43.夕焼け空(7)
死んでいるティファニーを見て、ビオラは、ふらつき頭を抱えた。
「ビオラ。大丈夫か?」
「う、うん。大丈夫、だよ」
そう微笑んで心配するヨモギを見た。明らかに様子がおかしい。顔色も悪い。ヨモギは、心配した顔で、ビオラに近づくと驚いた顔でヨモギを見た。
「少し休んだ方が…」
「うんん。平気。あたしは、もう大丈夫」
そう言って、その場を後にした。ここにい無いと言うことは、別の部屋にいる。ヨモギは、考えた。そして、ようやくフォンエッドがあるであろう場所を思い出した。
「おいらの部屋にいるかも」
「ヨモギの?」
「ああ。皮肉にもおいら達兄弟は、どっちなのか理解する人も見分ける人が少なかった。誰もおいら達に関心がなく興味がなく、自分のことだけ考えている人が多くて、親でさえ解らなかった。
だから、あれがおいらなのか、フォンなのか解るのは、数える程度の者しかい無い。オイラの部屋に居ても誰も疑問に思わないし、たとえフォンだと解っていても“兄を失った可哀想な弟”でしか無い」
「案内してくれ」
「ああ」
そう言って、部屋へ向かった。ビオラは、ふらつきながら歩き頭を抱えた。
「そうか…そう言うことか…あたしが精霊の剣を手に入れさせないためにわざと揺さぶりをしているのか…あたしの弱点…あたしの弱い所…ハハ……笑っちゃうよ……まだあたしは……」
ビオラは、目を閉じて深呼吸をして頬を叩いた。強くたたきすぎたのか頬を押さえていた。幾度も試されている気がしたビオラは、髪の毛を整え服の身だしなみも整えた。
「しっかりしないとダメだよ。勇気の精霊バルキー」
弱音を吐いたらダメだ。諦めたらダメだ。逃げたらダメだ。立ち止まっては、ダメだ。ビオラは、歩き出し皆の後を追った。
かつてのヨモギの部屋に部屋にたどりつき部屋を開けると椅子に座って顔を両手で覆っているフォンエッドがいた。
「フォン…遅くなってごめん…」
「兄さん……?」
フォンエッドは、ヨモギを見てふらつきながら近づいてきた。血の涙を流しぎこちない動き。元々、ララとナムの力によって動いていた事もあるせいか、何かが変だ。
「会いたかったよ…兄さん…ずっと待っていたんだ…ずっと、ずっと…」
「フォン…」
「助けてよ兄さん…兄さん兄さん…」
ヨモギは、目を閉じて考えた。これから本当の意味で殺さないとダメなんだ。
「フォン…オイラは、お前さんの才能を羨ましいって思っていた。お前の兄なのに怖がりで臆病だったオイラの前を何時も歩いて…何時も人の期待や不安で押し潰れそうになった時だって、オイラを照らし続けてくれた」
ヨモギは、悲しい顔で、歩き出した。蘇る記憶。ヨモギにとっては、彼が死んでいたと解っていても、目の前にいる事には、変わりない。
「オイラがエンジェルリングに選ばれた時だって、誰もがフォンだと思い込んで、お前を称え皇帝陛下になった時だってオイラは、何も言えなかった。誰もオイラの言葉も聞いてくれない。誰も耳を傾けてくれないのは、オイラが卑怯でお前に嫉妬していたからだろうな」
「兄さん………兄さん………」
そう言って抱きしめた。
「兄さん………ずっと待っていたんだよ………やっと………あえ………」
そう言って、何かが切れたのか体が朽ちていった。まだ何もしていないヨモギは、慌ててフォンエッドを見た。
「お帰り…なさい…兄さんは…相変わらずよく泣くね…でも…それは、優しいって事なんだ…だから…エンジェルリングにも…選ばれた…悲しまないで…兄さん」
フォンエッドは、微笑みながらヨモギの涙を拭いた。あの日と変わらない笑顔に堪らない思いで
「ただいま…フォン」
と無理な笑顔でそう言った。フォンエッドは、目を押さえ跪きミウをみた。
「アークルの神子…頼みがあります…僕の瞳に宿る…ザルクルフの欠片を…取り除いて下さい…何も起きないうちに…」
「でも…」
チラリとヨモギを見てミウは、考えた。今こうして生きているのは、欠片があるからで、戦争を止めるには、彼が死ぬ事で終わらせる事ができる。例え屍だろうが、今こうして居るのは、確かなるフォンエッドだ。そして、彼のトドメを刺すのは、ヨモギの役目。ミウではない。
ヨモギは、深呼吸をして、エンジェルリングを取り出した。
「……フォン…オイラがお前さんを殺す」
剣に変形させフォンエッドに向けた。
「そうか…そう言うことか…うん…良いよ…兄さんが目指した帝国に…出来なくてごめんね」
ヨモギは、躊躇いなく剣をおろした。
そして、帝国陛下の死により戦争が始まる前に食い止めることが出来たのだった。
シオンという名前は、花の紫苑からでしてと花言葉は、「追憶」「君を忘れない」「遠方にある人を思う」です。
ヨモギは、薬草である蓬。花言葉は、「幸福」「平和」「平穏」「静穏」「夫婦愛」「決して離れない」です。