第12話 無属性魔法と料理
結構遅くなって申し訳ありません。
あれから早いもので、三年が経った。俺達は全員十歳になった。
俺達はあの日から、エリザ様・アデリナさん主従は基礎的な魔法の訓練を、俺・スコール様主従は実戦的な魔法の訓練を始めた。
と言っても、二つに分かれた事によって、父さんだけでは教える事は流石に無理になってきた。そこで、一般常識等の勉強を一通り終わって最近はほとんど復習を問題形式で教えてくれていた母さんが、
「そろそろこっちの勉強の方は一段落ついたから私もそっちの方を手伝います」
と言って、母さんがこっちに合流してきたのだ。
そういう訳で、エリザ様達を母さんが、俺達の方を父さんが教えてくれる事になった。
まぁ、エリザ様達の方はまず魔法を撃ってもすぐに魔力切れを起こさないように魔力量を上げる訓練からやっていたけどな。
魔法の訓練を始めてから三年が経った。三年でエリザ様達も最近は俺達と同じように実戦的な魔法の訓練を出来るまでになった。そして、今日はまた新しいことを始めるみたいで、俺達四人は父さんと母さんの二人が並ぶ前で座って待っていた。
「さて皆さん。今日からは、前に言っていた無属性魔法について訓練を開始します」
「おお!」
「待ってましたわ!」
父さんの言葉に、スコール様とエリザ様が声に出して喜びを表現していた。声に出してこそいないが、隣では、アデリナさんがうんうんと楽しみにしながら頷いていた。かくいう俺も、表にはださないが、楽しみにしていた。
「それでは、皆さんにはまずこの水晶に触れてもらいます」
父さんの手が促した方向に俺達が顔を向けると、その目に映ったのは、母さんが持っている一つの水晶だった。おそらく、前に見た魔水晶だろう。だけど、その魔水晶は前に見た魔水晶とは違う所があった。それは魔水晶の色だ。前回魔力量を量った時に見せられた魔水晶は、ほぼ透明だったのに対して、今回見せられている魔水晶は灰色だ。全体的に濁っている様な色合いが特徴的だ。
「この魔水晶は、前に皆さん見せた魔水晶とは違い、無属性魔法だけを調べられる事が出来る魔水晶です」
あぁ。それは前に聞いた気がする。確か前に聞いた時は、無属性魔法は魔法の種類が多くてあの魔水晶では測りきれない。って話だったよな。
「まず、無属性魔法にはどんな魔法があるのか教えます。無属性魔法は、強化系統・回復系統・付与系統の三つの系統に分かれています」
そう言って、父さんは指を三本立てた。
三つ?三つだったらそこまで多くないんじゃないのか?
俺の隣で座っているスコール様達も俺と同じ考えなのか頭に?マークを出している。
「皆。今、たった三つ?とか思いましたね」
母さんに考えてた事をズバリ言い当てられて俺達は一瞬ビクッとなった。
「三つの系統に分かれていると言いましたが、その三つの系統の中には、多くの魔法があります。では、まず私からこの魔水晶で測ってみますね」
父さんは母さんが持っている灰色の魔水晶に触れて魔力を流した。すると、魔水晶が三色の光を放った。色的には赤、青、緑に近い色をそれぞれしていた。
そして、光が止むと……、
ティーダ・クレイ
強化系:腕力強化・脚力強化・触覚強化
回復系:ヒール・リカバリー
付与系:火属性付与・木属性付与・雷属性付与・
光属性付与
という結果が表示された。
「はい。これが私に適性のある無属性魔法です。この魔水晶には、それぞれの人に合った適性のある魔法だけが表示されます。強化系は魔力光が緋色で自分や他人の身体能力等を上げる事が出来るようになります。回復系は魔力光が空色では体力回復や傷の治療等を行います。付与系は魔力光が黄緑色で少し特殊ですからまた後で教えます。では、皆さんにやってもらう前にマリアにやってもらいます。マリア、頼む」
「ええ。分かったわ」
父さんの言葉で、今度は母さんが魔水晶に魔力を流した。
すると、魔水晶が父さんの時よりも強い光を放った。
そして表示された結果は、
マリア・クレイ
強化系:腕力強化・脚力強化・防御力強化・視覚 強化
回復系:ヒール・ハイヒール・エリアヒール・マ ナヒール・リカバリー
付与系:火属性付与・土属性付与・氷属性付与・ 光属性付与
となっていた。父さんよりも適性のある魔法が多い。
「皆さん。今見たように私のよりもマリアの方が魔法の数が多いのが分かりましたね。これは、子供の頃の最初の時に測定した魔力量によって変わるのです。私は、今でこそ百万という魔力量ですが、子供の頃はエリザお嬢様と同じ位か少し少ない程度でした。だからこそ、あの数の魔法でした。そしてマリアは、子供の頃から魔力量が多く一万もあったため、あのような数になりました。まぁ、今でもマリアは魔力量が百二十万もあって負けていますけどね。皆さんは、今の話を踏まえて測定して下さい」
父さんは、説明を終えると、母さんから魔水晶を受け取って俺達の前に出した。俺がその魔水晶を受け取ると、四人で輪になった。
「……それで、誰からやりますか?」
「う~ん。そう言われると気が引けてしまいますわね」
「よし。それじゃあ俺から…」
「私から行かせてもらう!」
誰からやろうか決めていたら、スコール様がやろうとしたところでアデリナさんが横から魔水晶を取ってそう言った。
「あの………、アデリナさん?」
「はっ。す、すまない。しかし…、最初にやるのは私が適任だと思ってな」
「どうしてですの?」
「だ、だって……、私が一番魔力量が少なかったではないか!」
「「「……………」」」
アデリナさんの言葉に俺達は数秒間沈黙して、
「「「ああ~」」」
三人揃って納得した声を上げた。
「うぅぅ…。そんな生暖かい眼差しを向けながら納得した声を上げないくれ……」
アデリナさんは、俺達の様子を見て顔を赤くして涙目になった。なにこの子可愛い。
と、俺は思わずそんな事を思ってしまった。
おっといかんいかん。相手は十歳の子供だぞ。いや、今は俺も十歳なんだけども。それでも前世と合わせたら、三十歳になるな。精神年齢はもういいおっさんだな。
と、そんな事よりもアデリナさんのことだな。
ま、アデリナさんも魔力量が一番少ないから後にやってショックを受けるよりも先にやっておきたかったって思いなんだろうけどな。
「と、取り敢えず! 私からやらせてもらうからな!」
そう言うと、アデリナさんは手に持った魔水晶に魔力を流し込んだ。
すると、さっきの父さんのものより数段弱い光を魔水晶が放った。
そして表示されたのは、
アデリナ・シルス
強化系:脚力強化・聴覚強化
回復系:ヒール
付与系:火属性付与・土属性付与・光属性付与
こんな感じだった。父さんよりレパートリーがちょっと少ない位だな。
なんとなくアデリナさんの方を見ると、落ち込んでいるかと思ったが、そんなことはなくホッとした顔をしていた。
「アデリナさん。どうしてホッとした顔をしているのですか?」
「! あ、ああ。いや、もしかしたら無属性の魔法の適性が無いのではないかと心配になってな」
アデリナさんの言葉に俺はなるほどと頷いた。いやでも、ちょっと待てよ。確か父さんはアデリナさんレベルの魔力量で平均的だと言っていたような。まぁ、アデリナさんの場合は周りにいる俺達が自分より魔力量が多いから余計な心配をしたんだと思うけどな。
「フフ。大丈夫ですよ。どんなに魔力量が少なくても無属性魔法のどの系統でも最低一つは適性がありますから」
「え! そうなのか!?」
父さんのその言葉に、アデリナさんは驚きながらも安堵した様子だ。でも、その情報は先に言っても良かったんじゃないかと思うんだが。
「では、次は私がやりますわね」
次に立候補したのはエリザ様だ。
「それでは、いきますわ!」
エリザ様が魔力を流し込むと、父さんと同じ位の強さの光が魔水晶から放たれた。
表示された結果は、
エリザ・レイアス
強化系:腕力強化・視覚強化・嗅覚強化
回復系:ヒール・ハイヒール・リカバリー
付与系:木属性付与・氷属性付与・闇属性付与
といった感じだった。数的には父さんと同じ位だ。
「ふむ。まあまあですわね」
エリザ様はどこか納得した様子で頷いていた。
「よし。それじゃ、次はどっちにする?」
エリザ様の結果が消えたところで、スコール様が訊いてきた。
うーん。ここは、俺からやってみるか。でも、前みたいに魔力を流した途端に割れたら困るしな。ま、それはスコール様がやったとしても一緒か。だったら先にスコール様にやらせて俺が待つのが良いか?いやでも、しかし…。
俺がああでもない。こうでもないと悩んでいると、
「シン。大丈夫ですよ。魔水晶はもう一つありますから」
と言って、父さんが懐からもう一つの灰色の魔水晶を取り出した。
えーと、………………は?
「あの、父さん……?」
「分かってます。あるのだったら最初から出せって言いたいのですね」
父さんは、俺が何を言いたいのかしっかりと理解しているらしく、説明を始めた。
「シンの考えている事は分かります。もし自分が魔力を流して前回の時のように魔水晶が割れてしまうのではないかと不安になっているのですよね。そのせいでスコール坊っちゃまが測定出来なくなってしまうのではないかと。一応強度は上げていますけど、そういう時のために準備していたものですよ。こっちの方の魔水晶は」
そして、父さんは予備の魔水晶を俺に渡してきた。どうやら、最初から俺とスコール様には同時にやらせるつもりだったみたいだな。
スコール様もエリザ様から魔水晶を受け取り、準備万端な様子だった。
「それでは、二人とも。やってみて下さい」
父さんが俺達に促してきた。
「よし。やってみるか」
「はい」
俺達は同時に魔水晶に魔力を流した。
「ゴクッ」
誰がやったのか、唾を飲み込む音がした。ま、前回の事があるから、緊張しているんだろうけど。それは俺も同じなんだけどな。
隣のスコール様は、特に何も考えていないのか目を爛々とさせながらやっている。
そして、魔水晶から光が放たれた。父さんや母さんのより強い光が放たれたが、前回のように割れたり皹が入ったりする事はなかった。これには父さんと母さんがホッとしたりガッツポーズをしたりして喜んでいた。どうやら前回よりも強度を格段に上げていたようだ。
そして、表示された俺達の結果は、
シン・クレイ
強化系:腕力強化・脚力強化・防御力強化・武器 打撃力強化・武器斬撃力強化・防具打撃 耐性強化・防具斬撃耐性強化・視覚強化 ・聴覚強化・嗅覚強化・味覚強化・触覚 強化
回復系:ヒール・ハイヒール・フルヒール・エリ アヒール・マナヒール・ハイマナヒール ・フルマナヒール・エリアマナヒールリ カバリー・エリアリカバリー・ディスペ ル・リペア
付与系:火属性付与・水属性付与・土属性付与・ 木属性付与・風属性付与・氷属性付与・ 雷属性付与・光属性付与・光属性付与
スコール・グライド
強化系:腕力強化・脚力強化・防御力強化・武器 打撃力強化・武器斬撃力強化・防具打撃 耐性強化・防具斬撃耐性強化・視覚強化 ・聴覚強化・嗅覚強化・味覚強化・触覚 強化
回復系:ヒール・ハイヒール・フルヒール・エリ アヒール・マナヒール・ハイマナヒール ・フルマナヒール・エリアマナヒール・ リカバリー・エリアリカバリー・ディス ペル・リペア
付与系:火属性付与・水属性付与・土属性付与・ 木属性付与・風属性付与・氷属性付与・ 雷属性付与・闇属性付与
となっていた。………うむ。やはりチートである。これが異世界転生補正というヤツだろうな。そしてやっぱりスコール様も同じくチートだった。あっちの方は転生補正とかじゃなくて天然みたいだけど。
「これはこれは…………」
「まさかとは思ったが……!」
エリザ様とアデリナさんが俺達の結果を見てそれぞれ感想を言った。二人とも、以前の俺達のヤバい結果を見ているので、今回はそこまででもなかった。
父さんと母さんは、あらかじめ予想していたのか、そこまで驚いてはいなかった。それでも、俺達の結果を真剣の眼差しで見ていた。
◆◆
一息ついて、俺達の結果が消えた後に俺達四人は再び父さんと母さんの前に座っていた。
「はい。それでは、無属性魔法について先程教えたものよりもさらに詳しく教えていきますね。まずは強化系。強化系は自分や他人を強化すると言いましたが、ただ単純に腕や足の力を上げるだけが強化ではありません。シンやスコール坊っちゃまのように五感の能力を上げるものや武器や防具の性能を上げるものもあります。次に回復系です。回復系はまず自分や他人の体力回復や傷の治療だけではなく、毒や麻痺、病気等も治す事が出来ます。その他にも、他人に自分の魔力を分け与えたり、武器や防具の破損等を一時的な応急措置ではありますが、直す事も可能です。ちなみにどれも使う魔力量によって性能が変わります」
なるほど。俺やスコール様の魔力量だと、おそらくどの系統の魔法も性能は最高クラスになるんだろうな。
「では、やってみますね」
そう言った父さんは、いきなり腕を振り上げて拳を握りしめ、地面を殴った。
ドンッ
という音がした。
「はい、これが腕力強化も何も使っていない状態の私の力です。そしてこれが………。腕力強化」
また、父さんが拳を握った。さっきと違うところは、今度のは緋色の魔力光が腕を包んでいた。
そしてそれを降り下ろした。
ズドーーーーーンッ
さっきの時の拳とは威力が段違いだった。音が力強くなり、地面が揺れた。
父さんはふうっと息を吐き、
「はい。これが強化系統の魔法の威力です。見ての通り私のパンチ力が上がった事が分かります。次に、回復系統の魔法に移ります。マリア、よろしく」
「ええ。あなた」
父さんは母さんの方を向くと地面を殴った方の手を出した。よく見てみると、少しだけだが、血が出ていた。
なるほどな。腕力自体が上昇していても、腕にはダメージが伝わるし、傷付くものなんだな。
俺がそんな風に考えていると、母さんが始めた。母さんは、父さんの手に自分の手を包むように触れた。
「ヒール」
母さんがそう言うと、空色の魔力光が父さんの手を包んだ。光が止むと父さんの手が地面を殴る前の状態のように綺麗になった。
「はい。これがヒールです。ヒールは、擦り傷や切り傷程度の軽傷ならば簡単に治す事が出来ます。ヒールの上位版であるハイヒールは火傷クラスのものを、最上位版のフルヒールは、千切れた腕や脚等を繋ぎ治す事も出来るようになるのです。マナヒールは、自分の魔力を他人に分け与える魔法になっています」
「それと、スコール坊っちゃまとシンが使えるディスペルという魔法は、強化系統の魔法の効果を打ち消します。リペアの方は、先程教えた武器や防具の修復を行う魔法です」
父さんが母さんに続ける形で説明した。
「それでは、最後に付与系統についてです。付与系統は、自分の使える属性を付与させる魔法です。その対象は、特に制限等はありません。では、やってみます」
父さんは俺達の前に腕を伸ばした。
「火の力よ」
詠唱した父さんの腕が、一瞬黄緑色に光り、その後はずっと赤い魔力光が腕を包んでいた。
「はい、これで私の腕に火属性が付与されたことになります」
『おお~』
俺達は赤く光る腕を見て四人で感嘆の声を漏らした。
「この状態になると、水属性と雷属性の魔法や付与されたもので攻撃されると、受けるダメージが普通の状態の時よりも大きくなります。こちらが攻撃する場合は、小さくなります。逆に風属性と氷属性の魔法や付与されたものだと相手からの攻撃によるダメージは小さくなり、こちらが与えるダメージは大きくなります。つまり、以前に教えた魔法属性の相性そのままになっています」「因みに、シンとスコール坊っちゃまのディスペルならこの付与も打ち消せますよ」
父さんの後に母さんが続けて言い終わると、父さんの腕の光が消えた。付与を解いたのだろう。
しかし、俺に適性のある無属性魔法多すぎだろう。いや、俺の魔力が測定不能だから仕方ないんだろうけど。それにしても、あの数を覚えるのは疲れるだろうな。
「全部覚えんの流石に面倒くさいなぁ」
スコール様も俺と同じ考えのようだ。
「大丈夫です。ちゃんと教えてあげますよ」
母さんが俺達を安心させるために微笑みながらそう言った。
「それでは、実際に使ってもらうのは明日からにしますので、今日はこれで終わりにします。昼ご飯にしましょう」
『はーい』
◆◆
無属性魔法の訓練が終わった俺達は現在、ダイニングで食事を摂っていた。
「うん。やっぱり美味い!」
「本当ですわね」
「確かに美味しいのだが……。従者としてとか、女としてとか色々と負けた気がして複雑だ」
スコール様、エリザ様、アデリナさんがテーブルに座って昼食を食べている。
そんな中、俺はと言うと……、
「オーイ、シン。そろそろお前も食べろよ」
「はい。そうします」
キッチンで俺達の食べる料理を作っていた。正確には、作り終わったのが正しいな。
俺は自分が作った料理を食べるために、キッチンからダイニングに戻ると、
「うん。うまいうまい」
「もう、止まりませんわ」
「うぅぅ……」
そこにいたのは、上機嫌で俺の作った料理を食べるスコール様、エリザ様と苦い顔をしながらも黙々と食べているアデリナさん。そして、テーブルの上には4分の3以上が食べられ殆ど食べられた料理。
…………………………
「皆さん……」
「!? ハッ。わ、悪い、シン」
「す、すいません……。あまりにも美味しかったものですから…」
「すまない」
俺が三人に対し声をかけると、三人は食べるのを止めて、顔を上げて料理の量を確認すると、三人とも俺に謝罪した。
「…はあ、もういいですよ。食べてしまったものはしょうがありませんから」
三人は俺がそこまで怒ってないのに安堵したため息を吐いた。
「ですが!」
続く、俺の突然の言葉にビクッと体を震わせた。
「今度からは気を付けて下さい!私の食べる分を残しておくこと」
『は、はい……』
そして、俺は三人が見つめる中、昼食を食べ始めた。




