1話
2XXX年9月10日AM2:30
「ふあ~、やっと終わった。」
苦手な教科の夏季課題を終わらせ欠伸をする。
彼女は藤崎莉愛。とある地方の高専に通う学生であった。今終わった課題以外早めに終わらせたのに苦手であったこの課題はずるずると先延ばしにしてしまった。
先日、母親に怒られてちょこちょこ進めていたが、先ほど最後の難問を解いてようやく終わらせることができた。
「…やばい、早く寝ないと怒られる。」
いそいそと課題をカバンに仕舞い布団にもぐる。明日は特に何もないのでもう少し起きていたかったが、これ以上遅くまで起きていると母親の小言が飛んでくる。
(明日は貯めてたアニメや漫画、小説を思う存分見るぞー!)
彼女は典型的なオタクであった。好きな作品のグッズならゲーセンでかなりの額をつぎ込むくらいに。特にラノベなら、異世界モノが大好きである。
(フフフ…すやぁ…)
だが彼女は知らない。起きたらとんでもないことになっていることを...
2XXX年9月10日PM13:00
グラグラ…
(ぐー)
グラグラ…
(ぐー)
…確かに地震はあまり大きな揺れではない。だがしかし、5分くらい揺れているのにこんなにも起きないとは。
彼女は幼いころから図太い性格だった。幼稚園児のころ、ほかの子が雷で怖がっているときに、彼女は雷ではしゃいでいたほどだった。…結局彼女が起きたのは地震が発生してからずいぶん経っていたころだった。
「うーん…よく寝たぁ。」
彼女はぐっと伸びをする。いやいや、寝すぎである。彼女が寝てから12時間以上がたっている。
「…あれ!?もうこんな時間!!なんで起こして…あっそうか、みんな出かけてるんだった。」
彼女は母、父、弟、の4人で暮らしていた。今日は、3人ともそれぞれ用事があって家を空けていた。もし誰かがいたら彼女をたたき起こしていただろう。
「…とりあえずお茶飲も。」
彼女は部屋から出て台所に行き麦茶を飲む。寝過ぎて水分が不足していた体に染み渡る。
「あーおいしい!…あれ?庭に穴が開いてる。」
台所の窓から見ると庭に昨日までにはなかった大きな穴があった。
「んもーなんなの?」
彼女は着替えると庭に出た。近くで見ると窓から見た時より大きかった。150センチほどの穴が開いていた。
「誰がこんな穴を…あっ!!」
彼女はおっちょこちょいでもあった。庭にあった石に躓き、彼女はこけて穴の中にダイブした。
・・・・・・
「あいたたた…」
躓いて穴にダイブした私。幸い、緩やかな傾斜になっていたようなので昔話のおむすびころりんのおむすびみたいにコロコロ転がっただけで怪我はしなかった。…土まみれにはなったが。
「けほっ、けほっ。あー、口の中にも土が。最悪だー!何なの?この穴。」
私はあたりを見渡す。なぜか分からないが、穴の中は暗くなく、それどころか外と同じくらいに明るかった。しかもただの穴だと思っていたのに中は少し広く、ゲームで見るような遺跡のような様相をしていた。
「こんな住宅が立ち並ぶ場所の地下に遺跡?なんで!?ありえないでしょ!?」
住宅街といっても私の家は少しだけ高い高台の上にある。だからといって、家の下は上下水道などのライフラインもあるはずだ。少なくともこんな立派な遺跡があるはずがない。
「本当に何でなんだろ。あ、向こうに何かある。」
私が見た場所にはバレーボールくらいのものが浮かんでいた。それは水晶玉のような形をしていて、深紅の光を放っていた。
「へー、なんで浮いてるか分からないけど奇麗だなー。」
それに近づく私。そんな私はまたしてもやらかした。
「近くで見ると本当にきれっっ!ひゃあっ!」
お分かりになったと思うが私はこけた。先ほど転んだばかりなのに全く注意していなかったのだ。
私の手が浮かんでいた物体に当たる。怪我をするかと思いきや、物体は手に当たると斜め下の床に勢いよく落ち、硬質な音を立てながらあっさりと砕け散った。
「あわわ!壊れちゃった!」
めちゃくちゃ私は焦った。だって、誰かの所有物かもしれない、とても高価そうなものを割ったのだ。ウン百万…下手したらそれ以上の弁償代を払えと言われるかもしれないと。
その時、脳内に声が響く。
『特殊ダンジョンのコア破壊を確認。討伐者に経験値が付与されます。条件を満たしたので職業の選択が可能です。特定の条件を満たしました。選択可能職業に“ダンジョンマスター”が追加されます。種族レベルが一定以上に達しました。進化可能です。これより、ダンジョンの各権限が討伐者に譲渡されます。また、初のダンジョン攻略、ソロによる討伐等を確認、称号が付与されます。』
「はぇ!?」
突然脳内に無機質な声が響き驚いて私は変な声を出してしまった。
「え!?何この声!?ここってダンジョンだったの?確かに家の下にこんな空間あるなんて変だとおもったけど…なんでダンジョンがあるの??」
ゲームやラノベによく出てくるダンジョン。それが存在していることに私は混乱した。確かにダンジョンは基本的に別空間につながっているという設定が多く、このダンジョンも私がいた世界と別空間につながっているなら納得できる。でも何で突然庭に現れたのだろう?
・・・・・・
しばらく混乱していたけど、そうしていても何も変わらないので現状把握するために、とりあえず落ち着くことにした。
「さっき聞こえた声は職業が選択できるって言ってたよね…」
あの声が言っていたことの中で職業や種族のことが気になった。称号とかも言っていたけれどやはり職業の選択ができたり、ダンジョンマスターが加えられたこと、種族進化がRPGゲームが好きな私の心を刺激する。
「どうやって確認しよう・・・」
問題はこれだ。あの声はどうすればいいのか言っていなかった。
(テンプレだと“ステータスオープン”とか、“ステータス”って唱えたり念じればボードっぽいのが出たよね…)
私はそう考えると実際にやってみることにした。
「ステータス!」
そう唱えるとヴォンッと半透明のボードが出た。
「おお~、出た!」
何これ、めっちゃテンション上がる!私はテンションを上げたままボードを見る。するとこのようになっていた。
_____________________
名前:藤崎莉愛 年齢:19歳
種族:人間(Lv.30)※進化可能
職業: ※選択可能
称号:先駆者 孤高の者 踏破者
スキル:※一覧から取得可能
_____________________
…種族レベルが30になってる。あのクリスタルっぽいのそんなに経験値が高かったのか。一定のレベルに達したといってたけどどのあたりで進化可能になったんだろ…。とにかく一つ一つ見てみるか。まずは上から見るから…種族だ!あっ、下の▽マークを押すと詳しく見れるみたい。というわけで…ぽちっと!
_____________________
人間:特に秀でた面はないが、不得意な分野もない器用貧乏な種族。
進化可能先:エルフ、ドワーフ、鬼人、獣人、竜人、龍人、人魚、ハイ・ヒューマン、魔人
―――――――――――――――――――――
ほほう、なんという説明文。言われてみればそうなんだろうけど…なんかその人間である身としてはちょっと悲しくなったよ。じゃあ、進化可能先にある他の種族は?
―――――――――――――――――――――
エルフ:魔力制御に優れた種族。風、植物の魔法適正を持つものが多い。体格は人間と変わらないが耳の先が尖る。見目麗しいものが多い。
ドワーフ:手先が器用で加工が得意な種族。火と土の魔法適正を持つものが多い。体格は人間の9歳の子供くらいになるが、見た目は変化しない。
鬼人:身体能力に優れた種族。無属性の魔法に適性を持つものが多い。体格は、人間よりやや大きくなり、額に角が生える。角は魔力量によって色の濃度が変わり、属性によって色が変わる。
獣人:身体能力に優れた種族。魔法に適性を持つものは多くないが、獣化を使うことができる。体にその動物の特徴が現れる。その動物の特性を持つ。
竜人:膨大な魔力を持つ種族。種族固有の魔法と竜化が使える。頭に角が生え、皮膚の一部にうろこが生える。
龍人:膨大な魔力を持つ種族。種族固有の魔法と龍化が使える。頭に角が生え、皮膚の一部にうろこが生える。
人魚:水中での活動に優れた種族。水の魔法適正を持つものが多い。耳がひれのようになり、水中での呼吸が可能になる。
ハイ・ヒューマン:ほかの種族より秀でた面はないが、可能性を最も秘めた種族。人間と見た目は変わらない。
※どの種族も髪の色が適正属性とその度合いによって変わり、魔力量によって瞳の色が変化する。
_____________________
おー、どの種族も魅力的。どれにしよっかな…。よし、決めた!ハイ・ヒューマンにしよう!
だって、秀でた面がなくても可能性を秘めているなら…がんばったら、すごく強くなるかもしれないし!
そうと決まったら…
私はハイ・ヒューマンの項目を押した。すると、『進化しますか?』という文字が出た。私は迷わずに『はい』を押した。すると私の視界は突如暗転した。
・・・・・・
「うーーん…」
私はあの後しばらくして目が覚めた。…穴に落ちたのが確か2時半過ぎだったはず。
そっとスマホを見ると15:15と表示されていた。穴に入ってから気を失うまでが10分くらいだとすると、大体30分くらい意識がなかったのか。
「…あれ?髪が…」
私が髪に触れると髪が白くなっていた。
「白ってことは適正属性は何だろう?…というか髪がさらつやストレートに!?」
色よりそっちが気になった。進化すると前まで結構癖のある髪だったのにさらつやのストレートになるなんて。世の女性が知ったら目の色変えて進化しようと躍起になるだろうってほどに髪が美しくなっていた。
「そうだ、目はどうなったんだろ?」
スマホのカメラ機能で目を見てみた。瞳の色はアメジスト色だった。…めっちゃ奇麗!というか前より可愛くなってるー!
「待てよ?ハイ・ヒューマンでこれならエルフだと…」
ハイ・ヒューマンでこれほど可愛くなったのだ。“見目麗しいものが多い”とわざわざ書かれていたエルフだとどうなるか想像もつかない。
「落ち着け、それよりもとりあえずステータスに変化がないか確認を…」
私はまたステータスを開いた。
_________________
名前:藤崎莉愛 年齢:19歳
種族:ハイ・ヒューマン(Lv1)
職業: ※第2次まで選択可能
称号:先駆者 孤高の者 踏破者
スキル:成長促進※他は一覧から取得可能
_________________
うん・・・種族の欄が変わってる。ちゃんと進化したみたいだ。よし、職業決める前に…称号ってどんなものか気になるし、確認しておこう。ぽちっと!
_________________
先駆者:世界で初めて討伐を行ったものに与えられる。効果は全属性適正付与。成長促進スキル付与。
孤高の者:世界で初めて単独で魔物を討伐したものに与えられる。効果は単独での戦闘時に全能力1.5倍。
踏破者:ダンジョンを踏破したものに与えられる。効果は、ダンジョン内での経験値1.5倍。
_________________
ほうほう。称号もそれぞれ効果があるのか。うーん、三つとも付随する効果はあるけどそれがどの称照合にも当てはまるのだろうか?これは後々手に入ったらその都度確かめないとね。それにしても…先駆者はチート効果だねー。全属性適正付与とかすごすぎる…。ん?ということは…私は全部の属性に適性があるってこと!?じゃあ、髪が白いのは全属性適正だから?
まあ、後で考えるか。よし、次は職業を決めるぞー!私はステータスの職業の項目を見る。
_________________
職業: ※選択可能
選択可能職業:戦士、魔法使い、回復師、武闘家、盗賊、魔物使い、道化師、薬師、加工師、ダンジョンマスター
戦士:武器を使い前線に出て戦う。耐久力が高く、仲間の盾になる事もある。初期職。
魔法使い:攻撃魔法を使い後方にて戦う。初期攻撃魔法はすべて使うことが出来る。初期職。
回復師:回復魔法で傷を癒す。初期補助魔法はすべて使うことが出来る。初期職。
武闘家:体術などで戦う。素早さが高い。初期職。
盗賊:罠の設置、解除が得意。探知に優れている。初期職。
魔物使い:魔物を従え、ともに戦う。魔物に対して魅力値が高くなる。初期職。
道化師:歌や踊りで味方を援護する.幸運値が高くなる。初期職。
薬師:薬草などを用いて薬を作る。器用さが上がる。初期職。
加工師:素材を用いて薬品以外を作る。器用さが上がる。初期職。
ダンジョンマスター:ダンジョンを一人で踏破した者のみ選択可能になる。譲渡された権限以外のこともできるようになる。特殊職。
_________________
よし、二次職まで決められるならダンジョンマスターは確定で!あと一つは…魔物使いにしよう。他の戦闘職に比べて最初は仲間を集めないといけないから苦戦するだろうけど…称号のこともあるし、後のこと考えたらこれがいい気がする。もしかしたらモフモフと仲良くなれるかも!
そう決めると私はダンジョンマスターを第1魔物使いを第2に選んで、ぽちっと押した。すると数秒体が淡く光った。さて、ちゃんとなったかな?
_________________
名前:藤崎莉愛 年齢:19歳
種族:ハイ・ヒューマン(Lv1)
職業:第1ダンジョンマスター 第2魔物使い
称号:先駆者 孤高の者 踏破者
スキル:成長促進※他は一覧から取得可能
_________________
うん、ちゃんとなってる。よし、次はスキルを決めよう!
そうと決めたら早速スキルの項目を見た。
_________________
スキル:成長促進※他は一覧より選択可能
成長促進:付与される経験値が2倍になる。スキルの習熟速度が2倍になる。
取得可能スキル一覧
身体強化、テイム、鑑定、無限収納、調理、裁縫、掃除、加工、火魔法、水魔法、土魔法、風魔法、光魔法、闇魔法etc...残りSP30
__________________________________
習得するにはSP1でも取れるみたいだけど…鑑定で見たらレベルを上げるにはそれなりに消費するみたい。これは慎重に選ばないと。
これとこれはいるかな?うーん、これも捨てがたいなぁ…
と、悩みに悩んだ末、私はこんな感じに選んだ。
_________________
名前:藤崎莉愛 年齢:19歳
種族:ハイ・ヒューマン(Lv1)
職業:第1ダンジョンマスター 第2魔物使い
称号:先駆者 孤高の者 踏破者
スキル:成長促進、テイム、鑑定、無限収納、調理、火魔法、水魔法、土魔法、風魔法※残りSP22
_________________
テイムはもちろん魔物使いだから。鑑定や無限収納は、ラノベで見たみたいにきっと便利で使い勝手がいいと思うから。調理は…外食でなくても自炊でおいしいものを食べたいから。きっとプロ並みになるはず。火、水、土、風の魔法は魔法に興味あったんだもん!…光や闇はよく分らないから、とりあえず保留で。
…なんてかなりはしゃいでたけどこれよく考えたらおかしくない?もしかして…テレビでよくあるドッキリ系とか!?やだー!真剣に考えてたの見られてたってことでしょ!?恥ずかしいよー‼
でも、それなら今頃にはスタッフの人とか来るだろうしさっき職業を選んだ時の光に説明がつかない。あれー?考えすぎかなぁ…。
まあ、時間も時間だし、とりあえず戻るか。もう16:00だし、お母さんか悠斗が帰ってきてるかも。…庭に穴が開いてるし私が空けたって怒られるだろうな。
そう思いながら私は地上に戻る。だが、私の予想に反し2人はいや、お父さんもその日はずっと待っていたが3人とも帰ってこなかった。
私は知らなかった。私が寝ている間に世界中に魔物が現れ、世界が大変なことになっていたことを。…いつもの何気ない日常がもう訪れないことを。
高専の多くは前期後期の二学期制です。夏休みはお盆の時期から9月末までの1か月半以上で割と長めです。だから主人公もこの日は平日ですが夏休みなので昼過ぎまで寝てました。