17.海に愛されたもの(5)
トラードは、少し考えていた。クロアとミウの関係は、なんと言うか兄妹と言う感じだ。
そんなことを考えていると目的である古びた教会についた。
「此所にミウが居るんだな?」
「はい」
するとザックは、目を細目て教会をみる。
妙な魔力と小さい魔力、そして、ミウの魔力がそれぞれ違う魔力が教会からビリビリと感じる。ザックは、少しだけ考える。ふと疑問に思ったラルクは、
「エルナの怪我は平気なのか?」
「エルナに回復魔法を使ったら死ぬんだ」
いくら人間でもそれは、可笑しい。ラルクは、首を傾げてザックをみる。ザックは、何か思い出すように目を細め
「…あいつは、20年前にあった戦争の被害者なんよ。腕に包帯で巻いている所があるだろ?そこに呪印が書かれていて、二度と消すことが出来ない呪印でな、これがある限りハンクに回復魔法を使うと呪印が発動してハンクの全ての魔力が体から抜けて死んでしまうんだ」
「魔力吸収魔法の系統か?」
「解らん。いろんな呪印を消す方法を知っとるけんど…この呪印だけは、解らんもハンクには、医学的な技術者による治療しか使えないんよ」
ハンクの身にいったい何があったのだろうか?悲しい目で歩くザックの瞳は、何を通しているのだろうか?
「ハンクは、無事じゃ。ワシが信用できる医者が面倒見てくれとるけん」
自分に言い聞かす様にザックは、言いながら前を向いて歩く。それを見たクロアは、何か考えラルクをみる。
「ん?何見てんだよ。なんか文句あるのか?」
「別に」
「なんか知らないけど、お前俺を見てイライラしてるだろ?」
「普通だけど」
クロアの素っ気ない返事に対してラルクはキョトンとした顔をしてからクロアの頬をムニっと掴み無言で睨み付け、クロアもラルクを無言で睨み付けていた。
「何、男二人が見つめあっとるん?キモいわ!」
「誰と誰が見つめてるんだよっ!」
「カッカッカッカ!」
大笑いをして、角を曲がるとミウと男女二人が戦っているのが見えた。それを目にした途端に顔色が変わりクロアは、何か呟き魔方陣から出てきた槍を取り走って行った。
「ミウ!」
「クロアお兄ちゃん!?」
間に合わなかった。勝てない。相手は、人間なのに銃と剣を使うけど、勝てるはずの戦いに苦戦するミウは、目をそらしはを食い縛った。
「よそ見をしている暇は、ないよ」
ララ微笑みながら持っていたステッキを振る。すると、アルがミウを目掛けて銃を撃った。
「っ痛!」
ミウは、交わすことも出来ず左足の太ももに当たった。
「ミウ!」
「来ないで…!下さい」
撃たれた太ももの傷を押さえながらホウキを杖変わりに何とか立っているミウは、アルとララを睨み付ける。
「君の思い通りにさせない。絶対にボクのせいで誰も死ねさせない。もう二度とあんなことは、させない。この身が朽ちようとも、絶対に…!」
怖い。でも守らないと。失いたくない。死んでほしくない。無くしたくない。
すると矢が横を通りすぎて行くのが見えたと思った同時にトラード、ラルク、クロアが見えた。
「俺だって、ミウを死なせない!」
そう言ってクロアは、槍を振る。するとザックは、ミウを優しく抱え微笑んで頭を撫でる。
「こう言う時には、ちゃんと“助けて”って言うよ。ミウ、ほら勇気を出して」
誰にも助けを求めないって決めたのに、誰にも頼らないって決めたのに何故かミウの頬には、涙が流れていた。
怖いよ。辛いよ。苦しいよ。痛いよ。でも、神子だから強くならないと。守るためなら死んでも良い。
助けなんて言えないよ。
「ーー…けて…!助けて!クロアお兄ちゃん!」
「!!!!ああ。後は、任せろ…!」
初めて助けて求めてくれた事が嬉しくてクロアは、少しだけ微笑みながら言った。
大切な人を守るためならどんなことをしても平気だった。死ぬことなんて怖くなかった。大切な人が死ぬことがどれだけ悲しいか知っていただからこそ、命懸けで守ろうとした。
だけど、それは、自分を強くするための嘘だった。
「おもし……くな……ーーー」
ララは、座り込み突然動かなくなった瞬間アルは、慌てるように走ってララを抱えラルクたちを見る。
「ラルク・ヴェルク。ララ様の為にもお前の心臓を必ず朱獅子の目が奪うからな」
そう言って窓から飛び下りていった。心臓を奪う。また、朱獅子の目か。
「ミウ!」
「クロアお兄ちゃん!」
クロアは、走ってミウの所へ向かい治癒中にもかかわらず抱え走って何処へ向かう。向かった先は、港。クロアは、そのままの勢いで海に飛び込んだ。
「大丈夫か?まだ痛むか?」
「大丈夫ですよ。僕は、純粋な人魚です。自己再生能力でバッチリです」
にっこり微笑みながらクロアを見て目をそらし海に潜って目を閉じる。
撃たれた怪我は、もう治っている。今日旅立つ予定。これでもうクロアとお別れだ。ミウは、考える。
「ミウ?」
「クロアお兄ちゃん。ボクは、世界を守るために、旅立たないとダメなんです。辛い旅かも知れないし、もしかしたら死ぬかもしれません。でも、ボクは、クロアお兄ちゃんが生きる世界を守るから」
そう言って抱き締めて、クロアが止める前にミウは、少しだけ離れて微笑んで、クロアを見る。
「だから、クロアお兄ちゃんは、自分のために生きて下さい」
これで良い。守るために生きる。そして、誰も死なない選択をする。当然、ラルクもミウも誰も皆、死ぬ理由なんていらない。生きる事だけ考えれば良い。
犠牲ではない。これが自分で決めた運命ならどんなことをしても良いって思った。
「俺も…っ!」
「お前は、残れ」
そう言ったのは、ザックだ。ザックは、ミウとクロアを陸地に持ち上げ座らせる。クロアは、無言でザックを睨み付ける。しかしザックは、微笑みながらクロアの前に座り込み
「お前は、残ってワシのギルド守れ」
そう言って頭を掴む。睨み付けていたが、キョトンとした顔でザックを見る。ギルドを守れ?
「ワシがクロアの代理として行くけん。お前は、ここに残ってギルドのマスター代理になれ」
「は?」
マスター代理?俺の代わり?クロアは、少しだけ考える。
誰にもギルドのことをザックは、任せた事はない。信じている?色々考えるが、求めている言葉ではない。嫌、違う。
ザックから言われなくなかった。
「ミウ、良いじゃろ?新しい騎士の育て役でもあるし保護者として、大人もいるけんな?」
「新しい騎士…ザックは、ボクが望んでないことを…」
ザックが言っていることが理解が出来ないクロアは、立ち上がり遠くにいるラルクたちを見る。
「まさか…ラルク…龍王の欠片を持つ者なのか?」
「ああ」
昨日、ミウとザックの様子が可笑しかった。ハンクの言葉も色々と気になった所もある。しかし、一番悔しいのは、ミウが自分に黙って旅たとうとしていた事だ。
「っ…………!」
「クロア、お前は、ミウの居場所を守れって言っとるんじゃけん。ワシは、ミウを無事に此処に帰らす為に行くってこと。大丈夫じゃ」
「希望は、何時も心あります。希望を忘れないかぎりボクは、消えたりしません。クロア。ボクが、帰ってきたら今度はクロアから抱き締めてくださいね」
泣きそうな笑顔で、ミウが見る。やっとザックが言った意味が解った気がした。
「解った。俺は、ミウの帰りを待つ。ミウが安心して帰れるように、此処を守る」
ミウが自分を騎士にしなかった理由。それは、簡単だ。
「だから、ミウ。行ってらっしゃい」
「行ってきます」
血が繋がって無くとも兄妹なんだ。だから兄として、妹を守るのも良いじゃないかと思ったことは、秘密にしよう。