃない。」
「差し色に、私のスカーフ貸すわ。お化粧も私にまかせて。ふふん。」
清々しく晴れた日曜。鏡の前には、黒いワンピースに、首元に赤いスカーフをアレンジした私がいた。
「ミリィ、可愛いわ!」
「ビアンカのおかげ。ありがとう!行ってくるね!」
「リアン様っ」
寮から出るとリアンがいたので駆けていった。
「おっと、あぶない。ははっ、危機一髪。」
案の上、勢いよく転びそうになったところを、リアンが支えてくれた。
「ふふふ。ありがとうございます。」
2人でレンガ道を、あれが人気のパティスリーだとか、歴史のある建物だとか、草花が咲き始めてるとか、硝子細工の小物が可愛いとか、他愛もない話をしながらゆっくり歩いて行く。
今日のリアンは、淡いベージュのシャツに、黒いスラックスを合わせていて、とてもかっこいい。
横を見ると、微笑むリアンと目が合う。
「もうちょっとで着くよ。」
「え、もう着いちゃうの?まだ歩けるのに…」
「ははっ。」
あっという間に、お店に着いてしまう。もっと一緒に歩きたかったのに、そう思った。
「んん〜、美味しい!」
「これも、うまいね!」
リアンに選んでもらった料理は、ルパルト領の農産物が見目も良く活かされて、全部美味しい。初めて食べる食材もあったり、調理法も工夫されている。お腹がいっぱいだったけど、最後の林檎のソルベも最高だった。
シェフにお礼を言い、また名残惜しい気持ちで馬車に乗り込む。
「リアン様、今日はありがとうございました。とても楽しかったです。」
「俺も。」
「ふふ。ご馳走になってしまったので、次は私がご馳走しますから。」
「…つぎ…?また一緒に行ってくれるかい?」
「えぇ、喜んで。次は、私が良いお店を見つけて、リアン様を連れて行きたいわ。」
「俺はどこでもいいよ。何でも食べる。」
「ふふっ。」
なんだか心がぽかぽか暖かい。お腹もいっぱいだし。帰ったらビアンカに色々話したいけど、すぐ寝てしまいそう。