漆黒の騎士
服装はまだ所々にぼろぼろなので服屋を探すために俺たちフィーニス都市をフラフラ歩いている。建物は基本的産業革命時代のレンガ造り。赤レンガ造りの建物は多い。赤レンガと白い笠木、たまにグレーレンガに青い屋根。カラフルに見えないのは使用している色は目が疲れないように淡いトーンだからだ。
「ここはすごいだね」
俺は軽い口調で皐月さんに言ってみる。彼女は浅緑の長い髪を手で梳る。傷だらけの顔すら麗しいのは王族であることを明白にする。竜胆色の瞳はこっちへ向ける。
「いや、全然よ! 呉羽くんがそう言うのは田舎育ちだから」
「え? でも…例えばあれ、すごい煙出てるけど?」
「ん? あ! あれは工場だよ!」
「コウジョウ?」
俺はずっとシルバ村の中にいた。その世界しか知らなかった。だから、俺にとって、途方もない大きさのレンガ造り建物はともかく、そこから出ているとんでもない量の白煙まで新鮮に映る。
「ちょっと工場も知らないのか呉羽くん?」
「さすが聞いたことがあるけど、生で見られるのは初めてだ」
「私も子供の頃にここを訪ねたことがある! その時に私も呉羽くんみたいな反応をしたかもな? 覚えてないけど」
俺にとってこの街は落ち着かない場所だ。行き来している人々は皆、上品な服を着こなしている。そこまではいいが、戦争のせいでこのフィーニスには数えきれないほどの兵士が屯している。すれ違う馬に引っ張られている荷車にも多数の銃が載せられている。
「あ! あった! 見て!」
皐月さんは急に立ち止まり、ある方向へ華奢な腕をのばす。彼女が指したところに、めずらしい黄色のレンガ造りのお店があった。ガラスのショーケースにおしゃれな入口の隣に「村雨服屋」という吊り看板が設けられた。
「ショーケースを見てみよ?」
「え? それは面白いなの?」
「なっ?! まさか呉羽くんはショッピングしたことがないのか!」
「《《だから》》シルバ村はこいう店がないって!ちっちゃい村に必要最低限の物しかいない!」
「う~、悲しいだな」
「なんでお前が泣いているのか!」
彼女が俺をからかっているのをわかっていながら文句など言えない。彼女も彼女なりの悩みと不安があるはず。この変なやりとりはなぜか微笑ましく感じる。店に入るか入らないかのうちに、後ろから軍服を着た男性が叫んだ。
「道を開けろ!!!! 騎士王の凱旋行進だ!!! 」
その一言に反応する皐月さんは虚しい表情をする。彼女の血の気が引いた顔を気にする余地はなかった。男の宣言のわずか数秒後。ドンドンと太鼓を叩く強い音が鼓膜を振動させる。
「っ?!」
一瞬、俺は自分の目を疑った。石畳みの道を挟む形で人が集まる。しかし、それはどうでもいい、凱旋行進の頭には闇色のダークホースがいた。騎馬をしているのは漆黒の洋式鎧を装う騎士。
妄想なんかじゃないかなって思ったが、周りの人は皆騎士を歓迎するように手をふる。




