1 青い海で。
夜が明けて、辺りがすっかり朝の光に照らされて明るくなった頃。
海辺のボロボロの小屋からひとりの小柄な少女が、今にも沈みそうなおんぼろ小船を軽々と引っ張って、さらさらな砂地に足を取られる事なく海へと向かっていた。
白いTシャツにジーンズのホットパンツ姿が、すらりとした手足を際立たせている。
髪は肩につくかつかないかの長さなので、麻で適当に後ろでくくっている。
少女の名は「ブルージー」。
彼女は水辺にたどりつくと、小走りになってきらきら光る水面に船をスライドさせつつ自分もひょいっと飛び乗った。
ブルージーは手際よく帆を張って、さらに櫂をひたすら漕いで島影も見えない所まで船を進めて行った。
海は透明度が高く、覗いただけで底の様子が手に取るように分かるくらい。
船の重りを海へ沈めると、ブルージーは2〜3回深呼吸したあと、海へと飛び込んだ。
彼女の目的は、海底にあった。
無数の気泡と共に深く潜っていくと、大小さまざまな透明の石が転がっていて、それを拾い上げて、腰のカゴに入れる作業を開始した。
この石は、とある町での儀式に使う、ボトルの作成に必要不可欠な物なのだ。
この場所は、遠目から見ると海底全体が遺跡のようにも見えなくはないのだけれど、今は誰も気にしていない。
ブルージーはまだ幼い頃に、『自分たちの先祖はここに住んでいた』と聞かされていたが、そんなのはただの言い伝えに過ぎないと思っている。
今日はどれだけ採っていこうかな。
カゴをとりあえずいっぱいにしてから、ブルージーは自分が持って浮上できそうな手頃な大きさの石を探し始めた。
ブルージーのすぐ上に大きな影が迫ってる事にも気づかずに……。
頭上から射し込む光がふっと途切れたのに気づいて、ブルージーは海面を見上げた。
するといきなりブルージーの目に、白と黒のツートンカラーのイルカの顔がアップで映った。
驚いたブルージーは溜めていた息を思わずみんな吐き出してしまった。
たまらず海面目指して一気に浮上する。
「もうっ、メーア! びっくりさせないでよ!」
一緒に海面に顔を出したイルカに向かって、ブルージーが少し怒ったように文句を言った。
「キュキュキュッ」
そんなブルージーをからかうように、メーアは身体をゆすって愉しげに鳴いた。
「このぉっ!」
ブルージーはメーアにがしっ!と抱きつくと、メーアはスピードをあげて海底へと潜っていった。
ブルージーはメーアとひとしきり遊んだ後、再び作業を開始した。
そして6回目の作業を終えてしばらく息を整えていた時。上空から何かが落ちてきた。
「何かしら?」
「キュイ?」
ブルージーとメーアが同時に見上げた。
きらん、と金属が光ったのが見えたかと思うと、それがみるみるくるくる回る人影になって、「わぁ〜!」という悲鳴と共に、あっという間に海の中へ派手なしぶきをあげて落ちて沈んでいった。