15.海に愛されたもの(3)
誰かが犠牲になって世界を守りたいなら自分が犠牲になった方が良い?違う。誰もそんなこと望んでない。まして、こんなにも愛してくれる人がいるやつが死と同じと言っても良い封印されても嬉しくない。
「お前の定めじゃあねぇよ。これは、俺の定めだ」
「ラルク…まさか…」
「俺は、あいつらのためなら勇者だって魔王だって英雄だってやってやる。この世界の為に死ぬことになろうが、あいつらのためなら平気なんだ。だけどなお前は、俺と違う。誰かに必要されている奴が、犠牲になる必要は、無い」
そうだ。何も恐れる事は、ないだ。もう、二人に知られたんだ。
ラルクは、立ち上がりルリラナたちがいる所へ向かった。それを見たミウは、慌てて走り出す。しかし、扉を開いた先には、何時ものように微笑むラルクを見てかける言葉を躊躇った。そして、ミウは、少しだけ考える。
「…………そうか……」
「ミウ?」
ミウは、振り向き微笑みながらハンカチを渡し走ってラルクのところに行こうとしたが、見覚えがある後ろ姿が見えた瞬間飛びかかるようにその背中を思いっきり抱き締めた。
「クロア!」
「グホ! 」
「クロア!もう!なんですか!?何時ものようにボクが行くのに遅いから来てくれたんですか!?嬉しいです!大好きです!」
嬉しそうな笑顔で見るミウが嬉しいが、回りの目がある。嬉しいようで恥ずかしい気持ちを押さえながらクロアは、ミウを少し落ち着かせザックに渡された木彫りを取り出す。
「ザックがこれを渡せって…」
「ザックがですか?」
ミウは、木彫りを受けとりポケットにいれる。それを見たハンクは、笑顔でクロアとミウの間にたち
「うふふ。ザックったら…解っていたのね…」
「???…なんだよ?なにかあったのか?」
「……なんでもありませんよ。クロア」
そう微笑んで、メモ用紙に何かを書いてラルクに渡しラルクは、紙に書かれた文字を見る。ラルクは、頷き
「解った。ありがとうなミウ」
そう言いながら手を振ってラルクたちは、その場を後にした。
「旅人か?」
「はい。どうやら旅の無事を願うためにお祈りをしに来たらしいです」
「そうか…」
ちらちら気になるハンクを見て少しだけ考える。しかし、それを省くようにミウは、クロアに会えたことの嬉しさてベタベタと触る。
「エル………ハンク」
「んあら?クロアの坊や~それは、わざとかしら?ワ・タ・シ・は・エ・ル・ナよ~ハンクじゃあないわよ」
「…………はぁー…」
クロアは、内心どうでも良いと思いから思わず深い溜め息をはきミウを見る。このオカマを見てからの彼女が何故か天使に見えて思わず笑みがこぼれた。
「もう!クロアの坊やは、相変わらず可愛いわね~ウフフ食べちゃいたい」
「食べたらダメですよ」
ハンクは、笑いながら部屋から出ていった。なんか解らないが、恐怖があるハンクの言葉にたいしてミウは、首をかしげながらクロアを見る。
「クロアお兄ちゃん」
「なんだよ?突然」
クロアは、照れ臭そうに目をそらしミウを見る。そんなクロアが嬉しくてミウは、クロアに近づき顔を除き混み
「今は、二人だし…だから二人限定のクロアお兄ちゃんとボクは、言います」
決め顔で言った。こんなところで決め顔で言われたても正直困る。
「それよりもクロアお兄ちゃんは、もうお仕事終わったのですか?」
「いいや。今日は、魔物討伐だけど…」
「なら、行きます!クロアお兄ちゃんが大怪我をしたらボク、悲しいですから」
そう言いながらホウキを取りだし微笑んだ。
どんなにダメだって言っても着いてくるだろう。いつもそうだ。自分がどんなに心配してもそうやって笑って隣にいる。
クロアは、あきれた顔でミウの頭をなで
「無理するなよ」
「はい!クロアお兄ちゃんもですよ?」
そう言って二人は、教会を後にした。
*+*+*+
ラルクたちは、マーキュリーにある宿にいた。会話がない三人は、久しぶりの静かな食事中ラルクは、あれこれ考えていた。
「…………」
「…………」
「…………ルリラナ、トラード」
やっと声が出たが次の言葉が出ない。しかし、二人は、ラルクを見て何か言いたそうにしている。
ラルクは、息をのみ
「明日、俺は、ミウと一緒に世界にある欠片を集める旅に出るんだ。みこ探しの旅とは、違って危険もあるし多分きっと“朱獅子の目”も俺の欠片を狙って来るかも知れない」
「だから、ここでお別れ?」
ルリラナは、泣きそうな顔でラルクをみて立ち上がった。
「そんなの嫌。私は、どんなに危険だろうが死ぬかもしれないだろうが、何処までも着いていく。だって、卑屈なラルクの背中を守るのは、私たちだもんね?トラード」
「はい。僕たちは、この旅が始まった瞬間からもう覚悟は、しています。それに僕たちは、絶対にラルクさんを一人には、しません。嫌いには、なりません」
何で、こんな二人を信じていなかったのだろうか。この二人が居てくれて良かった。もし、一人だったら不安で怖かったかもしれない。死んでいたかもしれない。
ラルクは、うつむきながら立ち上がり涙を隠しながら
「じゃあ1つだけ約束してくれ。もし、俺が封印が溶けてザルクルフになったら俺を殺してくれ」
「ラルク!」
「じゃあ俺は、寝るな」
そう言ってその場を後にした。
ルリラナは、力抜きたかのように座り込む。それを見たトラードは、背中をさする。
「私は、ラルクを守れないの?私じゃあダメなの?信用してないの?何よ、こそは、ザルクルフにならないって言うところでしょ?何が殺せよ!生きることを考えなさいよ」
「ルリラナさん…」
「何で、ラルクなのよ?あんなにも辛い過去があってどうして、さらにこんなに苦労しなきゃあダメなの?不公平よ」
ラルクの過去をトラードは、よく知らない。しかし、どんな辛い過去があろうがラルクは、何時も変わらない。変わらないだからこそルリラナは、ラルクを守るために強くなろうとした。
ルリラナは、再び立ち上がり
「もっと強くならないと…!」
もっと強くなりたい。もっと強い魔法が使いたい。もっと早く弓を射ちたい。そんな先走る気持ちを押さえながらルリラナは、歩き始めたがトラードは、それを止める。
「外は、もう夜ですからね?今日は、ゆっくり休んで下さい」
「っ…………!解った」
ルリラナは、歯を食い縛りながら真っ直ぐ部屋に向かい本を開いた。あらゆる呪文が書かれている本。通称、魔術本だ。
「少しでも多く解読して早くものにしないとっ!」
解読は、簡単ではない。そして、簡単に使いこなせる訳でもない。そんなことルリラナ自身も解っている。しかし、それ以外見つからない。
「っく!解らない…」
しかしルリラナは、解読が苦手。エルフしか解らない文字なのにどうして、解らないのかと思うと恥ずかしくなるが、ラルクに頼るような真似は、したくない。プライドが許さないのだ。
適当に開いたもうひとつの魔術本を見ると何故か不思議と読める。
「あれ?詠めるかも」
今まで興味なかった火の魔法だ。どのページの不思議と火の魔法も詠める。風と火。ルリラナは、考えた。
「風の魔法を使って火の魔法を使えば…」
組み合わせて使えば小さなものでも最強な魔法になる。ルリラナは、にっこり微笑み本が穴が開くほど見ていた。
その頃トラードは、と言うと自分の剣を見て考えていた。それを不思議そうにラルクは、見ている。
「なんだ?珍しく真剣な顔してるな」
「僕は、人間ですからルリラナさんとかラルクさんに役に立つのかどうか考えていたんです」
人間であるトラードは、確かに魔法が使えない。しかし、使えないからって弱いわけではない。ラルクは、ため息をはき
「お前は、本当に真面目だな。そんなことで悩むか?普通」
「悩みますよ!」
「強くなりたいなら技術を磨くしかないだろ?お前は、メデューサを殺したらそれで満足か?もっと強くなりたい!って思うのが人間って言うか生きている証だと思うぜ」
もっと強くなりたい。ルリラナは、強くなりたいと願っていた。ラルクを守る為に強くなりたいっと
ならなんのために強くなりたいのだろうか?
ルリラナと同じで“ラルクを守るために強くなりたい”っで良いのだろうか?違う。もっと違う理由があるはずだ。
トラードは、立ち上がり窓から外を見る。
「……んー」
「無いのか?」
「僕の人生は、半分メデューサへの憎しみしかありませんでしたから…多分きっと僕は、それで満足しているだと思います。当然!僕は、ラルクさんとかと一緒に旅は、したいですよ!でも、足手まといになることが怖いです」
ラルクは、空笑いをしてベッドに寝転がる。
「お前は、前だけ向けば良いんだよ。後ろの敵は、ルリラナが守ってくれるしあれこれ考えるのは、俺だ。何時ものようになにも考えずに真っ直ぐ目の前にいる敵を殺せば良いんだ」
「僕は、なにも考えずに行動してると思っているですか!?」
「ああ」
ラルクは、笑いながら言った。多分きっと嘘だ。ラルクなりの励ましだ。トラードは、眉毛をハの字にして笑い
「ハハハ…ありがとうございます。ラルクさん」