生物神経衰弱2
ゲームから3日が経った。100セット目だ。101セット目には入江美奈子と木村知世が選ばれた。
「おはよう、クズども!ゲームを再開するぞ。」
通路には美奈子と知世が並んだ。
「ゲームはじめ!」
「ちょっと待って!」
美奈子が手を上げた。
「控え室からこっちの様子は見れないの?」
「そんな要求不可能だ。」
「それだと私達がふりよ。」
「ふり?お前に傷つけられた人間は知り合いもいない社宅で早速ターゲットにされたからもっとふりな状況だったな。一生心に残り続ける状況よりこっちの方がマシだと思えよ。」
ケイジは美奈子をあざ笑う。
「はいはい、そう言うと思った。」
美奈子からは反省の様子が感じられない。
「あとこっちから控え室の状況も見れない。このアナウンスも控え室には聞こえない。どこかの部屋に携帯があるが控え室とこの廊下は通信出来ないようになってる。そんなもの取った所で無駄だ。」
「そんな。あんた相変わらず容赦がないわね。」
知世が言った。
「ゲーム開始だ。」
「最悪、控え室に忘れ物した!」
「そんなの後で良いのよ。」
「虫除けスプレーなのよ。どんなヤバイ昆虫がいるか分からないでしょ!」
美奈子が控え室の扉を開けようとしても開かなかった。誰かを呼びかけても控え室には美奈子の声は届かなかった。
「考えがあるわ。」
「私もよ。」
知世が美奈子から、金属製の小物入れを取った!
「何するのよ!」
知世はヒアリのいる部屋に行った。佐伯舞華から貰った砂糖を小物入れにいれた。
「今だ。」
ヒアリが小物入れに入るとすぐに小物入れを閉めた。
「私の小物入れが!」
知世はもう1匹のヒアリのいる部屋に行き、合流させた。扉は消えた。
「何してくれてんのよ!」
「何って?ヒアリを一つの部屋に合流させただけよ。」
「あれは私の大事な小物入れなの!中に旦那との思い出の写真が入ってるのよ。」
「そんなことよりゲームを終わらせる方が優先でしょ。」
「そんなこと言うな!」
知世と美奈子は取っ組み合いの喧嘩になった。
「こんなことしてる場合じゃない。」
「そうよ。」
彼女達は時計を見て喧嘩をやめた。
「ゲームマスター!」
美奈子がゲームマスターを呼んだ。知世はその間に動物を探した。
「ゴキブリを合流させたわ。」
その頃、控室では雪田マリにより時任千華江、有吉加世、船崎穂乃華が酷い扱いを受けた。
「バケツの水じゃ不十分ね。そうだ。この汚れた床を舐めなよ。」
これは今に始まったことじゃない。30セット目のゲームの時からはじまっていた。
最初は雪田マリにムカついてたプレイヤーも止めに入らなくなった。マリをどうにかするよりゲームを早く終わらせるほうが優先だから。皆、見て見ぬふりだ。
「熱い!」
千華江の首のあたりに熱いお湯をかけた。
「ごめん、わざとじゃないんだ!あんたは私に逆らえないし、ゲームマスターもあんたがどうなろうがどうでも良いの。ただ死なない範囲で可愛がってあげるから。」
マリは学生時代イジメをしていたサディストだ。今まで弱みを握ってイジメを隠蔽してきた。それにマリには隙がない。
穂乃華が蹴飛ばさせる。
「ねえ、有吉さん、そこにあるバスケットボールを山本さんにぶつけなよ。」
「痛い!」
加世の投げたボールは佐江にぶつかった。彼女は当たった所を手でおさえた。服従関係にある時任千華江、船崎穂乃華、有吉加世以外にターゲットになるのは山本佐江と美奈子だけだった。沢恵梨香や木村知世に同じことをやってもすぐにやり返されると思っているからだろう。佐伯舞華も特権を握ってるので、舞華までイジメたら特権を握ってる自分の価値まで下げることになってしまう。だから彼女には何もしなかった。しばらくすると美奈子と知世が戻った。
「木村さん、さっきの小物入れあんなふうに使わないで!中身も確認しなかったわけ?人の物勝手に使うとかどういう神経してるわけ?」
美奈子は知世に激怒した。
「ゲームが何より優先よ。そんな大事ならゲームに持ち込むべきじゃないわね。」
「あんたには分からないけど、中に旦那との写真が入ってたのよ。どうしてくれるの!」
「本当は夫婦生活上手くいってないでしょ?略奪婚で得た旦那なんてろくなのがいないわ。裏切られるのも時間の問題よ。」
美奈子は言い返せず、知世から離れた。さらに遠くから声をかけた。
「次同じようなことしたら許さないわ。」
美奈子はしばらく探しものをした。
「ないわ。私の結婚指輪がない!」
とっさに知世を恨む。
「あんたでしょ?」
佐江がとめに入る。
「そんな男から貰った結婚指輪無くなって良かったじゃん。」
「私には彼しかいないのよ。」
「略奪婚でよくそんな惚気話出来るよね。」
知世の嫌味でマリや周りがクスクス笑う。
「おばさん、これが本当に大事なものなの?いつから無いの?」
恵梨香が話を切り出す。
「ゲームが終った後よ。ゲーム開始中、施錠されてて取りに行けなかったのよ。」
「それならもっと良い大人何だから感情的になるのやめたら?さっきのゲームでは木村さんがいたから彼女が盗むのは無理がある。だとすると犯人はさっきのゲームで控え室にいたメンバーよ。」
辺りがざわつく。皆、すぐに犯人探しをした。
「私は美奈子の結婚指輪がどうなろうが、どうでも良いわ。」
舞華はとにかくゲームを終わらせたがってたし、佐江も同じ空気を出した。
「捜査に協力しないなら、犯人確定だけどい良いのかしら?」
皆、冷や汗をかく。
「そんなにしきってるけど、あんたが犯人なんじゃないの?」
穂乃華が恵梨香に指をさす。
「そんなに疑うならこれを見なよ。」
恵梨香は鞄の中身を穂乃華に投げつけた。
「さりげブランド持ってる。どうせ自分で稼ぐ力無いから、パパ活で貰ったものでしょ?似合ってない。全然似合ってない。身の丈って知ってるの?」
マリや他のプレイヤーが恵梨香を罵った。佐江は軽蔑した目で見た。
「そうよ。だから何?高収入な男に貢いで貰ってる専業主婦とパパ活も大して変わりないわ。とにかく皆、持ち物検査よ。」
渋々と持ち物検査をした。
「次のゲームのプレイヤーは決まったか?」
ケイジがモニターから声をかける。
「まだよ。」
「それなら次のゲームは30分後だな。」
ケイジがモニターから消える。その後、全員の持ち物検査をした。
「え?何で?」
「犯人は船崎穂乃華なのね。」
「これは違うの。本当に私はやってないの!」
この状況で誰も穂乃華をフォローしなかった。
「こそこそそんなことやってたのね!入江さんに謝りなよ。」
マリは土下座を促した。言われるように土下座した。
「やっぱりあんただったんだ。」
恵梨香は黙って見ていた。
それから穂乃華は孤立して、全員から無視されたり、マリを通してこき使われた。
その後もゲームが続く。120セット目がはじまろうとした。美奈子が連続でゲームに出た。
「次は私と船崎さんでゲームをプレイするわ。」
恵梨香がゲームマスターに話しかけた。
「ゲーム開始!」
恵梨香は走り出した。
「まずはここに爪を置いて。文字を書けば消えるけど、爪なら消えない。良い目印だわ。ここには蛇がいるのよ。次のゲームでも使える。」
「蛇なんて嫌よ。」
「そうそれより、確実じゃないけど分かることがあるの。」
「何?」
「あんたが犯人じゃないってこと。あんたの表情は嘘つく人間の表情じゃなかったわ。」
恵梨香は話しながら手袋を装着させて、蛇の頭を掴み、一つの部屋に合流させた。またトカゲも虫取り網で捕まえて、一つの部屋に合流させた。残り100部屋になった。クリアしてくごとに捕獲アイテムが増えた。150セット目からプレイヤーが4人体制になった。それくらい危険な動物が残った。
「髪の毛を目印にするわ。」
「レシートを目印にして、裏にはヒヨコと書いてあるわ。」
プレイヤーそれぞれが証拠になるものを残した。ケイジの考えるゲームは危険でありつつも自由度が高い。他のゲームマスターのように集まるプレイヤーによってやり方を決して変えない。
数日後226セット目では熊、虎、ダチョウが残された。どれも命に関わる。誰か一人死ねば全員が死ぬ。
「作戦をたてるよ。これは私達、全員の命がかかってるの。今、現地店である武器は虫取り網、麻酔銃、煙玉、猫じゃらし、5分間接着剤、キャットフード、スタンガン、催涙ガスね。」
知世がしきった。
「流石に動物相手に武器は虐待よ。」
佐江は乗る気では無かった。
「山本さんの言ってることは正論ね。でもその正論ってここの場でも通用すると思う?」
恵梨香が反論し始める。
「例えば、殺人鬼が来ても護身用の武器を使わないのかしら?ここではそんな綺麗ごとなんて通じないの。危険な状況では逃げるか相手を打ちのめすしか方法ない。ゲームマスターもあんたの主義主張に耳を傾けるほど心が広くないの。言うなら今までで1番冷徹な人間ね。」
「恵梨香の言う通りね。よく見たら、少し年齢より老けて見えるけど、ヴィーガンとかやって失敗したタイプでしょ?」
美奈子も佐江に言った。
「皆、罵り合いはゲームの後よ。まずは誰か一人に麻酔銃を持って貰うわ。」
知世が話を戻す。
「それ、私に任せて。アメリカでガン・シューティングしたことあるわ。あなた達とは違って日本では出来ないことを経験したことあるの。」
「それ自慢なの?まあ決まったなら良いけど。」
舞華が麻酔銃を持つことになった。
「あと時任さん、あんたには絶対行ってもらうわ。それともう一人は沢と有吉さんにも行ってもらうわ。足の速さで、各部屋に罠を仕掛けてもらうわ。」
226セット目が始まろうとした。
「ゲームスタートだ!」
ケイジの合図でゲームが始まった。恵梨香と加世は虎のいる部屋に猫じゃらしとキャットフードをぶち込んですぐに扉を閉めた。一方、舞華は熊に麻酔銃を打った。恵梨香と加世は急いでダチョウの部屋に行き、5分間身動きのとれなくなる接着剤で動けなくした。
「時任さん、ダチョウを放ったから皆で上に乗るよ。」
千華江の90kgの体重と他の3人の重さでダチョウは気絶した。
「急いで運ぶよ。」
4人係で運ぶ。2匹のダチョウを一つの部屋に合流させて扉は消えた。
「後は熊と虎よ。先に熊よ。」
気絶した熊を4人係で運ぶ。
「重い。」
4人いても中々持てる重さでは無かった。
「これは時任さんより重いわ。」
「台車があるわ。これで運ぶわよ。」
4人で台車を押す。
「キツい。」
かなりの重さでプレイヤーはまいっていた。何とか熊を部屋に合流させた。
「残すは虎ね。」
虎に麻酔銃を打って、台車で運ぼうとした。
「ゲーム終了!227セット目は20分後だ。」
ゲームが終わると4人はクタクタになっていた。
「次のゲーム、明日にしないとヤバいかも。」
「それは不味いよ。麻酔銃の効果は1日も持たないわ。」
ちなみに今回使用された麻酔銃は会社が作成した最新型のもので、針が刺さったらすぐに効果が出る。さらに効果は半日だ。もちろんこれは社外に持ち込み禁止な為、ゲーム終了後、跡形もなく消える機能もついている。
次は恵梨香、加世、美奈子、穂乃華が参加した。
「ゲーム開始!」
美奈子はスタンガンを気絶した虎に打った。
「ヤバイ、虎が死ぬわ。え?」
虎は消えてしまった。
「ゲーム終了だ。今回戦った動物は全部AIだ。壊れたら消える。虎を合流出来なかったからお前らに後で罰を与える。これで生物神経衰弱を終わる!明日ビデオ視聴があるから欠席しないように。」
過酷なゲームがまた一つ終った。
「もうあのゲームやりたくない。」
「私もよ。」
マリ以外、プレイヤーは疲れ切っていた。
「皆、お疲れ。そんなに疲れてどうかしたの?私には特権あるからそんなことしなくても良いの。」
マリの脅しはまだ終わらなかった。誰もマリに逆らえなくなった。