悩みし少女と友人達
魔法老婆が敗北したニュースは瞬く間に広がった。
各地域で彼女は様々な案件をかかえていたためである。感謝するものもいれば、この形を憎む者もいた。
「あの女のせいで、国がいくつも滅んでいたんだありがとう」
「せっかく5年がかりで予約していた依頼がおじゃんになってしまった。どうしてくれるんだ」
「あの笑い声が聞けなくなるなんて寂しくなるねぇ」
「緊急会議を開く。幹部を集めろ。今後の対応は慎重にしなければならない。」
「へーあの女が死ぬわけないでしょ?どうせまたひょこっと現れるわよ」
「あいつにかけられた懸賞金は俺のものだったのにどこのどいつだバカヤロー」
「え〜んえ〜ん赤髪のお姉さんしんじゃった」
「そのものは誰じゃん。勲章授与しようじゃん」
「その馬鹿を探し出せぶっ殺してやる」
その興味関心は、伝説級の大魔法少女をとめた1人の魔法少女へ移っていった。
その当の本人は・・・
「ぐごごごごご・・・Zzz」
口を半開きにして、腕を枕に爆睡していた。ある晴れた昼下がり。さくら舞い散るあたたかな日差しのなか、幸せそうな寝顔である。
「ほ〜の〜かさ〜ん」
ゆったりと睡眠中の彼女に近づいて
「何を、寝てくれとんねん!私のウルトラロマンティックスタイリッシュ古文で!」
「はいぃ!ニンニクマシマシチャーシュー抜きで!!?はれ???」
あたりをゆっくりと見まわす。半分寝ぼけ眼でよだれが口からたれる。
「み〜や〜う〜ち!あとで職員室に来い!!」
新学期が始まって2週間、ほのかは日常の中に戻ってきたのだった。
ふぅ・・・
さきは神社の裏にある滝で身を清めていた。先日の魔法老婆との戦いで、自分に封印されていた古代魔法少女の魂たちが解放された。つまり、代々のお役目である封印業から解放されたことになる。とても不思議な気持ちだった。幼少期より巫女の修行として、様々な封印術を学んできた。だが、実際に古代魔法少女を封印していたのは、姉のはるかだった。5月に、突如15年間何もなかった古代魔法少女が暴走し、姉の意識を飲み込んだ。たまたま通り掛かった、魔法老婆がその魂を半分に分けて姉妹にそれぞれ封印した。
姉はその後失踪した。
2週間前にさちよに背中をさされたときに彼女は先の耳元で奇妙なことを言った。
「次はお前の番だ」
本当に私を殺す気だったら、そんな事は言わないはずだ。傷が残った胸に手を当てる。カレンの家でセバスチャンに診てもらったが、臓器と臓器を避けるように刺されていた。何を伝えたかったのだろうか
さきは、突然背後からの殺気を感じた。修行着が水を吸ってしまい、一瞬反応が遅れる。
っ!!
ぬっと脇の下から伸びる二つの手がさきの胸に迫る。さきは全身全霊を込めて、肘打ちを背後に打ち込む。
「ごへぇっ」
聞き覚えのある声がして、振り返る。
「・・・おぅ、元気になったようで良かっタです、おべぇ」
カレンが腹を抱えてうずくまって、吐瀉物を撒き散らす。
「はぁ・・・、カレン揉むなら自分の揉めよ」
その場にあぐらをかき、カレンがやれやれという仕草を見せて、
「自分の揉んで何が楽しいんですカ。恥じらう乙女のを揉んでこそでしょうが」
「滅っ!!」
印を結び、魔力を込める。簡単な封印術の一つ、雷縛。痴漢撃退にちょうどいい。死なない程度に加減はしないと。
「ぎゃばばばばばば」
カレンの体に電流が流れ、ビクンビクンと痙攣する。
「ふ、ふふふ、ふふ、さき。術のキレが増したようですネ。胸は増さないのに」
「っ!!滅!!!!」
ふたたび森の中を閃光が照らす。
「あ、さきちゃん、かれんちゃーん!ってどしたの?!」
黒こげのカレンを見てほのかが驚く。あぁ焦げた生ゴミだから気にすんな。
「・・・あ、ほのかきょうはピンクですネ」
瀕死の状態のカレンが首だけ動かしていう。
「ぬん!」
振り下ろされた踵で、カレンのすぐ近くの地面が割れる。この子はこの子で十分やばい。
「・・・カレン?一回記憶を消そうか?」
静かな笑顔を向ける。怖っ。
「す、すみませンでしタ。」
「きょうは、さきちゃんの快気祝いでしょ?お菓子買ってきたよー」
「そ、そ、そうでした!さき、一緒にケーキ食べましょウ!!私のプロデュースした白鳥財閥特製ケーキでーす!」
まったくこの子達は、悩んでいたことが馬鹿らしく、思えてしまう。
「ちょっと待ってて」
部屋に戻ってから、シャワーを浴びに行く。
カレンとほのかには、待っててもらわないとな。
あ、そうだ。
「ほのか、カレンが妙な真似したら・・・」
「あ、大丈夫」
「おそら・・・キレイ・・・」
体育座りでカレンが澄み切ったとてもピュアな眼で窓からの景色を眺めている。
「煩悩を記憶で封じたから」
怖いよ。ほのかなんでもありになってきたな。
「なら、安心だ。んじゃ、ちょっと待ってて」
「ふ、ふふ、ふふふ、ふはははははは」
肩を震わせて、ほのかが笑う。同様に
「フ、フフ、フフフ、フハハハハ」
体育座りのカレンも笑い出す。
「さきも甘いネ。敵は一人ではないのだヨ」
「友達の部屋で、ガサ入れしない奴はいないのさ、さきちゃんの秘密暴かせてもらうよ」
家主のいない部屋でもぞもぞと動き出す。
「さきちゃんの部屋って意外と女の子女の子してるんだね。こりゃっ!何このキャラどこで売ってんだろ」
「さてさてさて、さきのお洋服チェックだネ!ふふふーん」
「カレンちゃんカレンちゃんっこの人がさきちゃんの好きな人かな!意外だなっさきちゃんこんな人がタイプだなんて」
「ふぉっふぉー!ほのかほのか!さきのブラですよ!サイズ全然あってないじゃないですカ!」
「はははは、お前らなにしてる?」
乾いた笑い声に、二人の笑顔が凍りつく。
「「あは☆」」
まったく油断も隙もない
「んで、今日ソフィアは?」
「今日ソフィアは、ミッキュ と一緒に魔法国にいってるョ。まじすみません。」
「なんでも、こないだの戦いの報告とか言ってたよ。まじすみません。」
仁王立ちのさきの前で大きなタンコブを乗せて、正座をする二人がいた。
「ふーん」
「ねぇねぇ、さきちゃん、その写真の人はだれ?彼氏?」
にまにまとほのかが聞いてくる。指差したさきには、写真立てがあり、今より少し幼い自分と水色のライダースーツに身を包んだ姉が写っていた。しまった片付けるのを忘れていた。一瞬迷ったが、
「あぁ姉貴だよ。ちょうど一年前くらいに家出して、それっきりなんだ」
「一年も前に家出って警察には行ったんですか?」
心配そうにカレンが聞いてきた。
「捜索願を出しているけど、全く見つからないんだ。家族はもう諦めている。本来は姉がこの神社の巫女の後継者だった。でも、去年の5月に暴走してしまい、その後かなり悩んでいたんだ。」
あの頃の、姉は見ていて辛かった
「森の中で修行中、突然例の古代魔法少女の封印が解けててしまい、暴走したんだ。さっきの身を清めていた滝はもともとはもっと小さかったんだ。あそこの開けた場所はあの姉が破壊したものなんだ。」
場の空気が少し重くなる。いけない。
「まぁ姉貴は元気にやっているんだと思う。家には、血で契約した魔法玉がある、生きている限りその魔法玉は存在する。割れていないところを見るとまだ生きているんだと思う。家族も元気で生きているならと諦めてるのさ」
魔法玉に目をむける。家族四人の写真の前にこぶしほどの大きさの赤い玉が置いてあった。
「あのさあのさ、さきちゃん提案なんだけど、私の記憶とソフィアちゃんの追跡でお姉ちゃんを探せないかな」
「なるほど、ほのかの記憶で何かお姉さんの記憶を再現できれば、ソフィアの追跡で足取りをつかめるわけネ」
「ん?ほのか一人でよくない?みんなの魔法使えるじゃん」
「ん〜それがね。同時に複数の魔法はあんまり使えないんだ。特に記憶は魔力の消費が大きいから、追跡みたいに常時発動するタイプとは相性が悪いんだ」
史上最強と渡り合った便利な魔法なのにな。
「魔法といえばさきの憑依はどうなるんだ。魔法少女の霊は成仏したんでしょ?」
ん〜たしかに。どうしよっかな。
「変身して確かめようにも、龍っちがいないと変身できないし。あいつどこにいったんだか」
「さき何ボケてんの」
「え?目の前にいるじゃん」
ほのかとカレンがキョトンとして言った。
二人の視線のさきには、なにも存在しなかった。