番外編・眠気と肉まん
最終回。
今日は大みそか。
年越しの瞬間を祝おうと、俺と瑠璃ちゃん眠い目をこすってテレビを見ていた。
「正親さん、寝ちゃダメ」
ふと瑠璃ちゃんが俺の肩を叩いた。
「寝てないって。ちゃんと起きてたじゃん」
「今、いびきかいてたよ」
うそん。全然意識飛んでたわ。
やはり日ごろの疲れというのは身体に出てくるようで、夜更かしが世間一般的に普通になっている大みそかの今日ですら、身体が『眠い!』と訴えかけてきているようだ。
俺は立ち上がって大きく伸びをすると、そのまま大きなあくびも一緒にした。
眠いのは変わらなさそうだった。
「瑠璃ちゃんは眠くないの?」
「全然! 今日のためにちゃんと昼寝もしたし!」
「そこは勉強しようよ……」
一応受験生なんだし。
とはいえ、こんな正月にまで勉強勉強っていうほど、我が家の教育は厳しくないので、俺から『勉強しなさい』というのはあまり言わないようにしている。こうやって冗談で言うくらいだ。
「初詣も行きたいもん」
「今から行ってもまだ早いしなぁ」
現在時刻は十一時。
日付が変わるまではまだ一時間もある。
それにしても眠い。これは何か眠気覚ましに……
「コンビニ行こうっか」
「お菓子買う?」
こーゆーところはまだまだ子どもっぽい。
そんなこんなで、元々初詣に行くために若干あったかい格好をしていたので、思い立ったらすぐ行動と言わんばかりの迅速さで、上着を着て外へと出た。
エレベーターにで降りている最中から寒かったが、外に出るともっと寒かった。
「さむいー!」
「冬の外はまだ寒い!」
いくら室内で身体を暖めていたとはいえ、これは寒い。このあと帰ってから気温をテレビで見てみたら、氷点下十二度だったらしい。そりゃ寒いわ。
二人でひゃーひゃー言いながらコンビニへと向かった。
「人間ってさ、明るいところに集まる傾向があるんだって」
「なんで?」
「さぁ? 安心するんじゃない?」
「ふーん」
コンビニに入った俺がそう言うと、瑠璃ちゃんは対して興味がなさそうにお菓子を選びに行ってしまった。
お菓子のほうが俺の雑学よりも価値があるというわけか。仕方ないか。
俺は雑誌コーナーを見てみたが、特に見たいものがなかったので、テレビ欄が載った情報誌を手に取って、正月番組でおもしろそうな番組がないか見ていた。
「正親さんは何も買わないの?」
いつのまにか横にいた瑠璃ちゃんがそう言って、少し急いで缶コーヒーを二つ手に取って、瑠璃ちゃんとレジへ向かった。
「あと肉まん二つ!」
レジで瑠璃ちゃんが店員さんに急に頼んだので、言われた店員さんは冷静だったが、俺がびっくりした。
会計を済ませ外へ出ると、やっぱり寒かった。
足早に帰ろうとしていると、俺の持っている袋の中から肉まんだけを取り出し、ガサガサと包み紙を開いて俺に差し出してきた。
「はい」
「ん」
一応受け取ったが、こう見えても二時間前に夜ご飯を食べたばかりだ。
「寒い日は肉まんに限るよね」
「寒すぎてポケットから手を出したくなかったんだけどなぁ」
「じゃあ食べないの?」
「いやいや。食べますよー」
おいしそうに肉まんを頬張る瑠璃ちゃんを見て、自分も肉まんを頬張る。
暖かい湯気が顔を包み、一瞬だけあったかくなる。
「おいしいでしょ?」
「おいしい。さすが瑠璃ちゃん」
「んふふー」
家までの短い距離で、歩きながら肉まんを食べる。
こんな経験は学生以来かもしれないなと思いつつ、少し若返ったような気がした。
「帰ったらもう初詣行こっか」
「えぇ? 早いって言ってたの正親さんだよ?」
「いいじゃん。そーゆー気分なんだもん。どうせ家にいても眠くなるだけなら、もういっそのこと神社で年明けを迎えてもいいかなって」
「じゃあみんなに連絡しないと!」
やっぱりか。
瑠璃ちゃんは雪道をトタトタと先を走って行った。
どうやら初詣先の神社で、みんなで集まる予定だったのだろう。
俺は肉まんを頬張りながらのんびりと歩いた。
どうせ鍵持ってるの俺だし。
そして先を急ぐ瑠璃ちゃんに声をかけた。
「そんなに走ると転ぶよー」
「キャッ!」
「……言わんこっちゃない」
雪道をすってんころりんと華麗に転んだ瑠璃ちゃんへと駆け寄ったのだが、
「うおっ!」
俺もこけた。
並んで同じようなところで転んだ俺と瑠璃ちゃんは、顔を見合わせて笑いあった。
無残にも肉まんは雪だまりへと落ちてしまったので、それを回収して、ぶつけたところをさすりながら立ち上がって、家まであと少しの距離を笑いながら帰った。
おしまい。
ここまで読んでいただきありがとうございました。
これにて『女の子、娘にしました』を完結とさせていただきます。
このあと、作者からのあとがきとなっておりますので、そちらまで楽しんでいただけると幸いです。
ではあとがきもお楽しみに!




