初の面合わせ
「じゃ、私は失礼するわ。妹のことは頼むわよ」
「はいよ。頼まれた」
ラテは同階の自分の部屋へ向かって行った。そして物音も無い廊下に一人のレイン。近くに金魚の鉢があり、金魚が跳ねると音を鳴らす。そんな静かな空間でレインはインターホンを鳴らすと、青く光る。これは待機中の光だが、全く出てこない
『ま、当然か。そりゃ人と全く触れてこなかった子がいきなり知らん男と会えなんて無理な話。待て、ここはラテの彼氏ってことにしておけば、一気に馴染みが出るんじゃないか?』
「おーい、俺はラテの彼氏だ。ラテとは幼稚園時代から付き合ってる彼氏だ。ラテもよく俺に甘える。べったりだ」
少し大き目の声で言った為、ラテにも完全に聞こえただろう。ラテは部屋の椅子に座りあいつは何を言っているのかと呆れた。レインは全く出てこない。これは飯の時間まで待つしかないとレインは一度ラテの部屋に向かった
「よーラテ」
ラテの部屋は開いていた。別にレインしか入らないので問題ないと思ってだろう。それにいちいちインターホンは面倒
「レイン、さっきのは何?」
「いや、お前の彼氏って言えば出てくると思ってな。お菓子とか持っていけば出てくると思うんだがな」
レインはソファで横になる。ラテは何やら分厚い本を読んでいた。これは学者の論文をまとめた本だ。ラテは少し考え思い出す
「そうね、ならケーキがいいわ」
「ケーキ?夕食だろ?」
「あの子は甘いものしか食べない。夕食も甘い物よ」
『ラテのやつ、ご飯作ってるって……こんな不健康なの飯じゃないだろ!』
レインは立ち上がった
「キッチン借りるぞ。食材はある物使っていいか?」
「ええ、構わないわ」
レインは二階にあるキッチンへ向かった。と言いつつもキッチンはラテの部屋のすぐ前だ。レインが冷蔵庫を開くと、食材はそれなりに揃っていた。加えてケーキが何個も置いてあった。レインは牛肉、キャベツを取り出し炒める。炒め終えると米をよそぎ、 ラテ妹の部屋のインターホンを押した
「夕食を作った。出てきてくれないか?」
しばらく経っても出てこない。レインは料理を手に持ち立ち尽くすだけ。レインが諦め部屋を離れようとすると、インターホンが赤く光る。レイレンはやっとかとインターホンの前に背筋を伸ばし立つ
「お姉ちゃんの彼氏……」
「ま、そうだ」
ラテ妹はレインの持つ食事に気がつくと、物珍しそうにした
「ちょっと食べてみたい」
『しかし肉、野菜、米を食べず生きてきた人間がいたとはな。この程度の料理なら毎日でも作ってれる』
扉が開いた。ボタン一つで開く便利な扉だ。レインが部屋に入ると可愛らしい桃色のベッドに桃色の机と椅子。中には床につくほど髪を伸ばした少女がいた。前髪だけは手入れされており、自分で切ったのか下手な形をしている。手には桃色のスマホを持っており、ふらふらと歩いてくる。レインは机に食事を置く。その少女は箸を片手に持とうとしたが、落ちてしまった。その後も試すが、やはり箸が持てなかった
『なんだと?箸が持てない……そうか、ケーキはフォークで食べるから、九年間箸に触れず生きてきた。手にスマホを持ってる。となると、ネットから情報などは多少得れていて、日本語は普通に話せると思っていいか』
「箸は難しいよな。待て、今フォークを取ってくる」
レインがフォークを取ってくると、少女の手に渡す。すると少女は米を救い食べ始める。フォークの扱いにはレインよりも慣れており、同時にそれしか使ってなかったのだと分かる
「美味しいか?」
『と言いつつ米が美味しいわけない。甘い物しか食ったことない奴なら尚更そう思うだろう。米なんて味のしない物は食感で嗜む物だ』
少女は次に肉を刺し、口に入れた。そして噛む。噛むという動作は流石に知っているらしい。レインがそんな様子も見て微笑もうとした瞬間、少女は首を抑え苦しそうに肉を吐き出した
「って、おい!大丈夫か!!とりあえず飲み物」
レインが外に出ようとすると、ラテが立っていた。手にはオレンジジュースを持っている。レインはオレンジジュースを受け取り、少女の前に置く
「とりあえず飲み物を」
少女はオレンジジュースを二口ほど飲み込んだ。少女は酷く荒い呼吸をし、その場で横になる。しばらくすると落ち着き、ベッドで横になる。レインは話しかけた
「何か欲しい物あったら言えよ?なんでも取って」
少女は布団に顔を隠す。レインにはその涙がはっきりと見えた
『なぜ泣いてる?なぜ吐いた?いきなり食べすぎたか?もっと少なくするべき?汁に混ぜて飲みやすくするべき?』
「早く出ていけって言いたいんじゃないかしら?」
ラテはドアに背を掛け話す。レインにもそんな気がした。そしてラテの部屋へ戻った
「あの子は私以外と話せないわ」
「なぜ?」
「人前だと声が出ないらしいわ。おそらく緊張で息のしかたを忘れたり、頭が真っ白になったり、そんな所だと思うわ」
「そうか……。俺の前にいるだけでも物凄く緊張してるんだもんな」
ラテは足で床を蹴り、その回る椅子をくるくると回す。回り終えるとラテは目の回った様子で立ち上がる。少しふらついていた
「今とても気持ち悪いわ。あの子もそんな感覚だったり」
続けてラテは話す
「何にしても、あの子に油物は無理よ」
「なぜそれを先に言わない!!」
「あの子も自分が油物を食べれないとは思っていなかったわ。普通に考えて、ケーキしか食ってないような子が急に油物を食べれば、その重さから気持ち悪くなる。例え肉汁だけであろうと」
「ラテ、お前、言ってること最悪な?苦しんでる子を更に苦しめてどうする!」
ラテは息衝く
「正直、あの子と私は姉妹として繋がってるだけで、殆ど他人よ」
「いいや、あの子はお前を姉だと思っている!お前、諦めたんだろ?あいつがもう無理って!だからそんな無関心なんだろ?」
レインは立ち上がり柄にもなく怒鳴った。ラテ、目を細め面倒そうに言葉を返す
「私の将来、あの子の介護に徹さなきゃダメなの?社会復帰するにしても何年後?正直早く死んでもらって構わないわ」
その瞬間、レインはラテの頰を叩いた。ラテは椅子から転げ落ち、床を転がり壁に思い切りぶつかる