42.夕焼け空(6)
ヨモギは、無言のまま皆の後を追いフォンエッドがいる王室へと向かっていた。しかし、少しだが頭痛がする。何か忘れていた様な気がした。ビオラが一瞬、二重に見え頭を抱えながら歩いていた。
「ビオラ」
「何?」
「何か隠してないか?」
「……」
直ぐには、返事をしない。ヨモギは、窓から外を見て、あの日のことを思い出した。
あの日。父親が殺される日の事。ヨモギは、その場を立ち合わせていた。偶然にたまたまにそこにヨモギは、いた。
「オレンジ色の髪…そうか…父上を殺したのは、やっぱりビオラだったのか」
ビオラが、バルキニーだと知った時から気づいていた。解っていた。しかし、この目で見た光景も話した言葉もヨモギは、忘れていた。思い出たと同時に納得した事もある。記憶の大半が、父親との思い出がなかった事に気が付いた。
ヨモギは、誰も聞こえない声で呟き考えた。ビオラが父親の仇だけど、もしあの時父親が生きていたらこの世界は、どうなっていたのだろう?
ビオラは、滅びの世界を避ける為に過去から現れた。滅びの世界。もし父親が聞いていたらこの世界は、滅んでいた。
そして、自分が現実から逃げ出したから再び滅ぼうとしている。
「結局、オイラたちのせいなんだな」
「何が?」
「何でもない」
きっとククがヘルになったのもそうだ。あの時のククは、すでに悲しみに明け暮れていた。寂しすぎて、苦しすぎて泣くための涙も、誰かのために笑う笑顔も失ってしまったいた彼女を追い詰めたのは、自分だと後悔したヨモギは、ふらつきながら歩き始めた。
自分だけが、苦しい思いをしていない。自分だけが、家族を失った訳ではない。自分だけが、こうして立っている訳ではない。
「ここなのか?」
たどり着いた先は、王室。フォンエッドがいる場所だ。ヨモギは、息を飲み扉を開いた。扉を開くとそこには、フォンエッドがいない。その代わりにティファニーが椅子に座ってこっちを見ていた。
「あら、いらっしゃい。愚かな人たち」
甘い香水の匂いとタバコが混じった臭いがた部屋中に立ちこもり鼻がおかしくなりそうだ。ティファニーは、9本の尻尾をなびかせ吸っていたタバコの火を消して立ち上がった。
「此処には、目的の物は、居ないわよ」
「何処にいるんだ?」
「さぁー知らないわ。でも、知っていても教えないけれど」
楽しそうに笑い乱れた服を直し扇を取り出しビオラに飛びかかった。ビオラは、ティファニーの攻撃を全て交わし、蹴りを入れた。しかしティファニーは、ビオラの足を掴み手から火を発した。
「…熱っ!」
ビオラは、瞬間移動で、何とか逃げ出したが足には、火傷が出来てしまった。それを見たミウは、ホウキを取り出しティファニーを見た。ティファニーは、火の玉を手から出しラルクたちに投げつけるがミウに全て消されてしまった。
「やっぱりアナタとは、相性が悪いわね」
そう言って一瞬で近くに行き攻撃を始めた。短距離攻撃が苦手なミウは、素早く動くティファニーの攻撃を全て交わすことが出来ず、いくつか食らってしまった。
「ミウ!」
そう言ってヨモギは、エンジェルリングを投げるが上手く交わされ逆にティファニーの炎の火力が強まってしまった。それを見たラルクは、走って剣でミウを守るように攻撃をして、助けた。
「ッチ…」
ティファニーは、2、3歩下がり舞うように炎に包まれた瞬間に1人の男性へと変わった。それを見たビオラは、顔つきが変わりティファニーへと飛びかかるように攻撃をした。
「どうして、君が知っているの?」
「やっぱりね。貴方の弱点は、これ」
「違う!」
「違う?なら、どうして、そんな顔をするの?」
ビオラは、立ち止まり近くにあった姿鏡で自分の顔を見た。自分の顔を見たビオラは、座り込み顔を隠した。
訳がわからないラルク達は、ティファニーに攻撃をした。ティファニーは、わざと攻撃を食いふらつきながらこう言った。
「ビオラ…私を助けてくれ」
ビオラは、耳を塞ぎ目を閉じた。ティファニーは、再び姿を変えエルナに変わった。ミウは、攻撃を止めたしまった。それを見たティファニーは、にんまり微笑み
「ミウ、どうして私に攻撃をするの?」
「ミウ!騙されるな!ハンクは、死んだ!解っとるじゃろ!」
「……」
俯いたミウをみたティファニーは、ミウに近づき扇子を振り下ろそうとした瞬間ミウは、ホウキを大きく振り上げた。
「っぐ…!どうして!?攻撃するのよ!?」
「どうして?そんなの決まっているじゃあないですか?エルナは、ボクが殺したんですよ?誰が死んで、誰が生きているだなんて、ちゃんと理解しています」
「ッチ…」
ティファニーは、さらに姿を変え今度は、トパーズに変身して、攻撃するが返り討ち、ソフィアにも変身したり、コンバット、ナム、アディーなどなどあらゆる人物に変身するが全て無駄だった。ティファニーは、頭を抱えながらイライラしながら上がった息を整えラルク達をみた。
「これならどうよ!」
そう言ってティファニーは、変身した瞬間ポンッと音が鳴り可愛いらしい小さな狐になっていた。
「やだ!魔力切れ!?」
変身した回数を数えて頭を抱えてラルク達をみた。勝ち目がない。口から火を吹くが、小さな火の玉程度しかならない。絶体絶命のピンチだと察したティファニーは、どうにか逃げようと考えた。しかし、扉の前になっているラルクたちを潜り抜けて逃げる事もいつもの様にワープ魔法で、逃げる手立てもない。
「っ…!」
「お前の負けだ。ティファニー」
「なら、殺しなさいよ!」
ラルク達は、武器をしまい首を振った。
「殺さない」
「どうしてよ!?私は、あんた達が憎い!家族や友達、仲間を皆殺して、元々亜人だった私たちを魔物扱いをした。見た目が違うからって、姿形で差別されて…何処に耳があろうが、尻尾があろうが、全身毛むくじゃらだろうが、私たちは、生きているよ!本当は、人の姿なんてなりたくなかった。でも、あんた達が、差別をするから生きていく為にこうするしかなかったよ」
ティファニーは、言いながら後退りをして窓の近くへと向かった。
「殺しさないよ。人に命乞いなんてしたくない。生かされたくない」
ルリラナは、困った笑顔で、ティファニーを見て近くへと向かった。
「戦えない“人”には、戦わないだけよ」
「戦えない?私が?戦えないと思っているの?なら、あなた達には、一生後悔すれば、良いわ」
そう言って、最後の力を振り絞って1人の男性に変身をした。その男性の姿を見たビオラは、顔色を変え目を大きくして見つめていた。
「その顔、良い様」
ティファニーは、微笑み背中から窓に飛び降りた。ビオラは、慌ててティファニーを助けようと走ったが、もう遅く頭から血を流す狐が、倒れていた。倒れていたと言うよりも彼女は、死んでいた。涙を流しながら。