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番外編・中村回 その3

私は、カラオケから逃げ出すように出てきてしまい、唯衣には何も返事もせずに地元に戻ってきた。

その後、瑠璃ちゃんとばったり会い、色々と相談した。で、もっと重い相談を受けた。

家に帰ってから色々と考えてみた。

あれって、告白ってことでいいんだよな?


『男だったら付き合ってもいいかな』

『マジで!?』


『私、実は男なんだ』


「……あれ? あたし、告白はされてない?」


たしかにそうだ。告白された覚えはない。

でも告白されたかと聞かれれば、告白されたと言っても間違いじゃない。


「ダメだ。もう考えてもよくわかんない」


部屋のベッドでゴロゴロとしていても訳がわかんなかった。

というわけで、



「唯衣!」


次の日、全部の講義をすっぽかすつもりで、いつもの自販機の近くでベンチ唯衣を待っていた。

すると唯衣は案外あっさりと、一番最初の講義が始まる前にやってきた。女の格好をしていた。


「あ……香恵」

「唯衣」


おっかなびっくりといった風に立ち上がったあたしの前に立つ唯衣。


「唯衣」

「いや、言わないで。どうせ気落ち悪いとか思ってるんでしょ? 今まで女のフリしてて、ずっと一緒にいたのに、いきなり男ってことをバラされてもキモいよね……」

「いやいや。そんなこと言ってないじゃん。別にキモイとか思ってないし」

「……へ? で、でも怒ってるでしょ?」

「怒ってないって。むしろ怒られるのはあたし。カラオケ代払ってないし、友達が秘密を打ち明けたのに逃げ出しちゃったし……だから、ごめんっ!」


あたしは頭を下げた。

オロオロしてる唯衣の声が聞こえる。

あたしと唯衣は、もう二年以上も友達をやっているんだ。

男だって気づかなかったあたしもあたしだし、その事実を受け止めきれなかったあたしもあたしだ。だから悩んだ結果、とりあえず謝ることにした。あたしの悪かったところを謝る。そう決めたのだ。


「香恵、頭上げてよ。悪かったのは私のほうだし」


唯衣に言われて頭を上げる。


「ごめんね。カラオケの分は今度なんか奢るからさ」

「別に、いいよ。って、まだ友達として見てくれるの!?」

「いろいろ考えたんだけどさ、それも唯衣の魅力の一つかなって」


呆然とあたしを見てくる唯衣。

あたしは唯衣の目を見て続けた。


「その代わり、いろいろ聞かせてよ」

「……ひ、引かないでよ?」

「今さらもう引かないって」

「じゃあ……」


あたし達はベンチに並んで座って、講義の時間なんか気にしないで話し続けた。

唯衣が女装をし始めたこと。


「元々高校生のころから女装癖はあったんだ。でも恥ずかしくてできなくて。それで大学が、たまたま同じ学校の人が全然いないから、これはチャンスだと思って、大学で女装デビューしたの。男の娘デビューってやつ。でも元々高校でも友達がいなかった私が、簡単に大学で友達を作ることが出来るわけもなくて、結局高校の時と同じぼっちのままだった。そんな時に話しかけてくれたのが香恵だったんだけど、その時の私は、きっと女装してなければ友達も出来たんじゃないかって思って後悔してたの。でも香恵『人生これからだって』って言ってくれて。嬉しかった」


そして私に女装してることを打ち明けたこと。


「香恵ってば、私のことよく見たり触ったりしてきたでしょ? まつげ長いねーとか、肌キレーとか」

「まつげ長いのとか羨ましいんだよ。女はそういうのに憧れるんだ」

「その、なんていうか、その度にドキドキとかしちゃうわけさ。で、気がついたら香恵のことが、その、好きになってたっていうか……気も合うし、一緒にいて楽しいし、食べ物の好み合うし。それでも、やっぱり女装してるってことは打ち明けないといけないわけで、私がこのまま女として付き合っていくには、無理があるでしょ?」

「無理っていうか……ねぇ」

「だから打ち明けたの」


そして告白。


「やっぱりさ、あの居酒屋で言ってたことって、告白ってことでいいんだよな?」

「うっ……そうです……」

「なんで小さくなってんだよ」

「だってずるいじゃん。フラレそうになったから冗談めかしてごまかすって」

「そんなことを女装してる奴が言うなよ」

「そうだけど……っていうか、私が女装してることはいいの?」

「は? 別にもうどうでもいいや。唯衣は唯衣だし」

「えー」

「えーってなんだよ。でもこの顔で男っていうのは、ずるいよな」


まじまじと顔を覗くと、唯衣は顔を赤くして背けた。恥ずかしいらしい。


「唯衣」

「なにさ」

「あたしも唯衣のこと好きだよ」

「……」


唯衣がこっちを勢いよく振り返って固まった。

真面目に言ったあたしのほうが恥ずかしくなってきた。


「ちょ、ちょっと返事は?」

「えっ!? 返事!? えっと……私も好きです。はい」

「よし。じゃあこの話はこれでおしまい!」

「ええっ!?」

「なんだよ!」

「その、つ、付き合ってくれるって、ことでいいの?」

「そうだよ! 好き同士なんだ。付き合ってもいいだろ」


もう唯衣を見ているとこっちまで恥ずかしくなってきたので、立ち上がって唯衣に背中を向けた。

初めて告白なんかした。

すごい恥ずかしかった。

でも、これはこれで良い恥ずかしさだった。

言ってよかったと思ってる。後悔なんてしてない。


「香恵」


唯衣も立ち上がったらしく、同じくらいの高さから声が聞こえた。

あたしは振り返る。


「なに?」

「私、唯衣じゃないんだ」

「へ?」

「私、『唯衣』じゃなくて、『柚希(ゆずき)』っていう名前なんだ」


もじもじしてそう言う唯衣。

こいつ……


「まだ隠してやがんのか!!」

「ご、ごめん!」

「ゴメンじゃない! 全部隠してることを言えーっ!!」



そんな声が大学の敷地内に響き渡ったのだった。


こうして、あたしと唯衣……じゃなくて柚希の交際が始まったのだった。




おしまい。


ここまで読んでいただきありがとうございました。

感想とかいただけるとプラチナ嬉しいです。


そんなこんなで中村回でした。

どうだったでしょうか?

きっと立派な読者さんたちは、この『女装オチ』を予測できちゃったのではないかと思っております。

カーッ! 悔しい!

もっと裏をかけるようになりたいぜ!


これにて番外編の中村回を終了とさせていただきます。

ほんで他に何やるかと言うと、ちょっと何個か別の番外短編を書いて、あとがき書いて、おしまいとなります。

また短編が書き終えるまでは、完結扱いとさせていただきますので、ご了承くださいませ。


では残りもお楽しみにー。

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