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新感覚脱出ゲーム  作者: ピタピタ子
8/32

悪行公開2

「お前ら!待たせたな。これからビデオ視聴の時間とする。」

皆自分のしたことが他のプレイヤーに明るみにならないかドキドキしている。最初の有吉加世を見てきたから、自分も同じような仕打ちを受けるのではないか皆心配している。

「今回の主役は時任千華江だ。」

千華江は立ち上がる。

「私は何もしてない。生徒達に正しい指導をしたのよ。こんなビデオ見せるなんて盗撮と変わりないでしょ!」

千華江は肺活量があるので怒ると声がかなり響き渡る。

「俺がこの映像撮ったわけじゃないから俺に言っても無駄。俺はゲームを進行するためにここにいるから映像をどうこうなんて出来ない。文句があるなら自分で撮影したと思う人をつきとめたら?全てお前の責任だけどな。」

ケイジは千華江を冷たい言葉でつきはなす。画面には時任千華江の悪行と表示された。


千華江は知っての通り48歳の既婚女性だ。子供はいない。数年にわたり音楽教師と吹奏楽部の顧問をしていて、自分の仕事に誇りを持っている。その地位を彼女からとったら、何も残らない。最初はこじんまりと謙虚な姿勢で挑んでいたが、就任2年目から彼女は暴走しだす。

「次はトリオから行くよ。1、2、3、4!」

全体合奏する中トランペットが捕まった。

「トランペット、ベルの角度も揃ってないし、何でそんな音程合わないの?ここのパートクラリネットに迷惑かけてるの分からないの?一人一人吹けるかしら?」

「はい。」

吹奏楽部は顧問が絶対で、誰も顧問に逆らうことは出来ない学校が多い。例えパワハラのような指導を受けても。

「トロンボーンとユーフォとテナーサックス、あんた達だるそうに聞いてるけどやる気あるの?音楽室の掃除も不十分じゃない。そう言う普段の態度が合奏になって出るのよ。」

「すみません。」

「何回言ったら分かるの?サックスを除いた木管は皆優秀だから見習いなさいよ。」

彼女はチューバ以外の金管には厳しく、サックス以外の木管に甘く、低音と打楽器には普通の対応だ。

「あの時任マジでムカつく!掃除してないのはいつも木管と打楽器の3年じゃん!」

「本当にそれ!」

「ねえ、聞こえてんだけど!先輩の前でそんなこと話して良いとでも思ってるの?」

彼女の指導は毎年、部活内の優劣と分断をたくさん招いた。しかし予選は上がれなくても金賞を毎年勝ち取っていた。

就任6年目、当時のトランペットとホルンの2・3年は例年のように酷い指導を受けた。コンクールの課題曲と自由曲を練習している。

「皆さん、聞きましたよね?これが酷いタンギングです。こんな汚いタンギングしてる人達と皆演奏したいと思う?音の切り方も全然揃ってない。合奏をなめてんのかしら?」

「先生いくら何でもやりすぎです!確かに直すべき点はあると思いますが、そうやって高圧的に言うのは違うと思います。先生ってそれでも音楽を楽しんでるんですか?」

「中本さん、あなたそれほどのことを言える実力なのかしら?」

「先生、正しいことや事実を伝えれば良いものではありません。バンドには時には一人一人の心に寄り添っていかないと駄目だと思います。」 

中本さんは例年にないはっきりものを言うタイプの部員だった。パートはアルトサックスで、3年生だ。

次の日、サックスパートは呼び出された。最終的なオーディションでは中本さんがアルトサックスのファーストに選ばれたが、セカンドの2年生にその座をとられた。

「もうあなたはファーストをやらなくて良いわ。ソロも吹かなくて良い。今日から畠山さんにファーストを担当してもらうから。」

畠山さんは中本さんをそこまで慕っていたわけではなかったので嬉しそうな表情をした。そして彼女を蔑んだ目で見た。それから畠山さんと千華江からの嫌がらせがはじまった。

「先輩、そこの所ビブラートのかけ方がキモいです。一生吹かないでください。」

音のことだけ彼女は言われたわけではなかった。

「先輩、すみまで掃除出来てないんですけど。音楽室使わせてもらってる自覚あるんですか?」

千華江からも酷い扱いを受ける。

「中本さん、だけMの所吹いて。」

「はい。」

彼女の方が音が安定していた。ムラのないキレイな音色だ。しかし千華江にはむかえば、ソロやファーストの座は誰であろうと奪われてしまう。

「どうしてそんな歌い方するの?これクラッシックなのよ。幼稚過ぎる歌い方ね。もっと畠山さんに寄せるとか考えないわけ?いつになったら直すの?」

自分の気に食わない生徒にはいかにもそれっぽいことを言う。

「私の言うこと全然直ってないわね。」

指導の度に言葉を変えて攻撃するから、吹き方が変わるのは無理もない。

「普段からのその反抗的な態度が音になって現れてるの。バンドと調和したいなら、その反抗的な態度を直したらどうなの?」

3年生は最後のコンクールでファーストの座を失いたくないので千華江に誰も逆らえないし、上下関係も厳しいので下の後輩達も同じように逆らえない。

一方的音楽の授業でも中本さんは勤勉だったが、千華江から気に入られてなかったので、内申点をあからさまに下げられた。

「うちの千華江は点数も90点以上なのに、何故成績が良くないのですか?毎回5をとってるんですよ!」 

中本さんの母は千華江に何度も成績のことで抗議した。

「お母様、まず点数が良くても、歌やリコーダーの技術とかも点数に入りますし、音楽の授業態度も悪いんですよ。どんなに高得点を叩いても、その点が達してなかったので5には出来なかったんです。」

「うちの菜美は本当に何事もしんしに向き合ってるんですよ?今まで学校の先生達から態度も良いと評判の菜美が何故ここまでの扱いを受けなければならないんですか?先生の部活の指導で泣きながら帰っても受験のために夜遅くまで勉強してるんです。何故そんなことが出来るのですか?」

「それって、お母様がご家庭で見た態度と人から聞いた情報ですよね?決定的な証拠はあるんですか?評判なんていくらでもでっちあげられるから簡単に信用してはいけませんよ。」 

いかにも正論を言ってるように聞こえるが、彼女は態度の悪い反抗的な生徒というレッテルをはっている。何度も抗議した彼女のお母さんもついには何も言い返すことすら出来なくなった。

合唱コンクールの練習でも彼女はひたすら千華江に怒られた。

「何でそんな声が安定しないの?それでも吹奏楽部なの?音の出だしから終わりまで安定した声で歌いなさいよ。」

他の皆が失敗しても怒られないのに、彼女だけ怒られた。特に男子生徒と話してる千華江はニヤニヤしている。

「もう一度歌いなさいよ。」

菜美だけは何度も同じところを歌わされた。音楽の授業中でもいつも皆の前で酷く罵倒された。彼女の精神は限界に達した。彼女は結局部活を退部することになった。同期たちからは退部後も悪口を言われた。卒業も音楽がトラウマになって、楽器の音を聞くだけでも酷いうつ症状に悩まされた。

「杉山さん、オーボエのソロあなたおりてもらうわ。二度と吹かないで。ここはソプラノサックスかクラリネットに任せるわ。自分勝手に歌ってて音程も合ってないし、伴奏と調和してないわ。普段からの反抗的な態度が音になって出てるのね。良い加減直したら?」

それからも彼女は自分の気に食わない生徒を皆の前で晒し者にしたり、不当に成績を下げたり、音楽の授業でキツい言葉を浴びせた。

もっとすごい事件が起きたのは彼女が別の学校に移動してからのことだった。先生が変わって指導が変わったので、その時の3年生が彼女のやり方に反対して、3年生は一人だけになった。こういうことはよく起こる。3年生のホルンパートの市川里沙は彼女のやり方に指摘するような子だった。

「市川さん、この学校のレベルがずっとこのままなのは部長の意識の低さなんじゃないの?あなた部長なのに下の後輩まとめることも出来ないの?出来ないなら、ちゃんと報告しなさい!こんなんじゃ世の中でやってけないわよ。」

千華江は音楽という世界だけでまともに世の中なんて見ていなかった。

「確かに2年生は2つのグループに別れてるのは事実です。しかし先生を呼んでもこの対立が解決しないから、結局私は先生を頼らないんです。私だけの問題にするのやめて頂けますか?」

「部室に長くいるのはあなたの方なの、まずは後輩達をまとめる努力とかしたらどうなの?」

2年生は二人の女子生徒を筆頭に対立していた。

「トライアングル、そのロールの叩き方音が割れてる。今すぐ音楽室に出てくれる?直るまで合奏参加しなくて良いわ。」

トライアングルの大下秋も彼女の標的になっていた。部長の里沙はやることが多くて頭がまわらず、2年生にキツい言い方になることもあった。皆、部長任せの傾向で里沙はかなり頭がパンクしていた。ついにはある日生徒同士で取っ組み合いの喧嘩になったが里沙は制裁する気力すらなくなっていた。

「何をやってるの!練習はどうしたの?大下さん、こんなことが何回も起きて報告とかしなかったの?」

「すみませんでした。」

「謝ってすむ問題じゃないわ。こんなことが何回も続くのであれば吹奏楽部を今日から廃部にします。」

「待ってください。部活を続けてさせてください。」

里沙はすごい悔しい気持ちでいっぱいで泣いていた。

「駄目です。秩序が守れない部活は成り立ちません。そんなのも分からないの?」

数時間も彼女は怒られた。

「私は職員室に行きます。全員そろって謝るまで部活の再開を許可しません。」

結局全員渋々と職員室に行き謝った。それから里沙はルールを作るように千華江に命じられた。さらに罰として廊下を20周走らせたりさせられたり、生徒一人一人合奏前にルールの読みあわせをさせられた。それもあり大下秋をのぞいた2年生全員、里沙を責めて、聞こえるように悪口を言った。

「誰かさんのせいで、廊下走ったりさせられて最悪。」

「あのルール作ったの市川先輩らしいよ。部長として運営出来てないのにこんなことさせるなんてありてないよね。」

里沙は肩身が狭くなり、卒部する時は誰からも祝福されなかった。


「皆さん、これが時任千華江の悪行だ。」

「これのどこが正しい指導法なの?ただの嫌がらせじゃん。」

美奈子が千華江に言う。

「うちの子、吹奏楽部だったけどあんたみたいなゴミ教師に当たらなくて良かったわ。」

知世も千華江に言う。

「何で私のことが責められてゲームマスターのやってることが責められないのよ!私は生徒達に楽器を吹く機会やコンクールに出場させる機会も与えたわ!」

「まだ不完全な年頃の子供と悪行を積み重ねた大人だったら、世間はどっちの制裁を望むか分かるか?皆平等とか言う心優しい人間がいると思い込んでるが、人間はそんなに都合が良くない。お前らがどんな不当な扱いを受けようが、苦しんだ人達は助けようと思わない。それが現実だ。悪役がピンチの時に助けるヒーローなど存在しないということだ。」

過去に生徒達を不当に扱った千華江も何も言い返せなかった。

「せいぜい自分の現実と向き合うことだな。」

ケイジはまた一人のプレイヤーを冷たい言葉で突き放した。

千華江はまた体型のことで他のプレイヤーに悪く言われた。千華江を支えていた他のプレイヤーもビデオを見て幻滅した。加世が千華江を蹴り飛ばす。

「さっきあんた私の動画見て馬鹿にしたり無視してたけど、今のあんた私と立場変わらないから。」

千華江に唾を吐いて去った。

「次のゲームは3日後だ。3日間、味無しのパンだ。」

次のゲームがまた始まろうとした。

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