16.未来探求者(5)
ビオラは、部屋の窓から見える青い海を眺めた。海と空は、どの時代も変わらない青。
あらゆる時代を見てきて、あらゆる事を知っていろんな悲しみも喜びも知った。もう二度と戻れない自分の居場所。もう二度と同じ過ちをしない。
「ビオラ」
振り向くとラルクがビオラを見ていた。ビオラは、微笑み
「どうしたの?」
「お前の願い事が叶えたら死ぬって解ってるのか?」
「解ってるよ」
解ってる。解っているから強くなろうとした。解っているから真実から目をそらすことを止めた。
解っている。解っている。こうしてまた独りになることも。本当の事を言ったら皆そうだ。恐れられ、化け物扱い。解っている。解っている。それが、私と言う存在だから。
ラルクは、考えた。死ぬ事も生きることも生まれた意味も。しかし、ラルクにとってビオラの気持ちは、解るようで
解らなかった。
「怖くないのか?」
「怖くない、よ」
そう言って微笑んだ。これは、きっと嘘だ。死ぬなんて怖くない人なんて、居ない。いや、存在したらならないんだ。その事ぐらい解るラルクは、目をそらしあの時、サンに言われた事のように言おうと口を開こうとしたが、突然船が揺れミウの叫び声が、聞こえた。
「何が起きたんだ!?」
「解らない。でも、行って見た方がいいかもっ!」
そう言って二人は、甲板へと向かった。
甲板へたどり着くとなんと言うことでしょ。大きな大きな烏賊のような蛸のような生き物が船を揺らしこちらを向いている。
「っく…不覚です。こんなところにまさかオタコゲッソーが居ただなんて…
ルリラナは、オタコゲッソーの弱点は、6つあるあの大きな目です。ザックは、効果的な地の魔法で、攻撃をして下さい。トラード、ラルクは、沢山あるキモいあの触手を斬って、斬って、斬りまくって下さい」
「了解!」
「あたしとミウちゃんは?」
「ビオラは、怪我人の治癒をお願いします…
そして……ボクは…………隠れて応援しますね!」
そう言って、親指をたてグットポーズで、にこやかに微笑んだ。
「皆さん!頑張って下さい!ファイトですっ!」
「ありがとうって違う!ミウ!何であんたは、戦わないの!?」
「オタコゲッソーは、ボクの何よりも嫌いな魔物でありこの世から一番消えて欲しい魔物です。食べれないのに図体が大きくなぜ目が6つもありながら同じ方向しか見れない。あの無駄に多い触手なんか、斬っても、斬っても、斬りまくっても再生するのが、腹が立ちます。唯一、ボクが激オコする魔物なのです」
ミウは、淡々と言って少しだけ深呼吸をして、キメ顔でこう言った。
「これらを全てまとめて簡単に言うと“キモいのはNG”と言うことです」
そう言って立ち去ろうとすると、オタコゲッソーの触手は、ミウを掴み空高く持ち上げ頭のてっぺんへと持っていった。ザックは、目を細めてタコゲッソーの頭のてっぺんを眺めると仮面を被った青年が器用に立っていた。
「人がおる」
「え!?あんなところにですか!?」
ミウが捕まってあんなところに人がいる。攻撃をしたら危険がある。ザックは、考える。ミウを助ける方法を
「ザック・フォルス…いや“月読みのザック”会いたかったよ」
仮面を被った青年は、唯一見える口元を見ると微笑んでいることが解る。ザックは、何故か冷や汗を流し青年を見つめていた。
「お前、誰なん?」
「海に愛された哀れな神子…龍王の力を移動される事が出来るんだろ?俺の仲間にならないか?」
ザックの言葉に聞くこともなくミウに話をかける青年。ミウは、睨み付け
「お断りします」
「だろうな。じゃあこれを言ってもあいつらに着いていくつもりか?」
青年は、ザックを指し頬をあげこう言った。
「あの月読みのザックは、お前のお父さんとお母さんを殺した。お前の全てを奪った奴なんだぞ」
「え…?」
ザックが自分の全てを奪った者?ミウは、混乱しながら違うと言い聞かせ青年を見る。
「嘘だと思うなら本人に聞いてみてごらん。ジュラン・プライ」
「どうして…ボクの名前を…?」
ミウが神子になる前の名前。本当の名前。自分が自分だと証明できる名前。ミウは、顔色をかえザックを見る。
両親を殺したのが本当にザックなのだろうか?全てを奪ったのだろうか?自分を監視するために着いてきたのだろうか?
「ザック…」
「…………っ!」
見つめるミウの目をザックは、そらし俯いたまま返す言葉もでなかった。それを見たミウの体から黒いオーラが溢れ出てきた。
「…本当…なんですね…」
苦しい。胸が苦しい。息が出来ない。頭も痛い。大切な人を、忘れている気がする。誰か助けて。もう何も信じたくない。頼りたくない。
「ミウちゃん!ダメ!強い心をもって!その黒いオーラに負けないで!」
なんのために生まれてきたのだろ?なんのために神子になったのだろう?なんのために死のうとしたのだろ?なんのために生きようとしたのだろ?
誰を信じたら良いのだろ?誰を守れば良いのだろ?君は、誰?記憶の奥深く名前を呼ぶ君は、誰?
「――――…………ダークネス」
ミウが呟いた瞬間あの大きなオタコゲッソーは、ミウと青年を放り投げ黒い落とし穴のような物に落ちていった。