鍵探し2
「もったいぶらないで読んでよ。」
佐伯舞華が有吉加世に言う。時任千華江は他のプレイヤー達に抑えられた。加世はニヤついた。
「それじゃあ読み上げるわ。「久しぶりです。中学の時、フルートパートだった千華江です。長原先輩私のこと覚えてますでしょうか?昔からあなたのトランペットを吹く姿が格好良くて大好きでした。毎日毎日恋人になれないかって考えてました。そんな願いも叶わず数十年も過ぎました。そもそも言えなかったです。今どんな風に過ごしてますか?私は結婚してますが、旦那とはかなり冷めきってます。帰ったらすぐに私の文句ばかりです。掃除がちゃんと出来てないとか音楽教師は楽なのに家事がまともに出来てないとか。もうこの夫婦生活に疑問を思ってます。もう一度大好きだった先輩のトランペット聞かせてください。」だって。」
「返せ!何勝手に読んでんだよ!」
千華江は激怒した。
「あんなに旦那と上手く言ってるふうに振る舞ってたけど、冷めきった夫婦関係とかウケるんだけど。」
入江美奈子は嘲笑する。
「旦那はあんたみたいなクズとつきあってやってるの?そんなあんたが他の男と付き合えると思う?もっと自分の立場考えなよ。この手紙の文面マジでキモいわ。」
船崎穂乃華も便乗する。
「これを見なさい!私のことデブとか言うけど、若い時はよりスリムだったんだから。」
千華江は喧嘩をせず、見栄をはった。彼女が見せたのは自身の若い時の写真。
「そうやって、強がっちゃって。」
木村知世が立ち上がる。
「今はそんなことどうでも良いでしょ。よく考えたら沢がここにいないのはおかしくない?一人だけここにいなのよ。」
彼女は話を切り替える。
「確かに、私は必死になって恵梨香が時任さんを探していたの見たのにここに来ないのはありえない。この情報は恵梨香から聞いたのよ。時任さんが金の鍵を持ってないということは恵梨香の言ったことは嘘よ。私達が時任さんを探すように仕向けて、一人で金の鍵を手に入れる作戦だったのよ。私達はまんまと彼女の作戦に引っかかったのよ。今から恵梨香を捕まえに行くわよ。」
美奈子が言う。
「沢恵梨香を捕まえてどうするの?金の鍵あるか尋問するつもり?金の鍵を持ったことが確実でもないのに彼女を追うのは非効率だと思うわ。そんなことに時間を費やすくらいなら私は自分で金の鍵を探すわ。」
雪田マリは美奈子の提案を断った。
「私も一人で鍵探すわ。もう一回無駄な時間を過ごすのは嫌よ。」
穂乃華や知世も賛同しなかった。
「ちょっとあんた達、行かないでよ。」
山本佐江が止める。
「良いわ。ほっとけば良いよ。私は単独で恵梨香を探すわ。協力したければ他のプレイヤー達と協力すれば?」
舞華は単独で探すことになった。
「蚊が多いわ。これでもくらいなさい。」
蚊のいる部屋に穂乃香は廊下で拾った虫よけスプレーをかけた。蚊を退治して鍵を入手した。
一方千華江と佐江は美奈子と加世とは分かれて恵梨香を探した。
「キャー!熊よ。」
千華江は熊に驚き、すぐに扉を閉める。
「熊?部屋に鍵はあるの?」
「普通の鍵があるけど取れない。」
「役立たずね。私が行くわ。」
千華江は佐江をおいて逃げた。
「ちょっと、どこに行くのよ!」
佐江は音楽室まで行こうとした。すると熊が追って来る。
「追いかけて来ないで。」
音楽室に入り。ティンパニーで扉を封鎖した。
「ここまで来たら大丈夫。」
彼女は鈴を落としてしまった。すると熊が勢いよく来た。
裏口を開けて彼女は逃げた。
熊のいた部屋には穂乃華が入って、鍵を入手した。ちなみにこの熊はクリスティーナが飼っている熊だ。クリスティーナはどんな動物も手懐けられる。プレイヤーを殺さないようにちゃんとしつけはしてある。一日がまた終わる。
「プレイヤーの皆様、こんにちは。」
ケイジの声が館内中に響く。
「現在20本の鍵を獲得した。残り10本だ。それではゲームを楽しめ。」
舞華は音響スタジオにいた。
「何も反応ないわ。使えないわね。」
スタジオを出ると彼女は熊と遭遇した。
「キャー!熊だ!」
舞華は熊に追いかけられる。
一方知世は蛇を手懐けて鍵を入手した。
「しつこい、来ないで!」
熊は突然大人しくなった。千華江が散らかした蜂蜜を美味しそうに食べた。よく見ると熊の背中が光っていた。金の鍵だ。彼女はそっと金の鍵を取った。彼女は急いでその場を去った。
「やっと金の鍵と出会えたわ。」
「佐伯さん、どうしてそんなに嬉しそうなの?」
美代子が現れると、舞華すぐにカバンに鍵を隠した。
「さっき美味しいハンガリー産の美味しい蜂蜜を頂いたのよ。悪い?」
「そんなものが都合良くあるのかしら?」
「私はラベルをちゃんと見るのよ。日本にいれば添加物が多い食品ばかりよ。旦那も私もオーガニックフードじゃないと無理よ。気にしてないと気が気でないの。」
「それなら私も一緒よ。あなたのように健康志向なの。ヨガだってするし、食事だって気を使うのよ。」
美奈子は舞華のカバンを触る。
「気安く触らないで!」
「何でそんな怒るの?私に何か隠してたりでもしてるの?」
「あんたが信用性に欠けるから悪いのよ。」
「私はただこのカバンがどのような作りなのか確認しただけよ。若い頃は服のデザイナーをしていたのよ。」
「それ作り話でしょ。嘘ついて自分の犯した過ちから逃れるのは違うわ。」
「そうね。嘘なんていくらでもつけるよね。さっき見たんだ。金の鍵をしまう所を。」
舞華は冷や汗をかいた。無理やりカバンを奪おうとした。
「離しなさいよ。」
穂乃華がちょうど来た。
「何してんの!」
「舞華が金の鍵を持ってるのよ。」
穂乃華も金の鍵を奪おうとした。
「離しなさいよ。」
「何としても金の鍵をとるんだから。」
舞華は美奈子を振りはらう。
「待ちなさいよ!逃げるってことは金の鍵を持ってるのね!」
「待て!」
美奈子と穂乃華が舞華を追いかける。
「往生際が悪いわ。」
一方、恵梨香は一人でずっと行動していた。進む方向に他のプレイヤーがいないか常に確認していた。あれだけのリスクをとったから警戒するのも無理もない。
「よし、ここは大丈夫そうね。」
「あら、私の気配に気づかなかったのかしら?沢恵梨香さん。」
何と背後には加世がいた。
「何であんたがここに?」
恵梨香は瞬時に走った。
「隠し扉であんたを待ちかまえてたのよ。あんた良くも私達を騙したわね。」
「何言ってんの?これはゲームなんだよ。あんたが私の持ってる金の鍵を盗んでもとがめられないように、私も人を騙して良いのよ。」
「やっぱり金の鍵を持っていたんだ。」
つい彼女は話してしまった。
「何よこれ!」
廊下にばら撒かれた蜂蜜で足を滑らせた。これは加世が事前に仕組んだものだった。恵梨香は鍵を加世に取られてしまった。立ち上がるのに時間がかかり、加世を見失った。バレなければ、おそらくこのゲームは加世の一人勝ちだろう。
29本すでに獲得済みだ。残りの1本をマリが必死になって探す。
「沢恵梨香見なかったかしら?」
千華江がマリに聞く。
「見てないわ。良い加減さ、恵梨香を追うやめたら?あと鍵1本見つければこのゲーム終わるのよ。どうせ取れる保証もない鍵を取るよりかはもっと有意義に時間を過ごしたほうが良いわ。私は金の鍵の報酬よりかはこのゲームから早く抜け出す方が良いわ。」
マリはかなり諦めモードに入っていた。普通の銀の鍵を見せながらマリは話す。
「野心家のあなたがこんな諦めモードなんてビックリね。そんなに諦めるんだったら私は食べ物をかけて恵梨香を探す。」
千華江はマリのもとを去った。
「沢さん、ここにいたのね。早く鍵を私に渡して。」
佐江は恵梨香に言った。
「鍵はもうない。嘘だと思うなら見せるわ。ほら、これよ。」
恵梨香はカバンの中身を全て見せた。
「あなたこれ、援交してる相手との写真?あなたもう28歳なのよ。こんなことばかりでお金を稼いでいたら本当に人生を棒にするわ。」
恵梨香は見られても抵抗しなかった。佐江は写真を返す。
「私の人生なんてとっくに終わったのよ。」
彼女はどこか闇を感じた。
「そういうおばさんは人生上手く言ってるの?私と同じでとっくのとうに終わってるんじゃないの?ここにいる時点で私のレベルかそれ以下ね。」
「あなたみたいなのと一緒にしないで。」
佐江は恵梨香をにらみ、近くの鍵を拾った。
「30本獲得。これにてゲームを終了する。金の鍵の所有者は明日発表する。くれぐれもプレイヤーから金の鍵を盗まないように。もしそのような行為が発覚すれば、室内を50度の灼熱にする。くれぐれも馬鹿な真似をするな。」
ケイジがアナウンスをした。
「金の鍵の保有者は私よ。」
加世が見せつける。
「そう言えば、恵梨香、金の鍵は持ってなかったのね。どうしたのかしら?」
加世が皆に見せびらかす。
「もう一人の保有者、私なの。狙われまくって大変だったわ。」
舞華も皆に鍵を見せる。
「鍵を持ってる私を攻撃したらどうなってるか分かってるよね?」
皆、ケイジからの罰を恐れて、誰も鍵を奪うようなことは出来なかった。
こうして一日が過ぎた。いよいよ結果発表の日だ。でももう結果は分かりきっている。
「お前ら、おはよう!今日は待ちに待った、金の鍵保有者の発表だ。保有者には必ずグレードの高いエサを与える。」
皆、結果発表の前から知ってるから聞かなくても良い雰囲気だ。
「まず一人目は佐伯舞華だ。」
舞華は喜んだ。
「もう勝ちが決まってるようなものね。」
加世は自身満々だった。
「2人目は…」
ケイジはまた間をおく。それは3分くらい続く。
「ちょっと早く答えなさいよ。」
「そう焦るな。2人目は雪田マリだ。」
マリはニヤついた。
「ゲームマスター、どういうことよ!私、金の鍵を持ってのよ!」
金の鍵を見せつけた。
「見かけは金の鍵だが、ただの普通の鍵だ。」
「そんな馬鹿な!つまらない冗談はやめて。それなら私の持ってる鍵は何なのよ。」
「雪田マリに聞いた方が早いな。」
雪田マリは普通の鍵を持って近づく。
「あんたの持ってる鍵は私が普通の鍵に金色の塗装を加えたもの。私が今私が持ってるのは金色の鍵に銀色の塗装を加えたものよ。」
備品室の塗装用の絵の具を彼女はゲーム中に使っていた。
「もしかしてあの時に私に見せたのって、普通の鍵に見えた金の鍵ってこと?だからあんなにもゲームを早く終わらせたがってたし、抵抗なく私に見せびらかしていたのね。」
千華江はマリとばったり会ったことを思い出す。千華江はマリの諦めモードに対して不可解に思ったものの恵梨香を探すのに必死になってしまった。
「最初に沢恵梨香が拾ったのは私が金に塗装した普通の鍵。もちろん時任さんが鍵を持ってないことなんてお見通しよ。」
恵梨香がマリに近づく。
「それなら何故気がついたの?」
「私はこのゲームには館内を全て把握するのがポイントだと思った。だから館内を映すカメラがある部屋を探し当てて、様子を確認してたのよ。時任さんは調理室でずっとスイーツを食べていた。今まで食べれなかった分食べるし、最初はゲームに乗る気じゃないのは分かってたから時任さんが鍵を持ってないのは分かってた。同時に鍵のありかも把握してた。騒動がはじまる直前から鍵を持っていたのよ。でも恵梨香が時任さんが金の鍵の保有者と騒いだおかけで、私に誰も注目せずに済んだ。あんた達はまんまと私の策略にのったと言うことなの。」
加世はマリの胸ぐらをつかむ。
「私のことがうざいの?これはゲームなのよ。騙し合いが当たり前なの。ここも現実世界と同じで頭も使えないやつは淘汰されるのよ。あんた、不正は上手くごまかすけど、所詮自分より弱い人間にしか力を発揮できないのね。」
加世は何もしなかった。雪田マリは瞬時に空間を把握してたし、かなり頭の回転が早い。沢恵梨香とはまた違う鋭さを感じる。
「説明が終わったな。以上で結果発表を終了する。明日は動画視聴の時間だ。覚悟しろよ。」
「ちょっと待って。いくらなんでも雪田さんのやってることはルール違反よ!」
「ルール?それってお前が設けたものだよな?俺を説得させたのか?さっきのビデオでもそうだけど自分の都合の良いようにルールを押しつけるのが好きなんだな?新人は逆らうなというルールを押しつけたよな?ルールを相手に説得するなら、何故必要なのか伝わるように説得することだな。論理や相手を無視するやつにはルールを作る資格などない。まあクズ相手だから思いやる価値もないけどな。」
加世は何も返せなかった。正しさが全てではない。正義というのは一人一人違うものだ。少なくとも有吉加世がルールを作れる立場の人間ではないのは明らかだ。
ビデオ視聴まで、数人がビクビクしていた。次のターゲットは彼女だ。