ホワイトデーってなんですか?
困ったな。
どうしよう。
こういうときは、ばあちゃんに相談するかなぁ。
俺は、はじめて女の子からチョコをもらった。三月十四日はそのお返しをする日らしいが、何をあげたらいいのかわからなかった。
「ばあちゃん、チョコのお返しって何あげればいいの」
背中を丸めて、パソコンに夢中のばあちゃんは現在七十歳。
「えっとねぇ……」
ばあちゃんはパソコンをかたかたのんびりたたきながら、答える。
「クッキーかマシュマロか飴だったわね。あーでも、今は三倍返し?だったかなぁ」
「三倍がえし?それって何?」
「もらったチョコのお値段より三倍の値段のお返し……まあ、バブル期の流行だから、この不景気にそれはないわよねぇ。そういえば、あんたがもらったのは、手作りのト…ト…トラフだったかねぇ」
「トリュフだよ。じゃあ、手作りでクッキー?」
「いやぁ……あれも、なんか意味があった気がするんだけどねぇ。一番好きな子にはマシュマロだったかしら?」
おばあちゃんは、ちょっと手を止めて考え込む。俺はあまったからあげると言われた品に、何か意味を持たせてお返しするのはどうなのかと思うが、何もかえさないというのも、よくないと思う。
「こういうときこそ、この子の出番ね」
ばあちゃんはパソコンを操って何やら調べだした。
「ああ、あったあった。うん。便利便利」
本当にこの人七十歳かとときどき思うほど、無邪気な顔で俺をみて手招きした。画面にはホワイトデーのお返しについて説明が上がっている。
「マシュマロが嫌いで、クッキーが友達、飴があなたが好き……」
俺は画面の文字を読み上げて、ため息をついた。
(あまりものの場合は、どうなんだ?)
「手作り飴……は、ちょっと無理かしら。水あめに一工夫すれば……」
ばあちゃんは、なにやら勘違いの方向に想像を膨らませているらしく、ぶつぶつとつぶやきながら検索をつづける。
「いや、あれ、あまりものだからさ。そういう意味はないと思うけど」
「そうかしら?なんだっけ、ツンデロ?なんじゃないの?」
「いや、ツンデレだよ。ってか、そういうタイプじゃないし、あんまりしゃべったこともない奴だから……義理チョコってやつかな?」
「そうかしらねぇ……」
「ばあちゃんの時代にもバレンタインとかあったの?」
「あったみたいだけど、あたしは縁がなかったわねぇ。なんだかよくわからないうちに、会社の女子社員でチョコレートを買ったりした記憶はあるけれど……あ……」
「何?」
「明日、結婚記念日だわ」
「は?」
「おじいちゃんとあたしの」
嬉しそうにばあちゃんが笑う。
「そうかぁ。そういう意味だったんだわ」
ばあちゃんは何かを納得した。
(明日は三月十四日。それと結婚記念日が何を意味するんだ?)
俺はそうは思うものの、なんだかうっすらと頬をそめているばあちゃんが、ちょっと可愛いなと思った。
そういえば、今日はじいさんがいない。靴がなかったから出かけているんだろうけど。
「まあ、とりあえず、クッキーで様子みてみるのもいいかもしれないわね。もちろん、あんたがその子のこと好きなら、飴をあげればいいと思うよ」
「いや、好きとか……わかんねぇよ。みんなさぁ付き合ったりとかしてるみたいなんだけど」
「まあ、中学生だしねぇ。彼氏ができたとか、彼女ができたとか、特別ってものに憧れたりする年頃だから……まあ、あんたはちょっと例外かしら」
「例外いうなし」
「まあ、まあ、むくれるでない。孫よ。おばあちゃんが、知恵をあげよう。いいかい……」
俺はそういわれて、どうするか悩んだが、結局ばあちゃんが授けてくれた知恵を使って、お返しをすることになった。
放課後、俺はお返しシュチエーションの定番とばあちゃんにいわれた校舎裏に、彼女を呼び出した。
「これ、お返し」
彼女はびっくりしている。
「あ、ありがとう」
「それと……これも」
そういって俺は、ばあちゃんが趣味で作っている斬新なチョーカーを渡す。
「あまったからやるよ」
「あまったって……どういう意味よ」
「うーん。ばあちゃんがじいちゃんに作ったプレゼントのあまりだから」
彼女は吹き出す。
「本当にあんたのおばあちゃんがつくったの?」
「そう、パンクだろ?」
彼女は盛大に笑いだす。
「かっこいい!ねぇねぇ、今度、おばあちゃんに会わせてよ」
「いいけど、その場合、友達でいいの?それとも彼女になるの?」
彼女は一気に真っ赤になってしまった。
(ああ、なるほど。ばあちゃんの言ってた通りだ。こいつ、ツンデレなんだ)
「とりあえず、友達ってことにしようか」
「そ、そっちはそれでいいわけ?」
「正直、お前のことよくわからないから、まあ、決まり文句で悪いけど、お友達からってことでどうだ?」
「う……いいわ。そういうことにしてあげる」
彼女は真っ赤な顔のまま、すねたようにそう言った。
(ああ、なんか可愛いな)
そう思ったけど、俺は口にはださなかった。
【END】