日常1
木村知世は相変わらずスーパーの仕事をしていた。かなり出来るスタッフとして認められていた為、店長は木村知世の復帰には寛容だった。
「木村さん、最近どうしたのかしら?」
「何か威厳が無くなったと言うか?無理もないわ。この数ヶ月私がこの店をしきって来たんだから。」
「大人しくしてくれた方が良いわ。正直ウザかったから。仕事が出来るから、彼女のサポートをしただけよ。」
知世がいない間、他の取り巻き達が威張っていた。その間も新人の入れ替わりが多かった。
「浪川さん!あんたこの前教えたこと忘れたの?」
早速新人がいびられていた。
「浪川さん、こっちも終わってないから。」
「こっちも終わってないから。」
相変わらずここのスーパーの取り巻き達は変わっていない。かつての取り巻き達が楽をしている間、終わっていない仕事をあっという間に終わらせた。
「木村さん、最近大人しいんだけど、誰がこの店のボスなのか理解してるようね。今まで散々威張っていたけど。」
「そろそろ木村さんにも同じように仕事投げない?」
「それもそうね。散々偉そうにしてたから痛い目見なきゃいけないよね。」
取り巻きは知世と表では仲良いように振る舞っていたが、薄っぺらい関係だった。この数ヶ月間、どれだけ薄っぺらい関係で繋がって新人を辞めさせたか考えていた。
「店長話があります。」
知世は店長にお店のことをよく話していた。次の日、取り巻き達にはピンクのエプロンが支給された。
「何で私達がこのエプロンを?」
「よく入るベテランさんにはこのエプロンを着用してもらうルールに変わったんです。」
そのエプロンはベテランの印ではなく、年数が長いだけで仕事も出来ない威張るのが1人前の人に支給されるエプロンだった。知世のメチャクチャな案がなんとも通ってしまった。
取り巻き達の横領の証拠なども明らかになり、全員店長に呼び出された。また知世はその後店長と個別で話した。
「店長、このお店の雰囲気をここまで酷くしたのは私です。この離れていた数ヶ月思ったんです。自分がどれだけお店の雰囲気を悪くして、働いてる人を追い詰めました。解雇するなら私も解雇の対象です。」
「木村さんが辞めると困るんだよ。木村さんは確かに目に余る行動は多かったけど、彼女達のように備品の横領は無かった。」
「しかしそれ以外は彼女達のやってたこととさほど変わりません。それとこのお店はパートが数人辞めて経営出来なくなるお店なんですか?ここが解決しない限り、私のようなのが登場しますよ。」
問題の3人は決定的な証拠があった為、解雇処分になった。知世も自ら辞職した。
「辞めてみるとビックリするわ。自分は外の世界に出たら大したことないってね。」
マリが隣で聞いていた。
「と言うかいつもの仕事に復帰出来たのあんただけだよ。私達は数ヶ月仕事バックれていたようなもんだから。私はあんたと一緒で転職中よ。」
「そう言えば、山本さん、どうしてるんだろう。」
「私も連絡先知らないわ。」
二人は他のプレイヤーとは連絡が取れていなかった。
山本佐江は派遣の事務の仕事をしていた。彼女は特に男性社員に威張ったり、逆に酷い扱いを受けずに普通に仕事をしていた。彼女は帰り道、女子高生達を見かけた。
「ねえ、あいつとかチョロそうじゃない?」
「うん。」
山本佐江は一部始終を見た。
「この人痴漢です!」
「は?君達何言ってるんだ?僕はつり革両手でつかんでるからそんなことするわけ無いだろ。」
「そう言うけど、女の子の髪の匂い嗅ぐとか痴漢ですよね?」
「気持ち悪すぎる。」
「私もおっさんが美保の頭に顔近づけて髪の匂い嗅いでるの見たから。」
「ちょっと待って!!」
皆、佐江の方を向く。
「この人はそんなことやってない!」
「おばさん、何言ってるの?明らかにこのおっさんは黒なの!」
「それなら証拠もあるわ。」
動画の一部始終を見た。女子高生達は青ざめていた。
「この人はずっと上の方を向いてるのに髪の匂いを嗅ぐ?この人が変態ならつり革も掴んないし、体をあんたに密着させてたわ。この後、私と話すならこのことは警察や学校とかに言わない。次の駅で良いかな?」
次の駅になると男性がお礼を言った。
「さっきはありがとうございます。」
「これは私がしなきゃいけない償いです。」
佐江は女子高生達とカフェに行った。
「何であんなことしたの?遊び?それとも小遣い稼ぎ?これで何回目?」
「どっちもです。3回目でその前は示談金を貰ってました。」
「あんな馬鹿なことはもうしちゃ駄目。私が過去に同じ事して一人の男性を自殺させたから。」
「おばさんだって同じなのに!何でそんな私達をとがめるの!」
「ちょっと、実花!!」
「怒るならそういう事でしかお金を稼げない人間になるわ。もしどこかで痴漢冤罪したことが流れたらどうする?就職なんて出来ないし、結婚も出来ない。上手く通り抜けてもそんな女性とは結婚するような男性いないのよ。もしくはいつか私のように騙されるの。私は結婚詐欺で多額の借金を負ったし、今は給料の低い派遣の仕事ね。毎日上司にパワハラを受けてるわ。それでも良いなら勝手にすれば。ただこんなことも考えたことない?」
女子高生達はビクビクしていた。
「あなた達やかつての私のような人が本当に痴漢で苦しんでいる人の首まで締めてることを。ほら、デザート食べなよ。私が説教しているみたいだから。」
「はい。」
お茶を飲みながら話す。
「痴漢冤罪詐欺にあった男性の家族はどうなるか分かる?毎日犯罪者として後ろ指さされて生きることになるし、家庭も崩壊するわ。その家に奥さんや娘がいたらお金の返済のために風俗に行って好きでもない男達の相手にすることだってあるの。あんた達の父親や兄弟が冤罪詐欺にあって同じような運命を歩みたい?あんた達の大事な友達がそうなっても良いの?」
「それは嫌です。」
「私も嫌です。」
「そんなことしてまで人を騙したくないです。」
「そうよね。あなた達のやってることで苦しむ女性が増えるということなの。確かに痴漢で苦しむ女性が多いのが現状だし、痴漢は撲滅しないといけないけど、私達の行為も女性が女性の首を締める行為って言うのも忘れていけないわ。」
「もうしません!」
女子高生達は泣いた。
「ちょっとこんな所で泣かないで!私のハンカチ4人分あるから使って!」
「ありがとうございます。」
「次からじゃなくて、今から変わるのよ。あなた達は未来があるんだから。」
佐江は女子高生達を説得させた。それから別れて、誰かと待ち合わせをしていた。
「お待たせ!」
「大輝さん。」
恋愛を諦めた佐江に彼氏が出来た。
美奈子は長年一緒に暮らした旦那と離婚した。離婚前に個室で二人きりで話し合いをしていた。
「あなた離婚します。外に何人か女がいるの前から知ってました。専業主婦だからずっと我慢してたけど、ここ数ヶ月ここの家に離れて私は私の人生を歩みたいって思ったので。」
「それで慰謝料とか取るつもりか?この年齢だから再婚なんて厳しいし、企業もどこも君のことなんて拾わないよ。私の買ったブランド物とかを自慢して、突然離婚か。可哀想だからたくさん慰謝料払ってあげても良いけどな。」
旦那の宗一郎が携帯を出した。
「これでいくらでも結婚相手なんて見つかるから、君なんてすぐに必要なくなる。」
「あんた私が年取ったから女としての価値が無くなったと思ってるんでしょ?怒らないから言ってみなさい。」
「録音して証拠でも撮るつもりか?」
「何もしてないわ。」
「そうだよ。この年になったお前は子供の面倒だけ見れば良いんだ。それとさっき言ったように君の代わりはいくらでもいるからな。」
耳元でささやいた。大企業の社長とは言ってもこんな救えないクズがいるとは思わなかった。
「お金や権力で物言わせるような男なんてこっちから願い下げよ。ブランド物身につけて他の人見下してた私がいたけど、私ってあんたの分身そのものだったのね。過去の自分思い出すとゾッとするわ。あなたの分身として生きるくらいなら自分を持って生きたほうがましね。それとやっぱり私の言ったこと認めるのね。女に若さを求めようが自由だけど、その言葉あんたにも返ってくるわ。」
「何言ってるんだ?」
「要するにお金や権力で物を言わせてる男も結局、それがなくなったら価値ゼロの男だと言うことになるわね。要するにあなたのような男にはかつての私のような男の分身女しかくっつかないわけ。それで良ければ勝手にどうぞ。」
「かつて離婚した女みたいになってるな。お前、そいつと変わらないぞ。」
「だから何?私は自分が歩むべき道を歩んだだけよ。さよなら。」
美奈子は離婚して、周りの奥さんからは騒動の的になった。
「入江さんの奥さん、離婚したらしいよ。」
「何で?あんなにブランド物とか自慢してたのに。」
「それが他の男と浮気して旦那さんに見捨てられたらしいよ。」
あちこちで本当のことやデマなどが流れた。本人のいる前でわざと言うような人もいるが彼女は気にしてなかった。自分の選んだ最善の選択だったから。
離婚後は謝罪を考えていたが、今さら現れた所で彼女の略奪婚で離婚を余儀なくされた家族の気持ちは晴れない。家族は謝罪ではなく、彼女が目の前に現れないことを望んでいた。彼女に出来ることはもう二度と被害を加えないことくらいだ。それくらい相手が関わりたくないのはよく分かっていた。
3人の息子のうち長男は18歳なので成人していた。長男は美奈子の指示で入江という名字のままだった。他の下の15歳と12歳の息子達の親権は父親が握った。ただし、美奈子が息子達に会うことは許可された。息子達からは完全に嫌われていなかった。美奈子が変わったのもよく分かっていた。子供は大人が思った以上に大人の変化には気がつく。
「入江さん、話って何?」
目の前に山本佐江がいた。彼女達はカフェで待ち合わせをした。
「あなたに紹介したい人がいるの。」
「ちょっと、また見下した同情なの?」
「せっかく紹介するのに、それはないでしょ。それにあんた、世の中は腐った男ばかりではないわ。私が言っても説得力ないと思うけど。」
「うん。あんなモラハラ男と結婚して自慢してたあんたが言っても説得力ないわ。」
「あんた毒舌ね。」
「そう?でも人を変えた態度を変えることはもうしないわ。」
「とにかく、あんたに出来るお礼だと思って、私に紹介させて。この人よ。」
「はじめまして、高橋翼です。」
「山本佐江です。」
しばらく二人は話していた。
「そう言えば、常に小説とか持ち歩いてるんですね。」
「そうです。昔から文学が好きで。」
「それなら僕も。大学は文学部フランス文学学科だったので。」
「それなら、スタンダールとかカミュとかよく読んでたわ。」
「カミュは僕も好きです。」
趣味があって、二人はすぐに打ち解け、2週間後に付き合った。
「お幸せに。」
美奈子は二人を見届けた。
佐伯舞華は旦那とは離婚せずに別居というかたちになった。娘たちが会いたいと思った時に会うスタイルにした。
「今日は仁奈の誕生日だから、好きなもの選んで。」
家族4人で次女仁奈の誕生日会を開いていた。
「私これにするわ。」
仁奈は母親の舞華からの人格否定がなくなって、父親も娘の気持ちに寄り添ったので、笑顔が戻った。母と娘たちの心の溝も消えていった。
「仁奈、誕生日だからこれ買ったの。開けてみて!」
「これって、前から気になってたストール!」
「仁奈が欲しがっていたストールよ。」
「お姉ちゃん、私のこと嫌いなのにどうして。」
「もう私はガキみたいなことしないから。何もしてないのに意地悪なこと何も意味がないでしょ。あんたがいつも教えてくれたことだし、パパとママも私を変えてくれたの。」
「お姉ちゃんはまだ子供だよ。」
「仁奈、もうすぐ私は成人する年齢なの。」
「でもありがとう。」
舞華の影響で姉妹仲にも影響していたが、前よりずっと良くなったし、意味もなく酷いことを言わなくなった。
「仁奈良いことあったんじゃないの?最近いつもと雰囲気違うから彼氏出来たんじゃないの?」
「そうだよ。お姉ちゃんより先越したからね。」
「えっ?本当なの?私は理想の相手が見つからないだけよ。」
「今度紹介するから、家族でまた集まろうよ!」
外泊ばかりして、飛行に走ってた仁奈は家という場所が前より心地良くなった。
「彼、名前なんて言うの?」
「健太君よ。野球部の男の子よ。」
「羨ましい。私も彼氏欲しい!」
「もう二人とも果敢な時期ね。沙羅もきっと良い人見つかるわよ。」
「お母さんは男を見る目だけはあるよね。」
「ちょっと、沙羅。」
「沙羅に言われちゃったな。」
家族4人はずっと笑っていた。
「そう言えば、ゲーム終わってから美奈子のやつどうしてるんだろ?」
舞華は帰宅して、家族のことやゲームに参加していた他のプレイヤーのことを考えていた。
「あれから誰一人とも連絡取れてないから気になるわ。そもそも連絡先も知らないし。」
電話がかかってきた。携帯をとって、電話に出た。
雪田マリは仕事が解雇になり、転職活動をしていた。同時に過去にイジメていた人達に謝罪した。船崎穂乃華にも人づてで謝罪した。
「この年齢じゃやはり正社員転職は無理なのかしら?」
たくさんの苦難が彼女におしかけるが、それほど神経質にはなってなかった。
「こんな時間に電話?誰から?えっ?海外から?知らない番号から登録されたようね。」
「久しぶりだな。元気にしてるか?」
「あんたゲームマスター?というか英語話せたの?」
二人は英語で会話した。
「それは父がアメリカ人で母が日本人だからな。」
「それで私だけまたゲームに参加しろって言うわけ?」
「落ち着け。そんな悪い話じゃない。ぜひお前にうちの会社で働いて欲しい。」
「私もあんたみたいにゲームの司会者をやるってこと?」
「そんな仕事じゃない。ゲームの運営の裏方だ。給料もそう悪くない。」
マリはケイジに連れてかれてアメリカに拠点がある裏NPO法人ダスト更正プロジェクトのオフィスにいた。
「随分綺麗なオフィスね。それにしてもこの会社は何が目的なのかしら?」
この会社はダークウェブでしかヒットしない会社だ。知っていたら逆にすごい。
「あまり会社な感じがしないわ。」
オフィス内はかなり近未来の雰囲気だった。
「情報部に入社しました。雪田マリです。」
初日からすごい量の仕事だった。
「初日からやることが多すぎてキャパオーバーになる!ゲームマスター!」
この会社に入ったら永久的にこの会社にいなくてはいけない。仕事はゲームと違った過酷さだった。雪田マリにはちょうど良い制裁かもしれない。そんな彼女も3ヶ月後には仕事になれて、プレイヤー情報やブラック企業の情報なども正確に調べ上げた。
彼女は一時帰国して、木村知世と会った。
「あんた今仕事何してるの?」
「無職よ。こんなパワハラとかした人間どこも雇わないでしょ。」
「それもそうね。」
「ちょっとは否定して!」
マリは無職と嘘をついた。
「まあ転職頑張りな。」
「ありがとう。それより今連絡取れてるの木村さんだけね。あとのメンバーは何してるのかしらね。」
メンバー全員、連絡先を交換したわけではなかった。




