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An Isosceles  作者: ニコ
6/8

五話

「もうちょっとすれば三月三日ですね、雛祭りですねー」

「お、そう言えばそうやな。実はウチら幼馴染でしてね、昔も色々やってたんですわ」

「懐かしいなー。確かお前、雛人形を隠してそのまま失くしちゃったんだよな」

「今更穿り返すなや、いやお恥ずかしい」

「そしてそれを俺が泥だらけになって見つけ、大事にしてたお雛様を失くして泣いていたお前と大団円。そしてそれ以降、お前はずっと俺に片想いなワケだ」

「ないよそんな事実!? ちゅうか一言目から丸々嘘ついとるやん!!」

「照れんなよ、まぁそれ以降願掛けとしてずっと髪を伸ばしてるとか恥ずかしいエピソードもあるんだろ?」

「いや、私見ての通りショートやし!!」

「まったく、お前が中学卒業と共に告白すると知っている俺は今まで誰とも付き合ってないんだぜ? 感謝しろよ?」

「それ思いっきり自分が原因やで、モテへんだけやろ!! 知っとるもん、『日向君ってデリカシーないよねー』って言われてんの!!」

「はぁ? 実は裏では俺はモテモテなんだぜ? まったく、俺も偶然見た七夕でのお前の短冊にあんな事さえ書かれていなければ、今頃幼馴染の佐藤さんとラブラブだったのによ」

「ウチ知らんよ佐藤さん! アンタの幼馴染は私だけやろ!! っていうか何であんたの妄想の中のウチそんなロマンチックなん!?」



 ちょっと夫婦漫才なノリでやってみました。しかも普通の夫婦漫才では成り立たない幼馴染漫才!! ヤッベこれ流行るって!!

 ……というのは置いといて、俺達の目の前にある襖の中の住人は無反応である。

 どうしてこういう事になっているのかと言うと、俺達の血の滲む努力と羞恥心の放棄の末、ようやくタマちゃんの家を見つけ出した……のだが、予想通り障害があったからだ。



 なんとタマちゃんは、部屋に引き篭もっているらしい。



 理由が何であるのか家族にも分からないらしい。そうなると俺達もお手上げだ。ただ友達として話をさせて欲しいと両親に言うと、意外とアッサリ通してくれた。

 それにしてもタマちゃんの家凄いね、日本屋敷だよ、お庭付きだよ。きっと忍者がいるに違いない、お庭番お庭番。

 話がそれた。で、今に至る。どうせまた向こうで無視しているのだろう、本でも読みながら。あぁもう、しょうがない奴だなぁタマちゃんは。

「よしルリ、こうなったら正面突破だ!!」

「えぇー……それ、意味ないんちゃうん?」

 まぁ、最終的には双方納得の末に出てもらわなければならないのだが。引き篭もるって事は不満があるんだろうし、それを解消してあげることが恩返しになるし。

 でもまぁ今はいいじゃん力ずくで、顔見て話せばきっとタマちゃんも分かってくれるかもしれないよ、多分。

 と言うわけで……襖を掴んだ。

「レッツ、オープン!!」

「早速やんなや! 人の話きけい!」

 ルリの言葉に従うつもりは毛頭ない。襖なので引っ張れば簡単に開くのだから鍵の心配なぞいらないし。

 と、思ったが開かなかった。

「あ、開かない……なんで!? 神の奇跡か悪魔の業か!? この家って呪術でもできんのか?!」

「つっかえ棒やろ、多分」

 なるほど、棒を挟んで開かないようにしてるんですね。まぁ、引き篭もりするんだからそれぐらいはやるのか。

 しかしそうなれば逆の襖を開ければ良いだけ。こっち側にあるのでつっかえ棒は不可能、つまり俺の大勝利だ。

 と言うわけで改めて開ける。

「開いた!! けどなにこれ!?」

「タンスやろ、多分」

 襖を開けると、そこはタンスでした。

 いや、配置が元々そこなのか根性で動かしたのかは知らないが、目の前にはドデンと背中を向けたタンスが鎮座している。つっかえ棒どころじゃなくてつっかえ箱だこれ。仕方ないので閉めた。

 さて、どうしたものか。蹴り倒してもいいが、中に居るタマちゃんが心配だ。もしタンスの前に居たら潰れてしまうかもしれない。



「……来ないで下さい」



 と、俺達が折角考えている所にタマちゃんの方から声をかけてきた。

「来ないで言われると、強行突破したくなるのが人間ってもんよ、タマちゃん」

「……来ないで下さい」

 完全拒否。ひでぇよ。声も思いっきり冷てぇや。俺とお前の仲はそんなもんだったのか、タマちゃん。

 入れ替わるように、ルリが前に出た。向こうから見えていないので位置は関係ないが、気分的なもんだろう。 

「なぁ……タマちゃん、何でこんな事になってるかだけでも教えてくれへん? ウチらもしかしてタマちゃんに悪い事してもうた?」

 しばらくの沈黙。タマちゃんの顔は当然見えないので、どんな表情かさえも分からない。あぁもう、だから出てきて欲しいってのに。

「……分かるもんか」

 ぽつり、と。

「貴方達みたいな生き方をしてる人に……分かるもんか!!」

 そして激しく。

 まったく言い分は分からないが、どうやら何か根が深い問題があるようだ。そこに踏み込むほど、俺もルリもまだそれほど親しくは無いけど――なんか、放ってはおけないですよねえ。

「分かんねぇよ。だって聞いてねーもん。ほれほれ話せ、何を隠そう俺様は悩み解決の達人だぜ? この前だってルリのなぁ……」

「人前で言うな、ボケ!!」

 頭叩かれた、痛い。

 このやりとりに襖の向こうはまた無言。今の痛そうな音を聞いたからだろうか? 恐ろしくなったからだろうか? まあ怖いんですけど。

「……じゃあ」

 あ、そんな事ないみたいです。タマさん何だか浮き沈み激しいです、今日。

「じゃあ、日向君は教えてくれるの……? 先輩か、お父さんか、どっちが正しいのか教えてくれるの?」

 何を言ってるのかよく分からない、でもヒントは掴めた。何だか、タマちゃんは上玉さんに言われた事と父親に言われた事で悩んでいるらしい。

「わかんね、だって内容聞いてないし。俺は未来の猫耳ロボットじゃないんだから、頼めばなんでもってワケにはいかねーですよ。だからもうちょい詳しく教えて?」


「先輩が、違う高校に行けっていうの!! 先輩と同じところに行きたいのに! お父さんも賛成してくれてるのに! 私には合ってないって言うんだもん!!」


 ヒントからそれほど間も立たず事実発覚。名探偵宗太郎様の活躍は次回までお待ちください、だ。

 そして確かに、俺から見ればどうでもいいことで悩んでいるようだ。誰かがやるなって言ったんだってさ、ナニソレ? むしろ行けってことじゃね?

 うーむ…………。

「なぁ、タマちゃん」

「な、なんですか?」

「お前さ、人に否定された事あんまりねーだろ?」

 タマちゃんの反論が来ない、という事は多分当たってるんだな。

 しかし俺も、いつの間にかタマちゃんを「お前」呼ばわりである、まぁいいけど。こっちの方がルリを相手にしているようでやりやすい。

「俺はよく色々言われんぜ。だって馬鹿だもん!! 授業態度が悪いとか言って通知表で5取った事ねーし、そんで親にボコられるし? 図書館行けば迷惑そうな、ゴキブリを見るような目で見られるし? ぶっちゃけ褒められることのが少ねーくらいだよ」

 たたみ掛けるぐらいの気持ちで、言葉を吐き続ける。そして一歩下がり、突撃の用意。

 こんな薄い壁、ぶち破ってやる。これが俺とタマちゃんの間の壁だってんなら、ふっ飛ばしてやる。

 それが俺だ、日向宗太郎だ。図書館でいじけてる過去は、タウンページで片っ端から電話かけてる最中にカタギっぽくない人に当たった辺りからもう捨てたんだ。

「待ってろタマちゃん、今から俺がそっちに行って現実って物を教えてやる。―――突げぶへぇ!?」

「ちょ、おま宗太郎のアホォ!!」

 面白おかしく顔から突っ込んでみようかと思ったら、貫けませんでした。鼻を強打して、あの日司書さんに投げられた思い出が走馬灯のように。

 いや、硬いんだねこれ。某番組の影響受けて結構簡単に壊れると思ってしまっていた。

「く……そこまでして俺に会いたくないのかタマちゃん!!」

「ふえぇ!? それ私のせいじゃないんじゃ!?」

 お、何だかいつものタマちゃんに戻りかけとる。

「だが俺は諦めない! 愛と正義のジャスティスキッくあおう!? ちょ、まってルリこれ折れてない!? 足首から先の感覚が無いんだけど!?」

 キックをしたら足が変な形をした。

「大丈夫やって、その足で跳ね回ってるから! ていうかタマちゃん、いくらなんでもひどいで、ここまでやるのは」

「だ、だから、私がやってるわけじゃないですってば!!」

「ぐう、しかしここで諦めてはシャテキングの名が廃る!! 食らえ、友愛と慈悲のアルティメットパ――」

 だが俺の必殺技は出ずに倒れてしまう、足が……動かん。

「射的って漫才の時の設定じゃ――って、宗太郎が動けへん!! 宗太郎死んどる?! 宗太郎、宗太郎!?」

「え? えぇ!? へえぇ!?」

 その瞬間、バッターンとタンスが無い方の襖が倒れた。その中からタマちゃんが必死の顔で飛び出してくる。そうだ、襖外せば入れたじゃないか。日本家屋って本当に閉鎖感がないな。

 ともあれ、タマちゃんを引きずり出す事に成功。ふっ、あの程度の嘘に騙されるとはタマちゃんもまだまだだな。

「ぎゃー! ひ、日向君が倒れてるー!」

「タマちゃんを誘き出せた代償は右足かー……」

 ……ごめんなさい、救急車呼んで欲しいです。

 とはいえ、実は痺れてるぐらいだ。なんか後から腫れてきそうな気もするが、それもまた風流ってことで。

「ふふふふ……よくぞここまで辿り着いたな、勇者よ……」

「そんな初めから満身創痍な魔王とは戦いたくないです!!」

 演出の為にゆっくりと立ち上がりながら(というかゆっくりとしか立ち上がれない)台詞吐いてみるが、見事なツッコミが来た。ていうかタマちゃん、こういうおふざけも通じるのねん。

 という訳で、タマちゃんは引っ張り出せた。

「よし行くぞ、タマちゃん」

「え、行くって……ひゃあ!?」

 ゆっくりと立ち上がる……過程でしゃがんで爪先立ち歩き、そして片手でタマちゃんの膝をかっくんして、立ち上がりながら受け止め、持ち上げる。これで強制的お姫様抱っこの完成。暇な人は、やたらと体重軽くて足回り警戒しなさそうな人を見つけて試してみてね。

「行くぞルリ、タマちゃんを誘拐する!!」

「オッケー分かった! タマちゃんを誘拐や!!」

「へ、へ、え、うえぇ!?」

 へっへっへタマちゃん、人語を話さないと明太子ちゃんに逆戻りだぜ。

 タマちゃんを抱き上げた瞬間支える右足が痛む、でも弱音なんて吐かない、自業自得だし、ここでめげちゃ台無しだし。僕男の子だし。

「走んぞタマちゃん!! スカート押さえなきゃ妖怪丸出し女になっても知らん!!」

「ひああぁぁ!?」

 俺が廊下を疾走しだすと共に、タマちゃんは必死にスカートを押さえた。両手で、まるで股の間から手を通そうとしているように。ちなみに俺は何故かルリに叩かれた。痛い。

 騒がしい音に反応してきたご家族さんが驚いて固まってる隙にすり抜け、一路玄関へ。


「お宅の娘は預かった! 返して欲しくば今日の六時まで待ってくださいお願いします!!」

「という訳で、お邪魔しましたー!!」


 玄関を飛び出し、外へ。タマちゃんは真っ赤になって俺の腕の中で身を縮めており、ルリは俺の隣で笑っている。ヤッベェ楽しい。タマちゃんのためとかそういうのじゃなくて、純粋に楽しい。

「ひ、ひひっひひ……」

「あん? ラマーズ法? ふー言え、ふー」

「日向君!! 何でこんな事になってるんですか!?」

 玄関を出て、ルリに開けてもらって前門をくぐり、道路へと飛び出しす。

 別にこんな事をする予定はなかった。でも今、唐突にやりたくなった。一応意図はあるけど、なんかもうどうでもいいや。暴走したらルリが止めてくれる、聞く気ねーけど。

「下ろして!! 下ろしてください!! 嫌ですこれ!!」

「なら叫べ、嫌な事あるんだろ? 叫べば解消、だって実戦済みだもん!!」

 とりあえず、訳の分からない状況に追い込んで無理矢理テンションを上げさせる。それが目的ではある。

「自分がやりたい方を選ぶ、それが夢ってもんだろう!! 目標ってやつだろ!! 前は否定してすみません、でもそれがお前の夢ならもう俺に文句を言う気はねぇよ。叫べコノヤロー!!」

「宗太郎、このままやと国道とかまで走ってくで? 恥ずかし無いうちに言っときなタマちゃん」

 俺に上から、ルリに横から覗き込まれて、さらに身を縮めるタマちゃん。しかしそれは一瞬で、次の瞬間には俺の顔を無視して空を睨み、大きく、とても大きく、声を張り上げた。




「バッカヤロオオオォォォ!!」




 それが、この状況を作り出した俺達へか、進む道を示し続けた親へか、自分を迷わせた先輩へか、それは分からない。しかし今、タマちゃん思い切り何かを叫んだ、吐き出した。

 これで全部解決したとは思わない。でも、俺達に全部解決することなんて出来ないだろう。だから、ここからは俺達の勝手で俺達のやりたいことをやらせてもらう。

「そうだタマちゃん言ってやれ。上玉さんの年増ー!!」

「ええでタマちゃん言ったれ、お父さんのはげー!!」

「おいちょっと待てルリ、タマちゃんは先輩に文句を言ったんだろ?」

「何を仰る兎さんやで? どう考えてもあれはオヤジさんへの反発やろ」

 俺たちは確認するようにタマちゃんを見た。

「え……えっと……?」

 いつも通り、やればいい。タマちゃん、思う存分戸惑え。ルリ、思う存分ネタ振れ。世界はそれで動いてる。

「バーカ宗太郎のバーカ!! おぉ分かった、タマちゃんは宗太郎に文句言いたかったんやそうやろ?」

「えぇっと……あれはちょっと、先輩が言った事が、ちょっと、えっと……」

「ヒャッハァ見ろ俺の正解ィ!! 残念だったなルリ、タマちゃんは俺のものだ!」

「おろ、そういう勝負やっけ? ……まぁいいわ、お元気でなタマちゃん」

「良くないです! 私、別にそんな約束してません!!」

「えぇっと、タマちゃん飼うのに許可証要るんだっけ? やっべうっかりしてた」

「あー、残念ながら宗太郎、タマちゃんは国際保護条約があるから密輸入せな」

「何で私、さっきから動物扱いなんですか!?」

 ネタが弱いというか適当というか別段面白いものではなかったが、タマちゃんにツッコませたかったのでこんなもんだろう。アドリブで他人を巻き込むには、まぁ分かりやすさ第一だ。

 もうタマちゃんは笑っていた。俺もルリも笑っていた。人間、テンションが上がれば自然と笑ってしまうものだ……今回はいささか邪道な手段をとらせてもらったが、芸人は語りだけで観客のテンションを左右するべきだろう。そう考えると、やっぱり自分たちはまだまだ未熟だな。

「よっしゃ!! このまま国道まで走るぞ!!」

「へぇあ!? ちょ、ちょっと待って日向君、私そんな、うあぁーお家に返してー!!」

 多分タマちゃんは、これからやりたい事を見つけていくだろう。躓いたりするだろう。

 けど、その時はまた助けてやりたいと思う。俺達が、タマちゃんをきっかけに変われたように。

 とりあえず、メアド交換しとこう。



 やっぱ漫才最っ高!!

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