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4 マイケル・ラザフォード

 結局、管理人のブランに挨拶をしてから、全員でグラウンドへ向かう四人であった。アルフレッドのみならず、マティスも秀人の姉に会ってみたいと言い出し、それなら、とルイもついてきたのだった。


「シュートがお姉さんと来たとは思わなかったよ。結構年は離れてるってことだよね?」


 グラウンドに向かいながらそう口にしたのはマティスだった。


「そうだね、一回り違うよ。多分理事長と同じくらいかな」

「え!ホント?」


 その話に食いついてきたのはアルフレッドだ。更に、

「やっぱり来てよかったぁ!」

と言い出した。


「やっぱりってなんで?」

とルイが聞くと、アルフレッドは目をキラキラさせて、

「マイクには早く身を固めてもらいたいんだよ」

などと子供らしからぬことを言い出した。


「は?」

「さすがにそれは余計なお世話じゃないの?」

「そういえばアルフレッドはどうして理事長をマイクって呼ぶの?」


 三人がそれぞれに疑問を呈す。秀人の疑問にはマティスが答えた。


「理事長はアルフレイドの後見人で実質家族みたいなものなんだよ」

「アルフレイド?」

「僕の母国語だとそう発音するんだ」


 秀人とマティスがそんな話をしているそばで、ルイがアルフレッドに『二人ともそれぞれに交際相手がいるかもしれないのだから』と諭していたが、それへのアルフレッドの返答は『マイクにはいないの知ってるしシュートのお姉さんに探りを入れたいから行くんだ』というものだった。


 そんな会話をしているうちに彼らはグラウンドと道路を隔てる門に着いた。そばに黒のジャガーXFが停まっており、彼ら四人の姿を認めると運転手が軽くクラクションを鳴らした。アルフレッドが走り出した。


「マイク」

「全く……お前はいつも急だな」


 窓を開けて理事長のマイクが嘆息する。そこへ他の三人もやって来た。後部座席からあやめが降りてくる。


「こんにちは、秀人の姉のあやめです」

「はじめまして。マティスといいます」

「こんにちは!アルフレッドです」

「先ほどお会いしたルイです」


 三人が自己紹介をしたところで、ルイがマイクに声をかけた。


「それじゃ理事長、僕達は寮に戻ります」

「えー、ルイ達は来ないのかい?」


 不服そうな声でアルフレッドが言うのに、

「この車五人乗りでしょ。全員は乗れないよ、どう見ても。僕は秀人のお姉さまにご挨拶したかっただけだからいいよ」

とマティスが答え、ルイも頷いた。


「アルフレッド、お前もこの二人を見習えよ。この聞き分けの良さを」


とマイクが車から降りることなく言ったが、その言葉が耳に入っているのかいないのか、アルフレッドは後部座席のドアを開けてあやめに『どうぞ』と言っていた。あやめが乗り込んだら秀人に乗るよう促し、自身はマイクの隣、助手席に乗り込んだ。


「それじゃあ行ってくるね!ルイ、マティス」

「またね、ルイ、マティス」


 秀人とアルフレッドが車から手を振った。車が行ってしまうとルイとマティスは顔を見合わせ、どちらからともなく『大丈夫かな』『まぁ理事長もお姉さんもいるし』と、心配しながら寮に戻って行ったのだった。


 そしてこちらは秀人達一行である。


「まっすぐホテルに行くの?」


 目をキラキラさせてアルフレッドがマイクに問うた。


「そうだな」

「お茶くらいするんでしょ?」

「ランチの予約を取っているんだ、ホテル内のレストランで」

「え?僕の分は?」

「急すぎてさすがに入ってないな。まぁ一人くらい大丈夫だろ。三人でも四人でもテーブルは一つだろうからな」

と答えながらも、マイクはハンドルそばのタッチパネルに触れてリダイアルで予約済のレストランにかけ、一人追加の旨を告げた。


 後部座席では秀人とあやめが、小声で日本語を使って話していた。


「寮はどうだった?部屋は見てみた?」

「あ…そういえば部屋には案内してもらわなかったよ。談話室でずっとおしゃべりしてた」

「ああ、そうなの、残念。まぁ見たところで何か変わるわけじゃないけれどね」

「でも今一緒にいる彼と同じ部屋だとは聞いたよ」

「そうなんだ」

「それに、さっき案内してくれたルイと、一緒にいたマティスという子が同室だって。あと監督生は学年ごとに一人ずついるんだって」

「……ところで、今一緒にいる子はマイクとすごく親しそうなんだけど、何か知ってる?」


 少しばかり眉をひそめて、幾分訝し気にあやめが尋ねると、若干困り顔で秀人は答えた。


「僕もよくは知らない……ただグラウンドに来るまでの間にマティスからちょっと聞いたんだけど、理事長はアルフレッドの後見人で家族みたいなものって」

「アルフレッド、というのね……」


 あやめは少しばかり考える素振りをみせたが、それには気づかず秀人は続けた。


「そういえば、もしかすると、あやめせんせ、じゃなかったお姉さまが困ることになるかも」

「私が困る?」

「アルフレッドがね、理事長に早く身を固めてもらいたいんだって」

「随分こまっしゃくれた子ね。それに私と何の関係が?」

「多分お姉さまに理事長の相手になって欲しいんじゃない?」

「……まぁ……」


 あやめは呆れたように溜息をついた。


「まぁ子供の言うことだからね…マイクも大変だこと」


 そう言うと、あやめは車窓の外を眺めながら黙ってしまったので、秀人から彼女の表情は窺えなかった。一方マイクとアルフレッドはというと、二人の会話はいつの間にか終わっており、マイクが運転に専念するそばでアルフレッドは時々後ろを振り返り、秀人やあやめの様子をチラチラと見ていたのだった。

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