悪行公開5
「時任さん、あれ取ってくれる?」
マリはわざと時任千華江にトイレットペーパーを投げつけた。しかし彼女は無視をした。
「良い加減そういうのやめたら?」
「そうよ。やめたらどうなの?」
船崎穂乃華は服従が解けるとすぐにマリに反抗した。有吉加世は雪田マリに媚を売りまくっていたが特権がなくなるとすぐに寝返った。
「もうあんたは用済みなのよ。」
加世はマリを思いっきり殴った。
「ねえ見て、有吉さんって雪田さんに権力無くなると態度変わっててまじ怖い。」
沢恵梨香は皆に聞こえるように話した。彼女は基本的に誰かの味方ではない。
「それで、穂乃華さん、ゲームマスターの顔見たんでしょ?もちろん顔の特徴とか話したらその瞬間、あの人のことだから私達に罰を与えるね。カッコいいかカッコよくないの二択だとどっち?」
「そこそこのイケメンよ。」
他のプレイヤーも彼の素顔に興味津々だ。
「もしもし、何だ?」
「お前は俺に相変わらず冷たいな。」
上司のベンからだ。
「お前、入って半年なのに見事な成長ぶりだな。ゲーム会場の様子見せて貰ったよ。やっぱり俺が上司だから部下もしっかり育つものだな。」
ベンは笑いながら他の同期に自慢をした。ベンの同期にはまた似たような奴が情報部にいるようだ。かつてゲームマスターを一緒にしていた。
「全て俺の実力だけどな。せいぜいあんたのやったことは反面教師になることくらいだな。」
ケイジは常に反抗的だ。しばらくしてベンからの電話を切った。次に情報部から電話だ。
「こちら情報部です。先日、入江美奈子と関係のあるプレイヤーがいると聞いたので今調べてます。」
「何か分かることはあるか?前から関係があったのか?」
「今分かる範囲で、間接的に関わりがあるプレイヤーがいます。それを誰か調べてます。」
「そうか。それでいつ結果が分かるんだ?」
「5日後に入江美奈子の家族全員のより詳しい情報をメールで送ります。」
情報部との電話が終わる。次はクリスティーナからだ。
「ケイジ、あんたやらかしたね。」
「何を?俺はいつもと変わらない実力で仕事してるだけだ。」
「AIとはいえプレイヤー一人に顔がバレたのよ。ケイジのように自分そっくりなAIをゲームで使うなんて前代未聞よ。それにあんたと違って最後の方、あの機械気が抜けていたわ。」
この会社では顔バレは会社の存続の危機になりかねない。特に外部の人間にバレたら危険だ。社員の顔は社員しか知らない。
「あいつらはそんなに馬鹿ではない。俺の顔を脅し文句で使うなら、もっと酷い罰を受けることは目に見えてるからな。」
「ミスしてもあんたは顔色一つ変えないのね。社長も見てるのに。」
「何らかの処分をうけるとでも言いたいのか?」
「そんなこと一言も言ってないけど、場合によってはそうなりうるわ。」
「それなら心配ない実力で全てカバーする。」
クリスティーナの電話を゙切った。
「クズども、待たせたな。少し豪華になったエサは美味しいか?本当はお前らのような奴らは土付きの雑草を食べるべきだけどな。特別に優しくしてあげてるんだ。もしこれから食事に文句を言うものがいたら、連帯責任として全員に罰を受けてもらう。特に注意すべきは雪田マリだな。」
ケイジは流石にそこまでして経費削減はしない。ケイジは無表情で言った。
「そうだな。もし規則を破ればお腹が痛くなる物か雑草の2択だな。安心しろ、雑草は毒草じゃないからな。それと俺の正体を明かそうとするやつは特別な牢屋で一生過ごしてもらう。とても劣悪で強制労働を一生してもらう。」
この会社の牢屋は更生不可能かつこの会社や社会に悪影響を及ぼす者が集められてる。
「そこまで馬鹿じゃないわ。あんたがどれくらいヤバいのか一目瞭然よ。」
穂乃華はにらみながら言った。
「これからビデオ視聴だ。」
画面には雪田マリと表示された。
雪田マリはプライドの高いキャリアウーマン。おまけにブランド物好き。その性格の悪さは今に始まったわけでは無かった。
「梢ちゃんって、本当に馬鹿だよね。よく私が勉強教えてあげるよ。」
彼女はクラスの不器用な子を見ると、何故そんなのも出来ないのか理解出来ず、見下してはグループを作ってバカにしていた。
「もう2年生なのに指使って足し算してるの?マジで馬鹿じゃん。梢ちゃんには到底理解出来ないと思うけど、私こんなこと塾で習ってるの。」
マリは学年はクラスで1位で弱みが見つけるのが大変なくらい出来た子だった。
中学になると明らかに弱そうな子を集団でいじめた。
「有川さん、一緒にトイレ行こうよ。」
「うん。」
表向きは仲良くやっても、トイレや人の少ない所で徹底的にいじめた。
「もうやめて!」
「それならバケツの水飲んだら、やめてあげるよ。おっといけない。」
「ほら、飲みなよ!」
体育の出来ない子はすぐにイジメの標的になった。
「マジで飲んだ!地味な顔がバケツの水でもっと地味になるね。」
「ついでにこれで顔洗いなよ。」
彼女は直接手を加えない。取り巻きを使ったり、弱みを握って相手を蹴落とすタイプの人間だ。主導者が誰か分からないようにいつもイジメていた。
イジメられていた有川さんはクラスメイト全員に無視されていた。ここで彼女を助けたら雪田マリのグループに酷いイジメを受ける可能性があるから。
「私、有川さんとペア組みたくない。」
「私も。」
体育などの時間は誰も有川さんとはペアを組みたがらなかった。イジメを傍観していた同級生もマリのグループに認められてからイジメに加担するようになった。クラスのほとんどが一人をいじめる構図を彼女が作った。マリは見えない主導者だ。
「有川さん、今日誕生日でしょ?」
「うん。何で?どうしていきなりそんなこと聞くの?」
「どうしてって、誕生日くらい有川さんのことちゃんと祝いたくて。」
マリは彼女に声をかけた。
「祝ってもらう理由なんてないよ。」
「あるよ。私達、流石にやり過ぎたと思うから誕生日くらいちゃんと祝わなきゃ駄目だと思うの。」
マリは彼女の肩に手をのせた。
「放課後、残ってね。」
放課後、約束通り残った。
「サプライズ用にアイマスクするから。」
何人かの先生がその様子を見た。
「何してるんだ!アイマスクなんてして人にぶつかったらどうするんだ?」
「それなら人にぶつからないようにするのであまり心配しないでください。」
先生も見て見ぬふりをした。
「お待たせ!」
「今よ!」
アイマスクを外して、さらに彼女をゴミの倉庫に閉じ込めた。
「開けて!開けて!」
「マジでウケる。」
「開けるわけないじゃん。」
マリや他6人の女子はその場を去った。有川さんは電気も無く、悪臭が漂う劣悪な環境に閉じ込められた。いくらドアをたくさん叩いても、誰も助けてくれなかった。
「ここで何してるんだ!待ちなさい!」
清掃員が開けると、急いで倉庫を出た。考える余裕もなく、すぐに教室に向かった。
「何あの子?臭くない?」
「よくこんなんで学校来れるよね。」
すれ違う他のクラスの人の中では彼女を軽蔑の目で見るものもいた。
「キモ!ナメクジ女!」
廊下ですれ違う男子達は彼女にわざとぶつかった。
「有川箘がついた。」
「うわっ、なすりつけるなよ。タッチ!」
「やめろよ。」
有川さんを汚いもの扱いして、皆で鬼ごっこをしていた。彼女は泣いていた。苦しくて呼吸が上手く出来ないくらい。
「あれ?どうしたの?どうやったらそんなに生ゴミみたいになるの?顔はナメクジとかカエルのような顔だけど、臭いまで悪臭ってマジやばい。」
女子達からの視線を厳しいものだった。
「帰ってきたんだ。サプライズどうだったの?」
クラスメイトはいじめの感想を聞いた。席につくと、花瓶に菊の花が刺さっていた。
「どうしてこんな所に、菊の花が?」
「だって、あんたもう死んでると思ったんだもん。」
「確かに生きてんのも死んでのも常にわからないもんね。」
「何?何か見えてるの?」
「私は、何もみえてないよ。もしかして幽霊とか見えてるの。」
わざと見えないふりをしている。
「そう言えば、この教室地縛霊がちょうどこの席にいるらしいよ。」
「マリ、何それ?怖いんだけど。」
「こうなったらおはらいするしかないよね?」
マリ達はクラスメイトの大半に塩を渡した。
「いい?この教室には悪霊がいるから塩をまいておけって隣のクラスの佐竹さんが言ってたの。だからちょうど、いそうな所にまくしかないよね。」
「私、ここら辺にいるのが見える。抑えるわ。」
クラスメイトは有川さんに塩をまきまくった。
「苦しい。」
抵抗してもクラスメイトはやめなかった。塩をまいてない生徒はこの事態を傍観するしか出来なかった。
「塩まくの楽しい。」
クラスメイトはこんなことをしては見下した表情で笑った。
「苦しい。」
給食の時間になると、有川さんは給食に大量の塩を入れられた。
「何残そうとしてるの?ちゃんと食べなよ!」
「ほら、食えよ!」
「そうやって残すの?あと食べ方汚いんだけど。」
主犯のクラスの女子達に囲まれながら食べていた。かなり震えていた。
「もう食べれない。」
彼女は給食を食べ終わるとすぐにトイレに向かって、食べてるものを吐いた。
「何か聞こえない?」
「有川のやつ、ゲロ吐いてるよ。マジできしょい。」
彼女のいる個室にクラスメイトはわざと水をまいた。それをケタケタと笑った。
ある日、有川さんとマリ達は同じ帰り道になった。正確に言うとついて来ていじめる為だった。すると目の前に5歳くらいの小さな女の子が飛び出した。車にひかれる寸前だ。
「危ない!」
有川さんはいつもにない力を振り絞り少女を救出した。車が通りすぎ、マリ達は駆け寄った。有川さんが少女を助けたのは小さい頃に自分の妹を亡くしたから。道路に飛び出た妹を助けることが出来なかった後悔から、勇気を振り絞った。
「お嬢ちゃん、大丈夫?」
マリは有川さんをおしのけて、少女に抱きつく。
「生きてて良かった。」
マリは少女を優しく撫でた。
「愛花!ここにいたのね。」
はぐれた母が駆け寄って抱きついた。
「道を飛び出したので、すぐに助けました。もし遅かったらどうなったか…」
助けてもないのに嘘泣きをして自分の手柄にした。後日、マリは学校で表彰された。有川さんはボロボロだった。人を助けても誰にも必要とされないなら人と関わらないほうが良いとまで考えていた。イジメっ子ばかりが器用に成功して、イジメられっ子はどんなに良いことをしてもイジメっ子が言葉巧みに人を操れば皆はそっちに注目するから自己肯定感が落ちて未来も希望も見えなくなる。過去のこととマリにされた仕打ちが忘れようとしても忘れられず彼女は突然叫んでしまった。その日以降、両親とも距離をおいて、引きこもって、鬱病まで発症した。大人になってもトラウマで仕事が上手く行けず引きこもりから脱却出来ない状況になった。
それからも高校で地味で取り柄がないと思った子の人生をイジメで台無しにした。
大学に入ってから彼女はアルバイトをした。雑貨屋のアルバイトだ。彼女は自分のやりたいことしかやらず、自分より下だと思う相手には威張りまくった。しかし上にはかなり良い顔をして何も言わせなくした。社員が来るたびに普段しない事務所の掃除とかをして社員の愚痴を聞いて自分の立場を確立した。地頭が良く、世渡り上手だ。成績も良いので信頼性も高い。
「そう言えば、源さんがここの会計間違えて数字合わなくて残る羽目になったんですよ。」
本当は残ってもいないのに、たまたました自分のミスやその取り巻きのミスをいかにも人のせいにした。
社会人になってからも彼女は変わらなかった。
「この企画書、全て私が考えた案です。」
自分の実績も人が考えたものもすべて自分の手柄にした。
「このソフト今まで使ったことある?」
「分からないです。」
分かってることも分からないことも彼女は分からないと答える。
「このソフトの使い方もろくに覚えてないの?こんな奴がいると先が重いわ。」
ただし自分より上の立場の相手のみに使う。自分より下の立場の人間は彼女は徹底的に見下した。証拠にならないように。上司のいない所で。
「この会社で働けて嬉しいです。素敵な先輩たちのおかげです。同期も皆優しくて。」
上の立場の前では会社を誇りに思ってるアピールをしたり、仲良しアピールをする。おべっかを使ったて気に入られていた。
「こんな要領悪い人と一緒だなんて、私がいくら企画書頑張っても水の泡ね。」
自分より下の立場の相手には徹底的に嫌味を言う。
「企画書はカラーでコピーしないで。経費の無駄遣いよ。」
「本当にそうなんですか?これ、課長に聞きましょうか?」
「余計なことはしないで。」
上司の立場になるとさらに威張るようになった。そして課長まで登りつめた。仕事はそこそこ出来るが、彼女は人をきつい言葉で支配するため淀んだ職場になった。
「こちら先方に配布する資料出来上がりました。最終確認お願いします。」
「これさ、ここの漢字間違えてるんだけど。取引先に見せる資料なの分かってる?学校の先生に見せる提出物とは違うの。」
「すみません。」
「謝るなんて誰でも出来るの。これからどうするの?あなた一人のせいで私にまで仕事が無くなるという自覚はある?その自覚があるならこんな間違えなんてしないよね?」
ある日は電車が遅延で遅れることがあった部下がターゲットになった。確かにマリは仕事の意識が高く、遅刻は絶対ないがすぐ正論をかざしたり、あら捜しをする。
「すみません、電車の遅延で5分遅れました。」
「え?何したか分かってる?それだけ?遅延を想定して早く来たりする努力はしなかったの?」
「乗客同士のトラブルで電車が振替輸送になりまして。何とか早く行ける電車を探しましたが、遅れてしまいました。申し訳ありません。」
「いやいや、仕事は1秒1秒が命なの。この社会で問題をシュミレーション出来ないようならどこ行っても通用しないわね。この会社なんてまだ優しい方なの。分かった?」
足がむくみ、少し立ってコンディションを整える社員も攻撃対象になった。
「ねえ、何してるの?暇なの?それならゴミ溜まってるから、今すぐ変えて。仕事中なの分かってるよね?」
物の教え方も学ぶ意欲が無くなる教え方だ。周りの取り巻きとかもマリの教え方が全てだと思うようになった。
「すみません、コピー機インクがきれたんですが交換の仕方教えてくれませんか?」
「ここを持ち上げて、ここのカートリッジを引っ張るの替えの物を差し込めば完了。これ、小学生とかでも出来るからね。」
有給休暇も中々取らせてくれない。
「ねえ、有給休暇連続で取ろうとしてるの?あなたそれほどの実績残しての?」
「有給休暇は社員の権利です。」
「権利?一人前に仕事出来てから物言いなよ。連休なんてとったら欠員出るの分かるよね?ただでさえ資料のミスがあるんだから、他の仕事で挽回したりとか考えるべきね。実力ないなら努力しかないことくらい分からないの?」
彼女によって、引きこもりになった人もいた。彼女の上に登りつめて人を追い込むのは年を取っても変わらなかった。