36.自分が自分らしく
ミウは、ジュランと言う名前を捨てた。それは、過去の記憶がない事から、過去の自分と差別化する為に名前を変えた。
自分が自分らしく生きられたのは、エルナたちのおかげだ。ナムは、どれだけ悲しかったのだろう?寂しかったのだろ?ミウは、アサガオを一輪摘んで帽子に飾った。
「似合いますか?」
「うん。似合うよ。あ!そうだ!ちょっと待って」
そう言って、アサガオにビオラは、魔法をかけた。すると花は、プリザーブドフラワーになった。
「これでよし!」
「ありがとうございます」
ミウは、龍王の欠片を取り立ち上がった。
「よーし!まだ戦いは、終わっていません!龍王の欠片も後一つです!勇気と元気を振り絞って頑張りましょう!!」
「ミウちゃん。もう大丈夫なの?」
「大丈夫です。コンバットがくれた命。エルナがくれた強さと優しさ。ナムがくれた勇気。
ボクは、3人がくれたものを背負って生きていきます。悲しみも苦しみも痛みも大切で、絶対に忘れたらダメなものなんです」
その言葉を聞いたビオラは、目をそらした。目が焼きつくほど父親の死を見続けたビオラにとって、大切な人の死は、どれだけ辛いか知っている。ビオラは、心が壊れるほど絶望した。しかし、彼女ミウは、違う。ミウは、悲しみも苦しみも痛みも全部受け入れて、大切な人の死を受け入れた。父親の死を受け入れなかったビオラにとって、信じられない事だった。
「そう、なんだ……うん。そうだよね。あたしと同じ選択をしない事が正解なんだよね……」
そう小さく呟いた。何を言ったのか分からなかったミウは、首を傾げビオラを見た。
「どうかしましたか?」
「何でもないよ」
そう微笑みアサガオをみた。
「ナムのお陰で、この地にも草木が生える可能性が出来た。今すぐってわけじゃあないけど…数年後…数百年後には、ホヌ帝国にも緑を取り戻ると思うよ」
「でも、それを汚染した空気や排水を辞めないと同じだのでは?」
「うん。だからヨモギくんが王様にならないとダメなの」
そう言って、歩き出した。本来、ビオラの計画では、ヨモギのことフィンドットが王になる予定だった。正しい道を見極め、争いがない世界にするには、一つの国にすれば良い。しかし、エルフと人間との亀裂は、深く難しい事も彼女は、承知していた。
ヨモギは、正しさを知っている。優しさを知っている。弱さも強さも知っている。だから王に相応しいと思っていた。しかし、ヘルに邪魔されて当初の計画を崩され今の現状になっているもの理解している。
「龍王の欠片は、あと一個だね」
「はい」
しかし、欠片を全て集めても肝心の妖精の剣を持っていない。妖精の剣は、ビオラ自身の心の問題。彼女は、過去に起きた出来事により心が壊れるほど絶望した。父の死。大切な人の死をよく知っているビオラは、ミウの心の強さを羨ましく感じた。
ビオラは、欠片を拾って歩き出した。それをみたミウは、少しだけ違和感を感じ首を傾げた。
「何か悩みでもありますか?」
「……ない、よ」
そう言って、立ち去った。
ビオラが嘘をついている事は、ミウも既に気付いている。当然ラルクたちも同じだ。何時も笑っていて、何時も優しく明るくしているが、ネールから帰って来た時から無理をしている事は、知っている。
ビオラは、嘘が下手だ。彼女は、全てを自分のせいにして、自分を責めて、誰にも助けを求めない。全てを背負って、苦しんでいる。精霊の剣は、彼女の心が原因。何が、どうして彼女を苦しめているのかは、分からないが、仲間なのに頼られないのは、少しだけ悔しいミウは、少しだけ顔を叩いた。
「ナム。行ってくるね」
そう言って微笑み、その場所を後にした。
*+*+*+
その頃プルートでは
「痛い。苦しい。寂しい。悲しい。痛い。痛い」
プルートにあるお城の玉座に座り込むフォンエッドは、ぶつぶつ呟き頭を抱えた。
「兄さん。助けて。兄さん。帰ってきて。寂しい。苦しい。悲しい。痛い。痛い」
何度も繰り返す同じ言葉。兵士達も不気味に思い近寄りもしない。すると、1人と女性が彼に近寄ってきた。
「大丈夫よ。貴方のお兄さんは、もうすぐ迎えにくるわ。貴方を殺しに、ね」
不気味に解る女性。いや、ティファニーは、フォンエッドの膝に座って顔を近づけた。
「可愛い。可愛い。私の玩具。私の愛しい人を殺した人達を殺して欲しいわ。特にあの白銀の髪の少年ラルク•ヴェルク。貴方の瞳を狙う者。
あの人だけは、許さない。ザンロッタ様を殺した張本人ですのも。いい?白銀の少年を殺すのよ」
「白銀……少年……」
ティファニーは、立ち上がりにっこり微笑んだ。すると扉が開くのをみて、姿を鳥に変えた方に乗って様子を伺うことにした。
「フォンエッド様。ティス王国が戦争を企てていると言う話は、本当でしょうか?」
入ってきたのは、1人の男。男は、跪きながらそう言った。
「……白銀の髪の少年を……殺せ……」
しかしフォンエッドが言った言葉は、ティファニーが言った言葉。話が噛み合っていない。不思議に思いながらも男は、白銀の髪の少年について考えながら答えることにした。
「白銀の髪の少年?確か、闘技場の乱闘騒ぎの時にいたあの少年も白銀の髪だったはず……そいつでしょうか?」
フォンエッドは、しばらく固まり動かなくなった。これをみたティファニーは、ため息をはき声だけフォンエッドの真似をした。
「そう……そいつは……兄さんを殺した人……罪人……罪人と罪人の仲間を……殺せ……」
「は……」
そう言って、首を傾げながらその場を後にした。部屋の外にいる人々は、不安そうに男性を見た。
「陛下は、何て言っていたのですか?」
「ダメだ……私の話を全く聞いていないようで、話が噛み合わない」
「フィンドット様が亡くなって、数年……陛下は、お変わりになった……まるで魂もない人形のように……」
「それを言ったらダメでしょ!」
メイドは、困った顔で、外を見た。
「豊かな自然と多くの妖精と精霊がいたこの国は、どうなるのでしょうか?」
「私たちエルフの寿命もこの環境の変化の影響で、100年近く短くなってきている……」
「生まれてきた子供なんて、汚染された環境の影響で、魔力が少なくなっています……」
このまま進めば、エルフも亜人と同等に絶滅してしまう。そう考えた一人のメイドは、体が強張り俯いてしまった。
「美しかったこの地も、もう面影も無くなってしまった……」
「人間のように器用じゃないのに兵器を作ろうって考えが間違いだった……」
「俺たちには、もう反乱と言う選択しか無いだろうな」
少し間が空き男が、考えた。反乱。反乱すれば、多くの民が亡くなる。そして、誰が皇帝陛下なるのも一つの問題。間違った選択をすれば、悪影響にしか無い。
「陛下は、白銀の髪の少年を探し殺せと言っていた」
「白銀?もしかして、闘技場の乱闘騒ぎの奴か?」
「ああ。フィンドット様を殺した者だと言っていたが、明らかに年齢からして、いくらなんでも幼すぎる」
「……陛下が探していると言うことは…………」
「彼を探そう」
「言われた通りに殺すの?」
男は、首をふりこう言った。
「いいや。もしかしたら、何か知っているかも知れませんものね」
「俺たちは、白銀の髪の少年を探してくる。お前たちメイドは、地下の精霊を逃してやってくれないか?」
「解りました」
メイドたちは、頷きお互いの顔を見た。
「けして、陛下側に付くものには、バレないように隠密に行動を……」
「解っている。そっちもだぞ」
「はい。ご武運を」
「ああ」