41.夕焼け空(5)
早く寝たせいかヨモギは、早く起きてしまった。外は、暗いしシオンもまだ寝ている。コップいっぱの水を飲みやる事もなかった事から散歩をする事にした。
満点の星空。旅をしている時に何度も見た空。吸い込まれそうなほど美しく魅了する空を見ていた。
「眠れないのか?」
振り向くとそこには、ククがいた。白銀の髪は、月明かりに照らされ美しくて不気味に感じたヨモギは、息を飲んだ。
「恐れなくても良い。私は、貴方を取って食ったりしないよ」
そう言って、微笑みヨモギの隣に立って星を眺めた。
「星が好きなのか?」
「別に…少し風にあたりに散歩をしているだけだ」
「そうか」
会話が続かないヨモギは、緊張と恐怖で震える手を押さえて長い髪を結び出した。それを見たククは、話しを続ける事にした。
「人魚には、星が付く魔法や技がいくつかあって、その技を全て繋がれると踊っている様に見えるらしい。技の一つ一つにちゃんと名前があるらしいが、その全てを合わせて、人魚は、こう言っているらしい“スターダスト”とな」
「星屑」
「そう星屑。スターダストが使える人魚は、ほうき星の継承者らしい。見てみたいものだな」
そう言って微笑んだ。しかし、ヨモギは、違和感を感じてククの目を見た。さっきと言うか違和感は、ずっと前から気になっていた。いくら、彼女が笑っていても微笑んでも彼女の目は、笑っていない。心から喜んでいない。笑っていない。
「その話は、信じられない。だって、お前さんは、心から笑っていないから」
「!!…確かにそうだ。私は、どうやら感情が欠落しているらしく悲しくても苦しくても辛くても泣いた事も、楽しくて、嬉しくても心から笑ったことがない。原因は、解っているがな」
「原因?」
「少し、昔話をしよう」
そう言って、ククは、月を見た。ククの月明かりに照らされた綺麗な髪が、風に煽られ輝いて見える。近くにあった椅子に座りヨモギを隣に座らし話しを続けた。
「とある男女2人の人魚が、ある街に住んでいた。結婚をして、数ヶ月後に女の子が生まれた。しかし、人魚の特徴である青系の髪の色ではなく白銀。両親は、アルビノによる突然変異だと思い込みその子供を愛し大切にした。しかし、ある日のことその女の子は、人魚としてありえない事をした」
「何をしたんだ?」
「風の魔法が使えたんだよ。人魚は、水の魔法しか使えないから、風の魔法を使えるのは、ありえないんだ。
人魚の両親から生まれたはずの子が、風の魔法を使えることによって、その子の男は、自分の子で無い事を知ってしまった。幻滅した男は、怒り怒鳴り散らした。恐怖により、女は、怯えながら正直に隠さずに話した。エルフの男にレイプされた所。ちょうど、男ともやったばかりだったから、違うと思っていた。忘れたかったし忘れようとしていたとな。泣きじゃくる女を男は、哀れに思ったのか抱きしめて許した。しかし次の日、女は、自分の不甲斐なさと情けなさ醜さで自ら命をたった。
男は、女が死んだのは、子のせいにした。そして、憎んだ。女を襲ったエルフの男を。汚れてしまった子を育てた自分を。そして、恨み辛みを全て呪いを子を残して男もまた女の後を追い死んだ。そしてその子が私なんだとさ」
淡々と語ったククの言葉は、一つ一つ重く辛く苦しく感じたヨモギは、涙を流した。子供と言うのは、きっとククの事だろう。幼かった彼女は、何一つ悪く無いのに積み上げた物が一気に崩れる様に孤独になってしまった。可哀想とか、哀れに思って欲しいから語ったわけでないと解っていてもヨモギの目から涙が止まらなかった。
「どうして泣いているんだ?」
「解らない。子供の気持ちを考えていると涙が…」
自分は、恵まれている。両親に愛されて、魔法や武器の使い方、マナーに趣味である読書。好きな食べて、食べた事も困った事も無かった。それに比べて、彼女は、村人によると何でも知っている。泥水も飲んだろう。空腹を凌ぐ為に草や虫も食べただろう。そのククは、その苦労さえ見せずこうやって堂々と生きている。
「貴方は、優しいな。私は、人のために涙を流す事も怒る事も笑う事も忘れたから出来ない」
困った顔で、そう言った。ヨモギは、思った。ククは、感情が欠落しているのではなく、あまりにも悲しくて、辛くて、苦しくて助けを求めても誰も助けてくれなかったのだろう。泥沼の様な場所に落ちてしまった彼女は、喜怒哀楽と言う物をする余裕が無いのだろう。ヨモギは、涙を拭いてククにこう言った。
「オイラが、変えてみせる。ハーフだろうが、どんな種族でも平和に暮らせる世界に…明日を生きるために今を生きるために戦争がない争いもない誰でも生きても良い世界に変えてみせる。
だから、クク…悲しまないで」
そう言った瞬間に風が吹いた。ククは、驚いた顔を見せたかと思ったら優しい笑顔に変わった。
「期待しておくよ」
そう言って、背を向け
「もうすぐ世が開けるから、暗いうちに部屋にお帰り。きっと弟が心配している」
そう言って立ち去った。
+*+*+*
時は、戻りラルクたちは、突き当たりにたどり着いた。ヨモギは、ゆっくりと扉を開けると兵士が偶然たまたま立っていた。突然に扉が開き驚いた兵士は、飛び跳ね槍を向けた。が、ヨモギの顔を見るなり不思議そうな顔になった。
「…フィンドット様?」
「そうだ。牢屋から逃してくれた以来か?ブレイン、久しいな」
ブレインと言う兵士は、涙を流しヨモギを抱きしめた。
「お帰りなさいませ。フィンドット様」
「フォンの様子は、どうだ?」
「相変わらずです。また、フォンエッド様を正気に戻すためにお戻りに?もう、やめた方がいいです。何度お声かけても彼は、お変わりになりました。あの頃の様なお優しい方には、戻る事は無いかと私は、思います」
ヨモギは、首を振り後ろにいるラルクたちを見せた。ブレインは、驚いた顔をして、ヨモギを見て首を傾げた。
「フォンは、もう既に死んでいる。龍王の欠片で生かされているだけだ。あいつを楽にさせるために帰ってきたんだ」
「楽をさせるとは…殺すという事ですか?」
「ああ」
「それが、どういう意味を示すと知って」
「ああ」
ブレインは、少しだけ考えるヨモギを見てラルクたちを見た。何か納得したのか、ヨモギの手を握り何かを渡した。
「解りました。これは、精霊様が閉じ込められている部屋の鍵です。あの方達ですから、力を貸してくれるかと思います。
あと、この先に私の様に協力者は、当然いますが、そうでも無い人もいます。お気おつけて、下さい」
「ああ。ありがとう」
そう言って、その場を後にした。ヨモギは、思った。ククの約束を守れなかった事。父親を守れなかった。弟を守れなかった。結局ヨモギは、誰も救う事は、出来なかった。
忘れていた思いが、ヨモギの胸を締め付ける。
「そんな顔をするな。まだ、終わっていない」
「!!!…そうだよな。とりあえず、ノームとサラマンダーを助けないとな」
そう言って、ブレインが言っていた牢屋へ向かった。ヨモギは、たどり着いた牢屋の小さなのぞき窓から中を見るとアルルクと鳥籠に閉じ込められたノームとサラマンダーが閉じ込められた。
「どうして…?」
「どうした?」
今度は、ラルクがのぞきアルルクを見て、少しだけ考え鍵穴に鍵をさすが空いている事に疑問に思いながら扉を開けた。
「怪我はないか?」
「お前たちか…という事は、ララは、負けたんだな…」
そう言って、俯き精霊が飛び込められている鳥籠に鍵をさした。鍵穴は、合い扉は、開ける事は出来たが、見張りとして居るであろうアルルクは、勢力もなくベッドに座ったままだ。
「また、守れなかった…大切な人さえ守れない自分は、あの方の側にいる価値も無い…」
“また”とは、きっとララの事だろう。“あの方”とは、きっとミコトの事だろ。
「おいらとミコトは、諦めていない。ハーフだろうがどんな種族でも平和に暮らせる世界にする事を諦めていない。
ミコトを支えるお前さんが、諦めたらミコトは、どうする?あいつを悲しませてどうする?あいつは、どんな苦難でも諦めず戦っているんだ」
「あいつには、サンがいる。俺がそばに居ても何も変わらない」
「そんなの解らないだろ?誰が誰を大切に思っているかなんて、誰が誰を好きなんて解らない。言葉にしなければ解らない。お前は、どうなんだ?あいつの事が好きなのか?」
ラルクの言葉にアルルクは、考えた。ミコトへの思いは、今も昔も変わらない。いいや、会わない日が多いほど愛おしく感じている。
「好きだ。大好きなんだ。愛している。忘れた事なんて、一度もない」
好き。好き。愛している。思えば思うほどにあの人の笑顔が思い出す。
「会いたい。ミコト様に会いたい…でも、一度離れた身で、会いに行っても良いのだろうか…」
その言葉を聞いたノームは、アルルクの近くに行き頭を撫でた。
「うちには、よく解らないけど…帰るべき場所があるなら、会いたい人、大切な人がいるならさ、その人の所へ向かって思いっきり抱きしめて、思いを言った方が良いよ」
「そうだな。思いは、お守りになり、意思は、石となり、言葉は、言霊となる。我らと違い人の生は、短いく一瞬だ。思い伏せるよりも意思を持ち言葉にした方が、明日のためになる」
「サラマンダー君は、少し難しいからあれだけど、会いに行こうよね?」
そう言ってノームは、微笑んだ。思いを言う。簡単ではない事は、アルルクも解っている。ミコトにとって何が幸せなのだろうかを自分がそばに居てもいいのだろうかと
「この一件が終わったら、ミコトちゃんに報告しないとダメなの。だから、その時に一緒に行こう」
そう言って、ビオラは、手を差し出した。だけど、やはりアルルクは、ミコトの側に居たい思いが強かった。会うきっかけが欲しかったアルルクは、差し出した手を握り立ち上がりふらつきながらも歩き出した。それを見たビオラ、トラード、ルリラナと続きミウとザック、サラマンダーにシルフは、牢屋から出て行き出口へと向かっていった。
「出ないのか?」
「…俺は、ククの事を何も知らなかった。あいつは、自分の事を語る様な奴じゃあ無かったからな…
ククは、俺を拾って育てたは、同情だったのな。じゃないと、普通の人だったらハーフである俺を育てたりしない。ククが、純血の人魚だったら幸せに暮らしていたかも知れない。俺と出会う事も無かったかも知れない」
ククがハーフで良かったと思いと、ハーフじゃあ無かったらククは、苦しまなかったのだろうと言う思いが、ラルクの胸に突き刺さる。ククは、いつも笑っていたが、心から笑っていない事は、気づいていた。どうやったら笑うのか考えて、実行しても直ぐにバレる。そして、口だけ微笑み目は、笑っていない。何時も、何度も何度も挑戦したが悪戯も難しい本を読んで、いろんな知識を取り入れククといろんな事をやったが、本当の笑顔を見た事ない。
「ククは、どうしてヘルになっただろうな」
そう言って、皆の後を追っていった。寂しいラルクの背中を見てヨモギは、少しだけ考え隣に歩いた。
「大丈夫。きっとククは、お前さんのことをちゃんと愛していたよ」