15.未来探求者(4)
ラルクたちは、船に乗りビオラ話を静かに聞くことにした。不安そうに目を反らして、躊躇いなくビオラは、ゆっくりと口を開いた。
「何処から話せば良いのか解らないけど…とりあえず…あたしは、遠い昔、今の時代だと…1000年ぐらい昔に生まれたの」
「1000年!?」
「うん。そしてあたしは、ある理由で、人であることを辞めて“勇気の精霊バルキニー”になったの。でも、あたしは、人であって人じゃあなくなって、精霊であって精霊じゃなくて…中途半端な存在なの。あたしは、世界のバランスを壊そうとする者を、世界に不幸をもたらす者を倒すために未来へ過去へあらゆる時代へと旅をして、いろんな人に出会って、いろんな事を知った」
ビオラは、包み隠さず自分をさらけ出すように淡々と言った。バルキニーと言う精霊になったビオラは、どうして精霊になろうとしたのだろうか?どんな未来をみて、どんな過去をみて彼女は、戦い続けたのだろうか?不幸から守るために一人で戦い続けたのだろうか?
5人は、それぞれの思いで、彼女の話を聞いていた。
「だけど…それなのに…あたしは、大きなミスをした…そのミスで、いろんな人を傷つけて、悲しませて、苦しませて…それでもそのミスを認めなかった。そしたら今度は、あたしの大切なものまでも失ってしまった」
「辛かったですか?」
ここで、初めてミウが質問をした。ビオラは、目をそらし少しだけ考えた。
「………辛いよ…でもね、“辛い”って“苦しい”って言えなかった…あたしのせいでたくさんの人が不幸になったから」
そう言って微笑んだ。辛くても苦しくても言葉に出来ない。その気持ちは、ミウは、知っている。知っているからこそ彼女の心の痛みが感じたミウは、返す言葉がなかった。
「あたしは、どんな苦しみも、どんな悲しみも耐えないとだめなの。多くの罪を継ぐなわかればならない」
「何をやったんだ?」
「“龍王の欠片”のおとぎ話と“名の無い花”の本…この2冊の本で語られる物語があたしがしてきたことだよ」
そう言ってビオラは、その場を後にした。
ビオラが、してきたこと。龍王の欠片に書かれている話は、精霊と神と龍王の物語。そして、名の無い花の物語。ラルクは、考えた。
「ラルクさん、名の無い花の物語は、どんな話でしょうか?」
「一人の目の不自由な少女に奇跡的に目が見えるようになって、2年間勉強をして医者になって多くの人を救う話し」
二つの話の共通点を探すが、見当たらない。
ビオラが犯した罪。レインボーローズ。奇跡。願い事。精霊になった人間。龍王。神。女神。
「…そうか…」
「なにか、解ったの?」
「龍王に負の感情が流れ込んだ事による大きな災害ってことですね」
それを止めるためにビオラは、一人で戦い。神様の力を借りた。しかし、ザルクルフは、欠片となって世界にバラバラになった。そう考えるのが普通だ。しかし違和感を感じたラルクは、空を見た。ふと、ザックは、ビオラの一言を思い出した。
「……“ザルクルフを殺した”ってビオラが言っとったな」
「ザルクルフを?しかし僕たちが知っているおとぎ話では、自らバラバラになったと語られていますが…」
「…………」
なにか違う。それは、解る。しかし、龍王の欠片に語られる物語には、彼女の存在が何処にも書かれていない。みこが死んでいる。ふと、あることに気がついた。
「いや、龍王の欠片って2種類無かったか?」
「2種類…確かにありましたね。多くの人が知る物語では、トラードが言った龍王が悪者として書かれているおとぎ話。もうひとつは、龍王は、悪者じゃなく英雄だと言う説から語られるおとぎ話ですね」
「真逆じゃないの」
確かに真逆だ。真逆にたかられる物語。ミウは、考えた。
「全ては、神アークルによる記憶操作によるものだと思います」
「じゃあ何が正しくて何が間違いだと言うことが解らないってことね」
何が間違いで何が正し事が解らなくなった世界。ラルクは、考えた。ビオラがしてきたことを
「本当に龍王を殺したとしたら…」
「真実を知っているあいつだからこそ世界を救える方法」
「それが、自分を犠牲にして花に願い事をしたってことじゃな」
強くて、気高く、美しい勇気の精霊は、最後の願い事。世界を守るために自分を犠牲にして、戦い続けている戦乙女にとって残酷で、苦しく辛い選択しかなかった。
そんな彼女の願いが叶った瞬間に彼女が死ぬ事も、彼女の記憶が消される事も歴史から消される事もその時ラルクたちは、知った。