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23(婚約編) リアン〜side〜

1話ずつ毎日21時頃の更新予定です。

 1時間ほど店の前のベンチで待っていると、ミリィとフロイト公爵令嬢が出てきて、手を振り合っている。ミリィが踵を返したので、声をかける。


「あ、リアン!迎えに来てくれたの?ありがとう。ねぇ、帰る前に文房具のお店に寄ってもいいかしら?」

 ミリィは手を繋いで、歩き出す。それが自然で嬉しくなる。待ってて良かった。


「もちろん。何か欲しいの?」


「万年筆。仕事で清書するときに、もっと書きやすいものが良いかなって。」


 カランコロン…。

 ミリィが、沢山の万年筆の中から吟味するところを、横から見てる。何本か気になるものが見つかって、ミリィが試し書きをする…リアンリアンリアン〜…綺麗な字で、俺の名前を何度も練習してる。ご褒美か?


 ミリィは、赤い万年筆を選んだ。いじわるして「俺の色?」と聞いたら、「一番好きな色なの!」と口を尖らせている。思わず笑ってしまう…ミリィの好きな色は俺の色ってことか?「…ごめん。」と言って、頭を撫でると、ミリィがじっとりと睨んでくる。可愛すぎだろ。


 支払いを済ませて店を出ると、もう薄く暗くなっていた。辻馬車を引っ掛けてこようとすると、ミリィがこのまま歩いて帰りたいと言う。


「足、痛くないか?」


「ふふっ、心配性ね。リアン、万年筆ありがとう。大切にするわ。」

 月の無い夜。2人の陰が暗闇に溶けていく。


「リアンにしてもらうばかりで、私、何もできてないわ。この頃、お菓子作りもできてないし。お礼したいけど、良い方法が思い浮かばないの。」


「俺だって、十分ミリィにしてもらってる。」


「うそよ。私、何もできてないわ…。」


 本当に、俺は十分なのにな…。


「じゃぁ…お礼に。」 

 トントンッ、俺は自分の頬を指さす。


「…キスして。ミリィ。」

 俺を信じてくれないミリィに、いじわるをした。それだけだったのに。



「……ちゅ。」

 頬に柔らかいミリィの唇が押し当てられたと気付いたとき、時が止まった。



「……お礼。」

 ミリィが、はにかみながら笑う。今度は、心臓が止まった…。



 自然に繋がれる手。指を絡ませ、ミリィの手にキスを贈る。微笑むミリィを見つめると、暖かな夜の風が優しく吹き抜ける。頬に残る記憶。暗闇の中、世界は2人だけのようだった。


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