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An Isosceles  作者: ニコ
5/8

四話

「はいどうもー、今日も今日とてやらせて貰いますでー」

「いやー、毎回毎回やってて俺たちも有名になってきたのかなーって思いますよね」

「そんなわけあるかい、観客ホンマのちょっとやないかい。頭大丈夫かいなアンタ」

「いやこれホント、お店とか行ってもポスター貼ってるんだよ」

「嘘やー、そんなんあらへんよー。見間違いちゃうん?」

「いや絶対あれ俺の顔だって、この顔見たら110番って書いてるけど」

「それ指名手配犯やん!! 何やったんよ!?」

「いやさすが俺、夏祭りで射的総なめにしたかいがありますねー」

「関係ないことで有名になっとるし! ちゅうかなんでそれで通報されんのあんた!?」

「ふ、嬢ちゃん……俺のライフルは景品以外も落とすぜ?……例えば、君のハートとか」

「あんた時々キャラなんやねん!?」


 ……。

 いつも通りの図書館の隅、いつも通りの漫才風景。唯一違う所と言えば、数少ないながらも毎日居た観客が、今は居ないだけだ。

 つまり、タマちゃんがいない。しかも一週間近く。

「……ごっつう虚しいやん」

「言うなよルリ……何時でもハイな俺だって気分萎えてきてんだよ」

 あの情熱に燃えた日から俺達はとりあえず手の届く範囲で改良を重ねてきた。観客を意識した喋り、身振り手振りの活用など、自分達本人の感覚では大分良くなっていると思う。

 だがしかし……やっぱりタマちゃんがいないと寂しいです僕達。

「ウチら、嫌われたんかなー」

「ないない、それならもうちょい早く逃げてるだろ、タマちゃん」

 上玉さんが居ないのは、レポートが忙しいからって理由で分かるのだがなぁ。まあ、もしタマちゃんがもうここに来ないのならあの人がここに来る理由もなくなるし。

 んー怪我でもしたのかなあ、もっと軽い理由なのかなあ、勉強がはかどる別の環境があったのかなあ……なんにしても一声ぐらいかけて欲しいぜ。メアドも番号もお互い教えてない仲けど。

「なんかウチら、タマちゃんもおらへんのに図書館に来るって馬鹿みたいやなー」

 ルリが、椅子へと倒れこむ。落ち込みモードの机張り付きに変形して、グデーっとしている。

「実際馬鹿だけどなー」

 俺も、反対側の椅子へと座る。背もたれに両腕を預けてふんぞり返る悪党のポーズ。ちょっと格好良いと思う。

「馬鹿は宗太郎だけやろ」

「お前も馬鹿だニャロゥ、そういや期末テストどうだったー?」

「ぼちぼちやなあ、宗太郎はー?」

「もっとぼちぼちー」

「もっとってなんやねん、タマちゃんはどうなんやろなー」

「とりあえず頭良いんじゃね?俺らより」

 世間話をしてみても、すぐさま止まる。どうしよう、何だかテンション上がらない。

 前まではルリと二人で馬鹿やってりゃ良かったんだが、今はタマちゃんを笑わせると言う崇高な使命があるのでヒーローである俺は挫折しかけていた。

 うーん何だか今は無性にタマちゃんに会いたいよう、よく分からないけど。とにかく会ってなんか話したいよう。

「あーもうチクショー……こんな事ならメアド交換ぐらいしとくんだった」

 家は知らないし、連絡はつかないし。よく考えてみると、俺達とタマちゃんの関わりは結構浅いんだなあ。確かに「はいさようなら」で済んでもおかしくないな。

 でもなんか、この別れ方は無いんじゃないか? ちょっとこれは酷いんじゃないか? 泣いちゃうよ?

 まだ何にも返してないのに。思いっきりタマちゃんの生活を掻き乱して、乱暴にも好きそうじゃない漫才を聞かせて、そして俺達はタマちゃんから将来へ対する姿勢を学んだ。

 俺達はそれに対して、まだ何にも返せてないじゃないか。何で居なくなってんだよ。


『ウチら嫌われたんかなー』


 さっきのルリの言葉がどこかに刺さった気がする。実際、タマちゃんは俺たちの事を鬱陶しく思っていたのかもしれないしなあ。

「もしかして初めっから漫才聞きたくもなかったのかねえ、もしかして本気でいうつもり無かったのかね……もしかして―――」

「おいこら、宗太郎」

 ぐいっと。

 後ろに倒れていた顔が、いつの間にか接近していたルリに持ち上げられる。アイアンクローみたいな感じで。ちょっと痛い。

「なにネガティブになっとるんや、あんたらしくもない。一個良い事教えちゃる」

 いや、あんたも言ってるじゃないですか……とは言えなかった。

 そのまま、なんか自然と見下される姿勢になってガクガク揺らされる。うわぁ何かムカつく。でも、何だ良い事って? それはタマちゃんに関係あることなのか?

 ルリは、結構真剣な顔で口を開いた。

「あの子な、タマちゃんは漫才の間、本は読んでも勉強はしてない―――そう思えば元気でえへん?ウチの都合のええ解釈かも知れやんけど」

 そういえば、思いだせば確かに漫才中は本を読んでいる。終われば勉強するし、来る前に勉強している事もあるが、漫才の最中に勉強することは無い。

「いっちばんええ解釈してみると、多分タマちゃんは漫才好きじゃないけど受け入れようとはしてくれてるって事ちゃうんかな? ウチが見てくれやんっていじけてる間にも、タマちゃんはウチらの事知ろうとしてくれてたんちゃうかな?」

 ルリは笑った。久しぶりにこんな笑顔見たと思う、最上級の笑顔。

 なんか俺も元気が出てきた。 

「あと自覚ないみたいやけど……宗太郎も前から調子おかしいで? ほんま」

「へ?」

 俺が? タマちゃんじゃなくて?

「多分、初めはまともに勉強しようと思ったんやろうけどなぁ……テンション高うして一ヶ月近くもそんな状態やもんなあ」

 ルリの呆れ顔が、かなり近い位置にある。

 そう言われてみれば、ここ最近はあんまり調子出てなかったような気がする。体は快調のはずなのに……と思っていたが一人で気合いれすぎたか。

「うーむ、それでルリもタマちゃんからかったりのフォローに入ってたんだな……ちょっと変なテンションの時期とタマちゃんと初対面って重なって、しばらくおかしかったみたいだ」

「いや、タマちゃんはウチも面白いからやってたんやけどな?」

 タマちゃん哀れ、パワーアップした俺と今までのルリとの新連携に耐えなければならないとは。

 でも、耐えてもらおう。常に世界には犠牲がつき物なのだ。

 だがしかし、あの子が病気や怪我で入院しているなら見舞いに行こう、あの子が俺の事を嫌っているなら一言謝ろう、あの子が……えーっと、もういいや、後で考える。

「よし、復活したかいな宗太郎?」

「モチ、まだちょいと感覚戻ってないかもしれないけど、まぁできるだけ頑張るぜ!!」

 いつも通りの日向宗太郎、お前は出来る男だ。ついでにいい男だ。

 とりあえず今は、走るべし。輝かしい未来とかじゃなくてもっと即物的な場所に。

「よっしゃあルリ、学校行くぞ!!」

「お――ってなんでやいきなり!? 返事しかけてもうたやろ!!」

「ええい、俺の相棒なら直感で分かりやがれ! タマちゃんの学校だよ、住所聞くんだよ!!」

 うむ、分からないなら誰かに聞けばいい。完璧だ! 完璧な作戦だ!!

「あはははは! 行くぞルリ!!」

 しかしルリは俺についてこなかった。なんでだよぅ。

「あのなあ、行っても教えてもらえるわけないやろ? 個人情報やで?」

「ウッセー!! 無理なら無理で、盗み出すぐらいの気合で!! 俺達はまたタマちゃんに会わなきゃいけないだろうがよ!!」

 ルリは俺の叫びを聞いて溜息をつくと今度はニカッと笑ってくれた。

「……オッケーつきおうたるわ!! それでこそ宗太郎、ウチの相方!」

 俺とルリは図書館の出口に向かって走り出す、明日に向かって一歩、大地を踏みしめて二歩、肩を叩かれて三歩。

 ……あれ? 嫌な予感がデジ―――。

「館内では」

 振り向くとそこにはかのお方がおられました。

 出た、出たよあの人!! 司書様!! だが、今の俺を襟首掴んで叩きだせる小僧だと思うなよ! 今日の俺は、赤くないけど三倍は強い!!

「お静かに―――」

「黙らっしゃい!!」

 強制的に声を被せてやった。ちょっとのけぞる司書、その隙にルリの手首を掴む。

「逃げんぞルリ、俺達の冒険はまだ始まったばかりだ!!」

「最終回の煽りみたいやけどようやった!」

 呆気に取られた司書さんを無視して俺たちは図書館を出る、そして走る。

「宗太郎……教えるわけないってウチ言うたけど、あんたやったら出来そうや。多分、無理やって思ったことでもやってくれそうな気がするで!」

「当たり前だ、だって俺ですし!!」

 手を繋いで走る、さぁ行こう――今日が俺達の、始まりの日だ。





 無理でした。


「クォラ、宗太郎」

「な、ななな何でしょうか鈴原さん?」

 いや、用務員ってすごいね。他校の生徒の侵入防ぐんだね、すごいね。あんなに強かったんだ。

「あれは絶対いけるいうテンションやったのに……あそこまで盛り上げといて、そりゃないで!!」

「現実は常に厳しい」

「格好良えふりすな!」

 俺達二人はタマちゃんの学校に侵入するという目的を成功できずトボトボ図書館に向かっている。どうやら最近の公務員は強いのがお流行りらしい。何あの用務員、戦車ぐらいなら渡り合えそうなんですけど? 司書さんとも拮抗しそうなんですけど?

 なんとなくそのままでルリと分かれるのも気が引けて、一旦ここに戻ることにしたのだ。

「ま、とにかく頑張ろうぜ」

 俺はルリの肩を叩く。

「頑張るって、何を頑張ればええんよ」

 俺には答えられない、だって俺も分からないから。マジでダレカタスケテー。

 とりあえず図書館の目前だ。自販機でジュースでも買いながら色々考えよう。

「ん……そうたろ」

 と、そろそろ辿り着こうかと言う時にルリが声を上げた。

 目は図書館の方を向いている。正確には、図書館の入り口……そして、その視線を追った俺もそれを確認できた。

「ルリ……逃げるか?」

「いや、ウチらが目的じゃあらへんかもしれんし」

 司書様だった。宇宙における究極存在だった。さっきは猫騙し的手法で追い払ったがこうして待ち伏せしていたか。やっぱり少年漫画みたいな人だな、ボスっぽいけど。

「そこの君達」

 司書様が俺たちを見つける。うわ、やっぱり目的俺達だった。

 油断する暇もなく何かを投擲してくる。そんな軽々しく攻撃されてもってツッコむ間もなくアンダースロー、黄色い物体が飛んでくる。

 咄嗟に真剣白羽取り! デコで!!

「うわ、モロに当たった! 宗太郎、大丈夫かいな!?」

 大丈夫に決まっているだろうルリ、立派な大道芸だぜ? 決して受け止めそこなった訳じゃないんだぜ? 超痛いけど。

「今の君達に必要なものです」

 司書様のそんな言葉と同時に、ルリがあっと声を上げた。見た目では黄色いとしか分からなかったが、どうやら直方体のようだ。それなりに重いので中はずっしりと詰まっている、縦幅横幅よりも高さが無茶苦茶低いが、それでも片手では持ちにくい。

 というか、ストレ−トに言ってしまえば本である。それもかなり厚めの。


「騒ぐなと言っても無理のようですからそれで調べて帰ってください」


 司書様は「使い終わったらそこに置いといてください」といって図書館に戻って行った。実は味方だったんだね。やっべ泣けるラスボスじゃなくて四天王辺りだよこの人。最後に裏切って身代わりになってくれるタイプの敵だよ。

 恐る恐る、司書が授けてくれた必要なものを見る。それは――



「おぉ……まさしくこれは――黄金の盾」



「なわけあるかい!! タウンページやないか!!」

 ルリが俺の頭をはたいた。俺にツッコむな向こうにツッコめ。

 いや、正体はタウンページでした。そりゃ大きいはずだよ。レベルなら90はある辞書の類だと思う。これでどうしろと。

「あぁもう、あの司書さんは何を考えとるんや!」

 ルリはガンガン地面を踏んでイライラしている。

 同感です、幼馴染よ。

「こんなもんウチらに渡して、片っ端から電話してけって言うんかい!!」

「おぉ、それは名案だルリ!!」

 思いつかなかった。今までタウンページって鈍器にしか使わなかったから。

 ルリは嫌そうな顔で俺を見る。

「……宗太郎、自分の言ってること分かっとるか? 何やるか分かってる? 電話やで、それも地区内の錦野さん全員にや」

「ベリーオッケー! 燃えてきたぁ!!」

「そないなもんで燃えんなや」とルリがため息をついていたような気がするが、とりあえず気にしない。



 待ってろよ、タマちゃん!!

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