40.夕焼け空(4)
時は戻りヨモギは、絵を見つめ壁を触った。それを見たトラードは、悲しい顔で、目を逸らした。
「見つかったんですか?」
「良いや。その時は、見つからなかった。戦争が終わった後に見つけたんだ」
1ヶ月。だった1ヶ月で見つかるわけがない。解っている。でも、助けたかった。守りたかった。たった1人の父親だったから。ヨモギは、歩き始め話を続けた。
「太陽の子は、ミコトだったんだよ。見つかるわけないよな…エルフには、居なかっただもんな」
「……どうして、太陽の子や月の子って分かるですか?」
その言葉を聞いて、困った顔でこう言った。
「どうしてだろうな」
「え?」
「オイラには、解らないんだ。解るのは、フォンとあともう1人いるけど…オイラには、そんな力がない」
もう1人、誰だろうか?不思議な顔で、ヨモギの後を追った。誰が決めたのだろうか。〇〇の子と言う言葉を誰が決めて、誰が言ったのかトラードは、解らない。
「ククだよな?」
話を盗み聞きしていたラルクは、目を逸らしながらそう言った。その言葉を聞いたヨモギは、頷き更に話を続けた。
幼いヨモギとシオンの旅が、10日たった頃ククがいる村にたどり着いた。都市から逃げるように出た為に着替えも食料も無かった事を哀れだと思ったのか村の人たちは、2人を捕えず歓迎をした。
「お腹が空いただろ?ここに座って、さあ!お食べ」
「お風呂も沸いているわよ」
「綺麗な服もあるからそれに着替えな」
「食料を分けてあげるから鞄を出して」
食べ切れないほどの料理に綺麗な服、久しぶりのお風呂。初めて、城の外でやる事に戸惑いながらも皆の優しさに2人は、感激のあまり涙を流した。
「どうしたんだい?」
「戦争を止めたいんだ…」
「でも俺たちの力じゃあ止めら無い……イフティナは、バルキニーなら止められるって言っていたけど、それは、きっと皇帝陛下を殺す事だと思うんだ」
「皇帝陛下が死ねばたしかに戦争は、終わるかもしれない。でもそれは、負けるって事になる。それじゃあダメなんだ」
「だから俺たちは、太陽の子を探しているんだ。何かしらない?」
村の人は、お互いの顔を見合わせて、少しだけ考えた。
「ククさんなら知っているかもねぇ」
「でも、あの人が教えてくれるのか?」
「何でも知っている人だ。知らない事は、無い筈さ」
「魔女がここにいるの!?」
シオンは、驚いた顔で言った。村の人々は、さっきまで優しい顔で話していたが一気に剣幕な顔をして、2人を見つめた。
「やっちまったな」
「あははは、どうしよう」
明らかに睨まれている。ヤバイと感じた2人は、冷や汗が止まらない。
「何をやっている」
後ろの方から声が聞こえると思った振り向くと白銀の髪の女性がウサギを持って立っていた。
「ククさん!この子たちあなたを探しに来たのよ!」
「戦争にククさんを出そうと思ってるんだよきっと」
「そうなのか?」
2人は、思いっきり否定したのをみてククは、優しい顔で、2人の頭を撫でた。
「貴方達は、素直で良いな。で?何しに来たんだ?」
「戦争を止めに、太陽の子を探しているだけ」
「ほぉ〜戦争をねぇ〜」
腕を組み椅子に座った。近くにあった林檎を頬張り少し考えた。
「太陽の子を探しているって事は、月の子の対策?」
「ああ」
「なら、一つ教えてあげるよ。アマテラスは、此処には居ない」
「知ってる」
シオンがそう答えるとククは、驚いた顔をしたと思ったら真剣な顔になり
「どうして?」
「君は、水みたいな人だら」
訳がわからないヨモギは、キョトンとした顔で2人のやりとりを見た。意味がわからないし話についていけない。そんな事を思いながらスコーンを食べ紅茶を飲んだ。すると、ククは、大笑いをして2人の頭をワサワサと撫でまくった。そして、村の人を見てこう言った。
「皆聞くが良い。彼らは、我々に危害を加えるわけでは、無いから優しくもてなしてやれ」
にっこり微笑み、2人の肩を掴んだ。まるで子供をあやす様に立ち振る舞いをして、笑顔を崩さず2人に訪ねた。
「それよりも名前を聞いてなかったな」
「オイラは、ヨモギでこっちは、シオン」
「よろしくな。“ヨモギとシオン”ゆっくりすると良い。疲れているだろ?」
明らかに彼女は、知っている。すると耳元で2人だけに聞こえる声でククは、囁いた。
「貴方達が何もしなければ私も貴方に危害を加え無い王子様」
2人は、背筋が一瞬に凍った。彼女は、本当の名前を名乗っていないのに皇帝陛下の子だと分かっていた。彼女の笑顔は、不気味で不吉で不安になる。何かをすれば彼女に殺される。何もしなければ助かるが、旅の意味がない。
要するにこの村から出ろと言う事だ。シオンは、立ち上がり冷や汗をかきながら
「そんな俺たちが、歓迎される様な事は、していないし…それに急いでいるからゆっくり出来ないよ」
「そ、そうだ。こんなご馳走も綺麗な服もお風呂もありたいって思っているが、オイラ達には、時間が無い。太陽の子の情報だけ聞いたら出るよ」
ククは、2人の様子を見て、キョトンとした顔になり少し考えた。
すると、ポケットからチョコを取り出して2人に渡した。
「私が知っている範囲では、太陽の子は、残念だがホヌ帝国に居ない」
「ククさんが知らないだけじゃ…」
「そうかも知れないな。しかし、月の子と太陽の子は、相反する存在だが、必ず近くに存在する。あの、“月読みのザック”と逆の存在で、近くにいる者…兄弟かその血族に存在するとそいつが、太陽の子となるんだ」
「じゃあ、鬼族の誰かってなるの?」
ククは、無言のまま背中を向け手を振りながら
「私が教えることが出来るのは、此処までだ。今日は、ゆっくり休んで明日になったらお家へお帰り」
そう言って立ち去った。ゆっくり出来ない。城に今は、帰れない。しかし、探している太陽の子は、エルフ住む国にいない事が分かった2人は、帰るしか道がない。2人は、用意された部屋に入り、ベッドに座り話しをする事にした。
「ククさんが言った通り帰ろう。兄さん」
「帰るってお前…」
「お父様が死んでも俺たちがいる。他の誰かよりも先に俺たちのどちらかがエンジェルリングに選ばれたら王家の血は、途絶えたりしない」
その一言を聞いたヨモギは、顔色を変えてシオンを見た。
「父上を見捨てるってことか?」
「ああ」
シオンの言っている事は、正しい。でも認めることが出来ないヨモギは、返す言葉がない。
旅に出た意味がない。帰っても何もできない。父親が倒せない敵を自分達が倒せる訳がない。しかし2人は、帰るしか無かった。何故なら此処までくるのに10日。帰るにも10日かかると言う事だ。もしかしたらそれ以上にかかる可能性もある。皇帝陛下が死ぬ前までに帰らなければ、シオンが言うエンジェルリングの継承者にもなれないのた。
「見えている未来なのに変えられないのは、悔しいけど、俺たちは、前を向いて歩くしか出来ないんだよ。兄さん」
「解っているけれど…オイラは、諦めない」
そう言ってヨモギは、布団にくるまり寝た。