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Travrling High  作者: まみず
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2 海人と空人

 ブルージーとメーアは突然の出来事にしばらく固まっていた。

 すると先程の空からの落下物が、大の字になってぷくん、と浮いてきた。

 楕円形の、見た事もないシルバーのボードと一緒に。

 どうやら、自分と同い年ぐらいの少年みたいだ。

 ブルージーは気を取り直して少年のそばまでそっと泳いでいくと、気を失ってる彼のほっぺをツンツンと突いてみた。

「わっ!」

 すぐに気がついた少年は、またまためいっぱい驚いて再び沈みかけたが、メーアがさっと下になって沈むのを防いだ。

 少年はメーアに腰掛けるような状態で顔にかかったシルバーの髪をかき上げてオールバックにすると、ブルージーにいきなり質問をしてきた。

「なぁ、ここって『海』っていうとこなんだよな?」

 突拍子もない事を言われて、ブルージーはきょとんとした。

「あんた、頭でも打った? 海じゃなかったら、どこだっていうのよ?」

 その言葉に、少年はみるみる顔を輝かした。

「ほんとだな? 海。海! やっと来れたぁ~! やほ~」

 な、なんなの? こいつ。

 少年の普通でないおおはしゃぎに、しばらく言葉が出ないブルージーだった。

 ブルージーは、全く泳げないという少年を、とりあえず岸まで乗せていく事にした。



「ねぇ、なんで空から落ちてきたの?」

 船に乗ってすぐ、ブルージーは単刀直入に質問した。

「……俺さ、実は『空人』……なんだ。ってそんな事いきなり言っても訳わかんないよな」

 ポリポリと頭をかきながら、きまずそうに言った。

「そらびと……?」

 ブルージーは怪訝な顔で首をかしげた。

 「やっぱり知らないとか?」

 「うん」

 ブルージーの即答に少年はため息をついて肩を落とした。

「俺の名前はジナーフ。んで、このボードはフォーゲル、っていうんだ」

 ジナーフと名乗った少年は、岸に向かう途中、自分の事を話し始めた。

「ねぇ、そのボード何に使うの?」

 ブルージーは初めて見る、水に浮く金属でできているであろうボードに興味津々だった。

 「ん? これ? このボードは、空中を移動するのに使うのさ。つまり、これで空を自由に飛べんの」

 ……空を飛べる?

 ブルージーは目を丸くしてボードに釘付けになってしまった。

 浜辺にたどり着くと、ジナーフはフォーゲルを船から引っ張り出して砂浜に置いた。

「うわ、やっぱり湿ってる」

 しゃがんでボードを軽くひとなですると、ジナーフはため息をついた。

「え? 金属だからすぐに乾くんじゃない?」

 ブルージーが船を小屋に入れながら言った。

「いや、特殊なプレートなんで少しでも湿ってしまうと、2、3日は飛べなくなってしまうんだ」

 ジナーフはとても困ったという表情で立ち上がった。

「そらびと、っていうくらいだから、空で暮らしてるとか? それで帰れないって事?」

 ブルージーはジナーフの身の上がなんとなく読めてきたような気がして、そう聞いてみた。

「そそ。そういう事。ってな訳で、しばらくかくまってくんない?」



「かくまってくれ、ってどういう事?」

ブルージーは単刀直入に聞いた。

「ん~、実は俺、空から逃げてきたんだ」

 ジナーフは頭をポリポリ掻きながら告白した。

そして、自分の身の上を話し始めた。


 ……俺さぁ、なんにも悪い事していないのに、いきなり飛空警団から追われてさぁ。

 たぶん、誰かが俺に濡れ衣をかぶせたんだと思う。だいたいの見当はついてるけど。まったく迷惑な話だよな。

 ほんとは決められた人以外は地上の人とは関わってはいけないってヘンな掟があってさ。

 他に逃げるとこがないじゃん?それを承知で地上に降りようとしたんだけど。やつらしつこいから追っかけてきてさ、あっちが攻撃を仕掛けてきたもんだから、それをかわしたらバランス崩しちゃってドボ~ンって訳。

 どっちみち、フォーゲルが濡れちまったから飛べるまで乾くのに、日はかかると思う。

 それまで、悪ぃけど倉庫でもどこでもいいから隠れさせて欲しいんだ。もしここで見つかったら、逃げようがないからさ。



 ブルージーは自分の住んでる家にジナーフを連れて行った。

「納屋じゃかわいそうだからさ。うちにいていいよ」

「えっ? いいの?」

 ブルージーの予想外の申し出に、ジナーフはとても喜んだ。

「うちの両親さ、早くに死んじゃったの。で、ここには私ひとりだけで住んでるんだ」

「……そなんだ」

ジナーフは視線を落とした。

 そんな彼を見て、ブルージーは慌てて付け加えた。

「あ、でもね。こうやってちゃんと仕事もできてる訳だし、村の人もみんな優しいしさ。全然大丈夫なんだよ!」

 ジナーフはそんなブルージーを心底羨ましそうに見た。

「強いんだな。おまえって」

「なぁに言ってんのよっ! 居候させる代わりに君にもいっぱい働いてもらうからねっ!」

 ブルージーはジナーフの肩をバンバン叩きながら思いっきりどやした。

「ったく、痛ってえなぁ。もう~」

 そうぼやきながらも、ちょっぴり嬉しそうなジナーフだった。

「早速仕事してもらおかな、って思ってたんだけど、着替えの方が先だね。」

そう言って、ブルージーは部屋の奥から服を持ってきた。

「これね、父さんのだったんだ。ちょっとぶかぶかかもしれないけど、それ着てて風邪ひくよっかマシでしょ? そっちの部屋に真水の入った桶があるから、それで身体を洗ったらタオルでよく拭いてから着替えんのよ?」

 まだずぶ濡れのままだったジナーフは素直に従う事にした。

「さんきゅ」

「じゃあ、あたしは採ってきた石を運んでくるから」

 ブルージーはそういい残すと、表に出て行った。

 足音が遠ざかっていくのを確かめてから、ジナーフは速攻で水浴びと着替えを済ませた。

「海の水って、不思議な匂いがするんだな」

 いましがた自分の脱いだ服からは、まだ潮の香りがしていた。



 しばらくして、ブルージーが袋を担いで帰ってくると、

「ふうっ。重かった~」

 かなり年季の入ったテーブルに、どさっと袋を置いた。

「この石をね、表面をきれいに磨くと素材屋さんが買ってくれるの。この仕事を君にも手伝ってもらうね」

 ジナーフは石をひとつ取り出して光に透かせて見た。

 石は光線を幾重にも屈折させてきらめいていた。

「すげぇ。こんな透明な石見た事ない」

「でしょ? あの深さを潜れるの、あたしだけなんだ。 だからこれだけ質のいいのを採れるんだ」

 ブルージーはさも得意げに胸を張って見せた。

「ね、君も潜ってみない?」

 ジナーフはいきなりの誘いにかなり戸惑った。

「う~ん、俺水に潜った事ないし……それに空人は海の水に濡れると命はない、っていう言い伝えもあるし……」

 煮え切らないジナーフを見てブルージーはくすっ、と笑うと、

「なぁに言ってんの。さっき海に落ちたけど、なんともなかったでしょ?」

 ジナーフの肩をバンバン叩いた。

「そういえば……そうだよな。なんでだろ?」

「なんで、って思っても、それが事実なんだから。空人の言い伝えは、迷信だって事が分かったでしょ?」

 きっぱりとブルージーが言い切ると、

「そだな!」

と、ジナーフは嬉しそうにいうと、わくわくした顔でブルージーに言った。

「明日、俺も海に潜ってみよっと!」

「うんうん。一回やってみたら? 大丈夫。もし溺れたらあたしが助けてあげる。」

 ジナーフは、ははは……と乾いた笑いをもらした。

「でもその前に、もし空人にどっかで会っても、俺だって分からないようにしたいな。」

「そだね。考えとく」



 翌日。ブルージーは、ジナーフに黄色いバンダナを渡した。

「これを巻いたらいいんじゃない? そんな色の髪の人、ここらではいないから。それでバレそうじゃない?」

 ジナーフはシルバーの自分の前髪をつまんでみた。 ブルージーの髪は、夜の闇のようにまっ黒だ。

 でも瞳はジナーフと同じ澄んだ深めのグリーンをしている。

ジナーフは自分の頭を包み込むようにして、 バンダナを巻いた。

「うんうん。似合うっ!  さ、海に出よう!」


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