4.復讐と友情(4)
メデューサが居る屋敷の近くに居たトラードは、高鳴る気持ちを押さえて古びた門をゆっくりと開けた。中は、青々した芝生と黒色の屋根。ガラスがない窓。屋敷っと言うよりも牢獄のような印象だ。
「…………」
ここで、殺せば良いんだ。後悔したらダメだ。救いを求めたらダメだ。怖れたらダメだ。生きることも、死ぬことも、諦めたらダメだ。
トラードは、言い聞かすように持っていた剣を見て、大きな深呼吸をする。すると人影のようなものが見えトラードは、ゆっくりとその気配がする方へと歩き出した。
「んあら?私になんかようかしら?」
その言葉と同時にヒールが地面を叩く音。そして、腰をくねくねと独特な歩き方で出てきたのは、あの憎きメデューサだ。光も透き通らないような濃い色の大きなサングラスをしている。目をみたら石化となり、噛まれると全身に毒が回り死ぬ。トラードは、メデューサを目の前にして、憎しみと恐怖が混ざったような感情が込み上げてくる。
「貴女を殺しに来ました」
トラードは、無理な笑顔で言った。すると、メデューサは、まるでトラードをバカにするように高笑いをしてお腹を押さえ込みながら座り込む。
「あら、面白い事を言うわね。弱い人間が私を殺しに?ウフフ」
「確かに弱いかもしれません。でも僕は、それでも貴女を確実に正確に殺す事をが出来ます!」
お母さんの為に殺す。
トラードは、メデューサを睨み付けた後、目をとじる。
「酷いじゃない?私を見なさいよ。この美しい私を」
メデューサは、歩き始める。メデューサの居場所を目をとじているトラードに与えられたのは、キツイ香水の香りとヒールが地面を叩く音だけ。トラードは、全ての神経を耳と鼻に集中させた。
右にいるのだろうか。左にいるのだろうか。どのぐらい離れているのだろうか。香水の香りで、鼻も頭も可笑しくなりそうだ。しかしメデューサを殺すことで、全てがどうにかなると思っているトラードにとっては、正確な位置など考える余裕もない。
「私を恐れないよ。ねぇ?もっと私を楽しませてよ」
剣を振れ。メデューサを殺せ。正確に確実に首を狙え。
「トラード!」
ラルクの声が聞こえたと思ったが、意識が薄れ目を開けると目め掠れてよく見えない。トラードの首筋から激痛も感じた。メデューサは、トラードの首筋を噛みにっこり微笑んで立っていたのを見たラルクは、頭の中が真っ白になった。
「…ラルク…さん…?」
倒れていくトラードを見たラルクは、慌ててトラードの所に向かった。
「トラード!!」
「ラルクさん…来てくれたんですね…ごめんなさい…僕…弱くて…」
やっとたどり着いたルリラナは、すぐさまトラードに解毒魔法の呪文を唱え始めた。
「失いなくないんだ…もう二度と…」
立ち上がり目隠しをする。するとメデューサが高笑いをしてくるくると回り空を見る。
「素敵な友情ね!良いわ!ウフフ傷ついた友のために私を殺す。フフフ素敵過ぎて壊したくなるわ」
メデューサは、不気味に微笑みながら言った。
血が熱い。全身の血が燃えるように感じたラルク。それといって怒りもなく冷静で、落ち着いた様子でもみえる。メデューサは、高いヒールが地面を叩く音をたてながら歩き始めた。
「ウフフ…そうあなた方…我が主の心臓をもつ者ね」
我が主の心臓。まただ。メデューサが言った言葉とローブの人を思い出すが、同一人物だとは、思えない。我が主の心臓と言うのは、意味はなんだろ?
ラルクは、少し考えたがもう考えるのを止めた。ラルクは、走りだしメデューサの目をめがけて指を突き刺した。
「必殺!目潰し!」
「ぐわぁ!」
目が霞む。何故ラルクは、メデューサの居場所が解ったのだろうか。目を閉じているラルクにとって使えるのは、匂いと音のみ。目が痛い。目が霞む。許さない。メデューサは、立ち上がりラルクが居るであろうと思う方向を見る。するとラルクは、にっこり不気味な笑みでこっちを見ているようなきがする。
「卑怯でごめんな」
呟くようにラルクは、言いメデューサの両目を斬った。あまりにもの激痛でうずくまるメデューサは、目を押さえ血の涙を流す。
「痛い。痛い、痛い痛い痛い痛い、痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!!!!!目が痛い!よくも…よくも私の美しい目を!シャー!」
飛びかかるが、目が見えないためにラルクがどこにあるのか解らない。立場が逆になったメデューサは、目が見えない事に恐怖を感じた。
「朱獅子の目…ってなんだよ。我が主の心臓ってなんだよ」
ラルクは、静かに剣を首筋に向けて言った。
「!!!!どうして…あーそう言う事ね…ウフフフ」
メデューサは、にっこりと微笑み立ち上がる。
「おとぎ話の“龍王の欠片”って知ってるわよね」
「ん?ああ。知ってるぜ」
「だったら良いわ」
メデューサは、首筋にある剣を持ち
「ーーーー」
「え?」
メデューサは、自ら首をラルクの剣で切り落としゆっくりと周りに血が飛び散りながらも倒れていった。
言わば、自殺だ。自らの手で、自ら死を選んだメデューサの血がラルクの顔に飛び散っていた。
「メデューサ…それってと言う意味なんだ?」
驚きのあまり思わず心で思った事を言ってしまった。ラルクは、とりあえず息を整えてトラードの所へ向かった。どうやらルリラナのお陰で解毒は、出来たようだ。
「勝ったんだね 」
「勝った?」
メデューサは、死んだ。ラルクは、生きている。世間一般的には、勝利したと言いたい。けれども満足は、出来なかった。勝利ではなく敗北した気分になったのだ。
「違う負けた」
「え?生きてるのに?」
「ああ、メデューサは、自殺したから俺は、あいつを殺してない」
「ふーん」
素っ気ない返事をしながらもルリラナの心は、踊るように嬉しかった。
「おとぎ話の“龍王の欠片”ってどんな話しか覚えてるか?」
ラルクは、真剣な顔で二人に聞いた。それはまるでこの先どんな苦難があるか知っているかのように。