一話 ど真ん中の勇者
暗闇に浮かぶ私の意識が、何かに引っ張られる。
心地よい夕闇の中で私はそれを振り払った。
ここは、妙に心地がいい。ここから出たくないし、離れたくない。やめて、引っ張らないで。
ぐいぐいとかなりの強さで引っ張られるのに、必死に抵抗する。
––––優輝、起きて。ここから出よう。
いや、嫌です、先輩。ここがいいの。ここは、心地がいいの。
私は、声の主を"先輩"と呼んでるけど、その声の主が誰なのか、どんな容姿をしていてどんな人格の人なのか、全く分からない。けれど、確かに私は、
その声の主を信用していた。
–––…確かに、ここは心地がいい。けど、ここにいたら、優輝はもう生き還れないんだ。お願いだ、ここから出て、僕を探して。僕に、会いにきて。
ここから出ないと、生き還れない。生き還れないと、先輩に会いにいけない。それは駄目だ。絶対に駄目なんだ。私は、閉じていた目を開けた。
ふわり、と身体が柔らかな光に包まれて、やがて光は辺りを照らし、そして、私を出口まで案内した。
光の先にあったのは、一つの紋様の書かれた床。ファンタジー漫画や小説とかであるような魔法陣だ。
––さ、そこに立って。新たな僕達の運命の始まりだ。
もし、貴方を探せなかったらどうするんですか、先輩。貴方に会いにいけなかったら、私は。
––僕等は運命だ。君が、僕を探さずとも必ず会う。
その声は、本当に私の心を落ち着かせた。例え、何があろうともその声を聞くだけで冷静になれる自信が私にはある。
ーー行っておいで、優輝。これは僕からのお守りだ。
ふわりと、橙色のマフラーが首に巻かれる。暖かくて、お日様の匂いがした。香りと声に背中を押されて、私は魔法陣の上に立つ。ぶわっと、辺りが変わっていく。身体の芯が熱くなる。これが、生き返るって事なのだろうか。私は目を閉じた。
「して、フランよ。真に、勇者様はここにいるのだな?」
「はい。強大な魔力の人型が確かに、この魔法陣の上に立っている。間違い無く、勇者でしょう。唯、身体がないので、まずは体から生き返らせないと…」
「それなら、世界樹の葉を取り寄せましたよ、フラン。」
「ありがとう、聖女様。さぁ、はじめましょう。勇者の儀を。」
声が聞こえて、目を開ける。そこは、何処かの