陰女子宅への訪問者
青年レインは本日高校を卒業した。背は高く跳ね毛が特徴であり、目つきは鋭く世間で言うイケメンだろう。隣に歩くのは同じく背の高い女。橙色の髪を後ろに結んであり、横髪の長さは左右で違う。橙色の目は鋭い目つきであり、名前はラテ。お似合いの二人は付き合っている訳でも無く、普通に幼馴染という関係だ
「レイン、あなた暇でしょ?」
「暇?」
「高校卒業して、やること無いでしょって」
『失礼な女だ。確かに大学は行かないし働きもしないが、暇って……いや、実際暇か?』
「ま、暇になるな」
ラテはにんまりとした。その様子からも何処か大人の余裕を感じられる。レインもそれを見て来たからか、どこかラテに似た余裕がある
「なら妹の面倒見てくれない?勿論住み込みでいいし、生活費は全て任せなさい」
ラテの父親は大企業の社長、母親は海外を飛び回っており、いていないようなものだった。故に金銭面に困ることは無く、レインも今すぐ働きたいわけでは無く、上手く噛み合っていた
『まるで何かが行けと行ってるようだ』
「分かった。しかし妹なんていたんだな?お前とも長いが、初めて知った」
「それもそうよ。あの子、昔から引きこもりだもの」
「引きこもり?」
ラテは頷く。学校の門を抜けた。これで学校とも別れか、なんて感慨深く浸っているレインを後にラテは普通に歩いていく
「ちょ、お前、素通りって」
レインは先を行くラテに小走りに追いつく
「お前って本当、色々と無関心だよな」
「無関心?何が?」
ラテは学校への別れなど頭の片隅にも無く、ただの通り道としか思っていなかったのだろう。レインは寂しくないのかと少し心配になる。しばらくするとラテの家に到着した。家は二階建ての普通の家だが、防犯対策は固いらしい
「両親いなかったのもあるけど、私も全く構ってあげられなかったから可哀想な子よ」
そう軽そうに話すラテ。暗証番号を何やら入力しているが、軽く二十文字はある。そして扉が開いた
「なんでお前は構ってやらなかった?そんな他人事みたいに言うが」
「どーして私の大切な時間をあの子に使う必要があるのよ?私は暇じゃないの」
『ま、こいつは小中高と勉強や部活で忙しかったからな。仕方ないと言えばそうなんだが……』
ラテはレインを連れ二階の階段を上がっていく。廊下は金の柱やらで、階段は透明のガラスで作られている。明らかに他と雰囲気の違いを感じさせる。二階へ上がり少し歩いた
「ここよ」
一つの扉前にラテが立ち止まる
「ちなみにコードは私も知らないけど、呼べば普通に出てくるわ」
コードとは部屋の扉の暗証番号だ。個人部屋には全てコードが設定されており、部屋の持ち主しかコードは知らない。しかしインターホンがあるので、呼び出すことは可能だ。ラテがインターホンを押した。向こうからは顔が見えるが、こちらから向こうの様子は見えない
「あ、お姉ちゃん!……っ……彼氏?」
震えたような声に変わった。レインは人に慣れていないのだと察した
「違うわ。あなたの家庭教師よ。最低でも小学校レベルはやれるようにしておきなさい」
とラテが言うとインターホンの赤い光が消えた。これは向こうが通話を切った証であり、逆に付いていれば通話中になる。ラテは溜息を吐いた
「どうやら俺はダメらしい。と言うか、何歳から引きこもってるんだ?」
「幼少期からインドアな子だったし、母が無理矢理外に連れ出して、それでも遊ばない子。その母が旅行に溺れたのが九年前で、私より三つ下」
『その母親が消えたら外に出ないから……』
「つまり九年丸ごと籠もってるのか?」
レインは一驚した
「ええ、そうよ」
「なんでもっと早く俺に言わない!」
レインは少し怒ってる様子だった。ラテは何を怒っているのだと疑問に思うが、その答えは一人で分からない
『親も無しで無関心な姉。そんな環境で小一の子供が育ったら、そりゃこうなるだろ。ラテもラテだが、親も親だ』
「早く言えったって、あんたも学生で忙しいじゃない?それともレインは暇な学生時代だったの?」
「暇じゃないが、子供一人に構ってやるくらいの余裕はあった!ラテ、お前にもあったはずだ!ほんの少しでも」
ラテは少し考え思い出す
「ご飯くらいは作ってあげたわよ。あと、最初の頃は学校に休むと連絡も入れたし、あの子に沢山の時間を使ったわ」
『こいつは他人の感情があんま分かんないやつだった。話しても無駄そうか』
「分かった。どうにかする。が、部屋に入らんと話は始まらんだろ?何か策は無いのか?」
「無い。あの子が開けるしかね」
『仕方ない。やるしかないか』