木主の譬喩
村はずれで、旅の老人がひとり鑿をふるっていた。
老人はほうぼうに自分の用地を持っていて、好きなときに杉を切り倒してきて、規矩と墨壺とかいう、不可思議な道具をつかって工作する。その様子を気味悪がって、村の者は老人に小さな小屋を宛がったきりで、ちか寄りもしなかった。
老人は朱墨で輪郭を描き、木を削る道具でおおまかに成形した。繰り返しの多い動きがいっけん中風のようだ。老人は、ぶんまわしでこまかな模様を象ると、徐々に人のようなかたちに仕上げていった。夕方まで働いて、一体の猿が出来上がった。老人は一番近い農家の門を叩くと、気味悪がる農婦に売りつけて、一升徳利に引き換え、また別の山に向かっていった。
「じゃ、あれが左甚五郎……。」「言っちゃだめ」