第11話 あり得ないと才能
「…おいおい。何だあれは……」
「状況だけを見れば、シンとスコール様が魔法を高速で操っていますね」
応接間では、六人の大人達が窓から外の庭に見入っていた。先程まで固まっていたが、クルドの独り言にティーダが答えた。
「多分そういう意味で言ったんじゃないと思うぞ、ティーダ。……それよりだ。レナ、マリア。あれはやっぱり…」
「ええ。マリア」
「はい。奥様、あれは…」
「「“マジックコントロール”です(ね)」」
レナとマリアが声を揃えて言った。
「やっぱり、そうだと思ったけど…」
レオンハルトが若干苦しそうな顔になった。
「でも、それって…。おかしくないか」
「ああ。“マジックコントロール”は本来、保有する魔力が多い者が何年も努力することで始めて使えるようになる高等技術」
「あのエルフですら、才能が無いと大人になってからしか使える事が出来ないと言われているのに。七歳のあの子達が使えるなんて…」
「あり得ないわ」
マジックコントロールを使っていると言葉にして初めて認識した所で、クルド、ジェード、マリア、レナがそれぞれ焦ったような声をあげた。
「でも、そのあり得ない事があり得てしまった。というのが今の状況な訳になりますね。旦那様」
「そうなるな」
そんな中、レオンハルトとティーダが冷静に状況把握をしていた。
冷静な二人に他の四人も段々と落ち着きを取り戻した。
「…それで、どうするつもりだ?ティーダ」
「どうする、とは?」
ジェードがティーダに少し睨み付けるような視線を向けながら尋ねた。それにティーダはとぼけたような声を出した。
「とぼけるな!あの二人の事だ!」
ティーダの様子にジェードは怒りながら再度尋ねた。
「ん~。……どうしょうもないな。これは」
「だな」
「な……!」
ティーダの全てを諦めたような答えにレオンハルトがすかさず同調する言葉を重ねたので、ジェードは言葉を失ってしまった。
他の面子にしても、二人の様子に口を開けてポカンとしている。
「……そ、それはどういう意味だ!」
ジェードが興奮しながら尋ねた。
「どうもこうも。こうなったらあの子達、多分私達が何も教えなくても、行き着くところまで行くだろう。マジックコントロールなんて高等技術を恐らく自分達で考えついたんだろうしな。それに考えついたものを直ぐ様実行に移して、さらっと簡単にやってのけてしまってるしな」
そう言って、ティーダは庭の方向を指差した。そこには、先程よりも数段速くなって目で捉えるのがやっとのスピードになった十四個の魔法が止まる事なく動き回っている。
「ああ。それとこれは俺の予想だが、あいつらおそらくその内最上級魔法を覚えるかもしれないな。いや、もしかしたら創ってしまうかもしれない」
誰も知らない見たことがない新しい属性の魔法を。と、レオンハルトが窓の額に手を付けながら言った。
新しい属性の魔法。その言葉に、他の面子は全員息をのんだ。それは当然だ。魔法の属性とは、基本的に(魔力が無く魔法を使えない獣人や、種族固有の魔法を持つエルフ等の例外を除けば)九属性+無属性のいずれかなのだ。それがもし増えるとなれば、それはもう世界中で大混乱が起こる。そんな事を想像するのは容易だ。そして、それを聞き付けた貴族や、その他の勢力に目を付けられるだろう。まだ子供のあの子達が。
貴族として考えるのならば、その話はとても嬉しい話だろう。
だが、
「だけど、それはあくまで予想でしょう?確実に創るとは…」
「いや、何だろうな…。多分だけど、創ると思う。予想じゃなくて、確信を持って言える。あれを見てたらそう思った」
レナの問い掛けにレオンハルトは窓の外を見ながら落ち着いて答えた。
「………おい。もしそうなったとして、お前はどうするつもりだ?レオン」
クルドは、少し思案し、レオンハルトに訊いた。
「……ふ。別に。どうもしないよ。確かに、今の俺の予想が現実の物になったとき、貴族として考えたら、あいつらの事よりも自分達の都合で考えていただろう。だけど、俺は親だ。だったらあいつらが危機に陥ったら助けるのが普通だ。子供達には幸せになってほしいと思ってる。それはお前等も同じだろう?ティーダ、レナ、マリア。それにクルドにジェードも」
レオンハルトの頭の中には、子供達が幸せに暮らす未来しか考えていないようだ。そして、レオンハルトが言った言葉は、レオンハルトが心の底から思って出た言葉なのだろう。その証拠に、庭で未だに魔法を動かし続けているシンとスコールに対して、真剣でありながら、どこか微笑ましい視線を向けている。
「まあ、それが当然ですね」
「フフフ」
「はい」
ティーダ、レナ、マリアが同意するように答えた。
「やれやれ。これじゃあ俺が微妙に悪者っぽくなってるみたいじゃねぇか」
「流石にそこまではいってませんよ。旦那様。ですが、これ以上言ってしまえばそうなる可能性は出てきますけど」
「言うなよ……。レオン、俺達もその考えには賛成だ。な、ジェード?」
「はっ。旦那様」
そして、クルドとジェードも同調した。
そう、彼等は全員貴族である前に子供を持つ一人の親なのだ。だから、子供達がピンチになれば、助ける。道を踏み外そうとすれば、それを正す。それが親というもの。彼等は親の役目をちゃんと理解している正しく親と呼べる者達だ。
「そんじゃ、さっさと行くか」
「え?どこにですか?」
「どこって……。子供達のところだよ。ほら、行くぞティーダ」
「はっ。旦那様」
レオンハルトとティーダはそう言うと、ドアから廊下に出て、外に向かった。他の六人もその後に続くように、外に向かって行った。
◆◆
俺達は、あれからお互いのそれぞれの魔法を操り続けていた。やってみたら案外楽しくなってきていて、特に話等はしていた訳でもないのだが、どちらがより速く正確に操れるかの勝負になっていた。
「どうしたシン。もう終わりか?」
「いえ、まだまだです。もっと速くしていきますよ」
俺も魔法を使っているという興奮からか歯止めが効かなくなっていた。
途中何度かぶつかりそうにはなっていたが、それでも何とか躱して操りを続けていた。
「うううう…。……ダメです、お嬢様。先程からやっているのですが、全然出来ません」
「あら。本当に難しいですわね」
俺達の近くでは、エリザ様とアデリナさんが俺達と同じように魔法を操ろうと頑張っているみたいだが、苦戦しているようだ。
俺は首を少しだけ二人のいる方向に動かしてみると、アデリナさんが掌を上にしてファイアボールを浮かせていた。しかし、浮かせた後、あやつろう…努力しているようだが、制御出来ずにそのまま空へ上がって消えてしまっている。
エリザ様は、五大属性は木属性しか使えないので、派生属性の氷のアイスボールを出そうとしているのだが、出てくるのは俺達が出した半分以下のサイズのアイスボールしか出てこない。出てもすぐに消えてしまっている。
「う~ん。イメージはシンさんとスコール様ので出来ているのですが、やはり魔力量でしょうか?どうすれば上手く出せるのかしら…?……あら?」
エリザ様が思案していると、何かに気付いたのか、家の方向に顔を向けた。
つられて俺とアデリナさんもそっちの方向を向いた。すると、家から六人の人影が出てきた。
「スコール様。スコール様」
「ん?どうしたシン?」
俺は一旦魔法を停止させ、未だに気付かずに魔法を操っているスコール様に声をかけた。
スコール様は俺に声をかけられると、魔法を止め、俺達と同じ方向を向いた。
「ん?あれ、父さん達か?」
「はい。それに母さんやクルド様達までいます」
「一体どうしたのでしょうか?」
「話し合いとやらは終わったのだろうか……」
突然父さん達が来たことに俺達は全員戸惑っていた。
「おーい。スコール。シン」
俺達が戸惑っていると、レオンハルト様が手を振りながら俺達二人の名前を呼んだかと思えば、俺達に向かって手招きした。
俺とスコール様は顔を見合わせて首を傾げて父さん達の元に行った。
俺達が父さんの側に着くと、
「ねえ、二人とも。あれは一体どうしたんだい?」
唐突にレオンハルト様が俺達の後ろを指差して訊いてきた。俺とスコール様はその指の先を見ると、そこには未だに消さずに空中に浮いているままの十四個のボールがあった。
しまった。そう言えば、停止させたまま放置していて消すのを忘れてた。どうしよう。やっぱり教わってなかった事を勝手にやった事怒っているのかな?取り敢えず、謝った方が良いかな。
「えっと…、その……。ごめんなさい!」
俺は取り敢えず頭を下げて謝罪した。
「シン。何いきなり謝ってんだ?」
「いいから!スコール様も!」
「お、おう…。ごめんなさい」
俺達二人が頭を下げた事に対して周りはポカンとしていたが、レオンハルト様がプッと言い、その後すぐに大笑いを始めた。
「別に怒っている訳じゃないから謝らなくていいよ。だからほら、二人とも頭を上げて」
ずっと大笑いをしているレオンハルト様に代わって父さんが言ってきた。
「で、てずが…」
「おいおい。これじゃあ謝り損じゃないか。しっかりしてくれよシン」
「スコール様…」
すごい能天気な発言をしているスコールを殴りたくなっている俺は間違ってないと思いたい。
「ハァ…、ハァ…。いやあ笑った笑った。ま、それはともかくとして、なあスコール。あれ、どうやったんだ?」
笑い終わったらしいレオンハルト様が改めて尋ねてきた。
「ん?あれか?あれはシンにやれって言ったら出来て、その後に俺もやってみたら簡単に出せた。それで、ちょっと思い付いたから出した魔法をそのまま操ってた」
スコール様は、これまでの経緯を説明した。と言っても、本当に簡潔にだけど。
大人達はその説明を聞いた途端、円になってヒソヒソ話を始めた。「思い付いたからって…」とか「この子達、どれだけ才能があるの?」とか少しだけ声が漏れて聞こえている。何の話をしているんだ?
大人達は話し合いが終わったのかまたこちらを向いた。
「取り敢えず経緯は分かった。それじゃ、今から君達には、実戦を交えながらの魔法の訓練を始めていきたいと思います」
「「「「実戦?(ですか)(ですの)」」」」
いきなりの父さんの宣言にいつの間にか近くに来ていたエリザ様達と四人で言葉が重なった。
「ええ。先程から二人の事を見ていましたが、君達にはおそらく才能があります。ですので、早いうちから実戦の中での魔法の使い方を覚えておいた方が良いと思いましたのでね」
と、父さんが補足説明をした。というか、さっきのあれ、見られてたのか。
「いいなあ」
「羨ましい…」
隣のエリザ様とアデリナさんから羨望の眼差しを向けられている。
「ふふ。いずれ二人にもシンとスコール様と同じように訓練するときが来ますので、それまでは基礎の訓練をしっかりやっていきましょう」
「「はい」」
どうやら、これから忙しくなりそうだ。
◆◆
改めて、俺達は全員で魔法の訓練をするためにさっきまで居た場所にいた。そう、全員でだ。分かりやすく言うと、今まで居なかった大人組もいるのだ。何故か分からないけど。
「それでは、実戦を交えた魔法の訓練を始めます。二人とも、武器は持って来ましたね」
「おう」「はい」
俺達は事前に父さんに言われたようにそれぞれの武器を部屋から持って来ていた。
「ですが、父さん。何故武器を持ってやるのですか?」
「ああ。まだ言ってませんでしたね。武器を持って来てもらった訳は、その武器を使って魔法を出してもらうからです」
「「??」」
「つまりですね…」
父さんの説明をまとめるとこうなる。実戦とは基本的に武器を持っての戦いとなる。(武器を使わずに魔法だけの人もいるにはいるが、極少数)そして、武器を使っている時にその武器の構えを解いて魔法を使う。その後にまた武器を構えて戦う。それだと完全に手間がかかる。だったら武器から魔法を出して戦った方が効率も上がって戦闘もスピーディーになるという訳だ。
「ふむふむ」
「成る程。分かりやすいですわね」
そう言ったのは、俺達ではなく、俺達の後ろで座って話を聞いているエリザ、アデリナの主従だ。基礎の方は俺達の方が終わった後にやるので、今は見学している。
「では、二人とも、早速武器を取り出して魔法を使ってみて下さい」
父さんは、詳しい説明も無いままでいきなり言ってきた。えっと、まずはどうすれば…。大丈夫かな。俺の前世じゃ武器から魔法を出すなんてものは見たことがなかったからな。……さて、本当にどうしようか。
俺が思案していると、
「お。出来た」
と、スコール様からそんな声が聞こえた。俺は瞬時に振り向くと、そこには大鎌の刃の部分からファイアボールを出したスコール様がいた。
「スコール様。それは、どのようにして出したのでしょうか?」
「ん?これか?どのようにってこいつを自分の体の一部だと思って、そっからさっきみたいに魔法を使っただけだけど」
スコール様はさも当然とばかりに答えた。
その言葉に俺は、はっとなって気付いた。成る程。そういう風にやれば良いのか。早速やってみるか。
俺は目を閉じて、イメージを始めた。
(刀も体の一部。体の一部なら魔法を撃つのも出すのも簡単!)
そして、イメージが完成した。
「ファイアボール!」
俺が唱え目を開けた瞬間、刀身からファイアボールが出た。成功したみたいだ。
「ふう……。出ました」
「おお!」
「やったな!」
「お二人とも。凄いですわ」
子供組は諸手を挙げて喜んでいる。
「おい…。本当に出たぞ」
「ああ…。しかもその前の詠唱が無かったぞ」
「無詠唱。…これは、本物かもしれない」
「天才ってことかしら」
「ええ。そうなのかもしれないわね」
「………」
反対に、大人組は神妙な顔付きだ。
そして、父さんが俺達の前に出た。
「うん。二人ともよく出来ました。それでは、今日はこれまでとします。明日からは、これに実際の戦闘も加えていきます。覚えておいて下さい」
「「はい」」
こうして、突然始まった今日の魔法の訓練が終わった。
ありがとうございました。
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