カウンターズとさきの姉
魔法国にて、先日の魔法老婆対魔法少女の戦いについての審問会が行われた。魔法国出身のミッキュ とソフィアが参加していた。
魔法老婆が強敵を求めて暗躍していたことを阻止したことは評価されたが雲行きはよくなかった。
魔法少女を魔法老婆から守るためとはいえ、魔人少女が誕生したことや、戦いによって消費されてしまったあの街の膨大な魔力が問題視された。
そのため、ミッキュ やほのかたちの責任を追及するものが大多数いた。中には、処刑すべきと言い出すものもいた。
一方、事件の調査が進むにつれ、魂が裁かれるはずの魔法老婆が地獄にも天国にも現れなかったこと、押収された魔法具の中でも、再生や復活による研究に比重が置かれていたことから、魔法老婆の復活が危惧された。
とりあえずのところ、魔法国としては、ほのかをどうこうするよりも魔法老婆が現れた時の保険として扱うほうが有益かと判断された。ほのかの監視役をつけることも決まった。
「ほのかお姉ちゃんはどうなるの、ミッキュ 」
「ソフィアすぐに戻ろう。」
ミッキュ の表情は険しかった。
「監視役の中には、過激なチームがいた。あいつら何か手を打ってくるはずっきゅ」
「いやいやいやいやみんなして変な冗談やめてよ」
そこにりゅうっちがいる?んな馬鹿な。
14年間ずっと一緒にいた存在を忘れるわけは無い。契約をしたのは1年前かもしれないが、代々家族が共に戦ってきた相棒を忘れるわけなかった。
「りゅうっちどういうこと?」
「え?魔力が減ってル?」
悪い冗談に決まっている。目の前で繰り広げられているパントマイムにさすがにイライラし始めて、ついに
「やめてよ!!!」
2人をどなりつけて部屋を出てしまった。
てっきりミッキュ と一緒に出かけているだけだと思っていた。確かに魔力が小さくなるのはわかっていた。だけど封印術は普通に使えたし問題ないと思っていた。
だけどだけどだけど、私はもう魔法少女にはなれないの?ほのかたちやりゅうっちたちと一緒にパトロールしたり、おしゃべりしたりできないの?
胸の奥に重たいものがずっしりと埋め込まれたようだった。わたしの足は自然と離れにある、姉の修行場に向かっていた。
姉の修行場を、私は毎日雑巾がけをしている。ほのかたちの前では、諦めているなどと言ったが、心のどこかで私は諦めていなかった。いつ姉が帰ってきてもいいように、掃除をしている。また何か悩み事がある時もよく訪れている。姉は時々トレードマークの青いライダースーツに身を包み、よくバイクを乗りまわしていた。私も後ろに乗せてもらい、いろいろな景色を見に行った。姉はいつも私に自由に生きろと言っていた。巫女として生まれ、魔法生物を相棒にしていた姉は制約が多かった。姉の魔法少女姿は見た事はないが、なまじ魔力がある分良くないものに遭遇する事は多かった。だが姉はそういったものから私を守っていてくれた。屈託のない笑顔も浮かべ、勾玉のイヤリングを片方につけ、巫女服で戦う姿は、美しかった。私はそんな姉に憧れて、髪も姉に似せて短くしていた。よく真似をする私を姉は呆れていた。
もしも魔力がなくなったら姉だったらどうしただろうか。自由に生きろと言うのだろうか。
道場に向かう足がとまる。道場の前に誰かがいる。ヘルメットをかぶって、バイクにまたがって道場見上げている。
「お姉ちゃ・・」
いや違う。身長が私位で男のようだった。姉は私からもうらやましい女性らしい体型だった。誰だろう。向こうもこちらに気がつき声をかけてくる。若い声だ。
「お?もしかして君が噂のさきちゃんかい?」
ヘルメット脱いだその人の耳には、勾玉のイヤリングがしてあった。
その人はこちらににこやかに手を振ってきた。私は少し警戒しつつも少し手を振ってみた。
「いやぁ君は聞いてたより、ずいぶんかわいらしいね」
「えっと・・・」
「あぁ驚かしてしまったね。私の名前は蝶野。若葉の友人さ」
若葉とは私の姉の名前だった。蝶野さんはニコニコと笑顔を向けてくるが、警戒は解けない。そんな私の心を見透かしたのか。
「あぁ悪い悪い。私は君のことを若葉から聞かさせていたけど、君はどうやら僕のことを知らないようだね。君のことなら何でも知ってるよ。若葉は君にデレデレだったからね。いつもいつも後ろをついてきたり、グリンピースが嫌いだったり、封印術が苦手でよく若葉がフォローしてたり、怖い話を聞いた夜は一緒に寝てもらったりね」
顔が赤くなる。あの姉は他人に何をベラベラと喋っているんだろう。
「ははっ、さきちゃんはかわいいな。若葉の古代魔法少女の霊の半分を引き受けてたり、他にも色々聞いてるけど、やめておこうか。お友達も来たようだし」
振り返るとほのかとカレンがこちらに向かって走ってきていた。
「えっと・・・」
ふたたび振り返ると蝶野はどこにもいなかった。
「あれ?」
「ふふっ若葉。君の妹はずいぶんかわいいな」
木の上から少女達を眺め、微笑をうかべる。イヤリングを触りながら呟く。
「あ、バイク!今から降りるとカッコ悪いな、、、あ、待って持ってかないで!」
「さっきは、悪かったよ」
友人達に頭を下げる。
「いやいいよ!大丈夫」
「それよりも、ミッキュ 達が帰ってきた」
正直、あまり気乗りしなかった。私の不安は的中する。ミッキュ もソフィアの姿も半分透けている。これでほぼ確定だ。
「なるほどッキュ。おそらく、さきと龍神を結びつけていた古代魔法少女が成仏したんだっキュ」
ちなみにこの声も聞こえていないので、ほのかが代弁している。でも語尾まで再現しなくてもいいのに、まぁかわいいからいいか。
「今のところ解決策は、思い付かないっきゅ。すまないっきゅ。でも、今魔法国は、てんやわんやしているから、今すぐ記憶を消されたりとかそういう事はないと思うっきゅ。」
「てんやわんやってどういうことカナ」
カレンが尋ねる。
「君たちには言いにくいんだけど、さちよが裁判を受ける前に失踪したんだ。天国にも地獄にもいないから、もしかしたら現世のどこかで復活しているかもしれない。それにほのかの魔法が危険視されている。伝説の魔法少女であるさちよと互角に渡り合っていると魔法国は考えている。それだけ危険分子だと思われてるんだ。」
「でもあれは、古代魔法少女の力を借りているから今やれって言われてもあの時みたいにたくさんの魔法一気にって言う事はできないよ。」
不安そうにほのかが言った。
「その点は大丈夫、むしろ好都合なんだよほのかお姉ちゃん。誤解してくれているおかげで、お姉ちゃんの処刑が執行猶予になってるから」
「しょしょしょけいってどういうこと?」
「ソフィアその事は黙ってよーって言う話だったじゃないっきゅか。正直言ってさちよの過去の行いが大きく影響しているっきゅ。確かにさちよは、世界の平和にも大きく関与していたけど、問題児だったっきゅ。言うことを聞かない巨大な爆弾は処理してしまおうという考えなんだっきゅ」
「そんなめちゃくちゃナ」
「魔法国は世界のバランスを第一に考えているっきゅ。だからどうしても保守的な考えが強いんだっきゅ。魔法国は、ほのかに対して監視役の魔法少女と魔法使いをつけることにしているっきゅ。そいつらは、馬鹿みたいにつよいっきゅ。きをつけるっきゅ。特に魔法の私的利用は厳禁っきゅ」
「いや、じゃあその監視役の記憶をちょいちょいっといじるとかだめかな?記憶メモリーで」
「マイナス40て〜ん♪」
突然現れた黒いゴスロリの小柄の子が意地の悪い笑顔で言った。
いったいいつからそこにいたのだろう。
楽しそうに、意地悪そうに、馬鹿にしたように、ケラケラと笑う。
「いけないんだーいけないんだーチクッちゃうぞーチクッちゃうぞー!」
小馬鹿にしやがって。ただうかつに動けないのも事実。相手が得体の知れないものである以上、変に手を出して痛い目にあうのはアホのやることだ。
「誰だおまえはー!!」
冷静に分析する私の顔の横を魔法の弾丸が過ぎ去っていった。絶句する。
しまった!うちにはほのか(バカ)がいた。
「やったれ、ほのかー!!もう壱発ぶち込んじゃえ」
「ほのか姉ちゃん次撃て次撃て」
もう、ばかばっか。
「ちょ、ま、いきなり、撃つばかがいる??」
悲鳴にも似た素頓狂な声を上げている。
残念うちのチームはばかばっかでした。
「撃て撃て撃て撃て撃て撃て撃て撃て撃て撃て撃て」
「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ」
「きゅきゅきゅきゅきゅきゅきゅきゅきゅ」
もうため息も出ない。
印を結んで双方の間に結界を張る。
哀れな侵入者は完全に気絶していた。
ああどうすんのこれ。
気絶した侵入者に対してほのかは手をのせる
「記憶メモリー!!」
相手の記憶を読みだす。額に汗をにじませながら数分がたつ。
「やっぱりだめ。ガードが固すぎる」
「ん~だめっきゅか」
カレンの創造で作ったロープでぐるぐるまきにした侵入者を調べ上げる。
持ち物はたいしたものはなかったため、記憶メモリーで仲間の数や目的を調べようとしたのだ。
ってここまで想像しての魔弾うちだったのだろうか。
マジックを取り出して顔に落書きをしだした、仲間の魔法少女たちを見て、あ、ぜったいその場の勢いだわっと思った。
「う~ん?ん!!」
侵入者が目を覚ます。己の状態に対して理解をするやいなやぼろぼろと泣き出してしまった。
「え~んえ~ん」
「泣いても無駄ダ。白鳥財閥の教えにこうあるネ。攻勢のときは相手のケツ毛までむしれってネ」
乙女がケツ毛とかいうなや。って怖いわ白鳥財閥。鬼のようなM&Aでのし上がったというから、あながち嘘でもないだろう。
「で、あなたの言っていたー40点って何?」
ソフィアが侵入者の頭を踏んずけながらいった。
「うっさい!子どもパンツ!エロくなって出直しやがれ」
「ッ!!」
あっころしちゃう。ってかこいつ。この格好だが、男か?
「ソフィアちゃん話が進まないから、ちょっとまってくれない」
「おっこっちのお姉ちゃんは貧乳だが、話がわか・・・」
少年のほほが切れる。ほのかの正拳突きの余波によって
「ひっ」
「オマエコロスムネカンケイナイ」
あぁもう
「おいぼうず、いきなり攻撃したことは悪かったよ。だけど私らだって魔法少女さ。得体のしれないものがいきなりあらわれたんだ、対処するにきまってるだろう。」
「そこの魔法生物から何も聞いてないのか」
ミッキュがいる方を指さす。
「僕の名前は、四葉よつは」
「僕たちがほのかの監視者 『カウンターズ』だよ」
僕たちってことはほかにも仲間がいるのか。
「ほのかは持ち点100点が与えられているんだ。これが0点になったら僕たちが処刑することになっている。」
しばっていた縄がずるりと落ちる。魔法で強化されていたはずの縄が溶けていた
「お姉ちゃんたちが僕に攻撃してきたことも含めてー80点っといいたいところだけど・・・」
ゆっくりと私を見て、杖を向ける。
「若葉の妹に免じてー40点で許してあげる。これで貸し借りはなしだぜ。若葉の妹」
そういうと侵入者は煙とともにその場から消え失せたのだった。
「若葉さんって、確かさきちゃんのお姉ちゃんの名前だったよね」
なんで姉の名前が侵入者から出てきたのだろうか。今日は何かとお姉ちゃんのことが思い出される。
「まぁ、あの侵入者のことを追っていけばお姉さんの情報にも行き着くんじゃないかナ」
「追って行くって言ったって手がかりが全くないじゃない。カレンお姉ちゃん」
ごそごそと自分のカバンをあさる。
「ソフィアは私を誰だと思っているのかしら、白鳥財閥の跡取り白鳥カレン様よ。」
取り出したのは、パソコン。そこには、地図と中央に光が写っていた。だが大まかにしか場所がわからない。
「カレンお姉ちゃんこそ私を誰だと思ってるのよ。追跡トレースをさっきマジックでみんなが落書きしてるときに一緒に書き込んだから、5kmいないの近くまでいけば隠れ家なんて一発よ」
「わ、私だってあいつがお好み焼きが好きなのを記憶で読んだんだから」
負けじとほのかがいう。うちのチームはなんだかんだ言って優秀だ。ほのかはちがうけど
「よし、みんな行くよ」
だがほのかの動きがとまる。
「待つっきゅ」
ミッキュ がほのかたちの前に立ち塞がったのだ
「君たちはあいつをなめている。言うつもりはなかったけど、僕と天馬を融合したのはあのカウンターズだ。」
は?
「ちょっと待ってそれってどういうこと」
「ほのかは覚えてないかい?10年前に彼が大怪我をして森の中から帰ってきたの。」
「あーあったね」
「あの時天馬はカウンターズと悪の組織の戦いを目撃したんだ。魔法少女の掟は一般人が目撃したらその目撃者の記憶を消さなければいけない。でもあろうことか、彼女たちは一般人を魔法生物に融合することで無関係者を関係者に仕立て上げたんだ」
「それこそ違法じゃないの」
「彼女たちは完璧主義だった。目撃者と言う汚点がつくのが嫌だったんだ。それに当時僕にはそこまでの権限がなかったんだ。力もかなり弱まってたし、契約者もいなかった。わざと悪の組織に攻撃をさせて天馬を大怪我をさせ命をつなぐと言う名目で2人を融合したんだ。」
「2つの命を1つに融合するなんて超高等魔術じゃないか」
「カウンターズは魔法国きっての使い手で名前に数字が入っている。一〜十まで名前に入っている。例えば魔法老婆さちよは、三千夜が正式名だ。彼女もカウンターズの一人だった。君たちの先輩のさくらも、裂九羅として、カウンターズに所属してた。特に一はじめと呼ばれた魔法少女は残酷な思想の持ち主で、魔法少女食いと呼ばれていた。関わった魔法少女たちはカウンターズの餌食になっていた。特に夜は彼女たちの闇の魔法が最大限に強くなる。今から出かけるのは危険すぎる。ましてやさきは魔法少女化が使えないし、ほのかは監視対象だ。策をねらないといけないだろう」
ということで私は戦力外通告になった。カウンターズに関しては、カレン、ソフィアが担当することになった。ほのかと私は、バックアップとして待っていてほしいと言われたが、特にやることはなかった。自然と足が姉の道場へ向かう。
今日は1日様々なことが起こりすぎだ。私もキャパオーバー。頭がパンクしそうだ。
「おーいさきちゃん、さきちゃんってば」
魔法生物が見えなくなったり、お姉ちゃんの知り合いが出てきたり、ほのかが処刑されるかもしれないと言うことだったり、何が何やらわからない。
「さきちゃんってば、女の子がこんな時間に不用心じゃないか」
顔上げるとそこには蝶野さんがいた。
姉と同じデザインのライダースーツに身を包み、ニカっと笑う。
「何かお悩みかいっ」
耳元で勾玉のイヤリングが揺れる。自然と涙がこぼれてしまった。蝶野さんに姉の面影を重ねてしまい、その場で泣き崩れてしまった
蝶野さんは何も言わずただ頭を撫でてくれた。出会って間もない人だけれども、他人と思えずただただ涙が後から後から流れていた。姉と私は昔から仲が良かったわけではない。神社の跡取りとして見られているのは姉だった。私はあくまで姉の予備でしかなかった。何をやらせてもうまくやる姉に対して、私はすこし運動ができるだけの凡人だった。そんな姉を疎ましく思っていた。あんな姉がいて、こんな私。比較してくる目がただただ重荷だった。1年前姉の力が暴走して、図らずも私と力を半分にした。それは傍目に、自分が姉の力を奪ってしまったと言う感情から、自分が姉よりも優れていると錯覚するようになった。でもそんな自分を自己嫌悪するくらい毎日を過ごしていた。魔法を使うにつれて、別の何者かになっていくような不思議な感覚に襲われるようになった。気がつけば、いつの間にか自分の知らない間に古代魔法少女に体を乗っ取られるようになってしまった。不安や恐怖を感じる一方で古代の優秀な魔法使いたちが自分の体の中にうごめく感覚に酔いしれてしまった。気づいたときには、姉は消え、破壊された街の中に自分ではない者の笑みを浮かべて、立っていた。ボロボロになったほのかたちを嘲笑い、弄び、圧倒的優位の立場から優越に浸っていた。
そんな私の目を覚ましてくれたのが姉の残した魔法だった。
魔法はその人の人なりだ。
魔法少女が使う魔法には、必ず意味がある。性質だったり、渇望だったり、さまざまだが、必ず意味があるのだ。
私の憑依ダウンロードは、心のどこかで姉のようになりたいという思いや、姉を超えたいという思いがあったのだと思う。
姉の「水」の力は、ころころと表情を変え、全身で感情を表し、その才能のように、ありとあらゆるものになりうるという姉の存在そのものだと思っていた。
しかし姉は言うのだ。水は水でしかないんだよ。例え、魚が棲めないくらいの清さがあろうと、様々なものが蠢く汚水であろうと、水は水なのさ。私は私でしかない。だからーーーー
目を覚ませ
「ん?どうしたんだい」
蝶野さんが言った。蝶野さんと会うようになって、気づいたら、数日が経っていた。学校終わりに姉の道場の前で。何を話していたか、覚えていないが、とても心地よい時間だったと思う。
「ごめんなさい、今日は帰ります」
「ん、そっか、また明日」
特に引き止められることはなかったが、蝶野さんがいつまでも見つめているような奇妙な感覚が家に着くまで続いた。