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隙間から見える表情

 全てを話した後、蒔絵はしばらく黙っていた。

 互いに無言の時が流れる。

 フィアンセのあまりに節操のない過去に対し、ショックを受けているのか。

 表情に出さない分、その心中を察そうとすると拓海の胸の内で後ろめたさがさらに増した。

 怒っているのか。呆れているのか。

 彼女は深く吐息をつくと、ようやくその重い口を開いた。

「……それは……全部……()()()()()()()()?」

 不意を衝かれたように瞬くと、拓海は口籠りながら返した。

「あ……ああ……。そうだ」

 彼女はさらに念を押すように、聞き直した。

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 拓海は赤べこのように頷くと、慌てて肯定し直す。

「それはない! 心から誓って言える!」

 そこに偽りはなかった。

 厳密に言うと付き合う直前に数回風俗へは行ったが、あくまでギリギリ交際してなかった頃の話だ。

 まるで見透かそうとするかのごとく、蒔絵は婚約者の顔をじっと凝視する。

 その鋭い目つきに呑まれそうになり、拓海は思わず唾を呑み込んだ。

 緊迫した空気が流れた後、彼女は言い添えた。

「……()()()()()()

 そう言って視線を前へと向けた。

 不満そうではあったが静かに感情を鞘に収めた彼女の様子に、拓海は心の内で安堵の溜息を漏らした。

 少しだけ緩和された空気が車内に流れると、蒔絵は再び彼の方を向いて言った。

「警察に通報しましょう。車のナンバーは憶えてる?」

 拓海は心の中で思わず舌打ちをした。

 慌て過ぎて感情が昂ぶっていたせいか、冷静な判断ができていなかった。

 バツが悪そうに言いあぐねていると、

「ドラレコに映ってない? バッテリー内臓式なんでしょ」

「……あっ! そうか!」

 続けざまに婚約者に手助けされる自身を拓海は胸の内で恥じる一方、彼女の器の大きさに心強さを感じた。

(やっぱ、俺には蒔絵がいないとだめだ)

 あらためてその存在の大きさに気づかされる。

 気持ちを切り換えるように、拓海はドライブレコーダーに手を伸ばした。

 本日録画された映像を選んで、再生を始める。

 この店に辿り着き、自分と蒔絵が車内から出て行く光景が目に入った。

 倍速で早送りをしていると、突然、黒いセダンが横から勢いよく視界に飛び込んできた。

 窓にはスモークが貼られており、運転している者の顔はわからない。

 こちらに車体の後部を見せた瞬間、ナンバープレートが見えた。

 拓海は即座に一時停止ボタンを押した。

 思わず瞠目する。

「……映ってる……」

 歓喜の声を漏らし、蒔絵と互いに顏を見合わせる。

 彼女は意を得たように頷くと、拓海は慌ててスマホを取り出し、迷わず110番へかけた。

 ワンコール目で相手が出た。

『はい、110番。警察本部です。事件ですか? 事故ですか?』

 その淀みない対応に思わず気圧され、吃り気味になる。

「あ……ああ、あの! じっじじっ、事件です! その……!」

「もう! 貸して!」

 見ていられないように横から蒔絵が携帯をひったくった。

 彼女はハキハキとした口調で告げた。

「変な人物に追われているんです!」

 その瞬間だった。

 どこからともなく、

「ピ―――ピ―――」

 音が聞こえ、思わず拓海は視線をドラレコの画面に向け直した。

 映像は一時停止になったままだ。

 蒔絵は気づいてない様子で尚も受話器の向こうへと話を続ける。

「車のナンバーは東京都〇の〇〇〇―――」

「ピ―――ッピ―――ッピ―――」

 ふと、拓海は気付いたように視線をゆっくりと前に遣った。

 咄嗟に息を呑む。

「おい……」

 口を開けたまま、隣の蒔絵の肩を叩いて呼びかける。

「何!? 今話してるところだから邪魔しな……!」

 同じ方向を向いた瞬間、彼女の動きも停止した。

 一瞬、意味がわからず二人揃って茫然自失となる。

 フロントガラスの向こうに見えたのは、黒塗りのセダンだった。

 ガラガラに空いた県道を()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 恐る恐るドラレコの画面に視線を戻した。

 一時停止された()()()()()()と見比べる。

 ()()()()()

『……もしもし? どうなされました? 今どちらにおいでですか?』

 受話器の向こうから漏れてくる女性警察官の声も耳に入らず、二人は完全に固まった状態で、その車を見つめたままだ。

 さらに驚愕は続く。

 その黒い車体があたかも自分達の進路を完璧に塞ぐかのごとく、ピッタリとすぐ前方に停止したからだ。

 降りる様子はなく、()()()()()()()()()()()

 全く出てくる様子もない。

「やっ……野郎! 舐めた真似しやがって!」

 とうとう堪忍袋の緒が切れ、拓海は運転席から勢いよく飛び降りた。

「ちょっ……! 拓海! 何考えてんの!」

 警察と電話中なのも忘れ、蒔絵は大声で呼び掛けた。      。

 が、彼は止まらない。

(上等だ)

 もはや、罪悪感よりも怒りの方が増していた。

 イキり立った様子で運転席の方へと近づいて行く。

 黒いドアの真横まで到達した時、スモーク貼りされたサイドウィンドウガラスが()()()()()()()()()のに気づいた。

 そこから()()()()()()()()()()()()()()()()()()、拓海は咄嗟に口を大きく開いた。

(……まさか……)

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