表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
An Isosceles  作者: ニコ
3/8

二話

『私、お笑いはちょっと……』

 タマちゃんはお笑いを否定した、決して表立って「嫌い」やら「駄目」やら言ったわけじゃないけどあの態度は思いっきり否定的だった。まったくもって肯定の意思が無かったのだ。

 俺とルリの夢、いつか叶うと信じてるその夢。他人に否定されて黙っているほど、俺たちは臆病でも従順でもない。

 って言うか好き嫌いとか駄目です、そんなことではタマちゃんは立派な大人になれません。

 なので―――


「はい、まぁ今日はええ天気で――」

「ベルリンかよ!!」

「早いわ阿呆!! ツッコむ所ちゃうわ今のは、大体ベルリンてどんなネタ振りやねん!!」

「そんなもんロシアの首都はどこですかーってお前が聞いて、それでベルリンか! って」

「それもツッコむ所ちゃうわアホ、普通に言えや!!」

「おいおいツッコミ所流すなよ。そこはロシアの首都はモスクワだ! って言う所だろ?」

「わっかりにくいオチ被せんなや!!」


 タマちゃんに、漫才を見せることにしたのだ。かれこれ一週間は繰り返している。

 タマちゃんはどうやら学校帰りに図書館に通うのが日課のようなので、俺たちも図書館に通いつめて隅っこでネタを見せているのだ、実に経済的。

 「「どうも、ありがとうございましたー」」

 と、頭を下げ引っ込む素振りをする俺とルリ、つまりはここで終了。タマちゃんの顔を見ると態度はすごくアレだった、なんていうか傷付く態度。

 なんと具体的にはまったくの無視、耳には届いているだろうが目線は全て本を向いている。いやまぁ、そんな事態も予想して身振り手振りが必要なネタは控えめにした訳だけれども。

 傷つくわー。

「あのう、静かにしたほうが良いと思うんですけど……他の人の迷惑ですから」

 やっと本から目を離したタマちゃんの第一声がそれ、笑った形跡はなかった。

 今日のタマちゃん酷いよぅ、昨日のタマちゃんが良かったよぅ。

「タマちゃんどや、面白かったー? 笑えたー?」

「えっと〜……」

 タマちゃんは困ったように顔を背けた、これはあまりに残酷では無いだろうか……。

 感情の完全冷却を施されたルリはその場でガックシと項垂れた。俺もそうしたいよ、脱力したい気持ちで胸いっぱいだよ。

「タマちゃん、君はそんな子じゃなかったはずだ! もっとわたわたする姿が似合う可愛らしい子だったはずだ!! なのに、なのにこんな姿になるなんて!!」

「わ、私は別に何にもなってませんよう……」

「いや、俺には真珠色の豚さんに見える」

「ええ!?」

 うむ、今俺の目に映るのは本を持っている真珠色の豚さんだ。

 このやり取りはルリがツッコミするまで小一時間続きました、これもいいかも。



「なんて漫才師なんて目指すんですか?」

「「ふぁ?」」

 俺たちが仕方ないのでネタ帳を書いているとタマちゃんはそんなことを言った。本から目を離さずに。

 うん、そういえば何故俺たちは漫才師を目指すのだろう? 世界の七不思議だ、冒険家に探してもらわなければ。

「笑いたい時は普通に笑えばいいじゃないですか、無理矢理笑わせようと必要ないと思うんです。それになんだか将来を考えてないように思えます」

 うわ、すごいぼろくそ言われてる気がするぞ。

「将来ならちゃんと考えとるで? ウチと宗太郎はテレビに出るような芸人になるんやもん、なあ宗太郎?」

 俺はルリからの質問に「イエス、アイ、ドゥ」と答えた。

「そういうの、なれるって言う保障が無いじゃないですか。なれない時とかどうするんですか?」

 無視された、突っ込んでよぅ。

 まったくこいつ等は俺の重要性が分かっていないのだ。仕方ない、聖戦に赴くとしようか……世界が俺を呼んでいる。

「甘いでタマちゃん、なれるとかちゃうねん、なるんや。そんぐらいの気持ちでおらんと立派な芸人にはなれんやん」

「それって、将来について考えて無いようなものだと思います」

 くっ……引き分けが十回も続くとはな。敵も生半可な覚悟で戦場に立っているわけではないということか……!

「宗太郎、選手交代……って何一人じゃんけんしとんねん!!」

「え、なに? 何の話?」

 せっかく妄想の異世界にトリップしてたのに。ライバルの左手君は手強かったです。

「タマちゃん説得せい。ウチはお手上げやタマちゃん拳骨みたいに頭かっちかちや」

「納得させられるか分かんないけど、ラジャー」

 パン、と手と手を景気よく合わせるタッチ。

 入れ替わってタマちゃんの正面に向かう、なんだかやけにタマちゃんが凛々しいですね。

 まず互いに黙って睨み合う。一分、二分とそれが続いた。

「おいおいタマちゃん、俺たちに将来を考えて無いとか言ってたけどさータマちゃんは考えてんの?」

「もちろんです、ちゃんと大学まで通って高校卒業までに適正を見極めて、きちんと就職できる所を探します」

 うわ、この娘現代に見る大量生産の良い子ちゃんだな。実現できる人間がどれほどいるかは別として。

「おもしろくねぇな」

 俺の一言にタマちゃんは「……は?」と奇妙な動物を見るような顔をした。

「だってタマちゃんだって夢ぐらい何かあるだろ? 夢はかなえたいじゃん」

 タマちゃんはしばらく黙ると、俺を睨みつけるが如く真剣な目で見た。

「そんな夢ばっかり見ても駄目だと思います、夢を見るだけが人生じゃないし夢を追いかけて破滅しちゃう人も居るんですよ?」

 正論だ、多分。そんな人だっているだろう、タマちゃんが言うんだし。

「それに、私にだって夢ぐらいあります。尊敬してる先輩と、同じ高校に進むんです」

「えー、それ夢じゃなくてただの希望じゃない? 第一希望、第二希望みたいな。夢は代え難いもんなんですよ、燃えるもんなんだよ、熱血なんですよ!!」

 その時、後ろからポンと俺の肩を叩く奴がいた。また司書さんか!?

「……宗太郎、ちょっとどきぃや」

 ルリ……なんかじゃない。鬼だ、悪魔だ。何時ものルリとは雰囲気が違う、あれはルリの体を借りた悪魔に違いない。悪魔使いを襲う悪魔とはこれ如何に。

 俺は訓練された兵士のように場を空けた。ルリはタマちゃんの前に立つと両肩を掴んで威嚇するように顔を近づけた。

「こりゃあかんでタマちゃん、悲しいけど体で教えたる必要があるようや……」

 タマちゃんはその怖ろしさから小さく声を出して身を縮ませる。そのままルリはズンズン詰め寄っていき、そろそろとゆっくり俺もルリの斜め後ろというポジションに着いた。

 そしてルリが叫んだ。


「病院送りにしたるでコラァ!!」

「じゃあバイクの免許取るまで待ってください!」

「本当に送ったるんかいコラァ!!」

「なにおう!? ゴチャゴチャ言ってると小児科に連れてくぞコラァ!!」

「うわっ、この歳になってまでいきとうないわ〜」


 ここで一旦会話は終了、タマちゃんを様子を確認する。タマちゃんはポカーンと呆けていた……つまり、笑ってない。

 うーむ、突発的なネタならば少々つまらなくても笑ってくれると思ったがどうやら甘かったようだ。

「へ、えっと、お二人、えー、体に、教えるって……え?」

 タマちゃん、混乱一歩手前。そこに突っ込むか。



「腹よじれるほど笑わせたるんや、そないもってお笑い認めさせたる!! 絶対やるで、覚悟せなタマちゃん!!」



 ルリは、髪を掻き揚げるモーションをしながら(実際、短いのでカッコつける以外の意味は無いっぽいが)不敵に笑った。俺も続き、意識的に不敵に見えそうな感じの笑みを浮かべる。

「へ、えっと、私を……? 笑わせ……?」

 混乱は最高潮、なんかもう気の毒な気がしないでもないけどやっぱ愉快だわ。

 しかしそこで俺とルリの襟が掴まれた、……嫌な予感がします、デジャヴな気もします。

「前にも言いましたが……」

 司書さんだった、史上最強の司書さんだった。

 前と同じように、俺とルリはそのまま掴まれ――今度はタマちゃんを巻き込むことなく、二人まとめて肩に担がれた。

「館内ではお静かに願います!!」

 そしてそのままにこやかに図書館の外に放り出された、あり難い事に今回は顔面からコンクリ地面に突っ込んだが、ゴメンこれ痛くてリアクション出来ない。

 起き上がった時には既に司書さんの姿は消えていて、制服姿のルリが居るだけだった。

「あたた……宗太郎、無事?」

「……お、おう、今日は顔面からいったぞ」

「えぇ!? 何でリアクションせえへんの!?」

 案の定、ルリから駄目出しを食らった。そんな事言われましても痛覚神経って無視しづらいのでございますわよ。

「まぁルリ、今はそんな事どうでもいいだろ?」

「……確かにそうやな、でも絶対いつか練習させたるからな」

 そして俺たちは立ち上がると歩き出す。

「よし、宗太郎ん家行くで。ネタ合わせせなあかん」

「オッケー、とりあえずタマちゃんの笑いのツボわかんねぇから地道に探っていこーぜ」



 絶対にタマちゃんを笑わせてやる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ