24.目覚めた力、奪われた力(6)
トラード達がワープした先は、見覚えがある街だった。トラードは、目をそらし少しだけ考えた。
「此処は、何処じゃ?」
「ビーナスよ」
「……確かにこの街なら安全ですね」
この街なら安全。その言葉に不思議に思ったザックは、もうひとつ質問した。
「どしてなん?」
「この街は、強力な結界で守られていると言われています。高度な魔力な結界ですので、“魔法を使おうとしても使えない”もしくは、使えたとしても“威力の弱い魔法”になってしまうんです」
ザックは、辺りを見て目を閉じた。確かに此処には、強い結界で覆われている。しかしもっと強い魔力も感じた。
「幸いにも朝方なので誰もいませんのでとりあえず僕とラルクさんの家に向かいましょう」
「そうですね。案内を頼みますね」
トラードは、頷き歩き出した。メディーサの一件か戻ってきていない。街の人たちは、どんな目で3人を見るだろう。ルリラナの父レホルは、どんなことを言うのだろう?
「トラード。どうかしたん?」
「僕とラルクさんは、この街に嫌われていますから“故郷に帰った!”って感じが無いので」
「……いつか認めて貰えるけん。ワシだって鬼族で“月読みのザック”って言う称号付きじゃ。悪い事しとったワシでもこうして街に認められて、ギルドのマスターやっとるんじゃけんな?大丈夫じゃ」
何故か話が噛み合ってないと思ったトラードは、空笑いをして空を見た。いまだに目覚めないラルクを心配するのは、当たり前だ。玉座に座らすなって言われたのに座ってしまった。
ここにいるのは、本当にラルクなのだろうか?単なる脱け殻ではないだろうか?別の何かになっては、いないだろうか?
こんなになっていましたのは、自分が弱いからだ。
トラードは、眼帯を触り少しだけ考えた。
「トラード」
「はい」
「ここがお前の家なん?」
前を向くと確かに自分の家だ。トラードは、頷きドアの前にたった。
「この家は、不思議な事に結界の影響を受けてないどころかあらゆる魔法で守られているんです」
「どしてかしら?」
「僕もよく解らないんですが…詳しいことは、ラルクさんしかしらないかと」
トラードは、ドアノブを持ち深呼吸をした。そして、小さく呟くように
「ククの言葉。勇気は、正義となり。正義は、希望となり。希望は、心となる。心あるもの星となり流星となりスターダストとなる。クク・エルメル・ルース」
すると鍵が空く音が聞こえトラードは、ドアを開けにっこり微笑んだ。魔法の呪文のような言葉。しかしそんな呪文なんてありはしない。アディーは、家の中に入り目を閉じた。
「…アディーさん?」
「何でもないわ。ラルクを部屋に寝かせてあげて」
「はい。ザックさん、ルリラナさんとビオラさんは、彼処が僕の部屋なのでベッドに寝かして下さい」
そう言ってトラードは、自分の部屋を指して微笑んだ。ザックが、頷き部屋に入るのを確認してからラルクの部屋へと入っていった。
ラルクの部屋に入るのは、初めてだ。いくら兄弟として暮らしているが、赤の他人。お互いに何処かしら遠慮は、していた。トラードは、ラルクをベッドに寝かし椅子に座ってため息をはいた。
「僕が弱かったから皆を傷つけてしまった。ラルクさんを守れなかった…僕は…ーーーー」
何時になったらラルクは、目が覚めるのだろうか?何時になったら強くなれるのだろうか?強くなりたい。もっと強くなりたい。弱いままでは、何も守れない。
ふと手に違和感を感じたトラードは、手のひらを見て、そして手の甲を見た。
「あれ?ない…?」
手の甲に亀の刺青がない。アークルの騎士である証である刺青が無いことに気がついたトラードは、立ち上がり慌ててミウがいるリビングへと向かった。
「ミウさん!」
トラードは、ミウの腕を掴みミウの目を見た。ミウは、首をかしげて不思議な顔でトラードを見て少しで考えた。
「どうかしましたか?」
「……ミウさん。まさか…ーー」
トラードは、やっと気がついた。この違和感を。
初めてミウと出会った時に感じたあの時と初めて騎士としてミウを守る為に力を得た時の感じた強い力。アークルと言う神で守られていた彼女には、今現在まったく感じられないのだ。
トラードは、思い出した。あの時気絶をする前に言っていたビオラの言葉を
「アークルの力が奪われた…?」