13.海に愛されたもの(1)
ネールから北にあるマーキュリーへ目指すラルクたちは、ふと奇妙な光景を目の当たりにした。
ピンクのスカーフに白いワンピースを着た人間の男性(?)と鬼族の男性がマーキュリーの近くにある教会の前に立っていた。
「んも!だ・か・ら!ワタシの名前は、エ・ル・ナよ!いい加減にしてよね!」
「何処のどいつがエルナだよ。ハンク」
「ワタシだよ!」
どうやら人間の男性は、オカマだ。鬼族の男性は、呆れた顔でエルナいやハンクをみる。
ふと、ラルクたちに気がついたハンクは、笑顔でこっちを見る。
「んあら?可愛い坊やの二人と可愛いお嬢ちゃんどうしたのかしら?」
「みこを探してるんだ。この街にいると女王から聞いたんだが、知らないか?」
単刀直入過ぎる質問だ。ルリラナは、呆れた顔でラルクを見ているとハンクは、大笑いをしてラルクの頭をなでる。
「居るわよ。この教会にね。それよりも自己紹介をしてないのにみこには、会わせないわよ」
「俺は、ラルクで、こっちがルリラナ、これがトラードだ」
「ウフフ…よろしい。ワタシは、エルナでこっちがザックよ。じゃあ案内するわね」
そう言いながら教会の扉を開きハンクは、颯爽と歩いていった。
そのあとを置いていかれまいと歩いているラルクだが、教会へ入った瞬間と同時に頭が割れそうな程の頭痛がする。
「っ痛………!」
「どうか痛いんですか?」
「あ?ああ…少し頭痛がするけど大丈夫だ」
少しではない。歩く振動を、感じる度トンカチで頭を殴れる様に痛い。しかしラルクは、微笑んで前に進む。
「んじゃあ俺は、帰るけん」
「あら?帰るの?解ったわ…またね。ザック」
ザックは、フラフラなラルクを横目で見て、その場をあとにした。
頭が痛い。そして、苦しい。フラフラする。でも、みこに会わないと言う気持ちで歩くラルクだが、あまりにもの痛さで、気絶をしてしまった。
「ラルク!」
「ラルクさん!?」
突然の出来事に慌てる二人。単なる気絶をしていることに安心して見るが、何故そうなったのか解らない。それを見たハンクは、目を細めてラルクを見る。
「そう…アナタが…」
「???」
トラードは、首を傾げながらハンク見ていると奥の部屋から大きな音を扉が開ける音が聞こえた。
「な、何?何の音!?」
「たく…ミウ!お客さんよ!」
猛スピードで廊下を走る魔女の格好をした女の子が、ハンクを見て立ち止まる。そして目をそらし壁へと向かう。
「お、おはようございます。エルナ」
「おはよう、ミウ。またあの子に会いに行くのかしら?」
「はい!」
可愛らしい笑顔で、ミウと言う女の子は、言った。
「そう。その前にお客さまよ」
「ボクにですか?…ってはう!?人が死んでますよ!エルナ!」
倒れているラルクを見て慌てるミウは、ハンクの腕を掴んだ。
「違うわよ。気絶をしているだけよ」
「気絶?ってことは…………エルナ何かしたのですか!?」
「ウフフ…確かにワタシの好みだけど違うわよ」
そう言いながらハンクは、ラルクを背負って部屋へ向かう。話についてこれないトラードたちは、何か解らないが危機感を覚え構えた。
「みこは、何処よ?早くだしなさい」
「目の前に居るわよ。目の前に」
ルリラナの目の前には、ミウ。魔女服を着て、ホウキを持った不思議な女の子。ルリラナは、首を傾げながらミウを見る。
「えーっとあんたが?みこ?」
「はい!正確には、アークルの神子ですけどね!」
イメージとは違う。みこは誠実なイメージで、真っ白なワンピースを着たイメージだった。しかし彼女の服は、あろうことか真っ黒で、魔女。どう見ても悪役だ。そして、白いワンピースを着た人が男でそのうえオカマ。
「ラルク!起きて!ここヤバイわよ!」
必死にルリラナは、叫ぶが目を覚まさないラルク。ミウは、微笑んでルリラナを見る。
「大丈夫ですよ。彼は、多分きっと龍王の欠片を持っていると思います」
「龍王の欠片…?」
トラードは、少し考えてミウの目を見る。確かにミコトから琥珀石を貰った事を思い出す。
「確かにここに来る前に琥珀石を貰いました。しかし、何故それを?」
「琥珀石では、ありませんよ。ボクが言っているのは、この体の何処かにザルクルフの一部があるってことです」
ミウは、ラルクの体に指を指して少し走って近くにあった小さな窓から顔を覗かせ空を見る。
「言っている意味が解らないですが…」
息をのみ二人は、ミウを見る。
「“心臓、心、目、声の欠片が一つになる時、散らばった全ての欠片が集まり龍王は、再び目覚めるだろ”
この子が倒れたのは、この子の中にある龍王の欠片がアークルの力に反応したから、そしてこの子は、ここにいる限り目を覚まさないわ」
「目を覚まさない?」
いきなりのことで、混乱するルリラナとトラード。
ラルクの体に龍王の欠片がある。ザルクルフ。世界を恨んで、世界を破滅の危機に追い込み封印される運命だった。しかし、これは、おとぎ話。誰も信じてはなかった。
「…………此所を離れたら目を覚まします。しかし、龍王を復活させようとしている人がラルクの中にある龍王の欠片を狙ってくるかもしれませんし、もしラルクの中にある欠片が心臓なら彼自身が龍王になる可能性もあります」
ここにいれば安全?違う。安全ではない。眠っているラルクを見るだけは、嫌だ。一緒に生きたい。笑いたい。泣きたい。ルリラナは、睨み付けるようにミウを見る。
「私は…ラルクを守るために此処に居る。ラルクが永遠に眠っていたら私が居る意味なんて無いのよ!ラルクともっと一緒に居たい!笑いたい!泣きたいのよ!もっと話したいのよ!」
「まぁ!ラルクの坊やが好きなのね!ウフフ…青春だわ」
「!!!!っ……!そうよ!す、好きよ。好きで、好きなのよ。ラルクが居なきゃ生きている意味が…な、ないだから」
ルリラナは、顔をそらして言った。トラードは、微笑んでミウの前に立つ。
「ラルクさんは、僕の家族であり親友です。家族を守りたいって思っては、ダメなのでしょうか?」
家族を守りたい。好きな人を守りたい。それも大切だ。ミウは、考える。世界のために世界を守るために何が出来るかを
「では、ボクに着いて来て下さい」
方向を変えすたすたと歩いて行った。
トラードとルリラナは、目をあわせる。
もしミウと戦う事になっても必ず勝つ。世界を守るためではない。大切な人を守るために