番外編・没案「ホームシック?」
没案です。
時系列としては、5月後半くらい。
瑠璃ちゃんの様子がおかしい。
引っ越してきた最初こそ、ノリノリで太陽のように笑顔を振りまいていた瑠璃ちゃんだったのだが、ここ最近はなんだかその笑顔もぎこちなく思える。家で一緒にいる時も、ため息が多くなっていると思う。
気になるので、夜ご飯の時に聞いてみた。
「最近元気ないみたいだけど、どうかした?」
俺がそう聞くと瑠璃ちゃんは、コロッケを食べていた手を止めて、箸を置いてから口を開いた。
「なんか前のお家も良かったなって思って」
「前の家?」
んん?
「まだ越してきたばっかりじゃん」
「そうなんだけど……んー……」
うまくアウトプットできないのか。
俺も箸を置いて話に集中する。
「前の家ってさ、もともと俺が一人で暮らしてたわけでしょ。そこで二人で暮らすっていうのは、ちょっと窮屈だったしょ」
「んー……でもなんか、なんていうか、居心地は良かったの」
「居心地、か」
「どこにいても正親さんが見えたし、一緒に暮らしてるっていう気がして、楽しかったの。でも今のこのお家が嫌いっていうわけじゃないよ?」
「うん。わかってるよ」
「広くていいんだけど、なんかなーって最近思ってたの」
ほうほう。軽いホームシックみたいなもんか。
とはいえ、どうすることもできないんだよな。
前の家ほどではないかもしれないけど、今の状態でも、瑠璃ちゃんとのコミュニケーションは変わらないくらいしてると思うし、俺と瑠璃ちゃんの関係もさほど変化はない。まだ一か月くらいしか経ってないから当たり前なんだけど。
時々恭子とか母さんが来たり、瑠璃ちゃんの友達も来てるから、寂しいと思うはずがないとは思っていたけど、瑠璃ちゃんの口からそういう言葉が出てくる以上、そういうことなんだろう。
瑠璃ちゃんが俺を見て、自分の発言に悪いところがなかったか確認したのだろう。俺がニコッと笑みを作ると、不安そうな表情を和らげ、再び箸を持ってコロッケを一口食べた。そのままコロッケを口に入れたまま話す。
「あのね。もしかしたら変な風に正親さんは思うかもしれないの。前のお家も良かったけど、今のお家も好きだよ。おっきいし、自分の部屋もあるし、高いし」
「うん」
「でもなんか正親さんがいるから楽しいんだと思う。私は、正親さんのこと大好きだもん」
「そっか。俺も瑠璃ちゃんのこと好きだよ」
「んふふ。うん!」
嬉しそうに笑って、コロッケをパクパクと食べる瑠璃ちゃん。
「こら。キャベツも食べなさーい。せっかく俺が千切りしたんだから」
「キャベツだけで食べれないじゃん」
「だからコロッケと順番に食べたらいいのに」
「そーゆーのは早く言ってよねー」
「何年一緒に暮らしてるのさ。いい加減に理解しなさい」
「はーい」
一応注意しているのだが、なにやら楽しそうな瑠璃ちゃん。
俺にいろいろ話して、悩みが吹き飛んだのだろうか? まぁいいことだ。
「瑠璃ちゃん」
「なに?」
「今日、一緒に寝ようか」
「一人で寝るの寂しいの?」
「ぐっ……瑠璃ちゃんが寂しいのかと思って聞いてあげたのになー」
「仕方ないなー。じゃあ一緒に寝てあげるよ! 正親さんはまだまだ子どもなんだからー」
さっきまでのことは何もなかったかのようにそう言う瑠璃ちゃん。
なんともまぁ……ま、いいけど。
そして俺と瑠璃ちゃんは、晩御飯を食べ終え、リビングに布団をそれぞれ運び、二つの布団を並べて、夜を過ごしたのだった。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
感想とか書いていただけると喜びヒヤシンス。
没になった理由
・恋人っぽすぎる。
・尺が持たなかった。
・瑠璃ちゃんのお行儀が悪い。
個人的には、この二人の関係はこういうものだと思っているのですが、見かたによっては『恋人同士』だったりと思われるかもしれないということで、僕の頭の中に封印されておりました。
まぁせっかく考えてたネタだし、番外編に載せちゃおうとなったわけですな。
またのんびりと次回をお楽しみに!




