空虚隠れんぼ
雪田マリと佐伯舞華は相変わらず、他のプレイヤーより良い食事をした。時任千華江と船崎穂乃華、有吉加世はマリからおこぼれを貰っていた。最初に口にしたものをマリが許可なく食べたことを泥棒とみなし、もしマリに従わなければケイジにそのことを報告して、ケイジが罰を課して会場が50度の灼熱になってしまうと脅した。誰か一人が死ねば全員死ぬから、命がなくなるくらいならマリに従うしか無かった。
「ねえ、床に落とした食べ物食べなよ。船崎穂乃華さん。まずは時任さん、その食べ物を足で踏んでよ。」
千華江は言われる通りに踏む。
「船崎さん、食べなよ。」
穂乃華には怒りと恐怖の気持ちが入り混じっていた。皆がこの状況を傍観していた。
「これも飲みなよ。」
マリは絵の具で混ぜた水もかけた。
「ちゃんと食べなさいよ。」
加世は穂乃華の頭に踏んだ。おまけに蹴ったりもした。マリはわざと加世だけ特別扱いして、穂乃華を集中攻撃するように仕向けた。扱いに差をつければ怒りの矛先は3人の間でうまれてしまう。彼女は人が無様に争う様子を見るのが好きだ。
「あらあら、仲間割れ?私の所でも毎日起きてるよ。」
「仲間というより、クズの集まりだけどな。」
ケイジはクリスティーナとまた電話をした。
「プレイヤーもそうだけど、あんたも人を仲間割れさせるの上手いね。」
「俺が手をうたなくてもこいつらは仲間割れする運命なんだよ。」
「そう言うと思ったわ。」
「お前の所の会場もカメラで除いたが中々凄いことになってるな。プレイヤーが全員ゲームをボイコットだって?」
「そうよ。だけどボイコットしたらもっと重い罰を課せるからわくわくするね。どんどんボイコットして苦しみなさい。」
クリスティーナも中々のサイコパスだ。
「沢さん、これ落としたわ。」
周りはビデオを見たせいか山本佐江を無視した。
「何無視してんのよ!本当は聞こえてるくせに。」
皆、顔を見て無視した。
「山本さん、私のことパパ活やってる汚い女として扱ってだけど、あんたのやってたことも変わらないから。あんたも都合の良いように女の立場を利用していたんだから、私に文句言える立場じゃないよね。それに捕まってないだけで犯罪じゃん。」
「私はあんたみたいに体を売ってない。一緒にしないで。」
「自分だけ棚にあげるんだ。婚活が失敗したから私に嫉妬してるのね。」
沢恵梨香と佐江は取っ組み合いの喧嘩をした。実は皆が佐江を無視したのは恵梨香が裏でそう言うふうに指示したからだった。
「お前ら、元気にしてたか?お待ちかねのゲームのはじまりだ。」
「今回のゲームは何よ。」
美奈子が言う。
「空虚隠れんぼだ。まずはお前らを違う部屋に移動させる。」
プレイヤー達は一瞬で違う部屋に移動した。
「ルールは簡単、5分間隠れる時間をもうける。それから10分間、俺とそっくりなAIがお前らを探し回る。俺のAIに全員見つかれば負けだ。最後まで一人でも見つからなければお前らの勝ち。何度でも挑戦して良い。その代わり、勝てるまでこのゲームは終わらない。説明は以上だ。何か質問があれば挙手しろ。」
皆、動揺していた。何故なら、ウォーターサーバーしかない教室一つ分の砂漠にいるから。佐伯舞華が手をあげた。
「ちょっとこれじゃあ隠れるところが無いじゃない。」
「そうよ。」
他のプレイヤー達も共感した。
「俺にどうしろと?もっと隠れる場所を作れって言うのか?それじゃあただの隠れんぼだ。このゲームは何もない所でどう隠れるか考えるゲームだ。ゲームのルールを決めたいならゲームマスターになることだな。お前らには無理だろうけど。それとゲーム中に見つかれば見つかったプレイヤーは止まってしまう。」
全員絶望した。勝てる見込みのない勝負だからだ。
「ゲームスタートだ。」
全員隠れ場所を探した。
「こんなの隠れる場所じゃないから隠れんぼじゃないんだろ。ゲームとして機能してないだろ。」
「しかも砂漠だし、砂がまって最悪。」
「ここに9人なんて狭い。」
プレイヤー達の不満は止まらない。
「ちょっと、私がウォーターサーバーに隠れるのよ。」
千華江と舞華は争っていた。砂があちこちにまう。
「時任さん、佐伯さん。何してるの。」
木村知世が聞く。
「私が先に隠れていたのに、時任さんが自分が隠れるって言って邪魔するのよ。」
「私が隠れたほうが確実よ。」
「ねえ、それなら皆で誰が隠れたら見つからないか決めない?」
美奈子が提案した。
「それなら、有吉とかどう?彼女、この中で1番運動神経良いし、持久力もあるわ。」
舞華が加世を推薦した。
「私だって向いてるわ。」
「あんたは黙ってて。ただでさえ太ってるから1番見つかりやすいじゃん。でしゃばらない方が良いわ。」
マリが千華江に辛辣な言葉をかけるが彼女は服従関係にあるので言い返せなかった。
「それなら有吉さん任せたよ。」
知世が加世の肩に手をあてる。
「捜索タイムだ!」
ケイジのAIも仮面をつけていた。
「時任千華江、入江美奈子発見。」
他のプレイヤーはわざと焦っている演技をして逃げた。
「沢恵梨香、木村知世、船崎穂乃華発見。」
すごいスピードでプレイヤーを発見した。残った山本佐江と雪田マリは動揺した。
「嘘でしょ。こんなの勝てるわけない。」
「声を出しちゃ駄目!」
「雪田マリ、佐伯舞華、山本佐江発見!」
残る加世は必死で隠れた。ケイジのAIが来ると逆方向に行った。
「有吉加世発見。」
すぐに見つかってしまった。
「ゲーム失敗。次のゲームは1時間後だ。」
全員で作戦会議をした。
「隠れる所無くて勝ち目なんてないよ。」
山本佐江は疲れ切っていた。
「一人でも手を抜かれるとゲームが一生終わらないの。真剣に考えて。」
知世がみんなに言った。
「隠れる所がそこのウォーターサーバーしか無いなら、誰かがわざとターゲットになって時間を稼ぐことね。」
美奈子が提案した。
「あの速さで10分ももたないよ。」
「そうよ。」
「それならわざと大声で叫ぶのが効率的ね。ゲームマスターのロボットも声のある方に行くわ。」
恵梨香の提案で声を出す役は穂乃華がやることになった。
「ゲームスタート!」
ウォーターサーバーには舞華が隠れることになった。5分が過ぎ捜索タイムが始まった。
「キャー、ゴキブリよ。」
AIは声のもとに向かい、穂乃華はすぐに見つかった。
「こっちにもいるわ。」
もちろん嘘である。
「有吉加世、山本佐江発見。」
声で注意を払っても、いくら走り回ってもプレイヤーは次々と見つかった。
「佐伯舞華発見。」
またゲームは失敗した。
「あることに気がついた。あのロボットと目があったらアウトなんだよ。別に発見された時、私達にタッチしたりしてないでしょ?」
穂乃華は一瞬でAIの特徴をつかんだ。
「言われてみればそうね。」
次のゲームがはじまり、隠れる時間がもうけられた。
「隠れることが出来なければ、隠れる場所を作るしか方法はないね。」
「それなら私は時任さんに隠れるわの。この中で面積があるから。」
「どういう意味よ。」
千華江は恵梨香をにらんだ。
捜索タイムがまたはじまる。ケイジのAIは早速千華江を発見した。千華江の後には恵梨香、ウォーターサーバーには穂乃華が隠れた。
「くらえ!」
舞華は彼に水をかけた。水をかけて視界をぼやけさせて時間稼ぎをする作戦だ。
「佐伯舞華発見。」
舞華は1分もしないうちに見つかった。恵梨香はわざと彼の足を引っかけた。すぐに千華江のもとに隠れた。目が合えばプレイヤーの負けだ。恵梨香以外のプレイヤーはほぼ見つかってしまった。
「沢恵梨香、無駄な抵抗はやめろ。すぐ姿を出せ。さもないとウォーターサーバーを壊す。」
唯一の命綱のウォーターサーバーを壊そうとしていた。
「やめて!」
「嘘だけどね。沢恵梨香発見。」
ケイジはAIでも容赦がない。またゲーム失敗だ。ゲームが終わると恵梨香は責められた。
「ちょっと何ゲームマスターに騙されてるのよ。」
「いや、あんなの壊されたら水なしでここにいなきゃいけなくなるのよ。私は最善策を考えただけよ。」
「それって結局自分のためよね。」
雪田マリが遠くから言った。恵梨香はマリをにらんだ。
「とにかく次はゲームマスターのAIを倒す方法を考えないといけない。アイツを倒せば時間稼ぎが出来て、制限時間が過ぎればこっちの勝ちよ。」
知世は倒す方法を提案した。
「でもどうやって?さっきのゲームで使った麻酔銃とかは無いし。」
「それなら鍵探しの時にエアガンを入手したわ。」
穂乃華がエアガンを出した。
「この役割も私に任せて。」
銃の扱いに慣れた舞華は自ら役割を引き受けた。
「それと生物神経衰弱で入手した虫取り網とスタンガンがあるわ。」
作戦はこうだ。舞華が銃の音で注目させて、そのすきを狙って美奈子が虫取り網を彼の頭にかけて、その間にスタンガンで気絶させる。気絶しない場合は舞華がエアガンで気絶させる。
「これからゲームをはじめる。隠れる準備をした。」
プレイヤー達はそれぞれの定位置についた。
「捜索タイム開始!」
銃声が会場中に響く。
「キャー、銃よ。」
周りはパニックした様子を演出。そのすきを見て美奈子は虫取り網を彼の頭にかけた。見事に成功して、スタンガンを彼に当てた。
「これであんたの負けよ。」
「甘かったな。」
彼女はいつの間にかスタンガンを奪われて、彼に当てられた。
「入江さんのスタンガンが!」
「佐伯さん、今よ!」
美奈子は彼と目があった。
「入江美奈子発見。」
舞華がエアガンの弾を彼に命中させた。
「時任千華江、沢恵梨香、山本佐江発見。」
「ゲームマスター銃よ。逃げて。」
「それ、演技なのバレバレ。雪田マリ発見。」
残るは知世と加世と穂乃華と舞華だ。知世以外はウォーターサーバーにかたまった。
「ちょっと押さないで!打ってるんだから。」
「いくらなんでも場所取りすぎた。3人とも目が合ったらヤバイぞ。」
加世が舞華に言った。
「文句ばかりね。私みたいに上手く打てるの?そうでもないのに偉そうに言わないで。」
「ヤバイ来るよ。詰めて!」
「押さないで。」
「二人とも争ってる場合じゃない。ゲームマスターがこっちに来てるよ。」
完全に場所はバレバレだった。
その頃、穂乃華は倒れてる千華江の横に倒れてるふりをした。伏せていれば目が合うことも無いからだ。
「あいつ倒れてるやつの所にいったぞ。私、移動する。何をする気だ。」
穂乃華を軽く叩いた。
「あれ、大丈夫か?」
そして彼女を持ち上げて目を無理矢理合わせた。うつ伏せになっても結局は無駄だった。
「船崎穂乃華発見。」
すぐにウォーターサーバー方に向かう。舞華はゲームマスターに弾を当てたがすぐに立ち上がった。
「来るな!来るな!」
「佐伯舞華発見。」
さらに知世にゲームマスターはスタンガンを当てた。
「木村知世発見。」
加世だけが残ったがすぐにケイジに見つかった。
「ゲーム失敗、また20分後にゲームを開始する。」
美奈子はゲームが終わっても動揺した。AIでも同じ強さのゲームマスターに。スタンガンは眼の前に転がっていた。
「何だが分からないけど、盗まれなかったわ。どうやら使うのはゲーム中だけみたいね。」
「あいつがまさかうちらの武器まで使うとは思ってもいなかったよ。」
「エアガンで打たれてもすぐ復活するから時間稼ぎも難しい。私も武器を取られてたらすぐにやられてた。」
「これじゃあ、あいつに勝つ方法はないってこと?」
「あるにはあるけどうちらの身体能力も求められてる。思った以上の強敵ね。とにかく時間を稼ぐこと。」
「それじゃあ解決になってない。」
その次のゲームでは恵梨香がケイジのAIにわざと服を露出して、色目を使う作戦だったが、ケイジはAIになっても恵梨香を冷たく突き離した。
皆が考えても中々答えに行き渡らない。
「武器になるもの他にないの?」
「もうないよ。」
「それならゲームマスターの仮面をとるとかどう?」
「確かにそれ名案!どんな顔してるか地味に気になってたんだよな。」
「声はそこそこイケメンボイスだから、顔もそこそこイケメンだったりして。」
「あんたら男は顔が良くても金が無いと意味がないのよ。所詮顔だけでしか勝負出来ない男は困るわ。」
木村知世が言った。という木村知世は旦那の給料がそんなに良くなくて、パートタイムで働いている。
「それより本当に武器ないの?」
「私持ってる!めちゃくちゃ役に立つアイテムよ。」
「もったいぶらないで見せないよ。」
山本佐江は数個の煙玉を出した。生物神経衰弱の時に入手したアイテムだった。