一話
いや〜ビックリした、何がビックリって図書館にいる司書さんって絶対怒らない生物だと思ってたのに怒ったからビックリした。知りたくもなかった新事実発覚。
司書さんはカウンターに帰って行ったけどもうちょっと確認したい気分もあるな、きっと眼鏡にスーツをビシッと着ていたからに違いない。
「まったく、宗太郎謝れや」
「俺だけの責任ですか!?」
「原因はウチやないもん。見てみい、女の子困っとるやん」
おっと、女の子の事を素で忘れていたな。
見ると女の子は大きな瞳が潤んでいて顔を高潮させて必死にこっちを睨んでいた、手ぇぶるぶる震わせちゃってまぁかわいいですこと。
ここは紳士として謝るのが妥当だな。周りの人も迷惑そうですしー。特別サービスとして頭も下げちゃう。
「おぉ、悪かったなマヨ娘ちゃん」
「マ、マヨ娘ちゃん!?」
マヨ娘(仮)は混乱してる。ヤベェ面白い。隣にいるルリも必死に笑い堪えてるし。
「む、不服か。マヨ娘が嫌ならクリーム娘でもいいが……語呂が悪いし微妙だし。むしろ粉っぽくてクリーム粉ちゃんになるぞ?」
「マ、マヨ……ク、クリ……!?」
うーむ初々しい、こういうのに慣れていないんだろうと思わせるリアクションだ。金魚みたいに口をパクパク、うっわなんかいいぞこの子。
制服から見ると私立の良いトコみたいだが、こういう冗談は流行ってないんだろうか?
「アカンで宗太郎! そいつぁアカン!!」
すると今まで観戦していたルリも横から参戦してきた。
混乱したまま、しかし縋るような目でルリの方を見てるマヨ娘。さながらシスターに助けを求める罪人の如く、しかしその考えは甘いぞマヨ娘よ。
「ケチャップを忘れたらあかんで、ウチはケチャ娘を推す!」
「ケ、ケチャ―――!?」
それは僧服を着た悪魔だ、というわけでナイスだぜルリ。
マヨ娘はとうとう混乱が最高潮に達したようでなんか奇声を発した。ふむ、ゲットするチャンスか。
だが俺は容赦しないぜ! まだまだ続け、俺のショウタイム!!
「おいおいルリ、マヨ娘さんが可哀想だろうが。いっちょここは、まともな名前を付けてやろうぜ」
「まとも言うたら耳に馴染みのあるもんがええな。そやなー、さっきの話題に関係あるもんと言うたら……」
「明太子。明が姓で太子が名前だ!!」
「関係ないやないかーい! 確かに馴染みまくるけど? ご飯にも馴染むけど話題に関係ないやん!!」
すると明太子はもう言葉も無く頭から煙を吹いてテーブルと頭を合体させてしまった。ヒャッホウ俺の勝ちぃ、明太子を捕まえた!
だが次の瞬間、明太子は俺の期待を裏切り顔を上げる。その顔は、さっきと同じ目が潤むほど真っ赤な顔だった。
「た…………」
「た? 『太子とかチョーカワイー、私気に入っちゃったー』か?」
「た? 『食べ物繋がりだから関係ない事は無いでしょー!』やろ?」
俺、ルリの二連撃にも動じず、明太子は「た、た……」とたを繰り返している。何か悪魔でも召喚するんだろうか、だとすると俺はピンチ!? やべ、明太子は悪魔使いか!!
とか、どうでも良い事を思っていると、意を決したように明太子は立ち上がって叫んだ。
「玉藻です!!」
……なにがいいたいんでしょう、明太子さん。
息を切らしてまで何を言うかと思えば玉藻って、あれだろ? 北海道の湖にあるやつ。
「に……錦野玉藻です!!」
もう一回言った。どうしよう、明太子さんの意思がわからない。やはり湖の物と海産物とは日本語で語り合えないのだろうか。っていうかすごいな明太子さん、淡水と海水のミックスで無敵だぜ。
「えっと、まぁ……ニニシキノタマモがどうした、太子さん?」
困った事があったら相談にのるぞ? と心配してあげるともっと怒ったように言葉を吐き出した。
「錦野!! 玉藻!!」
「オーケー。ニシキノ、タマモだな……で、ニシキノタマモが何なんだ、太子さん?」
明太子はまた俯いてしまった。あぁもう明太子は口下手だなぁ。しかし俺だっていつまでもスケトウダラ卵の唐辛子漬けに付き合っている暇は無い。俺を待ってくれる人がいる限り俺は行かないといけないのだよ。
しかしその時、ルリが言った。
「にっぶいなぁ宗太郎……ニシキノタマモはタマちゃんの名前やで?」
「タ、タマー!?」
「なるほど、タマちゃんの名前だったか……気づかなくて悪かったな、タマちゃん」
「タ、タタタタッタミャー!?」
見事にオーバーヒートしてらっしゃる、どうやら俺たちの会話スピードにはついてこれないようだ。
しかしなんと言う希少種、ここは友好関係を気付くのが良いだろう。
「タマちゃんって私のこ―――」
「そちらが名乗ったからにはこちらも自己紹介せねばならぬようだな!!」
タマちゃんは無視。下手なタイミングで構うと会話のテンポが崩れるからな。
「俺は日向宗太郎! 好物はサンマで好きな映画はガンアクション!! ピッチピチの15歳だ!!」
「ウチは鈴原瑠璃! 受験にめげず人生頑張る、キュートな同じく15歳や!!」
「「二人合わせて!」」
「……ってコンビ名まだ決まってないやんか、ウチとした事が乗せられてもうた」
「あー、そうだそうだ。今度決めとくか?」
オーバーヒート済みのタマちゃんは、既にお脳が使い物にならないらしく聞いちゃいないようだった。テーブルにキスしてるし。なんだか、悪い事をした気分です。
ま、名前ぐらいは聞いていただろう。よし、また今度図書館に来た時にはもうちょっと突っ込んだ話をしてあげよう。俺って優しい。
「そこの三名様?」
と、脳みそピヨピヨなタマちゃんは元より、考えに沈んでいた俺や、また変なタイトルを探し始めたルリは今まで気付かなかった。
背後から来るこの殺気、この声、これは……。
恐る恐る振り向く。そこにあったのは、司書のオネーサンの顔。かーなり優しそうな、寧ろ過剰に優しそうな笑顔だった。サービスがいいね、スマイル0円?
「館内では」
だが、表情からは連想できない、プロボクサーのジャブを思わせる素早さで手を伸ばし――俺とルリの襟首を掴み。
「お静かに」
そのまま俺とルリでタマちゃんをサンドイッチのように挟み込み、持ち上げて。
「願います!!」
素早く駆けて図書館入り口の自動ドアに叩きつけ、ドアが開いた瞬間そのまま三人一緒に蹴り飛ばすという離れ業を見せた。
っていうか、痛い! 何より一連の動きが見えた自分を褒めてあげたい!!
一瞬見えた司書さんは、閉じてしまった自動ドアの向こうで額にしわを寄せてため息を吐いていた。このアクション見ると普通の人っぽいが、少年漫画のようなあの一瞬の動きを俺は忘れない。
「あ、あぁ……おいだされた……おいだされたちゃた……」
何故か隣ではタマちゃんが茫然自失だった。
「……いったぁ〜。乱暴やなぁあの司書さん……って、宗太郎そこは顔から突っ込めや」
何故か隣ではルリが鼻を擦りながらリアクション希望。
「なんで今の状況で笑い狙ってかないといけないんだよ」
「あぁー、分かってないなぁ、そうちゃんは」
「誰がそうちゃんだ」
ちょっぴりかわいい呼び名だと思っちゃったじゃん。
「えぇか、世の中にはドッキリって奴があるんや。今の内に修行しとかないざという時にリアクション取れやんで? という訳で、リテイクやたろっち」
「誰がたろっちだ、呼び名変わってるし」
残念ながらそうちゃんのがかわいいぜ。
っちゅうかリテイクと言われても、どうしようもないのが現状なワケですが。司書さんはもう図書館の中でだし。いや居てもリテイクしてくれなかっただろうけど。
しかしルリは俺の態度が気に食わないようで深々と溜め息を吐いた、奇しくもさっきの司書さんっぽく。
「あかんで宗太郎……アンタの意識の低さには正直、ウチは参った。しゃあない、私はこれからタマちゃんと頂点目指す!!」
「ふぇ!?」
いきなりルリから肩に手をまわされ話題が振られたことによって驚きその場で飛び跳ねるタマちゃん、おもしれぇ。
「なぁ、やろうタマちゃん!! ウチらで日本獲ったるんや!!」
「て、天下統一ですか!? 信長公ですか!?」
タマちゃん大いに混乱。普段がどんな子なのか気になるけど、正直面白いからすぐテンパるキャラで居て欲しいですね。
「ッチッチッチ、違うで、ウチが目指してるのは他でもない……」
ルリは見慣れた俺でもたまに恐ろしい思うほどの必死の形相で、気合で爆発ぐらい起こせそうな気迫を見せて、思いっきり発言した。
「お笑い芸人や!!」
後光が差すような穏やかな表情のルリ、しかし――タマちゃんの反応は俺とルリが思っていたのとはまったく違ったもので。さらに混乱したり、目を輝かせたり、呆れたり、そんな友達に話した時のような反応じゃなかった。
「……え?」
と一言呟きながら。タマちゃんは、心底妙なものを見るような目で、俺とルリを交互に見て、ものっ凄い、ものっ凄い嫌そうな顔をした。
……あっるぇー?




