39.夕焼け空(3)
無事に城に帰り2ヶ月たった。未だに終わる事もない戦争にフォンエッドたちは、不安もあった。それは、“月読みのザック”と言う鬼族の話し。フォンエッドは、月読みの意味が気になり書庫へ向かっていた。
「おはようございます。フィンドット様」
「おはよう。俺は、フォンエッドだよ」
「え!?すみません」
「良いよ。お父さんだって見分ける事が出来ないから、何しないで」
そう言って微笑み手を振ってその場を後にした。そう誰も彼らがどちらが誰なのか解らない。何年経とうが解る人は、いない。
違いである髪の毛でさえも解らない。解るとすれば、性格ぐらいだ。フィンドットは、臆病者でビビリ。フォンエッドは、勇敢で謙虚。真逆な性格だから人々は、何をするんでもフォンエッドを優先にした。何時もフォンエッドの周りには、人が集まっていた。フィンドットは、羨ましいと思ったりするが、目立つ事は、嫌いな彼にとって未知の世界だ。
書庫の扉を開くと既にフィンドットがいたのを見たフォンエッドは、にっこり微笑んだ。
「やっぱり兄さんも“月読み”の意味が知りたかったんだね」
「いや、月読みの意味は、知っている」
「ええーじゃあなんなのさ」
フィンドットは、近くに置いてあった栞を見せた。栞には、月と太陽が描かれている。
「救いの女神イフティナ。守り神アークル。希望の女神エメル。死の女神ヘル。太陽の神アマテラス。月の神ツキヨミ。などなど人々は、あらゆる物に神が宿ると信じている。
きっと、月の神のツキヨミからきてるだろ」
「でも、どうしてそんな名を?」
「隠と陽。闇と光。月と太陽。あらゆる物には、逆の意味を掛け合わせて一つになっているオイラたちの様に…
その月読みのザックが居るって事は、天照の〇〇がいるじゃあないのか?」
「例えば?」
例えばと言われてフィンドットは、考えた。考えたが、会った事もない人を知らない人の逆を考えるのもおかしい。ふとあの噂の魔女の事を思い出した。
「ククは?」
「クク?あーあの魔女か…ん〜どちらもあった事も無いから解らないけど、彼女は、違うと思う」
「なら、聞くなって」
そう笑って、本を読み出した。フォンエッドは、椅子に座り暇そうに本棚を見た。
「何読んでるの?」
「荒野の王」
「それって面白い?」
「……うん。面白い。オイラは、この主人公のようになりたい」
「どんな人?」
質問攻めのフォンエッドをみてため息を吐き本を出した。
「聞くよりも読んだら?」
「え?良いの?」
「これを読んだの今日で、50回目」
「それだけ読んだら内容とか解ると思うけど…でもまーありがとう。暇な時に読むよ」
ドン引きをしながら本を受け取り本を読み出した。フォンエッドは、本をほとんど読んだことがない。此処に足を運ぶこともほとんど無い。別に嫌いで無いが、本を読む時間があるなら、体を動かした方が良い。
「暇な時は、もう無いかもしれない」
「え?」
「ノームが言っていただろ?100日になれば、解るって。100日…3ヶ月。あと1ヶ月なれば解る」
「…兄さんは、あの言葉を信じてるの?」
信じていると言うよりも好奇心だ。どうやって終わらすのだろう。終わらすには、王を殺すのが手っ取り早い。しかし、何万という兵に父は、エンジェルリングに強烈な魔法が使える。
「父上が死ぬかハートイル王が死ぬかだ。この戦争が終わるには、それしか無い」
「…どっちが勝つと思う」
「……」
自分たちだと言える自信がない。相手は、鬼族を率いる人間。月読みのザック。きっとあの時助けてくれた奴だろう。そう考えたフィンドットは、目を逸らした。
「まさか負けるって思ってる?」
「…あの魔法陣を使われたひとたまりも無いし、鬼族もいるからおいらたちがいくら魔法のトラップを仕掛けても無意味になる。勝ち目がはなっから無い」
「そんな!」
勝ち目がない。余裕がない。術がない。頭がいいフィンドットが言うならそうだと思ったフォンエッドは、落ち込んだ顔で本を見た。
「ツクヨミが相手側にいるなら俺たちは、アマテラスを率いればいい!」
「太陽の子だぞ。簡単に見つかる訳がない」
「でも、人間は、見つけた。月の子を」
「…解った。探そう」
そう言って立ち上がった。
「明日、こっそり抜け出して外に出よう」
「約束だよ」
「ああ」
そう微笑んで、その場を後にした。そして、次の日フォンエッドとフィンドットは、変装して自身をシオンとヨモギと名乗ることにした。