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けつこん。

作者: 長井瑞希

語り手はノーマル。中西はチャラ男。土屋はバカで関川はちび。作者は……。

 あぁ……いったいどうしてこんなことに……。

『第4回ケツコン、グランプリはエントリーナンバー3番だぁぁぁ!!!』

『『『うぉぉぉぉおおお!!!』』』

『グランプリに輝いた今のお気持ちは!!』

 どうして、どうして……。

「エット、コウエイデス」

『今年のグランプリは緊張屋さんですね! みんなで……ほぐしてやろうぜ?』

『『『うぉぉぉぉおおおお!!!』』』

 生きて帰ったら、絶対あいつしばく。そう思ったけれど、本当に生きて帰れるかどうか……。

 そもそも、こうなったゲイイン……もとい原因は、こんな一言だった……。


  ☆


「けつこん、したいでござるなぁ……」

 中学時代からの友達である土屋がそんなことをつぶやく。

 今現在、俺たちは親友(笑)の関川の家で酒盛りをしている。26歳にもなってくると、こういった集まりは自然と少なくなってくるものだ。その理由の最たるものが、土屋の言う結婚だ。

「まぁ、確かにそう思わなくもないが、でも相手がなぁ……」

「「「……」」」

「いやすまん、禁句だったな」

「中途半端にフォローすんな、スピリタスの刑に処すぞ」

((うわぁ……土屋がマジギレしてるよ……))

 この土屋という人間、根はいい奴なのだが、語尾が「ござる」だったり、キレると何かにつけてスピリタスの刑に処そうとしてくることだけが問題だ。ちなみに、そんな獅子の尾を踏んだのは中西だ。

「いやでもさ、俺たちもそろそろ考えなきゃな時期だぜ? 1つの転換期だろ?」

「現実を直視することと、それを他人にほじくられるのは違うのでござるよ」

 それに、と土屋は続ける。

「晩婚化が進む昨今では、独身なんてそれほど珍しいものでもないでござる」

「え、晩婚化ってそういうことなの? 経済的な余裕がないから結婚しないだけなんじゃないの?」

「……いやまぁ、拙者バカなので知らんでござるが」

「むしろ晩婚化って言葉を知ってただけでもすごいよね」

 そうフォローを入れるのは関川だ。こいつは中西とは違い尾を踏むことはない。余談だが、中西はすでに何者かによって処された。多くは語るまい。

「とはいえ、俺たちもいい大人だ。結婚する意思があるのなら色々準備を始めなきゃいかんと思うが」

 合コンだったり、ナンパだったり、出会いの形なんてそれこそたくさんあるけれども、結局のところ中身と外見と、あと金がものを言う世界だ……と俺は思っている。

「つまり、ファッションを気にしてみたり、貯金してみたり、紳士を心がけてみたり、そういうことだ」

「なるほど、禊ぎでござるな」

 全然なるほどじゃねぇよ。

「まぁ、拙者結婚する気はないのでござるが」

「あっれこれ中西がただただかわいそうなパターン?」

「いやなに、あれはただの積年の恨みでござる」

「「あぁ……」」

 ……まぁ、アイツは酒が入ってなくてもうざいし、酒が入るとなおさらだからな。

「でも、いいのか? 結婚って、結構大事なんじゃ……?」

「いいでござるか? 結婚をすると、自由なお金が減る、つまりヲタ活できないのでござるよ」

「もしお金持ちの女の人にプロポーズされたら?」

「全力でヒモになる所存」

「言い切った!」

 なかなかに男らしいな。言ってることは最低だけど。

「でもまぁ、お金は大事だもんな」

「あと、拙者はヲタクでござるからなぁ……その時点でマイナスポイントな故、なかなかグイグイいけぬでござるよ」

「つまり、引け目があると、自信が持てないと」

「日本産のヲタクはだいたいこんなもんだと思うでござる」

「それは……」

 中には例外も居る。けれど、確かに大多数の日本産ヲタクは……いや、多くの日本人は現在草食系男子に属されるかもしれない。

「というか、拙者の言うけつこんは結婚のことではないでござる」

「「え?」」

 いや、確かに土屋は結婚する気がないって言っていたな……。

「なら、けつこんってなんのことだよ……?」

「ふふん、よくぞ聞いてくれたでござる。拙者の言うケツコンとはずばり……ケツコンでござるよ」

 いや意味分かんねえから。


 ……余談ではあるが、関川には彼女がいるらしい。交際4年なんだとか。いやほんと、泣きたくなってくるよ……。


  ☆


 で。

「おーい、ケツコンの応募に行ってきたぞー」

「は?」

 日曜日。家でごろごろしていると、突然中西がやってきてそんなことをのたまった。

「結婚って、何お前相手居たの?」

「ちがうちがう、結婚じゃなくて、ケツコン」

「は??」

「この前言ったじゃん、ケツコンに出たいって、関川の家で」

 言ってねぇよ。言ったとしてもそれは土屋だよ。

「なんか、写真とプロフィール送ればいいらしくて」

「ふーん」

「だからお前の写真でおくっといた」

「……はぁぁ!!!???」

「大丈夫。盛っといたから」

「そういう問題じゃないよねぇ!!?」

 ああ、もうほんとこいつはろくなことしないなぁ!

「で、来週グランプリ決めるらしいから。予定空けといて」

「行かないよ!?」

「じゃ、よろしくー」

 と、嵐のような、まぁとにかく言いたいことだけ言って帰りやがった。

「……バックレるか。なんとかなるだろ」

 だが。


 そんな考えは。


 甘かったと思い知らされる。


  ☆


「ケツコンなんて冗談じゃねぇ。今日はライブに行くって決まってたんだ」

 ただのライブと侮るなかれ。物販という名の戦場がそこには在るのだ。

 しかし。

「ん? なんだお前ら。俺はこれから戦場に行くんだ邪魔すん……うぉあ!?」

 家の前で出待ちされていた俺は。

 まだ太陽も昇りきっていないというのに。いや、太陽も昇りきっていないような時間だからこそ、だろうか。

 ケツコンの会場に拉致された。


  ☆


「いやいやシャレになってないよねこれ犯罪だよね裁判起こしたら勝てるレベルだよねえ聞いて……」

「うるさい。掘るぞ」

「……」

 なにを、とか、どこを、なんて聞けなかった。だってこいつ、ヤクザとおんなじ目をしてるもの。いやヤクザの目なんて見たことないけど、それくらい怖かったってこと。

 そんな黒スーツを身にまとったマッチョが出口を見張っていたために逃げ出すこともできず。

 びくびくした雰囲気が彼らの目には好印象に映ったらしく。

 4回目だというこのケツコンの、グランプリに輝いた。いや、なってしまった。

 このあとのことは割愛するが、ただ1つ言えることは。


 中西は処した、ということだ。

処すぞ。

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