日常2
時任千華江は数ヶ月にも渡る無断欠勤の為、懲戒免職になった。千華江のいない間は非常勤の音楽教師が音楽の授業と部活の指導をしていた。もちろん千華江のような指導力はないため、コンクールで求められるような技術は落ちていった。もちろんそれは悪いことばかりでは無かった。
「私元々、コンクールとかそういうの目指してなくて普通に地域とかそういう所で演奏出来たら良いと思ってたんだよね。」
「分かる。と言うか変なルールとかなくなったから、マジ良いわ。」
指導者一人で吹奏楽部の運営は変わる。それほど吹奏楽の顧問は圧倒的な力を握ることもある。千華江が指導してた時との理不尽なルールや厳しすぎる指導はなくなり、一部の生徒はせいせいとしていた。
「私、この部活辞める。これじゃあコンクールとかで金賞取れるレベルじゃないわ。」
コンクールで良い賞を取りたい子達の間で辞める子も何人かいた。
「私はもう指導できないのか。懲戒免職もくらったし、これからどんな仕事をすれば。」
千華江は転職活動をしていた。彼女の旦那は積極的に転職活動を手伝った。そんな時にゲーム中の曲作りなどを思い出した。口では音楽は競うものではないと言っても、実際はレベルとかそういうことばかり気にしていた。でもそればかりじゃ音楽が成り立たないと気がついた。自分が子供達に楽しいと思わせる音楽が出来たのかずっと考えていた。コンクールで通用する狭い世界の音楽しか子供達に教えてなかった。それもあってか彼女は吹奏楽部で指導することは考えていなかった。
「いらっしゃいませ。」
「あの、リードは青箱の3と3半どっちがオススメですか?」
「3は一般的に抵抗感が少なく吹きやすい傾向があります。それに対し3半のリードは抵抗感は強いですが音の豊かさが豊富で慣れてくれば比較的綺麗な音色で吹けると思います。お客様にあったものが見つかれば良いですね。」
千華江は楽器屋さんの店員になった。給料はかなり下がったが、文句は言わなかった。噂は広まり、冷やかしに千華江を嫌っていた生徒達が何人か来た。
「正直ムカつくけど、これが私への罰か。」
千華江は指導者としての威厳はなくなり、普通の40代になった。
有吉加世は旦那と離婚した。娘と二人暮らしだ。
「お母さん、弁当にピーマン入れないでって言ったよね。」
「そう?じゃあ次から入れないわ。その代わり、他の野菜は残さないで。分かった?」
加世は自分の行いもあって多少の娘のワガママも聞けるようになった。彼女は少しずつ娘から信頼を取り戻した。
「それにしてもあの男と別れてくれて良かったわ。ママの悪いところをより引き立たせるような人だったから。」
「愛梨、良い?もう私達過去にとらわれるのはやめよう。その事実は無くならなくても、これから私達で未来を作ることは出来ると思う。だから過去のことでお互い言い合うのはもう駄目だから。あんたがちゃんと変わってるの私は前よりよく分かったから。」
「散々あの男の武勇伝カッコいいと思っててダサいんだよ。そうやって無かったことにするつもり?」
「どんなに言われようと過去の話はしないわ。これから愛梨が進みたい道の手助けをするわ。愛梨を自由にするわ。」
愛梨のことを生意気だと思っていた加世は受け入れていた。娘との仲はまだ完全に修復したわけではなかった。
「その代わり、人を虐めたり、怪我させるようなことはやめて。」
娘は苛ついて部屋を出た。親のいない所で彼女は泣いた。反省して変わろうとしてるお母さんを受け入れられない自分と本当は受け入れたい自分がいて、ジレンマになっていた。
「中々子育っては大変ね。今からでもきっと遅くないと思うけど。」
仲を縮めるのが大変でも彼女は娘を見つめ直して諦めなかった。これからも彼女の苦悩は続く。
船崎穂乃華は飲食店の仕事はクビになった。彼女はフリーエンジニアをしながら飲食店の仕事をしていた。
「船崎が入ってくれて良かったわ。それにうち職場威張る人が怪我して休職中だから都合良いよ。自分の育児とかのストレスぶつけてきたり、分からない所あって話しかけるとすごい高圧的に物言ってくるから正直最悪だったよ。自分の方が偉いと思ってるのかしら?育児とかならこっち大変なんだけどね。このまま辞めてくれれば良いのに。船崎さんはこういう人どう思う。」
「そういう人は最後は自分に返ってきます。」
彼女は苦笑いをしながら言った。彼女が言うとかなり説得力があった。かつての彼女も飲食店で同じようなケイジに酷い仕打ちを受けたから。
「船崎さん、あんたそんなこと簡単に言うけど、ああいう人は言葉巧みに人のこと操って中々辞めないのよ。」
何人かの不満を隣で聞いたが彼女にはどうすることも出来なかった。
穂乃華はエンジニアの仕事をしながら傷ついた十川さんのことを考えた。次会うときはどんな顔で対面すれば良いかとか考えていた。きっともう関わりたくないだろうとも思った。
「そうであれば死ぬほどの酷い目に合わなければ変わらないかもしれないですね。例えば誰かに恨まれて大切な家族を失うとかですね。」
「船崎さん、あんた物騒なこと言うわね。」
「そうじゃないですか。きれい事ばかり通用してたら、救いようない人なんて今頃いないんですよ。」
人の性格、人の仲や戦争だってそう。人権とか権利とかそんなきれい事ばかりでは解決しない。
「急に仕事が入って来た。やること多すぎるな。」
全てにおいて穂乃華はスケジュールだらけだった。
「そう言えば恵梨香とか雪田さん、今どうしてんだろう。」
穂乃華は雪田マリと沢恵梨香のことを考えていた。
「あれ、電話?知らない番号からだ。もしもし。」
彼女は電話に出た。
沢恵梨香はバスケ部のコーチを辞めた。
「ホームレスに石投げてやろうぜ。」
「面白すぎ。」
高校生の男女数人組がホームレスをイジメて楽しんでいた。ある子はそれを楽しんで撮影していた。
「あんたら何やってんの?」
「見れば分かるでしょ。このホームレスおじさんで遊んでるんだよ。」
「はー、呆れた。そんなことしてまであんたら人に注目されたいの?」
「お姉さん、コイツは社会のゴミだからこんな扱いして良いんだよ。」
「そうそう、底辺は底辺らしい待遇を受ければ。」
「あんたらそれ、自分のこと言ってるんだよ。そんなホームレスいじめなんてしてたら、あんたらは一生救えない人間のままね。」
「偉そうに語るな。」
「そうよ。あんたには関係ないことよ。」
恵梨香はゲーム中に手に入れた煙玉を出して、使った。
「何これ、前が見えない。」
「何なの?答えろよ!」
「あんたら、学校や家庭でストレスがあるからってそんなくだらないことしてるんでしょ?自分が大変な思いしたからって苦労を共有したいでしょ?それってあんたらがクソだと思ってる親とか教師とやってること変わらないじゃん。あんたらはそれほど淀んだ空気の中で生きてるけど、このホームレスのおじちゃんはあんたらが想像する数倍淀んだ空気の中で生きてるの。この煙のようにね。あんた達のことまで気にしなきゃいけない状況なわけ。」
恵梨香は家に帰宅した。飲食店で働きつつ心理カウンセラーの資格を取得するために勉強をたくさんした。
「コーチ。何で心理カウンセラーの資格を?」
かつての教え子にご飯を奢っていた。
「もう私はコーチなんかじゃないわ。私数ヶ月間、冒険してたけどそこで思ったんだ。いつまで甘えたことやってるんだろうって。それならその分人のためになることをした方が良いと思って勉強してるのよ。もちろん無断欠勤だからコーチはクビよ。」
「コーチ、変わりましたね。」
「教え子にこんなこと言われるくらい私はガキだったのね。自覚してるよ。」
「コーチならいけますよ。頭だけは良いの知ってるから。他校との試合も相手の動きの先をよんでるんですから。コーチは天才ですよ。」
「あんた頭はだけわって他は駄目ってこと?」
「そういわけじゃないです。」
「奢るのやめようかな。まあ冗談だけど。」
恵梨香は解決を済ませて、教え子とは別れた。
「何この番号?」
彼女は電話に出た。
「もしもし、どちら様ですか?」
「入江美奈子よ。まずもう謝罪の手紙は送らないで。私が強制してるみたいだから。」
「分かった。」
「今日はこれよりもっと重要なことを話しに電話したの。今度、プレイヤー同士集まって食事しよう。」
「本気なの?」
「そうよ。」
美奈子は色んなプレイヤーに電話した。
数週間後本当に集まることになった。
「船崎さん久しぶりね。」
「雪田さん。」
「というか9人集まるとは思ってもいなかったな。」
「それね。」
かつてのプレイヤー9人が再び揃った。
「あんたお店選ぶセンスあるわね。」
「流石金持ちの旦那と結婚した主婦ね。」
「もう離婚したけどね。」
美奈子はあっさりとしていた。
「そうなの!?」
話を聞いた山本佐江以外は驚いていた。
「いや、そんな驚くことないでしょ。恵梨香以外にも相手がいたんだから。親権だけはどうにもならなかったけど、時々息子達とは会ってるよ。」
美奈子は皆が思っている以上にあっさりしていた。
「ずっと専業主婦していたあんたに働き口はあるの?」
「今は派遣の事務の仕事をしてるわ。副業で自分で作った服を売ってるわ。」
「あんたが金持ちのお飾りって言葉撤回するわ。」
雪田マリが言った。
「そう言えば、木村さんだけ仕事クビにならなかったんでしょ?」
「あれは奇跡よ。本当はきられてもしょうがないと思ったけど、むしろ私が戻ってくることには歓迎だったわ。」
「すごいな。今は山本さんも事務よね?」
「そうよ。給料は下がっちゃった。」
「私もよ。」
千華江と佐江は前のような給料は貰えなかった。
「そう言えば山本さん、彼氏できたんだよ。」
「ちょっと私から言おうと思ったのに。」
「どんな人なの?」
「年齢は私より4歳年下よ。外資系でマーケティングやってる男性よ。入江さんの紹介で付き合ったのよ。」
皆、写真を見せた。
「イケメンじゃん。」
「今度雪田さんにも良い人紹介してあげようかしら?」
「私は平気だから。相手はいてもいなくても良いの。」
マリは強がった。
「雪田さんって、そう言えば何してるの?」
恵梨香が聞く。
「あまり言える職業ではないけどあんた達だけには言うわ。」
「いや、何でもったいぶるの。」
「それほど言えない職業だからよ。誰にも言わないで。私は今ゲームマスターが働いてる会社で働いてるの。部署は違うけど。社会から見たら闇組織であるから中々言えないわ。あんた達以外に言ったら私はすべての記憶を消されるわね。」
「普通に凄くない?」
「そうよね。」
「それで、ゲームマスターの顔見たの?」
「見たわ。」
「それならゲームマスターと付き合えば?」
穂乃華はマリをからかった。
「何でそうなるの。からかうのはやめて。年下すぎるのは無理よ。」
「この前の仕返しよ。それよりゲームマスターって何歳なの?」
「28歳よ。」
「恵梨香と同い年じゃん。」
「それにしても雪田さんを雇ったんだろう。」
「今日話したことは絶対言っちゃ駄目よ。」
「分かったよ。言ったら私達まで死ぬ可能性あるんだから。」
「そう言えば、ゲームマスターって結婚してるのかな?」
「確かにそれ気になるわ。雪田さん、何か知らないの。」
「あの性格の男が自分のプライベートベラベラと話すと思う?行っておくけど、ゲームマスターが既婚者か独身かなんて知らないから。他の社員も知らないことだし、多分社長も知らないよ。」
確かにケイジの恋愛に関しては謎に包まれている。少し気になるが聞いた所で絶対話さないだろう。
「私はいないと思うけどね。ズバズバ正論とか言うタイプだし、仕事は出来ても恋愛は上手くないわ。」
「それなんだけど、社内ではケイジに猛アプローチしてる女子がいるから、恋愛に発展しなくてもそこそこモテてるよ。」
「ケイジってゲームマスターの名前?」
「しまった!今の聞かなかったことにして。」
マリはうっかりと口走ってしまった。
「図星ね。」
「だから聞かなかったフリにして。」
「でもそんなにモテるなら雪田さんライバルいっぱいじゃん。私は雪田さん応援してるわ。」
「だからからかうのはやめて!船崎さん!」
「あんなタイプでもベッドだと意外と性格変わるかもよ。」
「実はああ見えて、特殊なプレイとか好きだったりする?」
「結構終わるの速いのかな?」
「ちょっとあんた達、この会話ゲームマスターに聞かれてたら抹殺されるわよ。」
マリが怖い顔で言った。ケイジはその程度のことで抹殺はしない。むしろくだらない会話のやり取りだと思って無視するだろう。
ゲーム終了から2週間後、成績が発表される。
「ゲーム推進部10期生の成績を発表する。」
10期生はケイジとクリスティーナ以外の8人は緊迫した雰囲気だった。
「まず4位から9位を発表する。」
ついに結果が開示される。
「4位はカミーユ・ベンシャトリ。」
カミーユはフランス出身の社員だ。前回は5位だったので少し成績が上がった。それからも下の順位が誰か発表された。
「カミーユ、順位上がって良かったね。成績も上がったらしいし。」
1位から3位はまだ発表されていなかった。ケイジとクリスティーナが残っていた。
「1位から3位は一気に読み上げる。」
ケイジとクリスティーナはお互い勝つのは自分と考えていた。
「1位はクリスティーナ・ブラウン、2位は二人いる。ケイジ・パーカーとジェイ・トンプソン、3位はフエン・ミラーだ。」
ケイジはジェイの方を見る。ジェイは今回かなり分析と努力をしてここまで成績に達してケイジと肩を並べた。
「ジェイ、お前すごいぞ!あのケイジと肩を並べるなんて。ここ最近忙しかったのは成績を上げるためだったんだな。」
「ジェイ、おめでとう。俺はジェイがケイジと肩並べられるくらい這い上がると思ったけどな。」
クリスティーナとは本当に少しの差だった。状況次第ではジェイが1位になっていた可能性もある。
「ジェイとフエン?こんなに一気にはいがるもの?」
カミーユは二人の成績の上がり具合に内心焦りを感じた。フエンはベトナム語と中国語が堪能で、お母さんがベトナム人だ。
「フエンおめでとう。」
フエンは他の社員から祝福された。
「残念ながら今回、ティム・ウィルソンは備品開発部、サミュエル・マルティネスは情報部に異動が決まった。」
今回成績の低かった社員は異動が決まった。これで10期生は入社1年目を迎えようとした。
「クリスティーナ、おめでとう。」
「あんた、だるそうに祝ってるでしょ?」
「そう見えるか?次は絶対抜かすからな。」
「望む所よ。」
ケイジとクリスティーナは相変わらず良きライバルだった。
「次の会議はB-12でお願いします。」
「分かりました。」
ついに会議がやって来た。




